キムパプ

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キムパプ
各種表記
ハングル 김밥
漢字 海苔飯
発音 キンバ(キ
キンパ(キ
RR式 gimbap
MR式 kimbap
英語 kimbop
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キムパプ

キムパプ: 김밥)は、海苔で米飯を巻いて作る日本由来の朝鮮料理である。元々はノリマキと呼ばれていた。キムは「海苔」、パプは「ご飯」の意味。酢飯ではなく米飯と生魚以外の多種類の具材を用いて、ごま油で味付けするのが特徴である[1]キムパキンパと呼ばれる事もある。また、北朝鮮にも、日本の海苔巻きのように細巻きで、具材や製法はキンパプのような料理がある。

キムパプ発音について

国立国語院制定の標準語では長音と平音で「김ː밥(キーンバッ)」のみが正しい発音であったが、2016年11月に長音と濃音の「김ː빱(キーンパッ)」も標準語の発音に定められた。ただし、実際に広まっている発音は2003年の調査によると、標準語圏では60歳代以外は単音と濃音の「김빱(キンパッ)」が多数派を占めた[2]

標準語どおりに発音するのはアナウンサーなど限定的で、大衆に広まっている発音とのズレを問題視する声もある[3]

歴史

併合期日本から来た「海苔巻き」が根付き、ではなくごま油を、キムチなどを具材とするなど現地化が進んだ仮説がある。他には韓国学中央研究院が発刊した韓国文化大百科事典ではキムパプが海苔にもち米とおかずを巻く古い伝統から来たと仮説を提示した。1819年には『洌陽歲時記』という朝鮮の本で、ご飯を作って海苔を巻いて食べる“ボクサム”という食べ物が記録されている。キムパプの名前は1935年の新聞に最初に登場したとされる[4]。日本語式に韓国でも「ノリマキ」と呼ばれていたが、1948年に韓国政府の国語醇化政策により「김밥(キムパプ)」と呼ぶよう指定された。

しかし1990年代まで一般に「ノリマキ」の名称が残ったため、1995年に文化体育部(現在の名称は「文化体育観光部」)が『日本語套用語醇化資料集』、1996年に国立国語院が『日本語套生活用語醇化集』を発行し、生活用語として残っている日本語的語彙のひとつとして「ノリマキ」を挙げ、これを「キムパプ」と置き換えて表記するよう推進し、以降「キムパプ」という呼び名が定着した[5]

韓国起源説

キムパプは韓国起源説として度々話題になるが、韓国政府編纂の『韓国伝統文化事典』で公式に否定されている[6]

쌈(サム)
三国時代起源説
俗説では三国時代が起源とされるが誤りで、出典とされる『三國遺事』にあるのは延烏という男が、海の「藻」を採取する描写のみである[7]
サム起源説
쌈(サム)」とは、味付け調理された肉や具材を、상추(サンチュ)などのような葉物野菜で包んで食べる料理で、キムパプとは全く関連はなく、海苔(日本品種)や、炊いたジャポニカ米を一般市民が食べる習慣も日韓併合期以降に、朝鮮で広まったものである。野菜や海藻で飯を包む「縛苫(パクジョム、박점)」や「福裹(ポックァ、복과)」を小正月に供える記述が登場するのは、1819年の『洌陽歲時記』や1849年の『東國歳時記』からである[8]。なお、縛苫を縛占、福裹(-クァ、意味:包む)を福裏(-リ)と誤記した記事がメディアでも多数見受けられる。

製法・食べ方

あぶった板海苔の上に米飯を均一に薄く敷き、その上に細長い形に整えられた具材を載せる。米飯はやごま油で味を整えるのが一般的である。具材は、複数の材料を用いることがほとんどである。一般的に使用される具材には、ニンジンホウレンソウキムチエゴマの葉、たくあん牛肉ハムツナカニかまぼこチーズ卵焼きチャンジャなどがある。この他、具なしのキムパプ(後述の忠武キムパプ)や刻んだニンニクチャンアチ(醤油漬け)のみを米飯に混ぜてから海苔で巻いたキムパプもある。最後に、米飯と海苔で具材を巻き込み、海苔の表面にごま油を塗ったり白胡麻を振ったりして風味付けをする。

できあがったものを輪切りにし、何もつけずにそのまま食するのが一般的であるが、焼いて食べたり、卵液をつけたものを焼いて食べることもある。トッポッキの汁を付けて食べる人も多い[9]キムチやたくあんなどの漬物およびスープが共に供される場合が多い。

巻き簾を使用する調理法などは、日本の海苔巻きと同じであるが、キムパプには酢飯が使用されず、ごま油が加えられていることが一般的であり、また中に入る具材が日本の海苔巻きに比べて多く、生魚も使用されない等の違いがある[1]

種類

具材の種類や料理形態には様々な種類があり、地方や店によるバリエーションも豊富である。1990年半ばまでは高級化路線が人気を集めたが、IMF経済危機後から昔スタイルの簡素なものが流行し始めた[10]

一般的なキムパプ
具材を米飯と海苔で円柱状に巻いたもの。中に入る具材により様々な種類と名称がある。一般的なものとしては、キムパプを盛り合わせた「モドゥムキムパプ」、ツナが多めに入った「チャムチキムパプ」、「野菜キムパプ」、「チーズキムパプ」、「キムチキムパプ」などがある。
忠武チュンムキムパプ朝鮮語版
具の入っていない一口サイズの握り飯に海苔を巻いたものを、イカの甘辛い和え物やカクトゥギと共に食する。慶尚南道の忠武(現在の統営市)が発祥の地とされていることから、この名前がついた。本来のスタイルはおかずに串が刺してあり、「串キンパプ(꼬지김밥)」が通称であったが、1981年に汝矣島で開かれた伝統文化祭「国風81」を担当した全斗煥の側近許文道が、学生時代の思い出の味であった串キンパプを「忠武キンパプ」の名で出展して以降、統営の名産品としてその名が広まった。出展者の女性によると、1947年には統営港で旅客を相手に串キンパプの販売が行われていたという[11]
コマキムパプ
一口で食べられる、小さなサイズのキムパプ。コマ(꼬마)は朝鮮語で子供の意。
ヌードキムパプ
海苔が苦手な欧米人向けにアメリカで考案された[12]裏巻き「カリフォルニアロール」に似せて作られた、キムパプ。韓国で近年登場した比較的新しい種類。
三角サムガクキムパプ朝鮮語版
具材の入った三角形の握り飯に海苔を巻いたもの。日本の三角おむすびが伝来したもの。詳細は、おにぎり(各国における現状)を参照。

他にも、アボカド入りのキムパプなどがある。

流通・消費形態

台北のキムパプバー

当初は、白米や海苔は高価だったため富裕層のものだったが、近年はファストフード的なものとして、韓国はじめ世界各国の韓国人コミュニティーで作られたり販売されている。主食にも間食にもなる手軽なメニューとして、韓国内では広く流通し、幅広い層に消費されている。家庭では食卓に乗るメニューとしてより、遠足やハイキングなどの野外活動の弁当のメニューとして作られることが多い。屋台コンビニエンスストア、高速道路のサービスエリア、登山客向け施設などでもキムパプは販売されている。駅や列車内では、駅弁の定番メニューとなっている。

また、韓国にはキムパプの専門チェーン店が存在する。1990年半ばにソウルの大学路で出店されたものが最初とされる。以降、1000ウォンの低価格で販売する店舗が現れ、競争が激化した。2000年代には50以上のチェーン店が展開され、市場規模は6000億ウォンとされた[13]。大手のチェーン店には、キムガネ(김家네)、鐘路キムパプ(종로김밥)、キムパプ天国(김밥천국)、キムパプナラ(김밥나라)などがある。

韓国以外の国や地域でも、日本のローソン無印良品で発売され、専門店が各地に増えるなど人気が高まっている。日本はそもそも海苔巻きに親しみがあることや、2020年以降の新型コロナウイルス禍でテイクアウトが拡大した際、キムパプがテイクアウトしやすい料理であったことなども、流行の理由として挙げられる[14]

脚注

  1. ^ a b 2009年6月8日中央日報 ウナギの尻尾にこだわるアナタは韓国人
  2. ^ 国立国語院プレスリリース
  3. ^ 아나운서들의 억지 발음 ‘효과’와 ‘관건’pub.chosun 2014-8-21 한국어표준발음듣기 서비스 참여자 인터뷰NAVER語学辞典お知らせ 2011. 11. 15
  4. ^ " 휴 지 통 "”. NAVER. 2021年7月6日閲覧。
  5. ^ 財団法人自治体国際化協会「国語純化運動
  6. ^ 韓国国立国語院 編纂 三橋広夫・趙完済 日本語訳(2006年)書籍『韓国伝統文化事典』90ページ「キムパブ」の項目
  7. ^ ウィキソース出典  (中国語) Page:三國遺事 卷第一 1512年 奎章閣本.pdf/63, ウィキソースより閲覧, "一日延烏歸海採藻" 
  8. ^ [1]한국민속대백과사전 한국세시풍속사전 표제어 복쌈
  9. ^ ソウルナビ
  10. ^ [2] 文化体育観光部 文化ストーリーテリング 김밥
  11. ^ 이택희의 맛따라기 단맛 물씬 활어회 천국 … 숙취 아침에 간절한 졸복국·메기탕中央日報 2017.5.19
  12. ^ カリフォルニアロール#発祥
  13. ^ 韓国・小商工人振興会「김밥2007」
  14. ^ 阿古真理 (2022年2月3日). “韓国「キンパ」が日本でこんなにも浸透したワケ”. 東洋経済ONLINE. 2022年11月11日閲覧。