礼服

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ホワイトタイとそれに相当する服装の男女。男性は燕尾服で女性はローブ・デコルテ。後方にはメスジャケットにホワイトタイを着用した陸軍(金色の飾緒)と空軍(銀色の飾緒)の軍人が見える。

礼服(れいふく)は、冠婚葬祭など社会生活において威儀を正し、あるいは敬意を表する場合に着用する衣服。フォーマルウェアともいう。

概要

礼服の着装状態を正装礼装といい、それぞれの格式によって、正礼装準礼装略礼装平服と区別する。西洋起源の服装規定は昼か夜かによって異なり、主に夜会で着用される礼服は、夜会服と呼ばれる。

軍人自衛官)・警察官消防吏員海上保安官など制服が定められている職種の場合には、礼服についても何らかの形で定められている。また学生で学生服標準服が定められている学校に在学している場合には、その制服が礼服として認められる。

国際的な場では多く西洋の服装規定が用いられるが、各国の民族衣装に基づく礼服も礼儀にかなった装いとして認められる。日本の宮中行事でも洋装が普通であるが、宮中祭祀即位の礼などの特別な行事では、礼服(らいふく)や束帯などの装束が着用される。但し、天皇や男性皇族紋付羽織袴を着用することはない。これは、紋付羽織袴が庶民の服装であるためである。

勲章等を受章している者は、正礼装の際にそれを着用することを許され、場合によっては義務付けられる。軍隊では、制服に着用する勲章の種類によってドレスコードが区別される場合もある(例:アメリカ海軍[1]日本陸軍)。現在の日本では、勲章は「燕尾服若しくはローブデコルテ若しくはローブモンタント又はこれらに相当する制服に着用するものとする」とされ、大綬章の副章と重光章以下の勲章及び文化勲章褒章、記章は男子の紋付羽織袴フロックコートモーニングコート並びに女子の白襟紋付及びそれらに相当する制服でも着用することが出来るとされている。また、小綬章以下の勲章及び褒章、記章は平服でも着用することが出来るとされている(昭和39年総理府告示第16号「勲章等着用規程」第3条)。

男性の礼服

ブラックタイとそれに相当する服装の男女。男性はタキシード。後方にはメスジャケットにブラックタイを着用した海軍の軍人が見える。
アメリカ海兵隊の夜会服装。左から下士官と女性のメスドレス(ブラックタイ相当)。中央が士官のイブニングメスドレス(ホワイトタイ相当)。右2点が士官のメスドレス。同じ服にイブニングメスドレスでは赤いウェストコート、メスドレスでは赤いカマーバンドを着用。

正礼装

夜間用

「ホワイトタイ」と「ブラックタイ」の2種類のドレスコードがある。

  • 燕尾服
    • 服装規定において「ホワイトタイ」とされる場合、燕尾服を着用する。
    • 昼間においても特別な場合には着用する。
  • タキシード
    • 服装規定において「ブラックタイ」とされる場合は、タキシードを着用する。燕尾服が使用されることは減っており、タキシードが用いられる機会が多くなった。
  • メスドレスMess dress
    • 燕尾服の後裾を切断したような丈の短いメスジャケットをメインに構成された、主に軍人が着用する夜会服。通常はブラックタイ相当の服装であり、黒のネクタイとカマーバンドを着用する。自衛隊では第2種礼装として制定されている。軍によってはネクタイを白に代えたり(例:アメリカ陸・海・空軍及びイギリス海軍)、カマーバンドをウェストコートに代えて(例:前述の軍に加えてアメリカ海兵隊)、「ホワイトタイに相当する制服」とする場合もある。女性の軍人も着用する。

昼間用

  • フロックコート
    • 19世紀中頃から礼服とされるようになり、第二次世界大戦頃まで用いられた昼間用礼服。現在ではモーニングコートが主になっている。
  • モーニングコート
    • 元は乗馬服だったが、次第に公式の場でも着用されるようになった。現在では昼間用の正礼装の一つとなっている。

その他

  • フルドレスFull dress
    • 一般の正装も意味するが、軍人の場合、重要な式典等へ参加する際に着用する制服を意味する。礼服ではなく、軍衣に正装用の飾緒肩章サッシュを着けるのが基本である。立襟が主流であった19世紀の軍衣を正装用として残している軍隊もあるが、現在では開襟背広型の常裝用制服に儀礼用のアイテムを着けて済ませることも多い。今日では常用・戦闘用の軍装に着用されることがなくなった勲章の正章や儀礼刀などが、前記の飾緒等に加えて礼装でのアクセサリーとなっている。
  • 宮廷服(Court dress)
    • ヨーロッパの宮廷で重要な儀式の際に着用される最高の礼装。第二次世界大戦を境に見られる機会は少なくなった。
  • 大礼服
  • アカデミックドレス
  • 紋付羽織袴
    • 本来は和装の最礼装ではなかったが、明治時代の太政官令及び現在の勲章等着用規程において第一礼装として認められている。日本人が諸外国において礼を受ける場合においても民族衣装による礼服として認められている。川端康成ノーベル文学賞の授賞式に紋付羽織袴に文化勲章を掛け臨んだ。紋付でないものは、略礼装になるとされる。
    • 勲章等着用規程においては、大勲位菊花章、宝冠大綬章、桐花大綬章、旭日大綬章、瑞宝大綬章の正章の着用を認めておらず、その点においては前述のフロックコートと同等の扱いがされている。
  • 国民服礼装
  • 人民服
  • キルト (衣装)
  • アオザイ
  • バロン・タガログ(en:Barong tagalog)
    • フィリピンの民族衣装における男子の礼服。バナナの葉やパイナップルの葉の繊維でできたのような薄手織物製で、胸の部分を中心に刺繍が施されたプルオーバー型長袖シャツ。ズボンからシャツの裾を出して着る。

準礼装

夜間用

  • ファンシータキシード・スーツ
    • 黒以外の上着のタキシードや、明らかにパーティー用だと分かる高級な生地のスーツ。ビジネスを連想させる着こなしは極力避ける。

昼間用

  • ディレクターズスーツ
    • 背広型の黒の上衣に、縞のコールズボンを着用する。戦後は一時廃れたが、近年再び準礼装として復権している。

略礼装

  • ダークスーツ
    • チャコールグレイやダークネイビーの上質な生地のもの。または、いわゆるブラックフォーマルではないブラックのスーツ。スリーピースが望ましく、ズボンの裾はシングル。共地ベストの代わりにグレイ系のベストを着用してもよい。慶事の場合、ネクタイはシルバーグレイ系が一般的だが、略礼装自体がルールがほとんど無く、ケースバイケースである。アスコット・タイ蝶ネクタイなどを用いて、様々な場面に対応することもできる。
  • ラウンジスーツ
    • 背広のこと。1860年代に登場した上下揃い、または三つ揃いのスーツ。現在では単にスーツというと、ラウンジスーツを意味する。
  • ブラックスーツ
    • 番手の細かい生地を使った黒の上下の背広で、日本の場合、慶事には白やシルバーグレーのネクタイが、弔事には黒ネクタイが用いられることが多い。日本においては、昼夜問わず慶事・祝事・弔事と、オールマイティに対応できる便利な礼服として扱われることが多い。ただし日本国外では、単なる普段のビジネススーツもしくは喪服として扱われる場合がある。
    • いわゆるブラックフォーマルとして売られているブラックスーツとビジネス用の黒いスーツは、形態においてほとんど差はない。
    • 冠婚葬祭の場では、シングルの場合はベスト着用が望ましい。
  • ブレザースタイル
    • 特に夜のパーティー等では、スカーフ等を使ったブレザースタイルも許容される。
  • マオカラースーツ

略礼装全般にいえることだが、スーツ自体が形の決まったものではなく流行によって変化していくものである。ピークドラペルでなければならないとか、パンツの裾はシングルでなければならないとか、ジャケットの裾はサイドベンツではなくノーベントでなければならない、などという明確なルールは存在しない。ただし、ビジネスを強く想起させるような明るい色のスーツや、ラインがはっきり入ったもの、チェック柄などは避けられる。

礼装となる衣服

  • 制服
  • アロハシャツ
    • ハワイの民族衣装による男性の礼服。オフィスやレストランなどだけでなく、式典や冠婚葬祭でも着用が許される。
  • かりゆしウェア
    • ワイシャツネクタイに代わる夏のホワイトカラーの服装として沖縄県では広く定着している。また、2005年にはクール・ビズの一種として内閣府沖縄担当部局を中心に中央官庁で着用の動きがあった。「かりゆし(嘉利吉)」とは沖縄方言で「めでたい」という意味を表す。2000年以後は特に多くのバリエーションが生まれ、日焼けを気にする女性用の七分丈のもの、葬祭の場で着用できる黒を基調としたフォーマルなものなどが販売されている。
  • バミューダショーツ
    • イギリス領バミューダ諸島における礼服。仕事やパーティなどの公式の場においても着用が許される。ただし、礼服として着用する場合は、が隠れるように膝下までの長いバミューダホーズと呼ばれる靴下と組み合わせるのが必須とされている。
  • シャツ
    • 主催者側が開襟シャツである事がわかっている場合は、主催者側に合わせる。天皇・皇后両陛下がパラオ訪問晩餐会では、現地の服装に合わせ、天皇陛下は上着をはおらず白いシャツを開襟[2]

女性の礼服

正礼装

  • マント・ド・クール( 仏:(manteau de cour))
    • 宮廷の最上級正装。威厳をそえるために用いた豪華な装飾用の表着、通常長いトレーンがあり、身分の高いほど長いトレーンを用いた。戦前の日本では女子大礼服とされ、フランス語より「マント・ド・クール」と呼ばれた。

夜間用

  • イブニングドレスローブ・デコルテ
    • 燕尾服に相当する。明治時代に宮中における女性の中礼服とされた。
  • メスドレス(Mess dress
    • 軍人用の夜会服。シャツやネクタイのデザインが男性用と異なり、ボトムスは一般的にスカートを着用する(アメリカ軍の場合、海軍には礼装用スラックスがあるが、陸・空軍にはない)。また、イブニングドレス相当の服装が規定されている場合でもウェストコートや白いネクタイを使用することはなく(アメリカ空軍の場合ネクタイは銀色に代える)、変わらないこともある(例:アメリカ陸・海軍)。スカートは殆どが踝丈であるが、イブニングドレス用は踝丈でディナードレス用は膝丈としている場合もある(例:アメリカ陸軍)。自衛隊でも第2種礼装として制定されている。

昼間用

  • ローブ・モンタント
    • 襟が身頃から続いて首の長さいっぱいまであり、丈は長く裾を引き、袖も長く手首まであるドレス。日本では明治時代に宮中の婦人通常礼服とされ、昼間の宮中行事の際に女性皇族が着用してきた。男子のモーニング・コートに相当する扱いであったが、「勲章等着用規程」(昭和39年4月28日総理府告示第16号)の平成2年11月17日総理府告示第47号による改正により、燕尾服と同等の勲章が着用できるようになった。
  • アフタヌーンドレス
    • モーニングコートからダークスーツに相当する。

その他

  • 留袖
    • 黒留袖は既婚者の正礼装とされるが、宮中では黒を忌むので、色留袖が望ましいとされる場合がある[3]
  • 振袖
    • 未婚者の正礼装として使用される。

準礼装

夜間用

  • ディナードレス
    • プライベートな晩餐会(ディナー)用のドレス。 襟ぐりが小さく、袖つきで、スカートも大げさでなく長め。本式のイブニングドレスの豪華さに比べ、くつろいだ雰囲気を持ったもの。
  • カクテルドレス

昼間用

  • セミアフタヌーンドレス
    • 丈の短いアフタヌーンドレス。

その他

略礼装

和服における女子の礼装は、歴史上女性が公的な場面で活躍することがきわめて少なかったために、男子のそれと比べて未整理であり、起源的にも新しいものが多い。

平服

平服とは「正礼装を用いない」程度の意味。実際の服装規定は非常に曖昧で式によるので確認が必要だが、準礼装で出席すれば間違いはない。

注釈

  1. ^ UNITED STATES NAVY UNIFORM REGULATIONS Article 3207〜3212 他
  2. ^ 2015年4月9日中日新聞朝刊35面
  3. ^ 清水とき『礼装きもののルール』世界文化社、2000年、22頁。ISBN 978-4418004065 

参考文献

  • 國土潤一『これがオペラだ 上手な楽しみ方とその知識』音楽之友社
  • 渡辺和『気軽に行こうクラシック・コンサート チケットから服装まで』
  • ミュージカル・演劇(京劇、雑技を含む)の開演時間についてはJTBパブリッシングのタビトモの「ニューヨーク」「ロンドン」「北京」「上海」「ソウル」、
  • 渡辺誠『もしも宮中晩餐会に招かれたら 至高のマナー学』角川ONEテーマ21新書
  • Army Regulation 670–1
  • UNITED STATES NAVY UNIFORM REGULATIONS
  • AIR FORCE INSTRUCTION 36-2903

関連項目

外部リンク