懐中時計

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懐中時計(ハンターケース型)
ナースウォッチ
鉄道時計の例。メーター類と並び窪みの台(運転台パネル中央)に置かれている(JR西日本521系電車)。私鉄線の車両の場合にはすぐ上に照明のランプが配されている場合もある(時計自体に夜光はない)。

懐中時計(かいちゅうどけい、英語:pocket watch)は、ポケットやカバンなどに入れて持ち歩く小型の携帯用時計である。

概要[編集]

外面[編集]

丈夫さとかさばらない手頃な大きさの懐中時計は腕時計が登場するまでは携帯時計の代表として長い間、世界中で使用されてきた。多くの場合文字盤アナログ式で組紐などで竜頭のフック部と衣服を結着して落下を防止し時計本体は衣服のポケットに収納して携帯するようになっているものが基本形であり、大きく分けて以下のような外面上の区別がある。用途や製作側や愛用者の個性により竜頭の位置が12時の位置だったり、3時の位置だったり、6時の位置だったりすることがある。

オープンフェイス
蓋のない、最も標準的なスタイルの懐中時計。
ハンターケース
懐中時計を保護するための金属等の上蓋が付いているもの。蓋が文字盤側だけに付いているものと背面にも上蓋が取り付けられ、ちょうど二枚貝の中に懐中時計を収めたような外観の防護性の高いものがある。上流階級のスポーツである狩猟において落馬などにより懐中時計を壊しやすかったため、ガラス(日本では風防という)を保護する蓋を取り付けたことからこの名が付いている。欧州の貴族階級の実態を知らない日本では「猟師の発案で」との説明を見かけるが、当時の社会で労働者階級たる猟師が高価な懐中時計を持てるはずもなかった。多くの場合、竜頭が開閉ボタンを兼ねていて押し込むことで蓋が開く仕様になっている。年月を経るに従い屋外活動に際して時計を守るためという本来の目的から離れ、華麗で豪華な装飾が施されたものが増え一種の装飾部位として発展していった。竜頭位置の対面に蓋のヒンジがあるものが多く12時に竜頭があるものは蓋が6時方向に開き、3時にあるものは9時方向に開くものが一般的。
ナポレオン(ハーフハンター、デミハンター)
ハンターケースの中央部分がドーナツ型に抜けていて(またはガラス張りになっていて)、蓋を閉じた状態でも針の一部が見えるため時刻を読めるようになっているタイプの蓋付き懐中時計の総称。名前の由来はナポレオン・ボナパルトが時間を見るためにいちいち時計の蓋を開けるいとまも惜しいほど多忙だったことから、蓋を閉じたまま時間が分かるハーフハンターの懐中時計を使用していたという逸話から(あるいはナポレオン自身が発案という説もあるが、史実から見てナポレオンが登場する前にすでにデミハンターは存在していた)。
スケルトン
あえてケースや文字盤部分にガラスを用い懐中時計の精巧なムーブメント(機械)を鑑賞できる、装飾性能の高い機種。高級品が多いが、近年は廉価な商品にも多く見られるようになってきた。

ムーブメント[編集]

動作機構は「機械式」と「クォーツ式」の2種類がある。機械式は手巻(竜頭を回しぜんまいを巻き動作させる、毎日ないし数日に一度は巻かなければいけない)がほとんどである。自動巻(振動を加える事によりぜんまいが巻かれる)は存在しないわけではないが、非常に特殊な製品に限られる。クォーツ式ではボタン電池により動作させる(最近は約10年寿命のリチウム電池内蔵品もある)。

手巻の煩わしさや時間誤差といった日常での使い勝手を考えるとクォーツ式に軍配は上がるものの、機械式のムーブメントならではの「コチコチ音」を好みあえて機械式を利用する愛好者も多い。

懐中時計の現状[編集]

戦後以降、一般的には、利便性のより高い腕時計に携帯時計市場をほぼ独占されてはいるものの(日本ではその腕時計でさえ、昨今は携帯電話の時計機能に脅かされている)、その一方で日本国内や世界の、特に欧州の時計生産大国であるスイスでは、小さな工房での手作り懐中時計産業でさえも未だ健在である。有名なバーゼル地方で開かれている時計市には、今なお世界の懐中時計商が集っている。

外装の材質は真鍮ステンレスなどの金属製のものが多いが、製や製といった貴金属を使用したものやまた蓋や裏蓋に彫刻がされているなど装飾品としての価値があるものもある。

懐中時計はその歴史が古いためアンティーク品(おおむね戦前以前の品)や古くからの有名時計ブランドの高級品、その他ムーブメントや彫刻を楽しむ等々、懐中時計のコレクション(蒐集・鑑賞)を趣味としている者も世界中に数多く居る。

また「ポケットウォッチスタンド」という懐中時計を置時計として使用するための専用スタンドも100年以上前から存在し(イギリスの老舗・ラポートは100年以上前から高級ポケットウォッチスタンドを販売している)、高級な懐中時計は置時計として使用することも古くから行われてきた。

今日に至っては腕時計の圧倒的なシェアや携帯電話画面の時計表示にて代用する人も一部で徐々に広がりつつあることから、懐中時計を日常の携帯時計として使用している人口は極めて少ない(時計を読もうとするだけで片手が塞がる)。反面、バンドかぶれなどアレルギー体質のため腕時計が馴染めない人、閉所恐怖症による締め付け感に悩む人、携帯電話を所持しない人、各種の業界関係者(下記参照)、懐古主義(アナクロニズム)の人、鉄道マニア等の中にはあえて懐中時計を日常で愛用している人も少なからず存在する。

主な用途[編集]

現在、懐中時計の需要が最も高いのは鉄道で、視認性の高さや耐磁加工を施しやすい特性から、鉄道時計として職員が使用する。機関車・電車等の運転台には多くの場合、計器板の中央、あるいは窓脇の時刻表立て付近に懐中時計に合わせたサイズの窪みが作りつけられており、運転士はここに自分の懐中時計を置いて計時しながら列車を運転する。かつては懐中時計を鉄道事業者が購入し、運転士や車掌ら鉄道職員に貸与することが世界各地の鉄道で行われ、鉄道員たちは駅や詰所に設置された標準時間を示す掛時計を定期的に確認して、懐中時計の時刻合わせを行った。ダイヤグラムに沿った定時運行を励行する見地からも鉄道時計の精度は重要で、特に19世紀末から20世紀前半、鉄道会社に制式品として採用されることは時計メーカーにとって技術水準を示すステータスであった(近年はクオーツ腕時計の普及もあって、腕時計を携帯し鉄道時計は持たない運転士や据え置き型時計を運転台に置く運転士も多い。また電波時計は鉄道業界ではあまり普及していない。路線バス乗務員も同様)。

病院では、看護師が脈の測定などの際に時間を見るナースウォッチとして使われる。腕時計は腕が何かに引っかかったり手洗い時に手首まで完全に洗浄できず、バンド部分の下などが感染源になり得るため着用は避けてナースウォッチを付属のピンやクリップで白衣の胸ポケットや防護衣に留めて使用する。時計を持ち上げて見る際に見やすいように、普通の懐中時計と違って6時の部分にチェーンが取り付けられている(上下が逆になっている)。また、文字盤には簡易脈拍計の目盛が刻まれているものも多い。これは15拍(あるいは30拍)の時間から1分間の脈拍数に変換する計算尺である。ストップウォッチ式になっているものもある。

料理人の場合、腕時計では手首に水が掛かる職業柄のため懐中時計を用いることが多い。学芸員アーキビストも腕時計が資料の破損の原因になりかねないことから懐中時計の使用者が多い。サウンドクリエーターの中でも、近年は殆ど見られず少数ではあるがPA卓に置いて用いる人がある。

着用方法[編集]

一般的な男性の携行(着用)方法としては三つ揃えスーツの場合、ベストポケットに時計を納めボタンホールに鎖(ウオッチチェーン、フォブチェーン)を止めて用いる。鎖の種類、またかけ方は何通りもある。ベストを着用しない場合は、トラウザーズ(ズボン)のフォブポケット(懐中時計用ポケット)に入れる。この場合、短いフォブチェーンを付けどこにも止めず垂らすのが正式である(使う時はチェーンで引き出し、顔の前に時計を下げて読み取る)。またジャケット(上着)ののフラワーホール(ラペルホール)に鎖を止め、ジャケットの胸ポケットに収める場合もある。この場合も専用のラペルウォッチチェーンを用いる。

  • ピン・バー
一文字の棒になっており、穴に掛け、ポケットに収納するタイプ。
  • ボタン
ボタンが着いており、釦穴に掛けてポケットに収納するタイプ。ピン・バーと用途が似ている。
  • クリップ
ベルトに掛けズボンのポケットに収納するタイプ。骨董品は薄いベルトに掛けるように出来ているのでクリップを厚くする必要がある。ズボンのポケットにしまうには15cm程度の長さが必要。
  • 引き輪
ベルトループやジャケットの内ポケットの釦穴、ボタンの裏側、力ボタン(ボタンの裏側のボタン)に取り付け、胸ポケットや内側のポケットに収納するタイプ。鎖自身に引き輪を通す事で長さ調整が出来る。

鎖が二つに分かれていて「小鎖」が付属している物があるが、これは鍵で時間を調整する「鍵巻式」懐中時計の鍵を取り付けるための鎖だった。現在はウォッチフォブというペンダントのような装身具を取り付ける用途に使われている。

和装の場合、金属の鎖もしくは絹製の組紐をつけに挟むのが普通である。

主なブランド[編集]

関連項目[編集]