沖縄方言

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沖縄方言(おきなわほうげん)または沖縄語(おきなわご)、沖縄中南部諸方言(おきなわちゅうなんぶしょほうげん)は、琉球語(琉球方言)のうち、沖縄諸島中南部で話される方言言語)の総称である。話される範囲には沖縄本島中南部と慶良間諸島久米島渡名喜島粟国島奥武島浜比嘉島平安座島宮城島伊計島が含まれる。ウチナーグチ(沖縄口)とも言う。

一般に「古くからの沖縄の方言」と認識されている言葉はこれである。現在の沖縄県で広く話されている俗に「沖縄弁」と呼ばれる言葉は、ウチナーヤマトグチ(沖縄大和口)と呼ばれるもので、沖縄方言と共通語接触して成立した新方言である。

エスノローグISO 639中央沖縄語(Okinawan, CentralまたはCentral Okinawan)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)の沖縄語(Okinawan Language)という単語は、この項目における沖縄方言という単語が指す範囲とほぼ同じである(#沖縄語を参照)。

目次

[編集] 概要

沖縄方言は、中部方言(首里方言・那覇方言含む)と南部方言の2つのグループに大きく分けられる。

琉球王国の時代、王府首里城のある首里に集まる按司(あじ)同士で通じる共通語としてつくられたのが首里方言で、尚真中央集権支配の間(1476年1526年)に完成された。首里方言は王族と上流階級によって使われる公用語であったが、庶民の間ではそれぞれの土地の言葉が使われた。琉歌の全てとその時代からの漢文を除く)は、首里方言で書かれている。組踊も首里方言である。商売人などの間の共通語としては、首里方言よりも那覇方言が広く使用された。

沖縄本島北部から沖永良部島鹿児島県)の言葉は、これとは別の方言である(国頭方言を参照のこと)。

[編集] 音韻体系

[編集] 母音

沖縄方言には三種類の短母音/a/、/i/、/u/と五種類の長母音/aː/、/eː/、/iː/、/oː/、/uː/がある。/u/は日本語(共通語)とは違う丸みをもった音である。

[編集] 子音

両唇音 歯茎音 口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門子音
破裂音 [p b] [t d] [k ɡ] [ʔ]
鼻音 [m] [n] [ɴ]
弾音 [ɾ]
摩擦音 [ɸ] [s] [h]
Approximant [j] [w]
Laryngeal approximant [ʔj] [ʔw]

[編集] モーラ表

ʔi ʔe ʔa ʔo ʔu ʔja ʔjo ʔju ʔwa ʔɴ
[[ʔi]] [[ʔe]] [[ʔa]] [[ʔo]] [[ʔu]] [[ʔja]] [[ʔjo]] [[ʔju]] [[ʔɰa]] [[ʔn]]
[[ʔm]]
イ/ユィ エ/イェ オ/ヲ ウ/ヲゥ
i e a o u ja jo ju we wa ɴ
[[i]]
[[ji]]
[[e]]
[[je]]
[[a]] [[o]]
[[wo]]
[[u]]
[[wu]]
[[ja]] [[jo]] [[ju]] [[ɰe]] [[ɰa] ] [[n]]
[[m]]
[[ŋ]]
[[ɴ]]
ヒャ ヒョ ヒュ - フヮ
hi he ha ho hu hja hjo hju hwa
[[çi]] [[çe]] [[ha]] [[ho]] [[ɸu]] [[ça]] [[ço]] [[çu]] [[ɸa]]
ギャ - - グヱ グヮ
gi ge ga go gu gja gwe gwa
[[ɡi]] [[ɡe]] [[ɡa]] [[ɡo]] [[ɡu]] [[ɡja]] [[ɡʷe]] [[ɡʷa]]
キャ - - クヱ クヮ
ki ke ka ko ku kja kwe kwa
[[ki]] [[ke]] [[ka]] [[ko]] [[ku]] [[kja]] [[kʷe]] [[kʷa]]
チェ チャ チョ チュ - - - - -
ci ce ca co cu
[[ʨi]] [[ʨe]] [[ʨa]] [[ʨo]] [[ʨu]]
ジェ ジャ ジョ ジュ - - - - -
zi ze za zo zu
[[ʥi]] [[ʥe]] [[ʥa]] [[ʥo]] [[ʥu]]
シェ シャ - シュ - -
si se sa so su sja sju
[[ɕi]] [[ɕe]] [[sa]] [[so]] [[su]] [[ɕa]] [[ɕu]]
ディ ドゥ
di de da do du
ri re ra ro ru
[[di]] [[de]] [[da]] [[do]] [[du]]
[[ɾi]] [[ɾe]] [[ɾa]] [[ɾo]] [[ɾu]]
ティ トゥ - - - - -
ti te ta to tu
[[ti]] [[te]] [[ta]] [[to]] [[tu]]
ミャ ミョ - - -
mi me ma mo mu mja mjo
[[mi]] [[me]] [[ma]] [[mo]] [[mu]] [[mja]] [[mjo]]
ビャ ビョ ビュ - -
bi be ba bo bu bja bjo bju
[[bi]] [[be]] [[ba]] [[bo]] [[bu]] [[bja]] [[bjo]] [[bju]]
ピャ - ピュ - -
pi pe pa po pu pja pju
[[pi]] [[pe]] [[pa]] [[po]] [[pu]] [[pja]] [[pju]]
q
[[h]]
[[j]]
[[s]]
[[t]]
[[p]]
e
[[ː]]

[編集] 日本語共通語との対応関係

日本語共通語 沖縄語 備考
エ /e/ イ /i/ [[ʨi]] ではなくティ [[ti]]
オ /o/ ウ /u/ [[tsu]]ではなくトゥ [[tu]]、ヅ [[dzu]] ではなくドゥ [[du]]
アイ /ai/ エー /eː/
アエ /ae/
アウ /au/ オー /oː/
アオ /ao/
アヤ /aja/
カ行 /k/ カ行 /k/ ガ行 /ɡ/ になることもある。
カ /ka/ カ /ka/ ハ /ha/ になることもある。
キ /ki/ チ /ci/ [[ʨi]]
ク /ku/ ク /ku/ フ(/hu/、[[ɸu]])になることもある
スィ /si/ スィ /si/ ヒ(/hi/、[[çi]])になることもある
ス /su/ スィ /si/ 以前は シ [[ɕi]] と スィ[[si]] とは区別された。
ヒ(/hi/ [[çi]])になることもある。
ツ /tu/ チ /ci/ チ (以前は [[ʨi]][[tsi]] とは区別された)
ダ /da/ ラ /ra/ ダ行 [[d]] とラ行 [[ɾ]] は合流した。
デ /de/ リ /ri/
ド /do/ ル /ru/
ニ /ni/ ニ /ni/ ン /ɴ/ になることもある。
ヌ /nu/ ヌ /nu/
ハ /ha/ フヮ /hwa/ パ /pa/ になることも稀にある。
ヒ /hi/ ピ /pi/ ~ ヒ /hi/
ヘ /he/
ミ /mi/ ミ /mi/ ン /ɴ/ になることもある。
ム /mu/ ム /mu/
リ /ri/ イ /i/ イリ /iri/ は変化なし。
ワ /wa/ ワ /wa/ 語中ではア /a/ になる傾向がある。

[編集] 文法

沖縄方言では多くの古典文法の特徴が保たれている。例えば、終止形連体形の区別や、所有格「が」(首里方言では死語)、主格「ぬ」(共通語の「の」)、さらにそのほか、主格としての「が」「ぬ」の敬体と常体での使い分けが挙げられる。

[編集] 動詞

「書く」
古典文法 首里方言
未然形 書か kaka-
連用形 書き katʃi-
終止形 書く katʃun
連体形 書く katʃuru
已然形 書け kaki-
命令形 書け kaki

沖縄方言の終止形・連体形の語尾は、連用形に「をり(居り)」を付けた形から派生したものである。具体的には、連体形のkatʃuruは「連用形+をる」(kakiworu)が変化したものである。終止形のkatʃunの由来には、「連用形+をりむ」「連用形+をむ」「連用形+をるもの」の複数説がある。

次に浦添市小湾方言の「書く」と「起きる」の活用体系と主な活用形の用法、用例を示す。また、那覇市首里方言・豊見城市饒波方言で小湾方言と大きく異なる点についても示す。例文はいずれも浦添市小湾方言のもの[1]

小湾方言の活用体系
  志向形 未然形 条件形1 命令形1 命令形2 連用形 条件形2 終止形 連体形 du係結形 ga係結形 準体形 接続形
書く kaka kaka kakeː kaki kakeː katʃiː katʃuraː katʃun katʃuru katʃuru katʃura katʃu katʃi
起きる ʔukira ʔukira ʔukireː ʔukiri ʔukireː ʔukiː ʔukiːraː ʔukiːn ʔukiːru ʔukiːru ʔukiːra ʔukiː ʔukiti

志向形は、「~しよう」という意味を表す。

[例]dʒiː kaka na(字を書こう)

未然形には、否定を表すn、条件を表すba、「~ながら」という意味のganaː、使役を表すsun・ʃimiːn、「-れる」にあたるriːnが付く。また、小湾方言では禁止を表すにも未然形を用いるが、首里方言や饒波方言の禁止形はkaku-na(書くな)である。

[例]midʒi ntʃu n numa n(水さえ飲まない)

[条件形1の例]ʔjaː ga kakeː ʃimutaru mun(君が書けばよかったのに)

連用形には、busan(~したい)、gisan(~しそうだ)、misoːin(~なさる)、juːsun(~できる)、ga(~に)、bakaːi(~ばかり)、ntʃun(~さえ)などが付く。

[例]waŋ ga katʃi busan(私が書きたい)

[例]dʒiː katʃi ga ʔitʃun(字を書きに行く)

[条件形2の例] jumuraː jumeː(読むなら読め)

[終止形の例]dʒiː katʃun(字を書く)

準体形には、mi(たずね)やsa(さ・よ)、ga(疑問)、kutu(から。理由を表す)などが付く。

[例] tʃiburu ga jamu kutu jukui sa(頭が痛いから休むよ)

[接続形の例]naːha kara keːti tʃuːn(那覇から帰って来る)

[編集] 形容詞

沖縄方言の形容詞は、古い語幹に「さ」と「あり」を付けた形から成り立っている。例えば連体形の「高い」にあたるものにはtakasaruやtakasaːruなどがあるが、これは「高さある」が変化したものである。また、終止形の「高い」にあたるものにはtakasanやtakasaːnなどがあり、「高さありむ」が変化したものとみられる。[2]

次に久米島儀間方言の「高い」の活用を示す。

  連用形1 条件形1 条件形2 連用形2 終止形 連体形 du係結形 ga係結形 準体形 接続形
高い takaku takasaːri-ba takasaːreː takasaːi takasaːn takasaːru takasaːru takasaːra takasaː takasaːti

次に久米島儀間方言での例文を示す[1]

takaku nai(高くなる)

takasaːri ba koːra n(高ければ買わない)

takasaːreː numa n(高ければ飲まない)

tʃurasaːn jaː(美しいね)

ʔuri ru takasaːru(これが高いのだ)

takasaː miː(高いか)

takasaːti n koːi(高くても買う)

[編集] 沖縄語

非営利組織である国際SILが出版しているエスノローグによると、日本で使われている言語として日本語アイヌ語朝鮮語とともに、中央沖縄語(Okinawan, Central)が挙げられている。この他にも、南西諸島における言語として、喜界語、北奄美語、南奄美語、徳之島語、沖永良部語、与論語、国頭語、宮古語、八重山語、与那国語といった言語を多く挙げている[3]。しかしこれらの言語は、一般的には琉球語(琉球方言)の諸方言とみなされている[4]。また、国際SIL自体も、方言であるとの意見を排除しないと表明している。2007年には、国際標準化機構の言語の略称についての国際規格であるISO 639にも、国際SILとの整合性をとる目的で、中央沖縄語(Central Okinawan)が3字略称「ryu」として追加された[5]

2009年2月19日に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が発表した調査結果によると、世界で約2500の言語が消滅の危機にあるとし、日本の南西諸島における諸方言もその対象となった。この中で沖縄方言は、国頭方言宮古方言奄美方言八重山方言与那国方言とともに、それぞれ独立した1個の言語「沖縄語」とみなされた。ユネスコの担当者は、「これらの言語が日本で方言として扱われているのは認識しているが、国際的な基準だと独立の言語と扱うのが妥当と考えた」という[6]。これを受けて参議院議員である糸数慶子は、「ユネスコが独立した言語とした八言語は、言語なのか、方言なのか」など、7項目を「沖縄の言語に関する質問主意書」として政府に提出した[7]。これらの質問に対し、政府は、「『言語』及び『方言』の用語は、様々な意味を有するものと承知しており、お尋ねに一概にお答えすることは困難である」との見解を示している[8]

[編集] 他の方言群

北琉球方言
南琉球方言(先島方言群)

[編集] 参考文献

  • 内間直仁(1984)『琉球方言文法の研究』笠間書院

[編集] 脚注

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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