奄美方言
奄美方言(あまみほうげん)または奄美語(あまみご)、奄美徳之島諸方言(あまみとくのしましょほうげん)は、琉球語(琉球方言)の内、鹿児島県奄美群島の奄美大島、加計呂麻島、徳之島、喜界島などで話される方言(言語)の総称である。
奄美群島内諸方言を一括して「奄美方言」と称する場合もあるが、沖永良部島と与論島で話される方言は沖永良部与論沖縄北部諸方言に属し、隔たりがある。
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[編集] 音韻
i、ï、u、e、ë、o、aの7母音体系、またはこのうちëを欠いた6母音体系を持つ。日本語本土方言のoがuになり、eがïになっている。
[編集] 文法
[編集] 動詞
琉球語の動詞活用で特徴的なのは、「連用形+をり」から派生した活用形である。「書く」を例にとると、奄美方言での終止形には、「書きをり」に由来する形と「書きをりむ」(または「書きをむ」、「書きをるもの」か)に由来する形とが併用されており、両者には微妙な意味の違いがある。このうち「書きをり」に由来するものは、徳之島の井之川でkakjuri、奄美大島の宇検村湯湾や喜界島志戸桶ではkakjui、奄美大島瀬戸内町古仁屋でkakjurとなっている。一方「書きをりむ」(書きをむ・書きをるもの)に由来するものは、古仁屋でkakjum、志戸桶・湯湾・井之川でkakjunとなっている。また、奄美大島名瀬市方言の終止形はkakjuriとkakjunである。徳之島では、これらのほかに連用形のみのkakiという形も文の言い切りに用いられる。連体形には、「書きをる」に由来する形が用いられ、名瀬・古仁屋・湯湾・志戸桶・井之川の5地点ともにkakjunである。[1][2]
「~しよう」という意味を表す志向形は、「書く」を例にとると、湯湾・古仁屋・志戸桶ではkakoːで、これは未然形に助動詞「む」の付いた「書かむ」に由来する。また、志戸桶・井之川での志向形はkakaで、これは「書かむ」に由来するという説と、未然形単独の「書か」に由来するという説がある。命令形は、名瀬・古仁屋・湯湾・志戸桶・井之川ともにkakï で、「書け」にさかのぼる。禁止形は、名瀬・湯湾・志戸桶でkaku(na)、古仁屋でkak(na)で、これらは「書く(な)」に由来するが、井之川の禁止形kakiは、連用形に由来する。[1][2]
次に奄美大島の瀬戸内町古仁屋と徳之島の井之川の「書く」の活用を示す[3]。iと区別するために中舌母音のïは赤字で示す。
| 志向形 | 未然形 | 条件形 | 命令形 | 禁止形 | 連用形 | 連体形1 | 終止形1 | 終止形2 | 連体形2 | du係結形 | 準体形 | 接続形 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 書く | kakoː | kaka | kak | kakï | kak | kaki | kak | kakjur | kakjum | kakjun | kakjur | kakju | katʃi |
| 主な接辞 | m(否定) z(否定) sjum(せる) rïm(れる) ba(条件) |
ba | na | busja(たい) du(ぞ) ga(に) m(も) |
gadii(まで) had(はず) |
mï(か。疑問) |
| 志向形 | 未然形 | 命令形1 | 命令形2 | 禁止形 | 連用形 | 終止形1 | 終止形2 | 終止形3 | 連体形 | du係結形 | 準体形 | 接続形 | 条件形 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 書く | kaka | kaka | kakï | kakë | kaki | kaki | kaki | kakjuri | kakjun | kakjun | kakjuru | kakju | katsï | katsïka |
| 主な接辞 | n(否定) da(否定) sun(せる) run(れる) |
na | tʃahan(たい) ba(否定) gatʃana(ながら) |
[編集] 形容詞
奄美方言の形容詞は、古い語幹に「さあり」の付いた形から派生してできている。奄美方言では、動詞と同じように形容詞の終止形にも2種類の形があり、一つは「高さあり」系、もう一つは「高さありむ」系である。「高さあり」に由来する終止形は、瀬戸内町古仁屋でtahasar、徳之島の井之川でtaːhari、宇検村湯湾・喜界島志戸桶でtaːsaiとなっている。「高さありむ」に由来する終止形は、古仁屋でtahasam、湯湾でtaːsaːn、志戸桶でtaːsan、井之川でtaːhanとなっている。連体形は「高さある」にさかのぼり、古仁屋でtahasan、湯湾でtaːsaːn、志戸桶でtaːsan、井之川でtaːhanとなっている。[4]
連用形は、「高く」にさかのぼり、古仁屋でtahak、湯湾・志戸桶・井之川でtaːkuとなっている。[4]
奄美大島の瀬戸内町古仁屋方言と、徳之島の井之川方言の「高い」と「珍しい」の活用を示す[5]。
| 未然形 | 連用形 | 条件形 | 終止形1 | 終止形2 | 連体形 | du係結形 | 準体形 | 接続形 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 高い | tahasara | tahak | tahasar | tahasar | tahasam | tahasan | tahasar | tahasa | tahasatï |
| 珍しい | mïdraʃara | mïdraʃak | mïdraʃar | mïdraʃar | mïdraʃam | mïdraʃan | mïdraʃar | mïdraʃa | mïdraʃatï |
| 主な接辞 | ba(条件) | najur(なる) du(ぞ) |
ba(条件) | m(も) si(で) tu(と) |
| 連用形 | 終止形1 | 終止形2 | 連体形 | du係結形 | 準体形 | 接続形 | 条件形 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 高い | taːku | taːhari | taːhan | taːhan | taːharu | taːha | taːhati | taːhatika |
| 珍しい | mïdzïraʃiku | mïdzïrahari | mïdzïrahan | mïdzïrahan | mïdzïraharu | mïdzïraha | mïdzïrahati | mïdzïrahatika |
[編集] 文例
『琉球方言文法の研究』より、瀬戸内町古仁屋方言の文例。
- ʔura ja katʃi m wan na kaka m(君は書いても私は書かない)
- wa ga kak gadiː ʔarrja koː mta(私が書くまで彼は来なかった)
- tahasan mun na kwëːkirja m(高いものは買えない)
[編集] 他の方言群
- 北琉球方言
- 奄美方言 (en)(奄美徳之島諸方言)
- 沖永良部与論沖縄北部諸方言
- 沖縄方言 (en:Okinawan language)(沖縄中南部諸方言。この内、首里方言が、共通語となる)
- 南琉球方言(先島方言群)
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ a b 内間(1984)「動詞活用の通時的考察」
- ^ a b 名瀬方言については、飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 10 沖縄・奄美の方言』国書刊行会、1984年、64頁。
- ^ 内間(1984)「動詞活用の記述的研究」
- ^ a b 内間(1984)「形容詞活用の通時的考察」
- ^ 内間(1984)「形容詞活用の記述的研究」
[編集] 参考文献
- 内間直仁(1984)『琉球方言文法の研究』笠間書院