北海道方言
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北海道方言(ほっかいどう-ほうげん)は、北海道地方における方言。北海道弁とも言う。
ただし北海道では、渡島半島南部を除く地域で和人の活動が盛んになったのが、主として明治時代以降であるために、他地域の方言ほど顕著な特異性を持たず、このために学説上の区分では方言として独立させず、東北方言の一種として扱うこともある。
目次 |
[編集] 概要
概ね共通語(標準語)に準ずるが、細部において北海道方言独特の語彙や語尾、文法が存在する。北海道で生まれ育った人たち(道産子)は、語彙や語尾の点で北海道方言と共通語の違いを認識することが多い。しかし語彙や語尾の点だけでなくアクセントやイントネーションの点においても、大方の人は共通語のものと同じだと位置づけがちだが、実際には独特の「北海道式アクセント」とも言えるものが存在している。
それでもやはり、かつての開拓移民が多い為か、全国の他の方言に比べると共通語から大きく外れておらず、他地域の人が強い違和感を抱くような発音やアクセントはほとんど無い。北海道は道外各地からの移民が多いため共通語を話した方が会話が成り立つと言う説もあり、また、それが逆に北海道内でも地域による方言の差につながっていると思われる。
都市部では比較的共通語に近いアクセントで話されているが、よく聞くと北海道アクセントが残っていることが多い。函館市周辺は青森県津軽地方からの移住者が多いため津軽弁の影響を根強く受けており、他地域とアクセントがやや異なる。
近年では、テレビなどメディアによって標準語(共通語)が定着しており、また東京からUターンする人や北海道外からIターンする人も増加したことから、北海道方言独特の表現やアクセントが消えつつあるのも事実である。特に1970年代以降に生まれた若い世代では、方言の語彙を知らなかったり、知っていても使わない人が増えており、北海道アクセントに違和感を抱く人もいる。
[編集] 分類
沿岸で使用される言葉(浜言葉:特に小樽などの日本海沿岸の地域や函館などの道南地方)と、内陸で使用される言葉の2つに大きく分けられる。
[編集] 浜言葉
浜言葉は、江戸時代からの北前船による繋がりから日本海側の方言の影響が強く、東北方言との近似が最もよくみられ、次に北陸方言、その次に関西方言というような航路上の地理的な近さと影響を受けた方言が関連している。
また、浜言葉自体は、北海道の他の地区の者にとっても聞き取りにくい方言で、他地区の若年層の中にはほとんど理解できない者もいる。浜言葉もいくつかに別れていて、地域や人により微妙に異なっている。しかし、それらの浜言葉も、近年ではテレビや人の往来などの影響で話されることが少なくなり、若年層では、共通語・東京式アクセントに近くなってきている。
[編集] 特徴
[編集] 語彙・単語
上記のように、他地域からの影響を受けているので、他地域と共通する語彙も多い。
[編集] 名詞
- あおたん(あざ)
- あきあじ(塩ざけ)
- あごわかれ(送別会)
- あしたあさって(明後日)
- あんべ(按配)(気持ち、具合)「あんべ悪い」
- おつゆ(味噌汁)
- おんじ(弟)おんちゃんともいう。
- がっちゃき(痔)
- かんかん(缶缶)(空き缶)缶詰などの小さいもの(ただし、名古屋や関西、東北の一部でも使われていることから、方言と言うよりは、俗語・幼児語と言う見方もできる)
- がんがん(缶缶)(一斗缶などの空き缶)大きいものが「がんがん」と呼ばれる。
- かんぷうかい(観楓会)(秋に宿泊付きで行われることが多い宴会、飲み会)東北地方で行われる芋煮会に相当するが、通常はただの慰安旅行か宴会である。道外、また道内でもある世代以下では使われないため、聞いた人は「寒風会」だと思うことが多い。
- がんべ(瘡蓋/痂(かさぶた))
- きしゃ(汽車、気車)(列車) JR(昭和62年3月までは日本国有鉄道(国鉄))の列車のこと。「電車」は路面電車を指す。しかし、現在では日本の他の地域でも同様の現象が見られるように電車ということも多い。北海道は日本で最も遅くまで国鉄による蒸気機関車の運行が行われていた地域である。なお、この使いわけは、北海道以外にもあると言われている。
- げっぱ または げれっぱ(最下位、またはその人)
- ごしょいも(五升芋)(ジャガイモ)
- こっこ(子供) 魚のおなかにある卵を指すことも多い。
- ザンギ(鶏の唐揚げ)詳しい種類等は唐揚げを参照
- さがり(牛・豚の内臓肉、はらみ)
- じゃら銭(せん) または だら銭(小銭)
- じょんば(ショベル、雪掻きに使う道具)
- たくらんけ(愚か者)
- ちせ(家、転じて居場所、神の住処)英語の"house"より広い概念を持ち、むしろ"home"に相当するとされる。元々はアイヌ語。
- つっぺ(突っ支い棒)「つっぺ-かる」戸などが開かないように障害物を置く、固定するために支える。また、鼻血が出た時に鼻にティッシュ等を詰める事を「つっぺ-する」と言う。
- デレッキ(石炭ストーブに使う火掻き棒)
- とうきび(とうもろこし)非常に一般的な呼び名。語源は「唐の黍」や「サトウキビから」などと諸説ある。函館地方では「とうきみ」とも。ただし、講談社の国語辞典には東北・四国・九州でも使われているとある。
- トン車(タクシー)車の重量が約1tであることが由来。
- ないち(内地) 道外のこと。本州以南を指す。
- なすび (「なす」のことであるが、関西方面の言葉が北海道に根付いた典型的な例)
- なんぼ (幾ら。数値や金額)
- へっぺ (性交を表す隠語)「-こいた(動詞)」は「エッチした」という意味(1960年代以降に生まれた人は知らない場合が多い。他の地方でも使われている例がある)
- ぼっこ(比較的短い棒、棒切れ)語尾の「こ」は、大人が中型犬や小型犬を「ワンこ」と呼んだり、浜言葉や東北弁で子供を「童っこ=わらしっこ、わらすこ」と呼ぶ場合や「どじょっこふなっこ」にも見られるように、小さなものを指す接尾語といわれる。他に根っこ、端っこなど。類例として葉っぱ、菜っぱ。
- ほっちゃれ(産卵、遡上を終えた鮭)「気の抜けた様子」や「気の抜けた者」に用いる。
- 真ん中らへん(真ん中のあたり)、どこいらへん(どこら辺)、他地方にも例あり。
[編集] 動詞
- いこる(炭が完全燃焼している)「木炭がいこったな」*近畿・四国で使われていたと思われる
- うめる(うすめる、ぬるくする)「風呂の湯があっつかったらうめてよ」、「しょっぱかったら水でうめれば」*関東・中部・近畿・四国等で使われていたものと思われる
- うるかす (ふやかす・水に浸す)煮る前の豆を水につけたり、食後のごはん茶碗などを水につけてご飯粒などを取れやすくする。「茶碗うるかしといて」
- おがる(草・歯などが、生える/成長する)
- おささる (扉・ボタンなどを)つい(自分の意図に反して)押してしまう
- おだつ (調子に乗った行動をする)子供が調子に乗ってふざけて頭をぶつけた時などに「おだつんでない!おだってるからそうやって頭ぶつけるんでしょ」※「おだてる」からと思われる
- おっちゃんこ(座る、正座)「おっちゃんこしなさい(座りなさい)」、「きちんとおっちゃんこ(正座)しなさい」
- かぜる、かてる、かでる(遊び等、仲間に加える、参加する) 「俺も鬼ごっこにかててくれ」。「糅てる」、「数える」、或いは「加」+「混ぜる」が語源と思われる(札幌市にある多目的ホール「かでる2・7ホール」の「かでる」はこれが由来。昭和50年代以降はあまり使われなくなった)。
- かっちゃく (引っかく、引っかき傷をつくる)
- かまかす(かき混ぜる)
- かる((鍵を)かける、つめる。しめる)「おまえ、じょっぴん(鍵)かったよな?」「鼻血出たのでつっぺかる」など
- ごんぼほる(牛蒡掘る)(意地を張る)相手の言うことに耳を貸さず、意地を張って反対する迷惑な言動に対して使う。(子供が)親の言うことを聞かず、意地を張ってすねる。
- しぐ(死ぬ)
- しばれる(凍る、身体の芯まで冷え切る)凍ってしまうような寒さそのものを表すこともある。若年層では使われなくなっているものの、天気予報などではよく「今夜はしばれるでしょう」などと使われ、極寒の気温にはこの表現がふさわしいという認識は広い。
- じょっぴんかる(鍵をかける、戸締りをする)「じょっぴん」は「錠(じょう)」、「かる」は「かける」(現代では、じょっぴんかるはあまり使われないが、(鍵を)かるという言葉のみが残っている)
- だはんこく(わがままを言って騒ぐ、(子供が)わがままを言って泣き喚く)
- ちょす(いじくる)(いじる)
- なげる(捨てる)「投げる」の共通語的意味は「任意の方向に無造作に放る」であるため「不法投棄」「無造作にゴミを撒き散らす」というイメージをもたれがちだが、北海道方言では「ゴミ箱やゴミ置き場などに正規に捨てる」の意。「雪なげ」であれば、除雪あるいは排雪を意味している場合がある。また、小さいごみを「捨てる」、ごみをまとめて(大きくして)「投げる」と使い分ける用法も見られる。
- ばくる(交換する)交換し合うは「ばくりっこする」。ばくろう【博労・伯楽・馬喰】[(1)馬の善悪を鑑定する人、馬の病を治す人、馬を売買・周旋する人(2)物と物とを交換すること…広辞苑]に由来する。
- はたく(人を)叩く、殴る。「おだってるとはたかれるよ」
- ほろう(〈雪や埃などを〉はらう)「背中の雪、ほろってやる」
- ぼっかける(追いかける)ぼうという場合もある。
- まかす (こぼす)勢いよくたくさんこぼす感じ。
- まかなう(服を着る、身支度する)
- もそこす/もちょこす (くすぐる)
- やむ(痛い/痛む)「虫歯がやむ」「傷がやんでしょうがない」(「病む」の正式な意味の一つであるが、北海道ではごく日常的に使われる)
- よしかかる(よっかかる) (寄りかかる)
- 〜こく(〜する、している状態)上記「だはんこく」、「はっちゃきこく」、「屁こく」
[編集] 形容詞・形容動詞
- あずましい(落ち着く、居心地が良い、せいせいする、素晴らしい)空間的・身体的安堵感を意味する。否定形の「あずましくない」もよく使われる。
以前千葉ロッテに在籍していた平下晃司の応援歌の「素晴らしい平下」というフレーズは、札幌ドームをはじめとする北海道内限定で「あずましい平下」と歌っていた。 - あっぺ、ありゃこりゃ(上下や前後左右が逆、反対な状態)「おまえの服〜だべよ」
- あめる(腐る)「この鮭のこっこあめてるから、いたましいけどなげるわ」
- いたましいいたわしいという場合もある(もったいない)
- いずい(きつい、痛い、身体に違和感がある)服がきつい時や、目にゴミが入ってゴロゴロする時、身体に鈍痛を感じる時など、主に身体的な不快感を表す。「歯がいずい(虫歯や親知らずなどで歯に違和感があって気になる)」
- おもしい(おもしろい)若年層に用いられる傾向
- がさい、がっちゃい(できが悪い、程度の低い)「あの車がさいべ」
- かしがる(傾く)「あの家かしがってないか」(北陸の一部に例あり)
- きかない(言うことを聞かない、気が強い、やんちゃだ)「きっかない子だねぇ」
- こちょばしい(くすぐったい)
- こまい(細かい、小さい)
- こわい(体が疲れた、体が辛い、息が苦しい)「怖い」ではない。怖いは「おっかない」を常用する。(北陸などに例あり)
- しゃっこい(触覚・味覚的に冷たい)「冷やっこい=ひゃっこい」と記す文書もあるが、「し」の方が一般的。
- 大儀(だ)(おっくうだ、面倒だ、だるい、大層なことだ)古くから日本語にある言葉だが、共通語ではあまり使われなくなっている一方、北海道でよく使われる。中国地方でも似た表現(たいぎぃ)がある。「熱が出て、起きてるのも大儀だ」「日曜日まで仕事だなんて大儀だね」
- ちょっきり(ぴったり/ちょうど/きっかり)「12時ちょっきりに着いた」「315円ちょっきりあったわ」
- はんかくさい(愚かだ/愚かな)うかつなミスをしたり、非常識な行動をとると、こう言われる。
- はかいく(物事が順調にいく、はかどる、沢山食べる)「今日は仕事がはかいった」、[今晩の飯ははかいくね」
- ぺったらこい(平べったい)
- まていな、まて(丁寧な、気がつく、細かい)「あの人はまていだね」、「まてに作ってる」
- みったくない(みっともない/不細工だ/不細工な、醜い)ドリフの中で加藤茶が使っていた。加藤茶は東京生まれ。
- めんこい(かわいい)子供や犬猫をあやす掛け声に「めんこめんこ」があり、「あやす」や「なでる」の意味で「めんこめんこする」とも言う。
- もそこい/もちょこい (くすぐったい)
- やばちい(きたない)
- ゆるくない (大変だ、苦労だ)「最近残業ばっかりでゆるくない」
[編集] 副詞他
- したっけ(1.接続詞の「そうしたら」の意、2.別れる際の挨拶で「それじゃ」「じゃあね」と同意味で「したっけね」という言い方で、道央圏の特定の世代で多く用いられる)その他、 して(そして)、したら(そうしたら)など、語頭の「そ」が発音されない傾向にある。
- 〜さる(〜が物理的に可能)「リモコンのボタン、押ささらないわ」「ここなら(地盤がやわらかいので)看板が立たさるわ」「このボールペン(インクが乾いて)書かさらないわ」 →この項#自発的表現参照。
- 〜でない(〜ではない、〜じゃない) 「では・じゃ」→「で」になる。都心部・若年層では少ない。
- なして(どうして)「なして昨日行かんかった」
- なまら、なんまら(とても、かなり)比較的新しくできた表現(新方言)で、年配の人はあまり使わない。女性が使うのを嫌う人もいる。70年代に新潟出身のラジオDJが使ったことから札幌圏で若者が使い始めた。主に道央、旭川、富良野などの内陸部で使われ、稚内周辺では同意語で「べろ」、函館周辺では「がっつ・がっつり・ばっこり」というものがある。なんまらは強調表現。元々のルーツは新潟弁であるが北海道とは逆で、年配の人が使い、若年層では殆ど使われない。
- なんも(なにも、なんにも)「なんも無いけど、あるもんで食べてね」「なんもさ(なんでもないよ、大丈夫だよ)」
- 〜ば(〜さ)(〜を) 目的をあらわす「を」が「ば」になる。九州地方の方言と似ている。近年ではあまり聞かれない。「箱ば開ける」「仕事さ行く」「あっちさ、行った」
- はっちゃきになって(はっちゃきこいて)(がむしゃらになって、無我夢中で)「はっちゃきになって(はっちゃきこいて)走る」など。
- ほれ(=「ほら」、呼びかけの語)「ほれ、見てみれ」(ほら、見てみろ)
- まるまんま(丸ごと)「丸い」+「まま」
- むりくり(無理やり)「無理っくり入れようとするから壊れるんだ」
- もしか(もし)「もしか契約を断られたらどうしましょうか」
- わや(わいや)(手がつけられないほど酷い、めちゃくちゃだ、否定的な「とても」の意)「部屋が散らかってわやだ」 「わやなことになった」など。「なまら+わや」でとても酷い状態を表現したい場合に使用されることがある。国語辞典にもある単語だが、共通語ではあまり使われず、北海道のほか関西地方、名古屋市周辺、山口県の一部などで使われる。
※「べこ」(牛)、「じょっぴんかる」(鍵をかける)、「とっぺる」(壁などで仕切る)若年層や都市部ではほとんど用いない語や、その地域特有の表現、地域や世代により意味が微妙に異なる語、死語に近いものも含めるとかなりの数にのぼる。
[編集] 代表的な語尾
- 「〜(っ)しょ」
- 「いいっしょ」=「いいでしょう、いいだろう」、 「これしょ」=「これでしょ、これだろ」
- 「〜(っ)しょや」と「や」をつけると、強調的になる。「〜でしょうが」「〜でしょうよ」という感じ。
- 動詞・形容詞+「べ」、 名詞+「だべ」
- 「遊ぶべ」=「遊ぼう(よ)」、 「寒いべ」=「寒いでしょうね」、 「これだべ」=「これでしょう?」
- 「〜(だ)べさ」(主に女性)、 「〜(だ)べや」(主に男性)
- 「そうだべさ」=「そうでしょうよ」、 「それくらい、いいべや」=「それくらい、いいじゃないか」
- ※「(だ)べや」はいかにも男性的な荒々しい印象 →(関連中居正広)
- 疑問形として、「〜だべ(さ)?」=「〜でしょう?、〜だろう?」、「あしたは雪だべな?」「うん、そうだべな。」
- 断定の意味にも「〜だべさ」を用いる。「お前が悪いんだべ(や)。」
- 「〜かい」 【問いかけ、疑問、推測、ソフトな断定】
- 「これで合ってるかい」=「これで合ってる?」、 「あんた風邪ひいたんでないかい」=「あんた風邪ひいたんじゃないの?」、 「お父さん、そろそろ帰ってくるんでないかい」=「お父さん、そろそろ帰ってくるんじゃないかな?」、 「飲まない方がいいんでないかい」=「飲まない方がいいんじゃない?」、 「予定では明日じゃなかったかい」=「予定では明日じゃなかったっけ」
[編集] 動詞の活用
[編集] 命令形
上一段活用、下一段活用の動詞で、命令形が、仮定形(〜ば)と同形になる。 例: 「食べる」の命令形は「食べれ」、 「寝る」の命令形は「寝れ」 (共通語の「食べろ」「寝ろ」は、道産子には非常に威圧的に聞こえる) ※(強)食べろ>食べれ>食べて(弱)
- これは五段活用のパターン(例: 「書く」の仮定形「書け(ば)」、命令形「書け」)と同一であり、動詞活用の乱れであるように思われる。
- 「する」の命令形は「すれ」または「しれ」(共通語では「しろ」)
[編集] 可能形の否定
五段活用動詞の可能形(可能動詞)の否定で、共通語では単純に「る」→「ない」に変えればいいところ、(動詞の語幹の最後を「あ行」に変え)「(-a)+れない」とする活用が聞かれる。
例: 「書ける」→「書かれない」(書けない)、「行ける」→「行かれない」(行けない)、「飲める」→「飲まれない」(飲めない)
- ※「書かれない」、「行かれない」といった不可能形はかつての日本語には一般的に存在していた形式である。五段動詞において「書けない」、「行けない」という形は、五段動詞が「ら抜き」(正確には-ar-抜き)を起こした、比較的新しい形である。しかし、一段動詞の「ら抜き」と違ってこれらは共通語においても誤用とみなされず、一般化している。北海道方言は五段動詞においては古い形を残し、一段動詞においては新しい形が現れている。
[編集] 自発的表現
五段活用動詞の「未然形+さる」、 上一段活用・下一段活用動詞の「語幹+らさる」 共通語には存在しない自発的表現となる。一部の特定の動詞で用いられることが多く、「進んでそうしようと思っているわけではないが、状況が自動的にそうしてしまう」という心情を表せる。
- この本面白くて、どんどん読まさる。 - この本が面白いので、どんどん読んで(読めて)しまう。
- この塩辛旨くて、ご飯たくさん食べらさる。 - この塩辛が旨いので、ついご飯をたくさん食べてしまう。
この表現の否定形もよく使われる。正しい活用は「〜(ら)さらない」となるはずだが、こう言うことはまずなく、口語ではほぼ「〜(ら)さんない」と発音される。意味は逆になり「進んでそうしようと思っているのに、状況が悪いのでそうならない」心情を表す。
- 窓が開(あ)かさんない。 - (開けようとしているのに)(凍っているから) 開けられない。
- このペン書かさんない。 - (書こうとしているのに)(インクが切れているから) 書けない。
- このスイッチ押ささんない。 - (押そうとしているのに)(壊れているから) 押せない。
- 共通語では、動詞の形が「開けられない」「書けない」で、(しようとしているのに)の補足なしには、「自分にはできない」「不可能」の意味と同じになってしまうが、北海道方言の自発的表現では、動詞の活用そのものに「自分が悪いのではなく、対象物が悪い」の意味が内包されているため非常に便利であり、多くの場面にこの表現が当てはめられる。「この鉛筆、書かさらない。」、「電気が消ささらない。」
またその逆に、人に向かって注意したり喚起する際、この表現を用いれば「誰が悪いとは言わないが、対象物がそうなっている」という意味合いが出せるため、相手にあまり負担を感じさせずに言うことができる。「あの部屋、誰もいないのに、ストーブ焚かさってるよ。」「この値段、20%引かさってないんですけど。」
[編集] 独特の用法
- 「手袋をはく」と表現する(共通語においての「ズボンをはく」と同じ)。防寒用の大きな手袋をつけるので、「はめる」という装飾用の手袋に対する感覚と違うから、とか、日常において着用するものであることから「はめる」ような不器用さを感じさせる表現は合わないから、などの説がある。(広島方面でも用いられる)
- 「走って歩く」。「車で〜」とか、(小さな子供に対して)「そこら辺、〜な」という風に用いる。特に奇妙だとは思わずに使われている。この場合の「歩く」は、「回る」「特に目的もなく周囲をふらつく」などという意味だという説が有力である。
- 「おはようございました」(午前中の比較的遅い時間帯に用いる)、「お晩でした」(「こんばんは」)、「おめでとうございました」や電話での応対時に「はい、〜(自分の名前)でした。」と表現し、挨拶等の表現に過去形が用いられることがある。これは、共通語でも用いる「ありがとうございました」の転用・誤用などとの指摘も多いが、真偽は不明。「おめでとうございました」は表彰の際など改まった場以外はほとんど使われない。
- 主に接客業の応対の中で「〜でよろしかったでしょうか」「お決まりでしたか」などの過去形の用法がある。断定的になるのを避け、なるべくソフトに尋ねようと気遣う北海道独特の表現とされていたが、2000年前後より東京地方でもこの表現が増え、奇妙な日本語として頻繁に取り上げられるようになった(→ファミコン言葉の一部)。北海道に本部がある大手居酒屋チェーン店から”輸出”されたとする説が一般的であるが、確かな証拠は無い(そのチェーン店のマニュアルには、上記のような言葉を使用するような記述が無いため)。
- 「犬にかじられる」と言う表現にニュアンスの差がある。道外では「犬にがりがりと削り取られる」という状況を連想するが、道内では単純に「犬にかまれる」とほぼ同義である。
- 「かまど持つ」は結婚して一家の主となること。
- 「煙草を飲む」は「煙草を吸う」の意。戦前までは「吸う」より「飲む」の表現のほうが一般的であったという説もある。現在では北海道でも年配者以外はあまり使われない。
[編集] アクセント・イントネーションなど
アクセントやイントネーションに、北海道方言の特徴が最も現れる。
※一般人が共通語との違いをほとんど自覚していないもの
- 1.「トマト」2.「テレビ」3.「社会(しゃかい)」4.「ずぼん」5.「時間(じかん)」6.「鏡(かがみ)」7.「二月(にがつ)」などは"低高低"の中高型(なかだかがた)アクセントで読まれる。共通語では1〜4が頭高型、5が平板型、6〜7が2拍目からの尾高型となる。
- 8.「傘(かさ)」9.「雨(あめ)」10.「窓(まど)」11.「猫(ねこ)」などは "低高"で、助詞が続くと"低高低"となる。交易や入植による、近畿方言や中国方言、四国方言の影響ともいわれる。
例:「傘が(かさが)」(_/ ̄\_) 。共通語では8〜11すべて頭高型である。 - 12.「椅子(いす)」13.「いちご」14.「コーヒー」15.「ようちえん」は "高低"。共通語では12〜13が平板型、14〜15は2拍目と3拍目が高くなる中高型。
- 「雨がやむ」「雪がやむ」の「やむ」では、「や」が高いため、共通語の「病む」のように聞こえる。共通語では平板型。
- 数の「20(にじゅう)」は、「じゅう」が高い。
- 「24時間(にじゅうよじかん)」は「よ」が高い。共通語では「に」と「じ」にアクセント。
- 「良かった」は「か」が高い。共通語では「よ」にアクセント。
- 「雪がやむ」の「ゆきが」は、「き」が高いのが共通語アクセントだが、札幌市を除いて、北海道方言では大概平板アクセントとなる。「石が」や「紙が」なども同様。
- 「ここ」「そこ」「あそこ」「どこ」の指示名詞では、助詞が続いても、単独で発音されても、最後の「こ」が高くなる。つまり、「ここは」「どこで」などが、"低高低"になる。共通語では平板型である。
※アナウンサーや俳優などのプロでも自覚しにくいもの
- 「している」とその短縮形「してる」、および「していた」では、共通語では平板型アクセントだが、北海道方言ではそれぞれ語尾の「る」または「た」が下がる。「していた」の短縮形「してた」は共通語、北海道方言のどちらも語尾の「た」が下がる。
- 動詞の否定形「〜ない」の形では、平板型動詞であっても起伏型動詞であっても、「ない」の「な」に第一アクセントが来て、「い」が低く下がるのが特徴。(共通語の例:「上げない」は平板型、「下げない」は「げ」にアクセント)
- ▼上記表現の疑問形「していた?」「〜しない?」のイントネーションは、共通語では最後の一音がポンと上がるが、語尾が下がる北海道方言では、最後の一音で低いところから一気に高く上げる、中国語の第二声によく似た独特のイントネーションになる。共通語でも「〜していました?」などでは同じようなイントネーションが軽めに現れるが、さらに顕著である。
[編集] 発音
- 「布団を敷く」の「しく」を「ひく」と発音する人が多い。むしろ、「ふとんをしく」と発音すると不自然に聞こえる。布団は上に人が寝ることや、敷く際に引っ張る様な動作が入ることから、「引く」「牽く」「轢く」などとの混用があるという指摘もあるが、一般に発音する際には「敷く」動作のイメージしか念頭にないため、そういった学術的な指摘が正しいのかは不明。東京の下町方言などのような「ひ」と「し」の入れ替えや混用はほとんどないが、このような稀な例もある。
- 数字の「5」や固有名詞以外で、語中、語尾の「ガ行の音=がぎぐげご」は、ほとんどが鼻音化や軟化せず、共通語の語頭と同じ発音になり、位置による区別はほとんどしない、あるいは区別できない。(例:小学校、中学校の「が」は、「学校」の「が」と同じ発音、「神宮」は「宮司」のときと同じ「ぐ」の発音)
- 老人の発音では、命令形の「食え」が「け」「けぇ」と聞こえる場合も多い。親しくない客にも用いることから「お食べください」「お召し上がりください」といった丁寧さもあるようだ。
- 道南・道東などの海岸部に住む年配層で、「〜(して)くれ」が「〜(して)けれ」になることがある(「食べてけれ」、「電話してけれ」等)。これは元々、東北地方の方言であったと憶測されるが、現在、それ以外の地方や都市部、若年層にはあまり浸透していない。
- 「あそこ」が「あすこ」と発音されることがある。
- 「ここらへん」「そこらへん(そこいらへん)」が、「こころへん」「そころへん」と発音されることがある。アクセントは(_/ ̄ ̄ ̄\_)
[編集] 地名
地名の発音やアクセントについては、テレビやラジオのアナウンサーの共通語的アクセント(あるいはアクセント辞典など)や、北海道外から来た人の影響で、地元の呼び方と二分するケースが多々ある。日本語としては、地元アクセント・共通語的アクセント、どちらでもよいということになっているため、二種類のアクセントが並存する。
- 小樽(おたる)は、「た」が高い。
- 余市(よいち)は、「い」と「ち」が高い。「よ」が高い共通語の場合、那須与一、林与一などの人名を連想させる。
- 苫小牧(とまこまい)は、「とま」の「ま」が高い。
- 留寿都(るすつ)は、現在は頭高型の「ルスツ」が一般的だが、年配層では「ルスッツ」と発音されることもある。
- 倶知安(くっちゃん)は、「ちゃ」が高いのが本来だが、共通語的アクセントでは「く」が高くなるため、アナウンサーなどはもっぱら後者を用いることが多い。北海道民は「くっちゃあん」と発音することもある。倶知安は「く」、倶知安〜(名詞)のときは「ちゃ」が高かったりする。
- 別海は、放送などでは「べつかい」と発音されるが、北海道民は「べっかい」とも発音する。尚、別海町議会では1971(昭和46)年に「べつかい」を正式な読み方としたことから「べっかい」が正統な表現だとする一部町民から反発が起こっている。
- 厚真(あつま)は、年配層で「あずま」と濁る発音がある。
- 岩見沢(いわみざわ)は、「わ」が高く、「ぃやみさわ」のように発音されたり、「沢」の読みを濁音にしない発音も中高年層に多い。
- 旭川(あさひかわ)は、元々「àsahígawa」と云っていたが、近年では一部の高年齢層を除き「ásahìkawa」と呼ぶ事が一般化している。国鉄分割民営化前、旭川駅は「あさひがわ」と表記されていた。
- 富良野(ふらの)は、単独で発音する場合は、高年層では「ら」を高く発音し、これが伝統的な本来のアクセントであるが、現在では若年層を中心に「ふ」を高くする発音が一般化している(NHKはこのイントネーション)。テレビドラマ『北の国から』などで平板に発音されるのは共通語(道外)のアクセントと思われるが、北海道の住人には非常に不自然に感じられる。富良野市・富良野市役所・富良野小学校など、後に名詞がついたときのアクセントは共通語と同じ平板型で、中富良野など前に語がついて複合語となる場合は「ら」を高く発音するのが一般的である。日常的には略称である「かみふ」(上富良野)、「なかふ」(中富良野)、「なんぷ」(南富良野)が使われる。「ん」+「ふ」となる南富良野のみ、より発音しやすい「ぷ」に変化している。
- 夕張(ゆうばり)は、「ば」と「り」が高いが、共通語では「ゆ」が高い(NHKは主にこのイントネーション)。しかし道外民放では「富良野」と同じく平板。
- 主に札幌市で、住所の地番を示す「南○条 西△丁目」などの「西(にし)」で、「に」が高い独特のアクセントが現れることがある。
- 札幌市の中心街・駅名・住所としての「大通(おおどおり)」で、語頭の「お」にアクセントを置くことがある。
- 札幌市西区の琴似は従来「ことに」であったが、近年は標準語に準拠し「ことに」と発音する人が多い。尚、市営地下鉄の自動音声案内は「ことに」である。
- 札幌市営地下鉄南北線はなん「ぼ」くせんと発音するのが正しいが、なん「ぽ」くせんと発音する人が多い。
※北海道の地名は、アイヌ語に由来するものが多い。->北海道の地名・駅名を参照。
[編集] 関連サイト
[編集] 参考文献
- 石垣福雄の著作
- 「北海道の方言(NHK郷土シリーズ)」昭31・NHK札幌中央放送局
- 「NHK方言の旅(北海道)」昭31・宝文館
- 「日本方言の記述的研究(北海道)」昭40・明治書院
- 「日本語と北海道方言」昭51・北海道新聞社
- 『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』NHK放送文化研究所 編(NHK出版、1998年発行) - 標準語のアクセントはこの書籍に依った。
- いいひと。(高橋しん)
[編集] 参考アニメ
- 札幌・小樽圏が舞台となっている。実際には小樽と札幌では方言・発音・イントネーションにかなりの差があるにもかかわらず、この作品では作品全般にわたり札幌小樽と区別されずに北海道方言が使用されている。また、その北海道方言もさまざまな地域のものが混在している。
注意:ここで挙げられている例は、地域的・世代的な差異があるので、ニュアンスなども含めて、北海道地方全域で必ずしも通じるものではありません。

