カサブランカ (映画)

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カサブランカ
Casablanca
監督 マイケル・カーティス
脚本 ハワード・コッチ英語版
ジュリアス・J・エプスタイン
フィリップ・G・エプスタイン
原作 マレイ・バーネット英語版
ジョアン・アリスン英語版
皆がリックの店にやってくる英語版
製作 ハル・B・ウォリス
製作総指揮 ジャック・L・ワーナー
ナレーター ルー・マーセル
出演者 ハンフリー・ボガート
イングリッド・バーグマン
ポール・ヘンリード
クロード・レインズ
コンラート・ファイト
音楽 マックス・スタイナー
撮影 アーサー・エディソン英語版
編集 オーウェン・マークス英語版
配給 アメリカ合衆国の旗 ワーナー・ブラザース
日本の旗 セントラル映画社
公開 アメリカ合衆国の旗 1942年11月26日
日本の旗 1946年6月20日
上映時間 102分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 1,039,000ドル[1]
興行収入 3,398,000ドル(北米配収)
3,461,000ドル(海外配収)[1]
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カサブランカ』(英語: Casablanca)は、1942年アメリカ合衆国恋愛ドラマ映画監督マイケル・カーティス、出演はハンフリー・ボガートイングリッド・バーグマンなど。 原作はマレイ・バーネット英語版ジョアン・アリスン英語版による上演されなかった戯曲『皆がリックの店にやってくる英語版』で、親ドイツヴィシー政権の支配下にあったフランス領モロッコカサブランカを舞台に、かつて深く愛し合った末に別れた男女の思いがけない再会と愛の再燃を描いている[2]第二次世界大戦にアメリカが参戦した翌年の1942年に製作が開始され、同年11月26日に公開された。第16回アカデミー賞にて作品賞監督賞脚色賞の3部門を受賞。配給ワーナー・ブラザース

ストーリー

1941年12月、親ドイツのヴィシー政権の管理下に置かれたフランス領モロッコの都市カサブランカ。ドイツの侵略によるヨーロッパの戦災を逃れた人の多くは、中立国のポルトガル経由でアメリカへの亡命を図ろうとしていた。

主人公であるアメリカ人男性のリック(ハンフリー・ボガート)は、パリが陥落する前に理由を告げずに去った恋人イルザ・ラント(イングリッド・バーグマン)と、彼が経営する酒場「カフェ・アメリカン」で偶然の再会を果たす。パリの思い出である『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』が切なく流れる。

イルザが店を去って再び過去の痛みに苦しむリック。

イルザの夫で、現在はドイツに併合されたチェコスロバキア人のドイツ抵抗運動の指導者ヴィクトル・ラズロ(ポール・ヘンリード)は現地のオルグと接触、脱出のチャンスをうかがっていた。フランス植民地警察のルノー署長(クロード・レインズ)は計算高い男だが、流れに逆らうように異郷で生きるリックにシンパシーを感じ、かつてスペインのレジスタンスに協力したリックに、ラズロには関わるなと釘を指す。現地司令官であるドイツ空軍のシュトラッサー少佐は、ラズロを市内に閉じ込める。

イルザは、夫を助けられるのは闇屋のウーガーテ(ピーター・ローレ)からヴィシー政権の発行した通行証を譲り受けたリックしかいないと、必死に協力をお願いする。そして通行証を渡そうとしないリックに銃口さえ向ける。しかし引き金を引くことが出来ないイルザ。2人はお互いの愛情を確かめ合う。

リックは、ラズロとイルザが通行証を欲しがっている事実をルノー署長に打ち明け、現場でラズロを逮捕するようにと耳打ちする。手柄を立てるために、約束の閉店後の店にやってきたルノーだが、リックの本心は、2人を亡命させるためにルノーを空港まで車に同乗させて監視の目を欺く点にあった。シュトラッサーを射ち殺してでも彼女を守ろうとするリックは、過去の痛みに耐えていた彼ではなかった。

愛を失っても大義を守ろうとしたリックを前にして、実はレジスタンスの支援者であったルノーは、自由フランスの支配地域であるフランス領赤道アフリカブラザヴィルへ逃げるように勧めて、見逃すことにする。

2人と連合国の未来に希望を持たせながら、彼らは宵闇の中へ消えていく。

スタッフ

キャスト

ボガートとバーグマン
左からヘンリード、バーグマン、レインズ、ボガート
グリーンストリートとボガート

日本語吹替

役名 俳優 日本語吹替
NETテレビ テレビ東京 PDDVD スター・チャンネル N.E.M.版[3]
リック・ブレイン ハンフリー・ボガート 久米明 津嘉山正種 有本欽隆 東地宏樹 池田秀一
イルザ・ラント イングリッド・バーグマン 水城蘭子 塩田朋子 日野由利加 甲斐田裕子 藩恵子
ヴィクトル・ラズロ ポール・ヘンリード 仁内建之 土師孝也 諸角憲一 森田順平 古谷徹
ルノー署長 クロード・レインズ 和田文夫 青野武 中博史 後藤哲夫 野坂尚也
シュトラッサー少佐 コンラート・ファイト 杉田俊也 加藤精三 丸山壮史 金尾哲夫 露崎亘
サム ドーリー・ウィルソン 松村彦次郎 稲葉実 奈良徹 竹田雅則 佐々木義人
フェラーリ シドニー・グリーンストリート英語版 藤本譲 原田晃 楠見尚己 真木駿一
ウーガーテ ピーター・ローレ 永井一郎 牛山茂 鈴木貴征 ふくまつ進紗 佐久間元輝
カール S・K・サコール英語版 神山卓三 緒方賢一 中村浩太郎 茶風林 平林剛
サッシャ レオニード・キンスキー英語版 斎藤志郎 飯島肇 中村和正
イヴォンヌ マデリーン・ルボー 北浜晴子 日野由利加 小林美穂 うえだ星子 柳原かなこ
バーガー ジョン・クォーレン英語版 上田敏也 小室正幸
ハインツ大佐 リチャード・ライエン英語版 星野充昭
ドイツ人バンカー グレゴリー・ゲイ英語版 手塚秀彰
冒頭ナレーション ルー・マーセル 大木民夫 津嘉山正種 木村雅史
その他 寺田彦右
吉沢久嘉
渡辺美佐
緒方文興
浜田賢二
佐藤ゆうこ
彩木香里
恒松あゆみ 藤井啓輔
村治学
志賀麻登佳
多田野曜平
坂井恭子
駒谷昌男
高岡瓶々
土門敬子
板取政明
山本格
うさみともこ
高岡千紘
三瓶雄樹
渡谷美帆
夏目あり沙
演出 小山悟 羽田野千賀子
翻訳 入江敦子 高橋有紀
調整 重光秀樹 遠西勝三
録音 山田明寛
効果 リレーション 恵比須弘和
赤澤勇二
プロデューサー 久保一郎
具嶋朋子
(テレビ東京)
椿淳
制作 NETテレビ テレビ東京
ケイエスエス
ミックエンターテイメント 東北新社
初回放送 1967年10月15日
日曜洋画劇場
21:00-23:00
2000年3月26日
『20世紀名作シネマ』
※正規盤BD収録
2013年9月16日[4]  2021年公開予定

※『20世紀名作シネマ』ではNETテレビ版が放送される予定だったが、取り寄せできた放送素材が正味70分の短縮版しか現存していなかった為、新規にテレビ東京版が制作された[5]

※ N.E.M.版は、様々な名画を現代の人気声優が吹き替える「New Era Movie」というプロジェクトによって製作されている。

製作背景

『カサブランカ』が製作された1942年はアメリカにおいて映画産業が戦時体制の重要な柱の一つとされた年である[6]1940年代前半はスタジオ・システムと呼ばれた製作、配給、上映の資本統合が継続していた黄金期である。ハリウッドの映画資本は、政府側の戦時要請よりも利潤追求を優先していたが、第二次世界大戦へのアメリカの参戦により協力体制をとっていくことになる。

この背景には、アメリカ映画の主要な海外市場であったドイツや日本などの枢軸国がアメリカと交戦状態にあった上に、多くの市場がこれら枢軸国による占領により閉された点もある。さらに当時のアメリカ、そしてイギリスをはじめとした連合国は、クランクインした1942年はいずれも各地で日本やドイツに対して敗色が濃く、そうした中で映画を通じて国民の戦意を鼓舞する必要もあった。

さらにスタジオ・システムが独占禁止法違反であると裁判で負けるのが確実になってきた点もある。また大恐慌の余波が襲っていた1930年代後半の孤立主義や、『怒りの葡萄』(1940年)のような名もなき労働者への賛歌は終わろうとしていた。

時代の要請により、アメリカ人もヨーロッパへ関心をもたざるを得なくなっていた。また戦争は、大衆の好むメロドラマの枠を広げるには格好の題材でもあった。評論家にも懐疑的な孤立主義者が大義に目覚めていく姿が、アメリカを投影しているとする見方がある[7]

山本武利里見脩といったマスメディアと戦争の研究者は、本作とかつて存在した政府機関である戦時情報局(United States Office of War Information(OWI))が主体となった、「ホワイトプロパガンダ」と呼ばれる宣伝工作との関連を紹介している。但し、山本、里見は「カサブランカ」との関連を指摘するのみで根拠となる事実は挙げていないが[8][9][10]、いずれにしても、ドイツが映画の中で極端かつ細かく悪役扱いされている。

ルーズベルト大統領を中心に政府機関トップを横断した『心理戦局』は、その活動を始め、セクションの一つである陸軍でもジョージ・C・マーシャル参謀総長の強引な命令によりフランク・キャプラが責任者にされた。ジュリアスとフィリップのエプスタイン兄弟も、本作の脚本を途中にしたままワシントンへ移り、プロパガンダ映画『Why We Fight』へ駆り出されている[11]

大戦後は再びアメリカ映画がヨーロッパ諸国で配給されるが、マーシャルの名前がつけられた欧州復興支援『マーシャル・プラン』により売上をアメリカへ持ち込めなくなった。これも一因としてヨーロッパ・ロケの映画が製作される。これが映画史におけるランナウェイ映画である。『ローマの休日』(1953年)もその一本だが、本来はキャプラが監督するはずだった。戦争中は戦意高揚映画を作らされ、大戦後は冷戦の影響により、1948年より始まった赤狩りの猛威に晒されたハリウッドで、自信を失っていたキャプラは、ハリウッド・テンのドルトン・トランボの脚本と知って、友人ウィリアム・ワイラーへ譲った逸話がある。その後、リベラル派の多かった戦時情報局(OWI)は、1945年の戦争終了時に国務省に統合されることになる。

製作経緯

製作のハル・B・ウォリスは、アフリカを舞台にした郷愁漂うラブ・ロマンスを意図していた。高校教師であったマレイ・バーネット英語版ジョアン・アリスン英語版による上演されなかった戯曲『皆がリックの店にやってくる英語版』をスクリプトとして、ウォリスはワーナーで製作を始めていく。

監督のマイケル・カーティスはヨーロッパでのキャリアもあるユダヤハンガリー人、カメラ(メイン)のアーサー・エディソンは『西部戦線異状なし』(1930年)でアカデミー撮影賞を受賞しているベテラン、脚本に参加したハワード・コッチは『宇宙戦争』(オーソン・ウェルズによるラジオ放送)に参加した劇作家である。

ハリウッドは、以前からヨーロッパの映画産業から人材を引き抜いてきたが、この時代にも戦地を逃れた思想家、作家、写真家といった多くの人間が集まり、互いに影響を与え合っていたとされる。本作の俳優もスウェーデン出身のバーグマンの他、敵国ドイツやその占領地出身の俳優も多く起用され、ドイツ出身でシュトラッサー少佐役のコンラート・ファイト、撮影当時はドイツ領のハンガリー出身でウーガーテ役のピーター・ローレ、撮影当時はドイツ領のオーストリア出身でヴィクトル・ラズロ役のポール・ヘンリードがいた。

イングリッド・バーグマンへの出演オファーは次のようなものだった。

ところで、ハル・ウォリスがワーナーで何カ月も前から暖めているアイディアがある。北アフリカを舞台にしたストーリーで、彼はきみならそれにぴったりだと考えている。脚本?たぶん脚本はあがっていないと思う。キャスト?キャスティングまで手がまわらないだろう。しかし、ボガードの名前があがっている。そうボギーだ。すばらしい役者だよ[12]

ハル・ウォリスが動いている間にワーナー側は主役のリック役をボガートから別の役者へ振り替えようとした。その中にはロナルド・レーガンの名も上がっていたが、会社の動きを悟ったハル・ウォリスは再びボギーを主役に持ってきた[13]

クランクインの段階で脚本は完成しておらず、書き上げられたシーンを片端から撮影していくという方法が採用された。エプスタイン兄弟はキャプラに引き抜かれる形でワシントンに移り戻ってくるまでの間はハワード・コッチ一人に責任が負わされることになる。この混乱にボガートはいらついて楽屋でボヤいていた。[14]

脚本の上がりによって出番が決まるため、ボガートの撮影がないときも珍しくなかったが、「今日の出番は一度だけ、むこうからこちらへ歩いてきて、うなずいてくれればいい」とカーティスから指示された。「それは一体何のシーンで、何に対してうなずくんだ?」と聞いても、カーティスにもそれはわからないということだった。この時撮影されたカットは、リックの「カフェ・アメリカン」で、客たちが「ラ・マルセイエーズ」を合唱するシーンで使用されたと言われている[14]

ラズロを演じたポール・ヘンリードは、祖国オーストリアやイギリスの混乱にも悩まされていたが、大体亡命しようかと切羽詰まった女連れの男が、映画から出てきたような「白い麻の背広」なんか着る余裕はないだろうといらついて、楽屋でボヤいていた[14]

バーグマンの演じるヒロインが、ボガートとヘンリード、どちらと結ばれることになるかも、撮影直前になっても決まらなかった。ヒロインの気持ちがわからないため、監督にどのようになるのか聞いたが、監督は木で鼻をくくったような対応をした。そもそも芸術家タイプに惹かれるバーグマンを、徹底した職人のカーティス監督は最初から嫌っていた。このようなことはバーグマンをして「本当に困った」と途方にくれさせた。結局、二通りのラスト・シーンを撮影して、良い方を採用しようということになったが、先に撮影した方がスタッフの評価も高く、そのまま使用されることになった。これが現在知られているラスト・シーンである[14]

バーグマンはこの映画を失敗作と考えて、長年忘れ去っていた。1974年にバーグマンがロサンゼルスでの講演に招聘されたが、その講演前にこの映画が上映された。映画が終わり、演壇に立ったバーグマンは「こんなに良い映画だったんですね」と述べた[15]

反枢軸国シーン

ドイツのアドルフ・ヒトラー(右)と握手をするペタン

ラブロマンス映画ではあるものの、アメリカも参戦した第二次世界大戦における国際関係と対立を中心に置いて製作された作品であることもあり、上記のようにプロパガンダ的要素がふんだんに含まれている。

作品内ではアメリカの敵国の1つであったドイツとドイツ人を徹底的に悪役として扱っているだけでなく、ドイツ軍に占領されたフランス本土と、北アフリカ仏領インドシナなどのフランスの植民地を統治していた親独政府であったフィリップ・ペタン率いるヴィシー政権を暗に非難しつつ、ヴィシー政権に抵抗していた「自由フランス」を支持する「反独シーン」が多く登場する[注 1]

  • 巻頭で対独レジスタンスのフランス人が、ヴィシー政権首班のフィリップ・ペタン元帥の肖像画の前でヴィシー政権の警官に撃たれ倒れるシーン。
  • ドイツ銀行の小切手を受け取らず、破り捨てるシーン。
  • ラズロに協力を申し出る男が、ラズロの味方である合図として自由フランスのシンボルである「ロレーヌ十字」のついた指輪を見せるシーン。
  • ドイツの占領下に置かれたブルガリアからの逃亡者である新婚の若い美女とその夫のビザの購入資金を助けるために、リックがルーレットで美女の夫を八百長で勝たせるシーン。
  • 店内でドイツの愛国歌「ラインの守り」を歌うドイツ軍士官たちに憤慨したラズロが、バンドにフランスの国歌である「ラ・マルセイエーズ」を演奏させこれに対抗し、その後店内の全ての客が起立した上で「ラ・マルセイエーズ」を歌うシーン。
  • ラストシーンで、実は対独レジスタンスのシンパであったことを明らかにしたルノー署長が、ミネラルウォーターに描かれた「ヴィシー水」のラベルを見てゴミ箱に投げ捨てるシーン。
  • ラストシーンで、ルノー署長がリックに自由フランスの支配地域であるブラザヴィルへの逃亡を薦めるシーン。
トーチ作戦後のカサブランカ港

ドイツの同盟国のイタリアは、カサブランカ駐在のイタリア軍将校が空港にシュトラッサー少佐を迎えに行くものの相手にされないなど、軽んじて扱われているが、一方カサブランカの市場を仕切っているとされるイタリア人事業家のフェラーリがリックの潜在的な協力者となるなど、軍民で相反する扱いとされている。

枢軸国のもう一方の主要構成国の日本は、主な太平洋東南アジア戦線はおろか、インド洋アフリカ東海岸戦線からも遠く離れたカサブランカ(カサブランカはアフリカ西海岸)を舞台にしたこの作品内では扱われていない。

なお、映画の公開直前の1942年11月8日に、イギリス軍アメリカ軍により、北アフリカのヴィシー政権統治下のフランス領に対する上陸作戦である「トーチ作戦」が開始され、11日にはカサブランカのヴィシー政権軍が降伏し、カサブランカは自由フランスと連合国軍の手に渡っている。

評価

ポスター

1943年に第16回アカデミー作品賞を受賞。監督マイケル・カーティス監督賞を、脚本のジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン、ハワード・コッチの3人が脚色賞を受賞した。

文化的、歴史的、芸術的に重要なフィルムを保存するために、1989年に始まったアメリカ国立フィルム登録簿(National Film Registry)で最初にセレクトされた25本の1本である。アメリカ映画協会(AFI)が1988年から始めた、AFIアメリカ映画100年シリーズでは以下のとおりである。

アメリカ映画ベスト100(1998年)の2位、スリルを感じる映画ベスト100(2001年)の42位、情熱的な映画ベスト100(2002年)の1位、アメリカ映画主題歌ベスト100(2004年)の2位(『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』"As Time Goes By")、アメリカ映画の名セリフベスト1002005年)の5位(「Here's looking at you, kid.(君の瞳に乾杯)」)、感動の映画ベスト100(2006年)の32位、アメリカ映画ベスト100(10周年エディション)(2007年)では、順位を一つ落としたものの3位。公開後80年近く経ってもなお、不滅の人気を誇るロマンス・フィルムである。

なお、映画スターベスト100(1999年)の男性1位にハンフリー・ボガート、女性4位にイングリッド・バーグマンが選ばれている。また、ヒーローと悪役ベスト100(2003年)の4位には、ボガートの演じたRickが選ばれた。米脚本家組合(WGA)は、1930年以降の映画の中より「偉大な脚本歴代ベスト101」の1位として選出した。

なお、製作サイドも戦時情報局も、「この作品はプロパガンダ映画である」とは正式には一言も表明していないものの、上記のようなあきらかな反枢軸国ドイツヴィシー政権)シーンが多くちりばめられていることもあり、アメリカのエンターテインメント業界誌である「バラエティ」誌は、当時この映画を「見事な反枢軸国プロパガンダである」と評している[16]

Rotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は「議論の余地のない傑作であり、おそらくハリウッドの愛とロマンスを象徴する作品である『カサブランカ』は、年を重ねるごとに良さを増すばかりであり、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンがキャリアを決定づけるような演技を見せている。」であり、92件の評論のうち高評価は99%にあたる91件で、平均点は10点満点中9.41点となっている[17]。 その一方でallcinemaは「言わずと知れたアメリカ映画の古典的作品」としつつも「リアルタイムで観ていない限り、この作品に“よくできたメロドラマ”という以上の価値を見出す事は困難である。」としている[18]

主な受賞歴

アカデミー賞

受賞
アカデミー作品賞ワーナー・ブラザース
アカデミー監督賞マイケル・カーティス
アカデミー脚色賞ジュリアス・J・エプスタインフィリップ・G・エプスタインハワード・コッチ英語版
ノミネート
アカデミー主演男優賞ハンフリー・ボガート
アカデミー助演男優賞クロード・レインズ
アカデミー撮影賞(白黒部門)アーサー・エディソン英語版
アカデミー編集賞オーウェン・マークス英語版
アカデミー作曲賞マックス・スタイナー

ニューヨーク映画批評家協会賞

ノミネート
主演男優賞:ハンフリー・ボガート[注 2]
主演女優賞:イングリッド・バーグマン

名文句

アメリカ映画協会 (AFI)選定の 「アメリカ映画の名セリフベスト100」(2005年)の中に以下のセリフがランクインしている。

  • 第5位:"Here's looking at you, kid."「君の瞳に乾杯」[注 3][20][21]
  • 第20位:"Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship."「ルイ、これが俺たちの美しい友情の始まりだな」
  • 第28位:"Play it, Sam. Play 'As Time Goes By." 「あれを弾いて、サム。『時の過ぎ行くままに』を」[注 4]
  • 第32位:"Round up the usual suspects.「いつもの要注意連中を一斉検挙だっ」"
  • 第43位:"We'll always have Paris."「僕たちの、心の中には、パリがある」
  • 第67位:"Of all the gin joints in all the towns in all the world, she walks into mine."「世界に星の数ほど店はあるのに、彼女はおれの店にやってきた」

その他

シュトラッサー少佐と対峙するリック
  • アメリカの第二次世界大戦参戦とともに、親独のヴィシー政権は「敵国」となり、ヴィシー水の輸入も禁じられたため、この作品に登場するヴィシー水のボトルは、ロサンゼルス近辺のホテルに残っていた空き瓶が用いられた[14]
  • 劇中ドゥリー・ウィルソン演じるサムが使用したピアノは、2014年11月、ニューヨークでオークションにかけられ341万3000ドル(約4億円)で落札された[22]。なお、実際にはウィルソンはピアノは弾けず、ほとんどの演奏が合成である。
  • ワーナー・ブラザース社がこの映画のパロディー作品をルーニー・テューンズで作っている。タイトルは『キャロットブランカ』。ストーリーも、酒場で会うとなっていて、「君の瞳に乾杯」「君だったんだ、探していたのは…」「世界に星の数ほど店はあるのに、彼女はおれの店にやってきた」「あれを弾いて、ダフィー(ルーニー・チューンズの登場人物)。」も登場する。しかし、やはりいろいろオリジナルと相違点がある。例えば、逃げた理由を手紙で、「私たちは違いすぎる」としっかり告げている。
  • 明治大学政治経済学部教授で文学者のマーク・ピーターセンは、この映画について「『カサブランカ』の英語は、不思議にこれといった癖がない。落ち着いた表現が多く、廃れた俗語は意外と見られない。英語の可能性を知るためにはとてもよい教材になる」と評している[27]

著作権

本作は、作品中に著作権表記があるものの公開時期が古く、リニュー(著作権更新手続き)が行われなかったことから、公開当時のアメリカの法律(方式主義)により権利放棄とみなされ、アメリカにおいてはパブリックドメインとなった。

DVD・BD

ワーナー・ブラザースは、オリジナル・ネガフィルムから製作したデジタルリマスター版の正規盤DVD・BDを、ワーナー・ホーム・ビデオから発売している。

また、日本では著作権の保護期間が完全に終了(公開後50年と監督没後38年の両方を満たす)したことから、パブリックドメインDVDも複数の会社から発売されている。

ミュージカル

2009年11月 - 2010年2月には、宝塚歌劇団宙組の公演により、世界で初めてミュージカル化された。脚本・演出は小池修一郎。 宙組トップコンビ大空祐飛野々すみ花の大劇場お披露目公演。

主要キャスト

脚注

注釈

  1. ^ なおアメリカは、自らが第二次世界大戦に参戦する以前の1940年にヴィシー政権を「フランスを代表する正当な政府」として承認し、当時の「仮想敵国」であるドイツを牽制していたが、1941年12月のドイツとの開戦後はヴィシー政権を「ドイツの傀儡政権」と見なし断交するに至った。また、ドイツとの開戦後は上記のように「自由フランス」を「フランスにおける正当な政府」として認めるに至り、1943年1月に行われた「カサブランカ会談」においては正式に指導者のシャルル・ド・ゴールを「フランス政府を代表する人物」として招へいしている。
  2. ^ なお、第8回ニューヨーク映画批評家協会賞でボガートは、本作と並行して『パナマの死角』という作品でも候補に上がっている。
  3. ^ 配給会社がつけたキャッチフレーズ[19]
  4. ^ "Play it again, Sam."と誤解されているが、実際には"again"とは言っていない。
  5. ^ 「時の経つまま」「時の過ぎゆくままに」と訳されるが、誤りで、実際には「時が経っても」の意。
  6. ^ いくつかの書籍[23][24][25]に本説の記述があるが、ヨーロッパ統合運動の展開を研究する戸澤英典(東北大学教授)は、本説の確証を得ていない[26]。また、ヒロインのイルザ・ラント(Ilsa Lund)の名は、リヒャルト・クーデンホーフ・カレルギーの夫人で、著名な女優であったイダ・ローラント英語版に由来するとみる説がある。ただしイダは1940年初夏の米国渡航時に59歳、映画上映の1942年11月に61歳。またリヒャルトがイダと結婚した時にイダには連れ子のエリカがいて、エリカはクーデンホーフ=カレルギー家の養子になった。

出典

  1. ^ a b Warner Bros financial information in The William Shaefer Ledger. See Appendix 1, Historical Journal of Film, Radio and Television, (1995) 15:sup 1, 1–31 p. 23 doi:10.1080/01439689508604551
  2. ^ カサブランカ”. WOWOW. 2020年10月28日閲覧。
  3. ^ N.E.M.officialのツイート(2020年10月28日)
  4. ^ カサブランカ[新録・完全吹替版]”. STAR CHANNEL. 2013年8月2日閲覧。
  5. ^ “ふきカエレビュー”. ふきカエル大作戦!!. (2011年11月1日). https://www.fukikaeru.com/archives/review_1111.html 2020年5月19日閲覧。 
  6. ^ 岩崎昶の「映画史」年表より。
  7. ^ 四方田犬彦『映画はもうすぐ百歳になる』筑摩書房、1986年、151頁頁。ISBN 978-4480055095 
  8. ^ 山本武利『ブラック・プロパガンダ―謀略のラジオ』岩波書店、2002年。ISBN 978-4000246118 
  9. ^ 里見脩『姿なき敵』イプシロン出版企画、2005年。ISBN 978-4903145013 
  10. ^ 東京財団研究報告書2004−10「日本の対外情報発信の現状と改革」53ページ[1]
  11. ^ オットー・フリードリック『ハリウッド帝国の興亡 - 夢工場の1940年代』(文藝春秋、1994年3月)
  12. ^ 『イングリッド・バーグマン マイストーリー』(136 - 137ページ、新潮社)
  13. ^ 『ハリウッド100年』水野晴郎
  14. ^ a b c d e ハワード・コック『カサブランカ』東京新書館
  15. ^ 田中小実昌『超時間対談』(集英社、1981年)
  16. ^ “Film reviews through the years: Casablanca. Variety. (1942-12-02). https://variety.com/2007/digital/markets-festivals/index-sets-up-china-shop-1117975340/ 2009年9月1日閲覧。. 
  17. ^ Casablanca (1942)” (英語). Rotten Tomatoes. 2020年10月28日閲覧。
  18. ^ 映画 カサブランカ (1942)について”. allcinema. 2020年10月28日閲覧。
  19. ^ 神戸広域エリア情報
  20. ^ DVD、ワーナー・ホーム・ビデオ、DLT-56237、カサブランカ 特別版(日本語字幕/英語字幕)
  21. ^ 書籍情報: ISBN 4872349822, p.103
  22. ^ 映画「カサブランカ」に登場したピアノ 4億円で落札”. スポーツニッポン(2014年11月26日). 2015年7月30日閲覧。
  23. ^ 吉田直哉『発想の現場から テレビ50年25の符丁』文藝春秋、2002年。ISBN 978-4166602551 
  24. ^ 塚本哲也『わが青春のハプスブルク 皇妃エリザベートとその時代』文藝春秋、1996年。ISBN 978-4167574024 
  25. ^ 塚本哲也『エリザベート ハプスブルク家最後の皇女』文藝春秋、1992年。ISBN 978-4163463308 
  26. ^ 戸澤の運営サイト「RCK(リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー)通信」より。
  27. ^ マーク・ピーターセン『続 日本人の英語』 (1990年、岩波書店) p102-103

関連項目

外部リンク