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ジェームス・ボウルズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ジェームス・ボウルズ

James Vowles
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ボウルズ(2023年
生誕 (1979-06-20) 1979年6月20日(45歳)
イギリスの旗 イギリスウェスト・サセックス フェルブリッジ英語版
国籍 イギリスの旗 イギリス
教育
業績
専門分野
  • 自動車技術者(レースエンジニア)
  • レースストラテジスト
雇用者
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ジェームス・ボウルズ[1][2][3](James P. Vowles、1979年6月20日[1] - )は、イギリスの自動車技術者である。自動車レースのフォーミュラ1(F1)のエンジニアとしてキャリアを重ねており、2023年からウィリアムズF1チーム代表を務める[4]。F1のメルセデスチームでレース戦略を担っていたことでも知られている。

日本語では名前の表記揺れが大きく、名は「ジェームス」[1][2][5][3]のほか、「ジェイムズ」[6]、「ジェームズ」[7][4]、姓は「ボウルズ」[1][6][4][2][3]のほか、「ボウルス」[8]、「ヴァレス」[7]、「バレス」[9][5]といった表記が用いられることがある[注釈 1]

経歴

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1997年ジュネーヴ・インターナショナル・スクール国際バカロレアを取得し、2000年にイースト・アングリア大学コンピュータサイエンスの学位を取得し卒業[10][11]。その後、2001年にクランフィールド大学でモータースポーツ工学・経営学の修士号を取得した[10][11][12](この進学の経緯については別記)。在学中にプロドライブ奨励賞を授与された[12]

レースストラテジスト

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2001年12月にブリティッシュ・アメリカン・レーシング(BAR / B・A・R)にエンジニアとして加入し、モータースポーツにおけるキャリアをスタートした[10][13][11]

2003年、ボウルズはエンジニアとしての仕事と並行してレース戦略を考える「レースストラテジスト」としての仕事を始めた[9](経緯は別記)。2007年には、チームからの要請により、専任のストラテジストに就任[9]

B・A・Rはホンダのフルワークスチーム2006年 - 2008年)への改組を経て、2009年ブラウンGPとなった。ブラウンGPでレース戦略を任され、チーフストラテジストに任命されたボウルズは、この年の同チームのタイトル獲得に貢献した[14]2009年イタリアグランプリにて、ブラウンGPは、予選で決勝に使う燃料を多く積む1ストップ作戦により[注釈 2]、少ない燃料で2ストップするKERS搭載勢を出し抜き、1-2フィニッシュを達成した[1]。この作戦は、ストラテジストだったボウルズが発案したものである[1][注釈 3]

2010年にチームがメルセデスのワークスチームとなった後も同職に留まり、2019年1月に同チームのレース戦略の責任者であるモータースポーツストラテジーディレクターに就任した[10][12][注釈 4]。この間、チームは2014年以降の期間で、7年連続のドライバーズチャンピオン、8年連続のコンストラクターズタイトルという目覚ましい業績を挙げ、レース戦略の責任者として、ボウルズは重要な貢献を果たした[12]

チーム代表

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2023年1月、ウィリアムズのチーム代表に就任することが発表された[4][2]。前年末でヨースト・カピートが同職を退任したことに伴うもので、これにより、ボウルズはキャリア開始以来20年以上に渡って在籍したチームを去り、ウィリアムズに加入した[4][2][14]

ボウルズが引き継ぐ前年の2022年シーズンにウィリアムズはコンストラクターズランキングで最下位(10位)に沈んでいたが、ボウルズに率いられた初年度にチームはランキング7位に浮上してシーズンを終えた[15]

人物

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最初のレースストラテジスト

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2003年にボウルズはストラテジストとしての仕事を始めた[9]。これはF1において「おそらく最初のレースストラテジストだったと思う」とボウルズは述べている[9]

この時期にボウルズがそうした役割を担うようになった背景として、当時のレースをとりまく状況があった。1990年代までのF1ではタイヤの劣化(デグラデーション)や燃料搭載量がラップタイムに与える影響(フューエルエフェクト)について、後の時代ほど緻密な計算をしなくても戦うことができ、ピット戦略はレースエンジニアに委ねられていた[9]。しかし、2000年代前半のこの時期にF1でブリヂストンミシュランの2メーカーがタイヤを供給するようになったことで、デグラデーションや燃料搭載量が及ぼす影響が勝敗を分ける重要な要素となり、(ピット戦略に留まらない)レース戦略が注目されるようになった[9]

ミシュランが撤退したことで2007年にF1のタイヤはブリヂストンのワンメイク(1社独占供給)となったが、レース戦略の重要性はさらに増していたことから、ボウルズはチームからの打診によりこの年に専任のストラテジストに就任した[9]。その後、他チームでも同じ役割が専属で置かれるようになり、レースストラテジストという職種はF1チームにおいて確立されていった[9]

ウィリアムズでチーム代表となって以降は、レース戦略には経験に基づいて助言したりするような軽いレベルで関わっている[16]

Valtteri, it’s James.

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バルテリ、ジェームスだ。ポジションをそのままにしてくれ、すまない。(Valtteri, it's James. Please hold position, I'm sorry.)[17]

2018年ドイツグランプリ

2018年シーズン、ボウルズはメルセデスチームのバルテリ・ボッタスにチームメイトのルイス・ハミルトンをオーバーテイクしないようチームオーダーを何度か出した[18](主な例は「#外部リンク」を参照)。その際の無線はテレビ中継でも流され、「Valtteri, it’s James.(バルテリ、ジェームスだ。)」というフレーズはミームとなり、ボウルズを有名にした[19]

まず、7月の第11戦ドイツグランプリで、2番手で走っていたボッタスはセーフティカー明けの接近した状態をチャンスと見て、レースをリードしていたチームメイトのハミルトンをオーバーテイクすべくアタックを仕掛けた[17]。しかし、ボウルズはボッタスにポジションを維持するようチームオーダーを出し、ハミルトンと争うことを禁じた[17]

このレースでメルセデスチームは地元レースで1-2フィニッシュを果たし[17][注釈 5]、ハミルトンもタイトル争いのライバルだったセバスチャン・ベッテル(このレースはリタイアに終わった)をランキングで逆転しリードを築き、メルセデスチームは(結果だけ見れば)完璧と言ってよいほどの優れた成果を収めた[17]

続いて、9月の第16戦ロシアグランプリでもそれは繰り返され、ボウルズは同じフレーズを用いてボッタスにハミルトンと争うことを禁じた[18]。どちらのレースもチームは1-2フィニッシュで終えたが、チームオーダーに繰り返し従わされたボッタスは引退を考えるほどに精神的なショックを受け、ボッタスとチームとの関係には溝が生まれることになった[18]

ドライバー

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ボウルズはF1における仕事の傍ら、イギリスでクラブレースなどでアマチュアドライバーとしてレース参戦を行っている(2022年時点)[21]

2022年にはアジアン・ル・マン・シリーズにドライバーとして参戦し、マヌエル・マルドナド英語版ニコライ・カーガード英語版と組んでマクラーレン・720S GT3のステアリングを握った[18][21]

その他のエピソード

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  • ボウルズは、イースト・アングリア大学では、得意としていた数学とコンピュータサイエンスのふたつを専攻していたが、学業を進める内に、将来就きたい仕事はこれではないと考えるようになった[16][12]。そこで、当時の全てのF1チーム(11チーム)に求職の手紙を送ったが、11通の不採用通知を受け取る結果となった[16][12]。そのことで奮起して、在学中にモータースポーツの経験を積み始め、卒業後すぐにクランフィールド大学[注釈 6]に進学してモータースポーツ工学・経営学の修士号(Motorsport Engineering & Management MSc)を取得し、それがF1キャリアへとつながった[16][12]

栄典

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脚注

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注釈

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  1. ^ 主に媒体ごとに違いがあるほか、同じ時期の同じ媒体の中で統一されていないこともある。この記事では、出版物、ウェブサイトなどや、イベントなどで訳語として比較的多く用いられている「ジェームス・ボウルズ」を用いている。
  2. ^ 当時は予選Q3終了時点の搭載燃料で決勝レースをスタートする規則だった。
  3. ^ このレース終了時点でドライバーズタイトル争いは、80ポイントを獲得していたバトンが首位で、66ポイントのルーベンス・バリチェロ、54ポイントのセバスチャン・ベッテルレッドブル・レーシング)がそれに続く形となった[1]。このレースはこのシーズンのブラウンGPにとって最後の優勝だったが、この1-2フィニッシュは、タイトル争いでブラウンGPを追撃していたレッドブルを残り4戦でこの差を逆転するのは無理と消沈させ(当時は優勝すると10ポイント獲得)、結果としてタイトル争いを決定づける大きな勝利となった[1]
  4. ^ この役職は、各レースのレース戦略だけではなく、シミュレータの計画であるとか、詳細なパフォーマンスレビューなども仕事の範囲となる[12]。また、CEO兼チーム代表トト・ヴォルフの計らいにより、ボウルズはチーム運営についてのより広範な仕事も任されるようになった[5]
  5. ^ メルセデスチームがF1のドイツグランプリで1-2フィニッシュを飾ったのはこの時が初である[20]。また、チームは前戦イギリスグランプリ終了時点で20ポイント差を付けてランキング首位にいたスクーデリア・フェラーリを逆転し、8ポイントのリードを築くことにも成功した[20]
  6. ^ モータースポーツを専門とした修士課程を設けている[22]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h GP Car Story Vol.42 Brawn BGP001、「“遅いクルマ”での正しい戦い方」(ジェームス・ボウルズ インタビュー) pp.70–73
  2. ^ a b c d e Jonathan Noble (2023年1月14日). “メルセデスの戦略担当がウイリアムズのチーム代表に! ジェームス・ボウルズがヨースト・カピトの後任に就任”. Motorsports.com. 2023年1月14日閲覧。
  3. ^ a b c F1 Tokyo Festival”. 2023年F1日本グランプリ. 鈴鹿サーキット (2023年). 2023年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月8日閲覧。
  4. ^ a b c d e ウイリアムズF1が新チーム代表を発表。メルセデスの戦略責任者ボウルズを抜擢”. Auto Sport web. 三栄 (2023年1月13日). 2023年1月14日閲覧。
  5. ^ a b c F1速報 F1事件簿2022-2023特集号(2023)、「渦中人物インタビュー」(トト・ヴォルフ、ジェームス・ボウルズ インタビュー) pp.36–37
  6. ^ a b Yasuo Miyake(翻訳) (2021年4月14日). “想像もしていなかったロズベルグのF1引退。メルセデスのストラテジストは「非常にショックだった」と振り返る”. Auto Sport web. 三栄. 2023年1月21日閲覧。
  7. ^ a b 尾張正博 (2022年5月27日). “F1 Topic:ポーパシングを改善も「解決したとは思っていない」とメルセデス。モナコなど市街地コースを警戒”. Auto Sport web. 三栄. 2023年1月21日閲覧。
  8. ^ Jonathan Noble (2023年3月19日). “メルセデスW14は終わったわけじゃない? 古巣の苦境にウイリアムズF1代表が助け舟「強力になってくるコースもある」”. Motorsports.com. 2023年10月8日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h i F1速報 2017年オーストリアGP号、「200万分の1の“正解”を求めて」(尾張正博) pp.28–31
  10. ^ a b c d James Vowles. “James Vowles” (英語). LinkedIn. 2022年2月22日閲覧。
  11. ^ a b c James Vowles” (英語). Graduates.com. 2022年2月22日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h Mike Seymour (2023年8月18日). “James Vowles on a rejection-filled route to F1, half a year as Williams’ team boss and his top tips for F1 Manager” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited. 2023年10月8日閲覧。
  13. ^ Simon Arron (2019年10月). “Lunch with... Brawn GP” (英語). Motor Sport Magazine. 2022年2月22日閲覧。
  14. ^ a b Williams Racing appoints new Team Principal” (英語). Williams Racing (Williams Group) (2023年1月13日). 2023年1月14日閲覧。
  15. ^ a b James Elson (2024年7月18日). “Vowles says Williams has 'to let go of F1 past' to succeed” (英語). Motor Sport Magazine. 2024年8月4日閲覧。
  16. ^ a b c d Tom Clarkson(聞き手) (2023年6月29日). “FULL TRANSCRIPT: Read every word from Williams boss James Vowles' Beyond The Grid interview” (英語). Formula One official website. Formula One World Championship Limited. 2024年8月4日閲覧。
  17. ^ a b c d e No plan for me to play support role – Bottas” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited (2018年7月26日). 2022年2月22日閲覧。
  18. ^ a b c d Ben Johnston (2022年2月1日). “‘James, it’s Valtteri’…Vowles to race in Asian Le Mans” (英語). Planet F1. Planet Sport. 2022年2月22日閲覧。
  19. ^ Henry Valantine (2021年11月12日). “Russia 2018 team orders ‘like biting own teeth’ for Bottas” (英語). Planet F1. Planet Sport. 2022年2月22日閲覧。
  20. ^ a b REPORT: Hamilton takes sensational win as Vettel crashes amid Hockenheim downpours” (英語). Formula One World Championship official website. Formula One World Championship Limited (2018年7月22日). 2022年2月22日閲覧。
  21. ^ a b Jonathan Noble (2022年12月4日). “目線の先にはル・マン参戦。メルセデスF1の”走る戦略責任者”、ボウルズはなぜGTレースに挑むのか?”. Motorsports.com. 2023年1月14日閲覧。
  22. ^ Motorsport at Cranfield” (英語). Cranfield University. 2023年10月8日閲覧。
  23. ^ Honorary Graduates” (英語). University of East Anglia. 2023年10月8日閲覧。
  24. ^ James Vowles UEA Honorary Graduate Speech” (英語). University of East Anglia (2017年). 2023年10月8日閲覧。

参考資料

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雑誌 / ムック
  • 『F1速報』(NCID BB22714872
  • 『GP Car Story』シリーズ
    • 『Vol.42 Brawn BGP001』三栄、2023年1月27日。ASIN B0BD44TZ2KISBN 978-4-7796-4739-0ASB:GPC20221214 

外部リンク

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Valtteri, it’s James.

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James, it’s Valtteri.

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