ボアストローク比

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

ボアストローク比(ボアストロークひ : bore/stroke ratio)とは、レシプロエンジンにおけるシリンダーボア(内径)とピストンストローク(行程)の比率のことでストロークをボアで割った値である。

概要[編集]

エンジンの性格を類別する際に使用されることが多く、この値が1(1:1)の場合はスクエアストロークまたは略してスクエア、1より小さいものはショートストロークまたはオーバースクエア、1より大きいものはロングストロークと呼ばれる。多くの実用ガソリンエンジンでは、ボア・ストローク比は1近傍に設定されるか、ややロングストロークに設定される。一部の高性能スポーツカー用エンジンやレース用エンジンではショートストロークに設定され、フォーミュラ1用のエンジンでは0.5近くと極端にショートストロークに設定され、極限の高回転性能を実現している。また船舶用の大型2ストロークディーゼルエンジンユニフロー掃気ディーゼルエンジン#船舶用)では4付近と大幅なロングストロークとなっている。これは燃費性能を最重視したもので、ガソリンエンジンと異なり、運転中のディーゼルエンジンのシリンダー内は常に空気過剰の状態にあり、この燃焼に関与しなかった空気も燃焼熱によって膨張して出力に関与するため、膨張時間を長くとる設定となっている。

一般的にショートストロークではコンパクトな(表面積の少ない)燃焼室を実現しにくく、低速での燃費性能は悪化するが高回転高出力化に向く。ロングストロークでは燃焼室がコンパクトになり実用燃費に有利になるが、平均ピストンスピードが高くなり、高回転化が難しいとされる。しかしながら、一部のメーカーではピストンコネクティングロッドクランクシャフトなどの形状を工夫することにより、ロングストロークにもかかわらず高回転化を実現している例もある。

フィンランドなどの一部の国では、ボアをストロークで割った「ストロークボア比」が用いられる。

スクエアストローク[編集]

レシプロエンジンにおいて、シリンダーボア(内径)とピストンストローク(行程)の寸法が等しい、すなわちボアストローク比が1(1:1)であるものをいう。ピストンの往復運動で得られる容積の縦断面が、正方形であることからこの名が付いた。

ショートストローク[編集]

レシプロエンジンにおいて、シリンダーボア(内径)の方がピストンストローク(行程)の寸法より大きい、すなわちボアストローク比が1よりも小さいものをいう。ロングストローク型に比べ、1回転あたりのピストン往復距離が短いことから高回転性能やピックアップ特性[1]を向上させやすく、出力重視型のエンジンとなる[2]。主にスポーツカー軽自動車、スポーツタイプのオートバイ、また乗り物以外では刈り払い機チェーンソーなどに採用されることが多い。またシリンダーブロックの小型化が困難であることから、ロングストローク型と比較して大きなエンジンとなることが多い。

ロングストローク[編集]

レシプロエンジンにおいてシリンダーボア(内径)よりピストンストローク(行程)の寸法が長い、すなわちボアストローク比が1より大きいものをいう。 ショートストローク型に比べ、コンパクトな燃焼室にしやすく、低回転時の冷却損失が小さいため熱効率が良い。また、ピストンスピードが高く、クランクシャフトを回す力が大きいことから、ショートストロークに比べて低回転時のトルクが大きい傾向があり「街中で扱いやすい」「低回転型」とされる[2]。これらのことから、扱いやすく疲れにくい万人向けのエンジン特性になることが多い。

その反面、すべてのレシプロエンジンはピストンが往復運動を行う構造上、ピストンスピードの向上に物理的な限界があり、同じ回転数においてはストロークが長いほどピストンスピードが高くなることから、高回転性能やピックアップ特性を向上させることが困難になるため、高回転には弱いとされる。ただし、ホンダ・ZC型DOHC PGM-FI仕様)のように、ロングストローク型でも高回転型スポーツユニットとされるモデルもあった。

なお、ストロークが長い単気筒直列2気筒エンジンでは、エンジンの振動が大きいとの誤解が一般にあるが、現在はピストン・コネクティングロッド(コンロッド)の軽量化、バランサーなどにより、不快なほどではない。また、わざとバランスを崩して設計して振動(鼓動感)を出し、エンジンの味としたり、トラクションにメリハリをつけるなどの演出をすることもある。なお、ショートストロークエンジンでもコンロッドが短い場合、コンロッドの振り角が過大となり、振動が増加する(連桿比も参照)。

ホンダCB750FOURヤマハディバージョンXJ400S、果てはカワサキZ1300などのように、多気筒エンジンの幅を詰めるためにロングストロークで設計される場合もある。

エンジン諸元表を見るときには、ボアストローク比だけでなくストロークの長さ自体に注目すると、他のエンジンと特性比較しやすい。また、試乗でもストロークの長短を意識したほうがエンジンの特性をつかみやすい。日本製の乗用車オートバイ用エンジンは、当初の低中速重視型を脱し、1980年代以降にはショートストロークのものが大多数を占めるようになっていたが、排出ガス規制省エネルギー、衝突安全性(エンジン平面寸法の縮小)などの要求が高度化するにつれ、2000年代以降からはロングストロークのものへ移行していった。対して欧州車米国車のエンジンは、依然としてロングストロークのものが大多数を占めている。

変わったところでは税制と関連してロングストロークが好まれていた場合もある。20世紀前半のイギリスで用いられていた馬力税(en:https://en.wikipedia.org/wiki/Tax_horsepower)は単純にボア径と気筒数で決められていた。この場合ボア径が小さい方、つまりロングストロークの方が税制上有利であった。この馬力税による影響は廃止後の1950 - 1960年代のまでの英国車に残ったとされる。

出典[編集]

  1. ^ スロットルレスポンスやツキとも言われるが、車載の状態では、車輪直径を含むトータルの歯車比や、車両総重量も関係する。
  2. ^ a b YAMAHAバイク用語辞典意外と知らないバイクの専門用語を基礎から分かりやすく徹底解説