ホンドタヌキ

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ホンドタヌキ
Tanuki01 960.jpg
野生のホンドタヌキ
広島県福山市仙酔島、2006年1月8日
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネコ目(食肉目) Carnivora
: イヌ科 Canidae
: タヌキ属 Nyctereutes
: タヌキ N. procyonoides
亜種 : ホンドタヌキ N. p. viverrinus
学名
Nyctereutes procyonoides viverrinus
和名
ホンドタヌキ
英名
Japanese Raccoon Dog
(動画) 東武動物公園のホンドタヌキ

ホンドタヌキ(本土狸、学名: Nyctereutes procyonoides viverrinus)は、ネコ目イヌ科タヌキ属に属するタヌキの日本産亜種。 顔の目の周りの黒い模様から「八文字」と呼称されたり、地域によってはアナグマと区別されずに「むじな」と呼称されるなど、本亜種の呼称は様々である[1]

体長は40 - 50cm。尾長約15cm。体重3 - 5kg[2]寿命は約5 - 8年[3]は、前肢が5本、後肢が4本。前肢の親指は他の指から離れており、足首寄りにあるので地面には着かない[4]柴犬よりも小柄である[5]。体型はキツネなどに比べると丸みがあるが、原始的なイヌ科の特徴の名残りだと考えられている。体毛は、換毛があり、冬毛の本亜種は太って見える[6]

棲息地域は日本本州四国九州[7]平地から亜高山帯標高2,000m超)まで、多様な環境で棲息している[8]佐渡島壱岐島屋久島などの島に棲息する本亜種は人為的に移入された個体であり[5]北海道の一部に棲息するエゾタヌキは地理的亜種である[7]。 本亜種の棲息地は主に里山[9]、体型は里山のの中の行動に適している[10]。身を隠せる広葉樹林下草が密生した場所も好む[8]。エゾタヌキは冬籠りをするが本亜種は冬籠りはせず、真冬でも活動する[11]。また、山野のみならず、都市部にも少なからぬ個体が生息している。[12]


活動時間帯は主に夜間である(夜行性。→写真[1]。歩行は、キツネが足跡をほぼ一直線に残すのに対して、本亜種は惰行した足跡を残す。これはキツネの肩幅が狭く、本亜種の肩幅が広いことに起因する[13]。木に登ることもできる[14]

食性雑食性である。農作物生ごみなどの人為的なものから銀杏果実ネズミカエルヘビ昆虫サワガニ[2]ザリガニミミズなど何でも食べる[15]

本亜種はため糞をする。数頭で一緒に糞をする場所を持っており、そこに糞をためる。これをため糞という(→写真1写真2)。ため糞の規模は季節により異なり、大きなものは直径約1m、高さ約10cmにもなるが、夏期は糞を食べる昆虫の活動が活発になるのでそれほど大きくはならない[16]

本亜種の活動領域は他の複数の個体と重なっており排他性がない。ため糞は活動領域が重なっている複数の個体によって形成される[17]

本亜種は擬死(狸寝入り)をする[18]


生態[編集]

1年の生活[編集]

からにかけては子育ての時期である。3月中旬に巣穴の中で通常は3 - 5匹出産し、子タヌキの体長は約15cm、体重は約100gで体色は濃褐色[11]。子育ては夫婦で行う[1](→子どもの写真)。5月初頭になると幼獣は親タヌキ夫婦と一緒に巣穴の外に出て行動するようになり、食べ物も自分で見つけられるようになる[11]は親子で行動する。は子どもが親離れをする時期である[19]。夏の終わり頃から親子の関係が弱くなり、また、子ども同士の関係も弱くなる。そして秋になると子どもたちは各自独立していく[20]はオスとメスが番(つがい)を作る季節である。この年に生まれた子どもが番を作ることもある。一方親タヌキに関しては、同一の番がこの冬も番になるかどうかは不明である[21]

巣穴[編集]

本亜種は自身で巣穴を掘るが、キツネアナグマが掘った穴を利用することもある[22]。アナグマの巣穴の場合はその規模が大きいので、使用していない一部の穴を間借りすることもある[23]。人間の近くに棲息する個体は人家の床下物置[22]、資材置場の土管なども巣穴として利用し、子育てを行う[10]。近年はビオトープとして本亜種やキツネ用に人工的な巣穴の整備が行われている[24]

独立した子供の行き先[編集]

に親離れした子どもの活動領域は、親の活動領域内に留まる個体もいれば、親の活動領域から出て新しい地域へ自分の活動領域を求める個体もいる[25]

社会性[編集]

本亜種は群れを作るが、その群れの単位はオスとメスの番(つがい)による子育て家族である。雑食性のため個々に採食すればよく、同じイヌ科オオカミのように群れによる狩りを行う必要がない。食物の量が豊富な場合は複数の個体の活動領域が重なっていても争いは起こらない。それは本亜種が個々に採食するため、他の個体と採食で競合することがなく、また、新たな食物を開拓して競合を避けることができるからである。このように本亜種は雑食性のため、他の個体と競合することが基本的にはないのである[26]。他の番と活動領域が重なる部分に営巣しても争いは起きない[22]。本亜種は排他性がない[17]

擬死の利点[編集]

(本節は 西野(2009)を参考文献とする)

脊椎動物擬死(thanatosis)は、動物催眠(animal hypnosis)、または、持続性不動状態(tonic immobility)と呼ばれることもあるが、この節では「擬死」という語句を使用して説明する。

擬死の機構

動物は自らの意志で擬死(死にまね。death feigning, playing possum)をするのではなく、擬死は刺激に対する反射行動である。哺乳類では、タヌキニホンアナグマリスモルモットオポッサムなどが擬死をする。 擬死を引き起こす条件や擬死中の姿勢、擬死の持続時間は動物によって様々である。

イワン・パブロフは脊椎動物の擬死の機構を次のように説明している。

「不自然な姿勢におかれた動物がもとの姿勢に戻ろうとしたときに抵抗にあい、その抵抗に打ち勝つことができない場合にはニューロンの過剰興奮を静めるための超限制止がかかってくる」(イワン・パブロフ)

擬死を引き起こす刺激

拘束刺激は擬死を引き起こす刺激の一つである。カエルハトなどは強制的に仰向けの姿勢をしばらく保持すると不動状態になる。また、オポッサムコヨーテに捕獲されると身体を丸めた姿勢になって擬死をする。

擬死の利点

本種が擬死を行うことによる利点として、身体の損傷の防止と捕食者からの逃避が考えられる。擬死は捕食者に捕えられたときなどに起こる。捕食者から逃げられそうにない状況下で無理に暴れると疲労するだけでなく、身体を損傷する危険がある。捕食者は被食者[註 1]が急に動かなくなると力を緩める傾向がある。このような時に捕食者から逃避できる可能性が生まれる。この機会を活かすためには身体の損傷を防ぐ必要がある。

擬死の特徴

擬死中の動物は、ある姿勢を保持したまま不動になる。その姿勢は動物により様々である。ただ、不動状態のときの姿勢は普段の姿勢とは異なる不自然な姿勢である。 動物は外力によって姿勢を変えられると、すぐに元の姿勢を維持しようして動作する。この動作を抵抗反射(resistance reflex)という。しかし、擬死の状態では抵抗反射の機能が急に低下して、不自然な姿勢がそのまま持続する。このような現象をカタレプシー(catalepsy)という。カタレプシーは擬死中の動物すべてにあてはまる特徴である。 擬死の持続時間は、甲虫類以外は数分から数十分で、擬死からの覚醒は突然起こる。擬死中の動物に対して機械的な刺激(棒で突つくなど)を与えると覚醒する(甲虫類は逆に擬死が長期化する)。 擬死中は呼吸数が低下し、また、様々な刺激に対する反応も低下する。 擬死中の動物の筋肉は通常の静止状態の筋肉と比較してその固さに違いがあり、筋肉が硬直している。そのため、同じ姿勢を長時間維持することが可能となる。

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  1. ^ 他の生物に捕食される生物のこと --『広辞苑』より。

本節の参考文献


罹患する主な伝染病[編集]

イヌジステンパー
イヌジステンパーに罹患した本亜種の存在が報告されている(→写真)。本亜種だけでなく、アナグマハクビシンの罹患も報告されている[27]
疥癬
疥癬に罹患する本亜種は多い(→写真)。疥癬は重篤化すると細菌二次感染を招き、また体毛が全身が脱毛するために体温維持が困難となり、冬季に死に至る。疥癬の伝染により地域個体群が絶滅したと考えられる地域もある[28]

イヌジステンパーと疥癬の影響の違い[編集]

イヌジステンパー疥癬による本亜種への影響の違いは、イヌジステンパーはある地域で流行しても その流行は2 - 3年で収束する。この疾患により本亜種の個体数が減少するため、それに比例してこの疾患自体も減少する。これに対して疥癬は一度その地域で流行すると本亜種の個体数に関係なく本亜種に影響を与え続ける[29]

疥癬の原因究明[編集]

疥癬は本亜種にヒゼンダニが寄生することによって発症する疾患であるが、疥癬に罹患した個体は健康な個体と比較してヒゼンダニに対する抗体の量が多いことが判明している。疥癬に罹患し、その後治癒した個体と死亡した個体の抗体の量を比較すると、その量は同じであった。このことから、ある種の抗体はヒゼンダニに対して影響力が弱い可能性がある。疥癬の感染経路はまだ解明されていない[30]

人間との係りで生じる問題[編集]

交通事故[編集]

高速道路網の発達により本亜種の交通事故が増加傾向にある。1985年は2,300件であったが、1993年には8,500件に増加した。東日本に比べて西日本での事故発生が多い。事故発生時期は10月から11月が最も多い時期である。この時期は子タヌキ(亜成獣)が親タヌキ(成獣)から独立する時期にあたり、危険に対するに認識が薄い亜成獣が交通事故に会いやすいと考えられる。 高速道路の構造にも事故発生の要因がある。事故が発生する場所の高速道路には本亜種が高速道路内に入りやすい構造になっている。尾根を掘削して道路を敷設し、野生動物の侵入防止柵がない場所で事故が起きやすい。また、高速道路付近に畜舎があると、そこでも交通事故が発生しやすい。畜舎に本亜種が立ち寄っていると考えられる。 本亜種の交通事故は一般道ではより多く、事故に会う個体数は11 - 37万匹と推定される[31](→写真)。

餌付け[編集]

餌付け給餌は異なる。餌付けは、人為的に野生動物に餌を与えて、野生本来の活動を変えてしまうもの(→写真)。それに対して給餌は、野生動物の生存に必要な食餌を人為的に補給するもの。冬季にタンチョウヅルなどへ人為的に餌を与えることは給餌にあたる。本亜種の場合は人為的に餌を与えずとも生存していくことが可能である。本亜種が動物性タンパク質を特に必要とする時期は子育て期で、植物からはビタミン類や食物繊維などを補給している。餌付けで使用される餌は高カロリーでタンパク質が少なく、栄養のバランスが悪い。 本亜種を餌付けすることにより、本亜種の生活圏が人間の生活圏と密接になり、餌付け場所付近の農作物に被害を与える問題が生じている。また、人家の庭にため糞をするようになり、その悪臭が問題となる。最悪の場合、餌付けしていた人家自体が餌付けされた本亜種を処分する事態にまでなっている[32]。 自然保護専門家らの間では餌付けを否定する意見が多い。しかし、人と野生動物との共生を考えた場合、一概に餌付けを否定できない現状がある。人は餌付けを通じて野生動物に関心を持ち続けているのだ。東京農業大学教授・安藤元一は、餌付け否定の形式的な推進は人間と野生動物との関係を希薄なものにしてしまう、と推考している[33]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c フクロウとタヌキ』(xiii)より。
  2. ^ a b タヌキを調べよう』(p5)より。
  3. ^ タヌキまるごと図鑑』(p7)より。
  4. ^ タヌキを調べよう』(p12)より。
  5. ^ a b フクロウとタヌキ』(p80)より。
  6. ^ タヌキを調べよう』(p6)より。
  7. ^ a b フクロウとタヌキ』(p79)より。
  8. ^ a b ホンドタヌキ」『よこはま動物園 ズーラシア - 動物紹介』より。
  9. ^ タヌキ1を調べよう』(p32)より。
  10. ^ a b タヌキを調べよう』(p28)より。
  11. ^ a b c タヌキを調べよう』(p18)より。
  12. ^ ナショナルジオグラフィック 「首都にすむ世界的珍獣」~タヌキ
  13. ^ タヌキを調べよう』(p13)より。
  14. ^ ホンドタヌキ(イヌ科)」『百年の森 - 動物』より。
  15. ^ タヌキを調べよう』(p11)より。
  16. ^ タヌキを調べよう』(p16)より。
  17. ^ a b フクロウとタヌキ』(p85)より。
  18. ^ タヌキを調べよう』(p26)より。
  19. ^ タヌキを調べよう』(p19)より。
  20. ^ フクロウとタヌキ』(p87)より。
  21. ^ フクロウとタヌキ』(p88)より。
  22. ^ a b c フクロウとタヌキ』(p91)より。
  23. ^ タヌキを調べよう』(p27)より。
  24. ^ ビオトープと地域整備』(p32)より。
  25. ^ フクロウとタヌキ』(p87, p88)より。
  26. ^ フクロウとタヌキ』(p89, p90)より。
  27. ^ フクロウとタヌキ』(p101, p102)より。
  28. ^ フクロウとタヌキ』(p102 - p105)より。
  29. ^ フクロウとタヌキ』(p107, p108)より。
  30. ^ フクロウとタヌキ』(p108)より。
  31. ^ フクロウとタヌキ』(p92 - p97)より。
  32. ^ フクロウとタヌキ』(p111 - p115)より。
  33. ^ 生き物は訴える(2)手乗りスズメ出現」『読売新聞』(YOMIURI ONLINE、2010年4月26日)より。

参考文献[編集]

(著者・編者の五十音順)

ウェブサイト

出版物

論文

  • 村武宏紀 『ビオトープと地域整備』 東洋大学国際地域学部国際地域学科〈卒業論文〉、2003年12月 提出。

関連文献[編集]

(著者・編者の五十音順)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

写真掲載ウェブサイト