認知症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。203.95.50.245 (会話) による 2012年5月14日 (月) 07:25個人設定で未設定ならUTC)時点の版であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

認知症のデータ
ICD-10 F00-F07
統計 出典:[1]
世界の患者数
日本の患者数 約2,420,000
学会
日本 日本精神神経学会
世界 世界精神医学会
この記事はウィキプロジェクト雛形を用いています

認知症(にんちしょう、: Dementia: Demenz)は、後天的なの器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。これに比し、先天的に脳の器質的障害があり、運動の障害や知能発達面での障害などが現れる状態は、知的障害、先天的に認知の障害がある場合は認知障害という。犬などヒト以外でも発症する。

日本ではかつては痴呆(ちほう)と呼ばれていた概念であるが、2004年に厚生労働省の用語検討会によって「認知症」への言い換えを求める報告がまとめられ、まず行政分野および高齢者介護分野において「痴呆」の語が廃止され「認知症」に置き換えられた。各医学会においても2007年頃までにほぼ言い換えがなされている(詳細については#名称変更の項を参照)。

「認知症」の狭義の意味としては「知能が後天的に低下した状態」の事を指すが、医学的には「知能」の他に「記憶」「見当識」を含む認知の障害や「人格変化」などを伴った症候群として定義される。

従来、非可逆的な疾患にのみ使用されていたが、近年、正常圧水頭症など治療により改善する疾患に対しても認知症の用語を用いることがある。

単に老化に伴って物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる現象は含まず、病的に能力が低下するもののみをさす。また統合失調症などによる判断力の低下は、認知症には含まれない。また、頭部の外傷により知能が低下した場合などは高次脳機能障害と呼ばれる。

分類

皮質性認知症と皮質下性認知症という分類がなされる事もある。血管障害性と変性性という分類もあり、Hachinskiの虚血スコアが両者の区別にある程度有用である。日本では従来より血管性認知症が最も多いといわれていたが、最近はアルツハイマー型認知症が増加している。

認知症の原因となる主な疾患には、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患、正常圧水頭症、ビタミンなどの代謝・栄養障害、甲状腺機能低下などがあり、これらの原因により生活に支障をきたすような認知機能障害が表出してきた場合に認知症と診断される。脳血管障害の場合、画像診断で微小病変が見つかっているような場合でも、これらが認知症状の原因になっているかどうかの判別は難しく、これまでは脳血管性認知症と診断されてきたが、実際はむしろアルツハイマー病が認知症の原因となっている、所謂、「脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症」である場合が少なくない。

以下は原因疾患による認知症のおおよその分類

疫学

2002年の100,000人あたりの認知症の障害調整生命年 (DALY)[1]
  no data
  ≤ 50
  50-70
  70-90
  90-110
  110-130
  130-150
  150-170
  170-190
  190-210
  210-230
  230-250
  ≥ 250

有病率・年間発症率

日本高齢者(65歳以上)での有病率は3.0〜8.8%(調査によってばらつきが大きい)。2026年には10%に上昇するとの推計もある。

年間発症率は65歳以上で1〜2%である。年間発症率は75歳を超えると急に高まり、65〜69歳では1%以下だが、80〜84歳では8%にも上る。

危険因子

年齢
最大の危険因子である(特にアルツハイマー型)ことが知られている。23の疫学研究を基にしたメタ分析では、年齢とともにアルツハイマー型の発症率が指数関数的に上昇することが示された。また、75〜85歳の高齢者の追跡調査したthe Bronx Aging studyでは、認知症全体の発症率が85歳まではゆっくり上昇し、85歳を越えると急激に上昇する、というデータが得られている。
家族歴
片親が認知症の場合、本人が発症する危険は10〜30%上昇する。特に、片親が早期発症のアルツハイマー型認知症の場合、本人発症の危険はかなり高くなる(例えば親の発症が50代前半のなら、本人発症の危険は約20倍)。
遺伝因子
神経保護に関与するApolipoprotein Eの遺伝子型e4などがアミロイド沈着に関係すると言われる。他の遺伝子で危険因子として確定しているものはない。
血圧降下剤による薬害
高血圧症の治療に使われる血圧降下剤により、脳内酸欠による脳細胞の減少により発症する。
動脈硬化の危険因子
高血圧糖尿病喫煙高コレステロール血症などが、脳血管型やアルツハイマー型などの本症の危険因子となる。受動喫煙でも認知症リスクが30年で約3割増すとの報告もある。
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)
正常老化過程で予想されるよりも認知機能が低下しているが、認知症とはいえない状態。認知症の前段階にあたるが、認知機能低下よりも記憶機能低下が主兆候となる。主観的・客観的に記憶障害を認めるが、一般的な認知機能・日常生活能力はほぼ保たれる。
「認知症」の診断ができる程度に進行するまで、通常5〜10年、平均で6〜7年かかる。
医療機関を受診した軽度認知障害では、年間10%から15%が認知症に移行するとされる。
さらに、単に軽度の記憶障害のみの例より、他の認知障害を合わせて持つ例の方が、認知症への進行リスクははるかに高い(4年後の認知症への移行率は、記憶障害のみの場合は24%、言語・注意・視空間認知の障害のいずれかの合併例では77%であった)。
加齢関連認知低下(Aging-associated Cognitive Decline:AACD)
記憶障害のみにとどまらず認知機能低下をも含む、「広義の軽度認知障害」の概念のひとつとして国際老年精神医学会が診断基準をまとめたもの。
加齢関連認知低下とは、6ヶ月以上にわたる緩徐な認知機能の低下が本人や家族などから報告され、客観的にも認知評価に異常を認めるが、認知症には至っていない状態である。認知機能低下は、(a)記憶・学習、(b)注意・集中、(c)思考(例えば、問題解決能力)、(d)言語(例えば、理解、単語検索)、(e)視空間認知、のいずれかの面に該当する。
ある地域の高齢者を対象にした研究では、3年後での認知症への進行率は、軽度認知障害が11.1%、加齢関連認知低下では28.6%であった。しかも、軽度認知障害の一般地域高齢者に占める割合は3.2%のみだが、加齢関連認知低下は19.3%にも上る、と報告されている。

症状

以前よりも脳の機能が低下し、主に以下の様な各種症状を呈することとなる。家族などの介護者を悩ませ、医療機関受診の契機となるのは、主に周辺症状に起因する問題である。

中核症状

記憶障害と認知機能障害(失語・失認・失行・実行機能障害)から成る。

これらは神経細胞の脱落によって発生する症状であり、患者全員に見られる。病気の進行とともに徐々に増悪する。

周辺症状

幻覚妄想、徘徊、異常な食行動(異食症)、睡眠障害抑うつ不安・焦燥、暴言・暴力(噛み付く)、性的羞恥心の低下(異性に対する卑猥な発言の頻出など)、時間感覚の失調、など。

これらは神経細胞の脱落に伴った残存細胞の異常反応であり、前述の中核症状と違い一定の割合の患者に見られる。出現状況は一般的に5年~15年かけて現れる為、患者によっては周辺症状が現れず終末期を迎えるケースもある。その症状は上記のもの以外にも非常に多岐にわたり、多数の周辺症状が同時に見られることも珍しくない。BPSDとも言われるこれら症状の特徴としては、軽症から出現が始まるが中等症に進行するに従い頻繁に出現するようになり、患者は日常生活を行う能力を急速に喪失してゆくことにある。このため、概して周辺症状の発現と深刻化によって家族などの介護負担は増大の一途を辿る。

検査

神経心理学的検査

知能検査をはじめとする神経心理学的検査が診断及び重症度評価などに用いられる。記憶検査としてはウェクスラー記憶検査法(WMS-R)や日本語版リバーミード行動記憶(RBMT)が標準とされているが認知症診療では実際的ではないため、ここでは認知症で用いられる検査を中心に概説する。認知症の評価、スクリーニングでは記憶など中核症状、BPSD、ADLの3つの症候を扱う。それぞれ質問式の認知機能検査を用いたり観察式の行動評価尺度を用いたりする。それぞれの検査の特徴を以下にまとめる。

質問式 観察式
最低限の情報で実施可能 十分に把握している家族、介護スタッフが必要
本人のみであっても実施可能 家族などからの情報のみで評価可能
本人が協力的でなければ実施不可能 本人が拒否的であっても評価可能
著しい視聴覚障害があると実施不可能 視聴覚障害の影響をほとんど受けない
施行者によるばらつきは少ない 結果のばらつきを減らすにはマニュアルによる訓練が必要
居宅、入院、入所を問わない 評価項目によっては入院、入所では評価できない
認知機能障害は評価できるがBPSDは評価できない 認知機能障害もBPSDも評価できる

質問式の知機能障害を測定する尺度

General practitioner Assessment of Cognition(GPCOG)やMini-CogおよびMemory Impairment Screen(MIS)は日本語版が作成されていないため一般的ではない。

長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)
最高得点は30点であり20点以下を認知症とする。重症度分類は行われていない。参考となる平均点は非認知症は24.3±3.9点、軽度は19.1±5.0、中等度15.4±3.7、やや高度10.7±5.4、非常に高度4.4±2.6とされている。
Mini-Mentak State Examination(MMSE)
原法では20点以下を認知症としたが23点以下を認知症とするのが2010年現在は一般的である。HDS-Rと比較して記憶に関する負荷が低く、教育年数による影響が知られている。国際的には最も普及している。
Clock Drawing test(CDT)時計描画テスト
視空間と構成能力を評価する簡便な検査法である。時計の文字盤を書いてもらい、指定した時刻を示す長針と短針を書き加えてもらうだけの簡便な検査である・課題としてはコンセンサスを得られた採点法が存在しないことである。
The Seven Minites Screen(7MS)
軽度のADと健常者の区別にすぐれた検査法であり、高感度、高特異度であるがベットサイドで簡便に行うことはできない。
Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS)
臨床的に診断されたADに対するコリン作動薬による認知機能の変化を評価すること目的としている。スクリーニングとして用いられることはない。ADASの認知機能下位尺度であるADAS cog.が臨床試験でよくも用いられる。アルツハイマー型認知症では年間得点変化が9~11点であり、変化は軽度と高度認知症では小さく、中等度認知症では大きい傾向が指摘されている。
Severe Impairment Battery
高度に障害された認知機能を評価する。
日本語版リバーミード行動記憶(RBMT)
記憶検査であるが日本語版では認知症にも用いられるように標準化に高齢者の被験者が含まれている。
日本語版Neurobehavioral Cognitive Status Examination(CONISTAT)
多面的な評価が可能である。

観察式による認知機能障害を評価する尺度

Clinical Dementia Rating(CDR)
最も一般的に用いられている観察式の認知症の重症度評価法である。健康がCDR=0、認知症の疑いがCDR=0.5、軽度認知症がCDR=1、中等度認知症CDR=2、高度認知症CDR=3と判定する。
Functinal Assessment Staging(FAST)
CDRと共に国際的に頻用されている観察式の重症度評価法である。ADLを総合的に判断し認知症の中でもADをの重症度を判定することを目的とする。境界領域や軽度認知症のADL行動変化が非常に検出しやすいことが特徴である。その他の特徴としてはそれぞれのstageの期間と予後が示されている点、各stageの認知機能低下を示す状態の鑑別疾患が示されている点が特徴である。
N式老年者用精神状態尺度(NMスケール)
CDRに比べて対象者の日常生活の具体的な状況を当てはめることで評価できるため介護施設で用いられることが多い。

介護者からの情報による認知症スクリーニング尺度

Short Memory Questionnaire(SMQ)
Informant Questionnaire on Cognitive Decline in the Elderly(IQCODE)

日常生活動作能力(ADL)、道具的日常生活動作能力(IADL)を評価する尺度

Physical self-Maintenance Scale(PSMS)/Instrumental Activities of Daily Living(IADL)
N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)
認知症のための障害評価表(Disability Assessment for Dementia:DAD)
ADCS-ADL(Alzheimer's Disease Cooperative Study-ADL scale)

認知症の周辺症状(BPSD)を評価する尺度

Neuropsychiatric Inventory(NPI)
Behavioral Pathology in Alzheimer's Disease(Behave-AD)
Cohen-Mansfield Agitation Inventry(CMAI)

抑うつ状態を評価する尺度

Geriatric Depression Scale(GDS)
Cornell Scale for depression in Dementia(CSDD)

多元的認知症評価尺度

GBSスケール(GBSS)

認知症の生活の質(QOL)を評価する尺度

日本語版Alzheimer's Disease-Health Related Quality of Life(AD-HRQ-J)
日本語版Dementia Quality of life Instrument(DQoL)

介護者の介護負担を評価する尺度

Burden Interview

生化学検査

CSF Aβ

AβはCSF、血漿中にAβ40とAβ42として存在する。高齢者ではCSF Aβ42が低下するがAD患者ではAβ40が高度に低下しAβ40/Aβ42比は増加する。

CSF タウ

ADで上昇するとされている。AD以外では血管性認知症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、HIV感染症では上昇は認められない。しかし前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症、クロイツフェルトヤコブ病では上昇例が認められている。よりADに特異度が高い検査としてリン酸化タウが期待されている。

血漿 Aβ

血漿AβもAD発症の危険因子や病態進行のマーカーとなりえる。

生理検査

脳波

アルツハイマー型認知症の患者では脳波は以下のように推移することが知られている。コリネステラーぜ阻害薬によって徐波が減少することが知られている。

  • 正常波形
  • α波の貧困化、θ波混在
  • 低~中振幅θ波主体の徐波
  • 中~高振幅θ、δ波にδバーストを伴う大徐波
  • 大徐波の低振幅、不規則化
  • 平坦化

画像検査

頭部CT

脳腫瘍慢性硬膜下血腫正常圧水頭症などの治療可能な疾患の検出が目的となる。脳萎縮の評価はMRIに比べて劣る。内側側頭部の萎縮の評価は間接所見として側脳室下角の拡大の程度で判定するが下角の拡大が常に海馬や海馬傍回の萎縮と合致するとは限らない。

頭部MRI

statistical parametric mapping(SPM)やvoxel-based morphometry(VBM)が盛んである。認知症の鑑別としてDLBとADを比較すると、ADでは海馬や側頭頭頂葉皮質の萎縮が強い。無名質はADの方が、中脳被蓋はDLBの方が萎縮が強いことが示されている。ADでは高齢発症では内側側頭部萎縮が目立つが初老期発症では側頭頭頂葉皮質の萎縮が目立つ。

SPECT

認知症疾患の鑑別としてSPECTは非常に重要視されている。シンチグラフィーも参照。血流は神経細胞数よりもシナプス活動を反映していると考えられており、ADではパペッツの回路として嗅内皮質と解剖学的に密接な繊維連絡を持つとされている帯状回後部や楔前部で血流低下が認められる。DLBでは後頭葉の血流低下が認められる。

PET

アミロイド斑を検出できるPETトレーサーが開発されておりアミロイドイメージングとして注目されている。11C-PIBが最も研究されておりADでは前頭前野や楔前部などの大脳皮質に強い集積が認められるのに対して、正常例では大脳皮質の集積は乏しいとされている。

診断

意識障害時には診断できない。ICD-10DSM-IVでさえ診断基準は異なるが、一般に、日常生活に支障が出る程度の記憶障害認知機能の低下の2つの中核症状が見られる時に診断する。周辺症状の有無は問われない。機能が以前と比べて低下していることが必須であり、生まれつき低い場合は精神発達障害に分類される。

記憶認知機能などの程度を客観的に数値評価する検査としてWAIS-R(ウェクスラー成人知能検査)などがあるが、施行に時間を要し日常診療で用いるには煩雑である。簡便なスクリーニング検査として、日本では聖マリアンナ医科大学の長谷川和夫らが開発した「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)がよく利用される。世界的にはミニメンタルステート検査(MMS、MMSE)が頻用されている。

うつ病せん妄と間違われやすい。難聴とも鑑別を要する。

うつ病との鑑別

認知症(痴呆)は、日内変動を伴わず、ゆっくり記憶障害から発症する。深刻さを欠き、質問に対してははぐらかしたり怒ったりする。一方うつ病は、日内変動が強く、比較的急激に抑うつ症状から発症する。自責的で深刻味をおび、質問に対する返答は遅れたりわからないと言ったりする。

せん妄との鑑別

認知症(痴呆)は、日内変動を伴わずにゆっくり発症する。原因が必ずしも特定されない。一方せん妄は、日内変動が強く急激に発症し、対話が成立しないこともある。薬剤・身体疾患などの原因が存在する。

治療

認知症を来たしている原因により治療方法は異なる。「治療可能な認知症(treatable dementia)」の場合は原因となる疾患の治療を速やかに行う。

近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型認知症を中心として認知機能の改善、痴呆進行の緩徐化などの効果が期待されている。

また、認知症患者は認知機能低下のみならず、不眠抑うつ、易怒性、幻覚(とくに幻視)、妄想といった周辺症状と呼ばれる症状を呈すことがあり、その際は適宜、睡眠薬抗うつ薬抗精神病薬抗てんかん剤などの対症的な薬物療法が有効なこともある。

また慢性硬膜下血腫又は正常圧水頭症が原因の場合は手術で治す事ができる。

なお、日中の散歩などで昼夜リズムを整える(光療法[2]、思い出の品や写真を手元に置き安心させる回想法テレビ回想法などの薬物以外の手段も有効な場合がある。

介護保険デイケア通所など社会資源の利用も有用である。 しかし、今まで認知症患者の立場からの研究が行われていなく、当事者の立場からの医療・福祉が提供されていない現状がある。

いずれにせよ、専門医(精神科医、神経内科医など)の協力を得て診断、治療を行う事が望ましい。

問題と解決策

認知症患者は既に日本だけでも150万人を超え、今後増加の一途をたどると言われている。既に、認知症患者を対象にした悪徳商法などが発生している。悪質リフォームなどはよく報じられるが、解決策について議論されることは少ない。この為、家族等や弁護士司法書士成年後見人制度による対策が求められている。

介護については、現在でも多くの家族が認知症患者を介護しているが、その負担の大きさから心中問題に発展する事もある。認知症患者の介護は、24時間の見守りが必要であり、これは地域ぐるみでないと対策は難しい。しかし、この問題は家族や貧困の問題とされており、社会問題とされる事はまだまだ少ない。日本においては、患者の9割近くが65歳以上の患者 が多く65歳未満の初老期の認知症患者(若年性認知症)の対策が遅れているため、その患者の家族負担は65歳以上よりも重いとされている。

また、判断力が低下した認知症患者による自動車運転などの問題もある[3]

名称変更

経緯

日本老年医学会において、2004年3月に柴山漠人が「『痴呆』という言葉が差別的である」と問題提起したのを受け、6月から厚生労働省において、医療・福祉などの専門家を中心とした用語検討会で検討が始まった。その過程において、厚生労働省は、関係団体や有識者からヒアリングを行うとともに、「痴呆」に替わる用語として選定した複数の候補例等について広く国民の考えを問うため、ホームページ等を通じて意見の募集を行った。この結果、一般的な用語や行政用語としての「痴呆」について、次のような結論に至った。

  • 「痴呆」という用語は、侮蔑的な表現である上に、「痴呆」の実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の取り組みの支障となっていることから、できるだけ速やかに変更すべきである。
  • 「痴呆」に替わる新たな用語としては、「認知症」が最も適当である。
  • 「認知症」に変更するにあたっては、単に用語を変更する旨の広報を行うだけではなく、これに併せて、「認知症」に対する誤解や偏見の解消等に努める必要がある。加えて、そもそもこの分野における各般の施策を一層強力にかつ総合的に推進していく必要がある。

国民の人気投票では「認知障害」がトップであったが、従来の医学上の「認知障害」と区別できなくなるため、この呼称は見送られた。こうして2004年12月24日付で、法令用語を変更すべきだとの報告書(「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書)がまとめられた。厚生労働省老健局は同日付で行政用語を変更し、「老発第1224001号」により老健局長名で自治体や関係学会などに「認知症(にんちしょう)」を使用する旨の協力依頼の通知を出した。関連する法律上の条文は、2005年の通常国会介護保険法の改正により行われた。

医学用語としては、まず日本老年精神医学会が「認知症」を正式な学術用語として定め、関係40学会にその旨通知した。現在の医学界では、「痴呆」はほぼ「認知症」と言い換えられている。

主に心理学や神経科学系の学会では、従来より「認知」という語を厳密に用いてきたため、学会として認知症という語に反対している[4]

行政用語の改正

平成16年12月24日付け、厚生労働省老健局長通知による「痴呆」からの改正用語例は、以下のとおりである。

  • 痴呆 → 認知症
  • 痴呆性高齢者 → 認知症高齢者
  • 痴呆の状態にある高齢者 → 認知症の高齢者
  • 痴呆性高齢者グループホーム → 認知症高齢者グループホーム

現在、第162回国会において審議されている「介護保険法等の一部を改正する法律案」による改正後の介護保険法では「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態」として認知症を定義している。

表記改正への賛否議論

「痴呆」という呼び名が差別的であるとされたのは、「痴」「呆」ともに「愚か」「馬鹿」という意味を持つ漢字だからである。実際、厚生労働省のアンケートでは、「痴呆」という呼称が一般的な用語や行政用語として用いられる場合、また病院等で診断名や疾病名として使用される場合でも、不快感や軽蔑した感じを「感じる」人は、「感じない」人を上回った。

「痴呆」の呼び名の代替案として「認知症」とする事とした事に関して、「認知」の意味が正しく伝わらず、適切ではないのではないか、また日本語として破綻しているのではないか、という議論が出ている。

心理学会関係(検討会には参加者なし)からは、「認知」は人間の知的機能をあらわす概念であり、それをそのまま病名として用いると意味が不明確で誤解が生じる危険があるとして異論もある。社団法人日本心理学会・日本基礎心理学会・日本認知科学会・日本認知心理学会から連名で出された意見書の中でその不適切さが指摘され、代案として「認知失調症」を提起する意見書が厚生労働省に提出されている。

また、「痴呆」と言う言葉は「一度獲得された知能が、後天的な大脳の器質的障害のため進行的に低下する状態」を指し、「認知症」と言う言葉より症状を的確に表しているという意見もある。

脚注

関連項目

外部リンク