脳腫瘍

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脳腫瘍
分類及び外部参照情報

肺から右脳に転移した脳腫瘍のMRI画像(L=左、P=後頭部)
ICD-10 C71., D33.0-D33.2
ICD-9 191, 225.0
DiseasesDB 30781
MedlinePlus 007222 000768
eMedicine emerg/334 
MeSH D001932

脳腫瘍(のうしゅよう、Brain tumor)とは、疾病のひとつで、頭蓋内組織に発生する新生物(腫瘍)のことを意味する。すなわち、脳腫瘍は脳細胞だけでなく、硬膜クモ膜、頭蓋内の血管末梢神経、その他の頭蓋内に存在するあらゆる組織から発生する。発生頻度は毎年約100,000人に12人の割合であるとされている。疫学的には「齲歯の未治療期間」との相関性が指摘されている[要出典]が、具体的な発生要因は明らかではない。

目次

[編集] 症状

脳腫瘍は通常何らかの症状が出現したときには、すでに腫瘍はある程度の大きさに成長しているため、脳浮腫を引き起こしている場合がほとんどであり、頭蓋内圧亢進症状すなわち、頭痛吐き気嘔吐等を起こすとともに、発生部位によっては局所症状として視野欠損難聴、運動麻痺、言語障害などを伴うことがある。また皮質に病巣がある場合はけいれん発作を起こす場合が少なくない。なお、頭痛は朝起きてすぐが最も痛みが強く、morning headache と呼ばれる。

女性の場合は(時には男性も)初期徴候として、妊娠していないにもかかわらず、母乳が出る(乳汁漏出)というものがある。これは乳汁分泌ホルモンプロラクチン)の過剰産生によるもので視床下部、脳下垂体の機能障害によるものとされ、トルコ鞍近傍の腫瘍に特徴的にみられる(参考

[編集] 分類

脳腫瘍は、前述のように多種多様な組織から発生するため、分類には発生母地を基準にした、世界保健機構 (WHO) による脳腫瘍組織分類 (histological typing of tumours of the central nervous system) が世界的に用いられており、2000年度版では

  • 神経上皮組織性腫瘍(神経膠腫、脳室上衣腫、神経細胞性腫瘍、胎児型の神経外胚葉性腫瘍など)
  • 神経鞘性腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫など)
  • 髄膜性腫瘍(髄膜腫、その他の間葉性腫瘍など)
  • リンパ腫および造血細胞性新生物
  • 胚細胞性腫瘍(胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、奇形腫など)
  • トルコ鞍部腫瘍
  • 転移性腫瘍

に大別された、約130種類の脳腫瘍の組織型が定義されている。

[編集] 悪性度

一般に、脳腫瘍における病理組織学的な悪性度も、組織型の分類と同じくWHOによる分類法が利用されており、悪性度が最も低いことを意味するGrade Iから最悪のGrade IVまでの4段階に分類して、個々の腫瘍と対比している。この悪性度と発生部位には関連性があり、一般に脳外 (Extra-axial) の場合は比較的良性の場合が多く、逆に脳内 (Intra-axial) の場合は悪性である可能性が高い傾向にある。WHOのGrade Iとは限局性で良性、Grade IIとは浸潤性であるが低悪性(細胞異型のみ)、Grade IIIとは退形成性(細胞異型と核分裂像)、Grade IVは悪性(細胞異型、核分裂像に加え、微小血管増生、壊死)である。このGradeは予後に相関すると考えられており、治療法の選択に影響する。

ただし、脳腫瘍はその発生場所が、脳という生命維持に重要な器官であり、かつ丈夫な頭蓋骨に囲まれた狭い場所であるという特殊条件ゆえに、前述の病理学的なものだけで判断するのは好ましくなく、臨床的な立場で悪性度を考える必要がある(例えば、病理学的にはGrade I=良性腫瘍であっても、頭蓋内圧亢進から脳ヘルニアを起こして致命的となりうる)。すなわち、腫瘍の発生部位、大きさ、浸潤性(後述)であるかどうか、放射線もしくは薬剤に対する反応性などを考慮する必要性がある。なお、脳腫瘍には基本的には病期 (Stage) という概念は存在しない。

浸潤性
浸潤性(しんじゅんせい)とは腫瘍の成長の仕方のひとつで、周囲の正常組織に分け入って、あたかも正常細胞を腫瘍細胞に置き換えていくように成長することをいう(対義語が「膨脹性」で、周りの組織を圧排しながら成長するのみであることをいう)。すなわち、腫瘍と非腫瘍の境界が不明瞭であるため、この特性を持った腫瘍を全摘出しようとすると、同時に正常な細胞組織をも摘出しなければならないことになる。言い換えれば、腫瘍の全摘出が極めて困難であることを意味する。
退形成
退形成(たいけいせい)とは腫瘍細胞の分化度がより未分化であることを示している。未分化であるほど増殖速度が早く、また特異的マーカーに乏しく治療しにくいと考えられている。

[編集] 発症年齢による分類

小児に多い脳腫瘍
(小脳)髄芽腫頭蓋咽頭腫胚細胞腫、脳室上衣腫、松果体奇形腫
成人に多い脳腫瘍
髄膜腫、下垂体腺腫、神経膠腫、神経鞘腫

つまり、子供が両耳側半盲を訴えたら、頭蓋咽頭腫や胚細胞腫を疑い、成人が同じように両耳側半盲を訴えたら、下垂体腺腫を疑うのが通常である。頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、下垂体腺腫はいずれもトルコ鞍部に好発するため、両耳側半盲で気づくことが多い。これはこの部位の腫瘍は重篤な脳ヘルニアを起こしにくく、慢性進行性の頭痛などを主訴にしにくいからである。

[編集] 発症部位による分類

テント上腫瘍
神経膠腫、髄膜腫、第3脳室の上衣腫など。基本的に成人に多い。
テント下腫瘍
髄芽腫、上衣腫、星細胞腫、神経鞘腫など。基本的に子供に多い。

こういった部位は脳ヘルニアの起こし方などにも関わってくる。

[編集] 放射線感受性による分類

放射線感受性が高い腫瘍
胚細胞腫、髄芽腫、脳室上衣腫
放射線感受性が低い腫瘍
神経膠腫、髄膜腫、血管芽腫、頭蓋咽頭腫など

[編集] 特徴的な画像所見

頭蓋咽頭腫は高頻度に石灰化がみられる。髄膜腫もしばしば石灰化を伴い、造影剤使用CTまたはMRIGd造影T1強調画像)で、均一な増強効果を認める("dural tail sign" - 硬膜と腫瘍の付着 - が特徴)。神経膠腫は脳実質との境界が不鮮明で、造影すると不均一な濃染像、またはリングエンハンスメントが認められる(膠芽腫)。他にリングエンハンスメントがある疾患には脳膿瘍転移性脳腫瘍があげられる。悪性度の低い神経膠腫(星状細胞腫など)は、一般的に造影効果が低い。

[編集] 代表的な治療法

脳腫瘍の治療において使用される治療法は基本的に外科手術であるが、他に放射線療法化学療法といったものがあり、それぞれの特徴や現状などについて簡単に述べる。

[編集] 外科手術

脳腫瘍の治療において最も効果的かつ最も用いられているのが手術により、外科的に腫瘍を摘出することで、良性腫瘍の場合、腫瘍を全摘出できれば完治が可能である。発生した部位によっては取り除くと手足の自由が損なわれる結果となる可能性もあり、どこまで摘出できるかの判断が必要である。現在では技術の発展により、コンピュータで施術位置をリアルタイムに知ることができるようになっており(ニューロナビゲータ)、その治療性成績は向上しつつある。

[編集] 放射線療法

放射線治療は放射線を使って腫瘍細胞を破壊するもので50~60Gy(グレイ)を十数回に分けて照射するのが一般的である。放射線感受性の高い(効果の現れやすい)腫瘍には胚細胞腫、リンパ腫、髄芽腫などがあり、これらの中で胚芽腫は特に感受性が高く放射線照射のみで治癒する場合もある。また、一部の腫瘍ではガンマナイフ (γ-knife) やサイバーナイフ (Cyber Knife) と呼ばれる患部に集中的に放射線を浴びせる機械を使用した治療が行われる。

[編集] 化学療法

化学療法は薬剤を使用して腫瘍の縮小させる方法であるが、脳には血液脳関門 (BBB; blood-brain barrier) と呼ばれる異物の進入を阻害する機構があるため、薬剤が目標箇所に到達しにくいという問題を抱えている。このため、血液脳関門を突破可能な脂溶性薬剤の使用が中心で、腫瘍の多様性ゆえに多剤併用療法が基本となっている。

[編集] その他

その他の治療法としては、生体の免疫作用を高めて、腫瘍の成長を阻害する免疫療法(BRM; biological response modifiers 生体応答調節剤)や遺伝子療法、さらには重粒子線陽子線を用いるものや温熱療法などが考案されているが、現段階ではこれらはあまり期待できるものではない。

[編集] 基本的な治療方針

脳腫瘍はこれまで述べてきたように、多種多様の腫瘍から成り立っているため、当然ながらその治療法も個々の腫瘍によって差異がある。そのため、ここでは具体的な腫瘍に対する記述を避け、良性の場合と悪性の場合における基本的な治療方針といったレベルの記述にとどめる。

[編集] 良性腫瘍

良性腫瘍の場合、腫瘍を全摘出できれば完治が可能で、しかも再発することは基本的にないため、ほとんどの場合手術により腫瘍を摘出する。ただし、良性腫瘍は摘出に高い技術を要する。頭蓋底部に発生することが少なくないため、麻痺や視野欠損といった神経脱落症状に注意する必要がある。

[編集] 悪性腫瘍

悪性腫瘍は現在のところ、いかに「人間として行動できる時間(Useful life もしくは QOL; Quality of life)」を延ばすことができるかというのが治療における最大の焦点となっている。日本における具体的な治療の流れとしては、手術によりできる限り腫瘍を取り除いたあと、放射線治療化学療法などの補助療法を併用し、再発した場合は再び切除を行うというものである。しかし、医学の発達にもかかわらず生命予後の改善は芳しくなく、特に悪性グリオーマの場合は、いかなる手段を講じても、その平均余命は1年程度に過ぎない[1]。再発と手術を繰り返し、最後には脳の半分がなくなってしまうケースも多々ある。日本国外では考え方や医療制度の関係もあって、悪性腫瘍という診断がついた時点で、積極的治療を断念するのが主流のようである。

[編集] 脚注

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  1. ^ 悪性グリオーマを発症した脳外科医と、彼の妻による闘病記が残されている(岩田隆信『医者が末期がん患者になってわかったこと』、岩田隆信、岩田規子『続・医者が末期がん患者になってわかったこと』)。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク