トランスミッション

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後退ギア付き5速トランスミッション(2009年式フォルクスワーゲン・ゴルフ

トランスミッション(: transmission)は変速ギアや推進軸などからなり、動力をエンジンから活軸へと伝達する組立部品(ASSY)である[1]。歯車の組合せにより回転速度とトルクの変換を行い、回転動力を動力源から他の装置に伝達するものはギアボックス(: gear box)とも呼ばれる[2][3]。イギリス英語では「トランスミッション」はギアボックスやクラッチ、プロペラシャフト、デファレンシャル、ドライブシャフトといった駆動伝達経路全体を指す。一方、アメリカ英語では「ギアボックス」は速度とトルクを変換する装置のすべてを指し、「トランスミッション」は自動車などの、減速比が変更できるギアボックスの一種として区別される。日本語では変速機または変速機構とも呼ばれる。

概要

動力発生源(人力やエンジンなど)で生み出された動力を使用する際、動力発生源から直接使用する場合は1本の軸などで伝達すれば済む。しかし、動力発生源と出力軸の間で、希望する回転速度や回転方向、トルクなどが異なる場合に、歯数の異なる歯車(ギア)などを組み合わせて希望する出力を得られるようにするための装置をトランスミッションと言う。

多くの場合、トランスミッションは複数のギア比を持ち、速度変化に応じて切り替えることができる。この切り替えは運転者による手動で行われる場合や、自動で行われる場合がある。前進や後退などの方向の制御も行われる。単に原動機の出力の速度とトルクを変更するだけのシングルレシオトランスミッションもある。

機構

動力発生源などの入力軸と、車軸などの出力軸との間に、単数あるいは複数の歯車などを介入させることにより、入力された力の回転数や回転方向を調整・操作し、トルクや回転数を変化させる役割を担う。なお動力発生源には人力やエンジンなどの内燃機関、電動機などの他に、火力、水力、風力なども挙げられる。

通常、歯車を歯数の異なるものに切り替えることで変速を行うが、歯車の代わりにベルトなどを用いた無段変速機構や、フルードなどの流体を用いた物も存在する。

なお、変速作業は当初人間などが手作業で切り替えていたが、自動化装置の進歩により自動的に最適な出力を得られる自動変速機構もさまざまな場所で使用されている。代表的な事例に挙げられるのが、自動車のマニュアルトランスミッション(手動変速機構)に対するオートマチックトランスミッション(自動変速機構)である。

従来のギアとベルトのトランスミッションだけが、速度やトルクの適応のための機構ではない。それに取って代わる機構として、トルクコンバーターや動力変換(ディーゼル・エレクトリック方式や油圧装置など)も含まれる。混成による形態もある。

使用例

自動車(乗用車商用車)、オートバイ自転車建設機械ベルトコンベアエレベーターエスカレータークレーン車椅子ロボット、その他様々な用途で動力変換に使用される。

種類(自動車)

変速機を備える物のうち、最も生活に身近でかつ様々な種類を有するのが自動車である。

最も一般的な利用は自動車への利用で、内燃機関の出力を駆動輪に適応させる。内燃機関は比較的高い回転速度で運転する必要があり、発進や停止、低速走行には不適切である。トランスミッションはエンジンの高速回転を車輪の低速回転に減速し、その過程でトルクを増幅する。トランスミッションは自転車や定置式の機械など、回転速度とトルクを適応させる必要のあるさまざまな場所でも利用されている。自動車への利用では、トランスミッションは一般的にエンジンのクランクシャフトに接続される。トランスミッションの出力はドライブシャフトを通じて1つ以上のデファレンシャルへ伝達され、車輪を駆動する。デファレンシャルも減速を行う場合があるが、その第一目的は回転方向の変更である。

元々、一般大衆的には自動車のトランスミッションと言えば「マニュアルトランスミッション(MT)」か「オートマチックトランスミッション(AT)」かの2つだけが区別されてきたが、実際にはその他にもMTの構造を基に、クラッチ操作のみ(あるいはクラッチ操作と変速操作双方)を自動化した「セミオートマチックトランスミッション(セミAT)」などと称される物や、「CVT」と呼ばれる無段変速機、奇数段と偶数段別々に2つのクラッチ系統を有する「デュアルクラッチトランスミッション(DCT)」が採用される。

マニュアルトランスミッション(MT)

歯数の異なる歯車の組合せにより、動力を希望する回転数やトルクに変換して伝達する。多くの場合、歯数の異なる段(ギア)に変速する際に動力の伝達を一旦途切れさせるため、クラッチ機構が備わっている。

自動車用の変速機としては最も基本的な機構で、自動車の普及と供に広く採用されてきた。しかし、操作の煩わしさなどから年々採用例が減り、一部の用途を除き需要は減っている。例えば日本では、2007年度の乗用車の新車販売台数におけるシェアは3%未満であった。日本では「マニュアル」や「MT」と略されることが多い。

ノンシンクロトランスミッション
MTを基にした変速機の一種。構造のほとんどがMTと同一だが、通常MTに装備されている変速段間の同調を取る「シンクロメッシュ機構」を持たず、代わりに「ドグクラッチ」と呼ばれる噛み合わせ機構を持っている、常時噛み合い式の変速機である。
通常MTでは噛み合わせに要していた僅かな時間が不要となるため、変速時間をより短縮できることから、競技用を中心に極一部で採用されている。
日本では「ドグミッション」と称される場合もある。

オートマチックトランスミッション(AT)

MTのクラッチ操作と変速操作の煩わしさから解放されるため、MTに代わり広く採用されている。主に採用されている機構の基本的な構造としては、クラッチの代わりに流体継手の一種であるトルクコンバーター(トルコン)遊星歯車機構を組み合わせた物である。クラッチ操作が完全に不要で、また変速も自動で行われるので運転に対する負荷が劇的に減った。日本では「オートマ」や「AT」と略されることが多い。

なお、旧来は一般的にATと言えば、上述のトルコンと遊星歯車機構を組み合わせた変速機のことを指していた。しかし後述のセミATやDCTのほとんどがクラッチ操作と変速操作を自動で行い、操作・特製上はほとんどATと同様の動作をするため、それらがATの一種として扱われるようになった。従ってATという言葉の持つ定義は年々変わってきている。

そのため、一部では旧来からのATであるトルコンと遊星歯車機構を組み合わせた物を、簡易的に「トルコンAT」と称し始めている。

マニュマティック(Manumatic
トルコンATの機構をそのままに、ギヤの選択を運転者が任意で選択することが出来る機構を備えた変速機を指す。従って、あくまでトルコンATの一種であり、特性もトルコンATに準じる。後述のCVTを基にした物も存在する。日本では「MTモード付きAT」や「スポーツAT」と称されることが多い。
1990年代に、従来のトルコンATにスポーツ性を付加する目的で登場した。なお、「Manumatic」は英語圏における「Manual」と「Automatic」の混成語である。
セミオートマチックトランスミッション(セミAT)
MTの構造を基に、クラッチ操作のみ、あるいはクラッチ操作と変速操作の双方を自動化した変速機で、主に前者は大衆車など、後者はスポーツカーなどを中心に採用が広まった。現在流通しているセミATの多くは、クラッチ操作と変速操作は完全に自動化されており、手動での任意変速も受け付ける。
ただし、元々は自動車の黎明期から存在した機構であり、当時はクラッチの断続のみを自動化した装置であったことから、本来はその形式をセミATと分類していた。その後、ATは上述のトルコンATが主流となって発展してきた経緯があるため、現在ではそれに対してセミATがMTベースであることを区別する目的で、クラッチ操作と変速操作の双方を自動化した機構も同義的にセミATとして扱われている。
日本では「セミオートマ」や「セミAT」と略されることが多い。また、機構がMTの上に成り立っていることから「ロボタイズドMT」や「オートメイテッドMT」、「AMT」などと称されることもある。
デュアルクラッチトランスミッション(DCT)
市販車には2003年に初搭載された新しい機構で、クラッチと段数毎に纏まった歯車セットの組み合わせという点ではMTと同様だが、奇数段のギアを受け持つ出力軸と、偶数段のギアを受け持つ出力軸を別に持ち、それぞれにクラッチを配置することからデュアルクラッチと呼ばれる。
クラッチを繋ぎ替えるだけで変速が完了するので、変速によるタイムラグおよび動力損失が小さく、スポーツ走行に適している。また、燃費や乗り心地(変速ショック)の面でも優位である。欧州車では普及価格帯の車種から高額スーパーカー迄幅広く採用され、現在採用事例は急増している。また米国車でも普及価格帯での採用予定されている。日本車ではスポーツ性能を謳う一部の高性能車、及び一部の小型トラックで採用されている。
なお、多くのセミAT同様、クラッチ操作と変速操作は完全に自動化されており、手動での任意変速も受け付ける。
日本では「デュアルクラッチ」や「ツインクラッチ」、「DCT」と称されることが多い。
無段変速機(CVT)
歯数の異なる歯車を組み合わせて変速段を持たせた有段変速機とは異なり、主にベルトやチェーンとプーリーとの組合せなどにより、入力軸からの変速比を無段階的に連続変化させ伝達する機構。
出力軸側で希望される回転数やトルクの大きさに関わらず、入力側の最大効率回転数を維持できることから、エンジンの最も効率の良い回転域を多用できる。また、減速時に停車直前まで滑らかにトルコンのロックアップを持続させることが可能なため、燃費やパワー効率の面でメリットがある。許容トルクの問題から従来は小型車向けの機構であったが、現在では改良が進み、排気量2,000cc以上の車にも搭載されるようになった。
しかし一方で、近年では幅広い回転域で効率よく稼働するエンジンが増えてきたことにより、CVTの優位性は僅かながら減ってきている[4]
英名の「Continuously Variable Transmission」を略し「CVT」と称されることが多い。

脚注

  1. ^ Merriam-Webster dictionary
  2. ^ J. J. Uicker, G. R. Pennock, and J. E. Shigley, 2003, Theory of Machines and Mechanisms, Oxford University Press, New York.
  3. ^ B. Paul, 1979, Kinematics and Dynamics of Planar Machinery, Prentice Hall.
  4. ^ WEBCG掲載のVW社DSG開発エンジニアインタビュー記事参照。[1]

関連項目