クイーン・エリザベス級航空母艦

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クイーン・エリザベス級航空母艦
Queen Elizabeth aircarft carrier.png
イメージ図
艦級概観
艦種 航空母艦
艦名 王族の名前
建造期間 2009年 -
就役期間 2017年 -
前級 インヴィンシブル級航空母艦
性能諸元
排水量 基準:45,000 t
満載:70,650 t[1]
全長 284 m
全幅 39.0 m
吃水 9.9 m
機関 統合全電気推進(IFEP)
MT30ガスタービンエンジン
(36 MW/48,000 hp)
2基
バルチラ社製ディーゼルエンジン
9 MW (12,000 hp)×2基
11 MW (15,000 hp)×2基
4基
コンバーチーム社製電動機
(20 MW/27,000 hp)
2基
推進器 2軸
機関出力 107,280 hp (80.00 MW)
速力 最大 26ノット
航続距離 10,000海里(18,520km)
乗員 操艦:767名 航空要員:610名
司令部要員:95名
兵装 ファランクスCIWS 3基
30mm単装機銃 4基
M134ミニガン 多数
搭載機 F-35B 約30機
各種ヘリコプター 約10機[2]
レーダー S1850M 長距離捜索用
997型「ARTISAN 3D」
中距離対空・対水上捜索用

クイーン・エリザベス級航空母艦 (クイーンエリザベスきゅうこうくうぼかん、英語: Queen Elizabeth-class aircraft carrier) は、イギリス海軍で配備が予定されている航空母艦の艦級。英海軍史上最大の軍艦であり、現在開発中であるF-35統合打撃戦闘機ヘリコプターの搭載を予定している。計画当初はCVFと称されていた。

来歴[編集]

イギリスインヴィンシブル級軽空母の後継として、CTOL機運用も考慮に入れた次世代空母の模索を1990年代から進めており、1998年国防戦略見直しで研究が正式に承認された。CVF計画 (Carrier Vessel Future programme) と名づけられた次世代空母の建造に、防衛産業6社から請負と設計の提案があり、翌年には自国企業のBAEシステムズ社とフランスに本拠地を置くタレス・グループの2社に絞られた。

設計調査[編集]

1999年1月25日ボーイングブリティッシュ・エアロスペースロッキード・マーティンマルコーニ・エレクトロニック・システムズレイセオントムソン-CSFの6社が計画の事前調査に招かれた。[3]

1999年11月23日国防省は詳細な調査をBAe(1999年11月30日にBAEシステムズに改名)とトムソン-CSF(2000年トムソングループに改名)に任せた。30から40機の次期統合軍用機(FJCA)を運用する6案が提出された。[4]

検討された設計と搭載機の仕様[5]
STOVL STOBAR CATOBAR ハイブリッド(折衷案)
F-35B タイフーン海軍仕様 F-35C
F/A-18E/F
ラファールM
蒸気カタパルトアレスティング・ワイヤーを必要とせず、イギリスはSTOVL技術の運用経験の優位がある。この場合、積載量が増大。(CATOBAR航空母艦と同規模)[6] [7][8] この方法は従来の機体を運用できる。STOVL機よりも優れた機体を運用できる。CATOBAR設計を採用した場合よりも運用効率が高い。
不利な点は、F-35よりもステルス性に劣る事。
カタパルトとアレスティング・ワイヤーを設置したアングルド・デッキを使用する。F/A-18E/FまたはラファールMの運用に適する。
この方法は、航空機・航空母艦共に従来の経験が活用でき、技術上のリスクを減らす事ができる点である。
一方、運用費が高く縮小されつつある防衛費では維持する事は困難。
BAEの提出した案は、カタパルトでCATOBAR機を、スキージャンプ式でSTOVL機を発艦させ、両方ともアングルド・デッキにアレスティング・ワイヤーを使用して着艦させるという物である。
この設計の優位は、STOVL機とCATOBAR AEWを運用できる事。

当初計画[編集]

2002年にイギリス海軍とイギリス空軍STOVL機であるF-35B ライトニングIIの導入を発表した。これにより次世代空母がSTOVL機の運用に適していることが必要になり、また前級よりも搭載機の要因から大型であることが重要となった。結局、翌年に採用されたのは排水量がインヴィンシブル級の3倍もあるタレス・グループのデザイン案であったが、一方、産業育成・雇用推進などの面から、主契約者は自国のBAEシステムズとなった。同年、イギリス国防省とBAEシステムズ、タレスUK社はエアクラフト・キャリア・アライアンス(ACA)コンソーシアムを結成、2005年にはバブコック・マリン社とVTグループも加わった。その後、2008年にVTグループの造船部門がBAEシステムズに売却されたことで、ACAコンソーシアムの構成企業は3社となり、またタレスUK社はイギリスに造船所を持たないことからおおむね設計面の関与にとどまり、実際の建造は主としてバブコック・マリン社とBAEシステムズ社によって行われることとされた。ただしACAコンソーシアムに加盟していなくとも、直接・間接的に関与する企業は多く、元請け(ティア1)の両社から請負契約を受けるティア2、そこから更に下請けを受けるティア3があり、ティア2の企業だけでも計96ヶ所の企業/工場が参加している[9]

本級はブロック工法を採用しており、25個のブロックを7ヶ所の造船所が分担して建造することとされている。2009年7月、グラスゴー近郊のBAEシステムズ・クライド造船所で工事が開始された。これらのブロックは、ロサイスのバブコック・マリン社で最終的に組立てられる計画とされた[9]。船体は4つのセクションがポーツマスロサイスバローグラスゴーで建造される。バブコック社のロサイスを除き、2008年以降はBAEシステムズVT グループの合併事業BVT サーフェス・フリートが請け負っている。最終組み立てを行うロサイスの1号乾ドックではクイーン・エリザベスとプリンス・オブ・ウェールズのために改修工事が進められている。[10]

また、この段階では3隻のインヴィンシブル級を2隻のクイーン・エリザベス級で代替する予定であった。さらに本開発計画は、原子力空母シャルル・ド・ゴール」の姉妹艦となる次期空母を求めていたフランス海軍の興味をひき、共同開発の動きがあったが、フランス政府は導入決定を先送りしている。このことが本級の価格高騰の原因にもなっている。

計画の大幅な変更[編集]

2010年10月25日、戦略見直し事業に伴いイギリス海軍は、クイーン・エリザベス級の内の1隻の調達を断念すると発表した。艦載機を航空母艦1隻分にすることで、高騰するF-35のコスト76億ポンドを含む82億ポンドを削減でき、2番艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を、2018年に退役する揚陸ヘリ空母(ヘリコプター揚陸艦)「オーシャン」の代替艦にすることで、さらに6億ポンドの削減になると見積もられている。同時に開発が遅延・高騰化しているF-35は、短距離離陸垂直着陸機のB型から通常離着陸機のC型に変更することが発表された。そのため1番艦「クイーン・エリザベス」は、2016年に電磁式航空機発艦システム(EMALS)を搭載せずヘリ空母として完成し、EMALSを搭載した「プリンス・オブ・ウェールズ」の2019年就役を待って予備役編入の予定とされた[11]。さらに11月25日には、英『ガーディアン』電子版が、「プリンス・オブ・ウェールズ」がインド海軍に売却される可能性があると報じた[12]

2012年5月10日イギリス政府は、C型の実戦配備が2023年まで遅れる見込みのため再度B型に変更すると発表した[13]。またハモンド国防相は、F-35B型に変更されることにより、電磁式カタパルトアレスティング・ワイヤーを装備しないことを示唆している。

2012年5月現在の段階では、2020年頃以降に2隻ともがSTOVL空母としての運用能力を得る予定である[2]。しかし、1番艦の建造も遅延しており、艦自体の就役は2017年になる予定である[14]

設計[編集]

船体[編集]

上記の検討の結果、本級はSTOVL空母としての設計を採用している。外見的な特徴としてアイランド(艦橋構造物)が航海・作戦用と航空管制用の2つに分割して設置されており、抗堪性を確保すると共に、各アイランドに煙突を配置することで機関から排出される排気の通路を短縮し、給排気系の軽量化と排煙の影響の軽減を達成している[15]

飛行甲板下の主船体は9層の甲板から構成されており、各甲板の高さは最小3メートルと、かなりの余裕が確保されている。船首部は大型商船に近いバルバスバウとされた。インヴィンシブル級と比して大幅に大型化しているが、高度な自動化により、乗員は約600名と、15名程度の増加に留まっている。またインヴィンシブル級と同様に商船建造技術が各方面に導入されているほか、構造面ではロイズ軍艦規則(Lloyd's naval ship rules)が広く適用されている[15]

主機[編集]

本級は、45型駆逐艦と同様の統合電気推進(IFEP)方式を採用している。2基のガスタービン発電機と4基のディーゼル発電機から4基の推進電動機に電力が供給され、2基ずつの推進電動機が減速機を介して左右2軸を駆動する。タービン発電機としては、当初は45型と同型のノースロップ・グラマン/ロールス・ロイス WR-21が検討されたが、出力面の問題から、ロールス・ロイス社製マリン・トレント MT30ガスタービンエンジンが採用された。なおこれにより、本級は、世界最大のガスタービン推進艦となる[15]

航空運用機能[編集]

当初計画によると、F-35B ライトニングIIとヘリコプターをあわせて最大48機の搭載を予定していたが、上記のようにF-35はB型からC型、再度B型に変更されている。ヘリコプターは哨戒型マーリン HM.1早期警戒型のAEW.7をアップグレードしたシーキング ASaC.7攻撃型アパッチ AH Mk 1を予定しているが、V-22の搭載と運用も視野にいれて設計されている。

前後のアイランドの直後に1基ずつ、計2基のエレベーターが、いずれも舷側式に設置されており、これらはいずれも力量70トンで、F-35Bを同時に2機昇降できる。格納庫は第2・3甲板の2甲板分の高さを確保しており、前方アイランドの直下から後方に、長さ163メートル(船体長の58パーセントにあたる)、幅29メートル、高さ7.1〜9メートルとされている。標準的な合計搭載機数は約40機、20機を格納庫に収容するとされている[15]。最大で24機を15分で発艦させ、24分で着艦させることができるとされており、ソーティ・レートとしては、24時間にのべ110機、5日間にのべ420機と予測されている[16]

STOVL空母とされていることから、滑走エリアはインヴィンシブル級と同様、首尾線と平行に設定されており、その先端部、飛行甲板の左舷前部には13度の傾斜をもつスキージャンプ勾配が設けられている。ブラスト・デフレクターはスキージャンプから160メートルの位置に設けられている。また飛行甲板は左舷側に大きく張り出しており、将来的にアングルド・デッキを設定してCATOBARSTOBAR方式に対応することも可能と見られている[16]

運用[編集]

同型艦[編集]

# 艦名 起工 進水 就役 現状
R08 クイーン・エリザベス
HMS Queen Elizabeth
2009年
7月7日
2014年
7月4日
2017年予定 建造中
R09 プリンス・オブ・ウェールズ
HMS Prince of Wales
2011年
5月20日
2020年予定[1]

ドック[編集]

ポーツマス海軍基地デヴォンポート海軍基地にも、あまりにも大型かつ過重な船体を収容できる乾ドックがなく、当面はハーランド・アンド・ウルフなど民間企業が保有するドックを頼らざるを得ず、ドックの拡張や新設は大幅な出費を強いられるという問題を抱えている。

出典[編集]

  1. ^ a b 「写真特集 世界の空母 2013」、『世界の艦船』第783号、海人社、2013年9月、 21-59頁。
  2. ^ a b 世界の艦船』2012年9月号
  3. ^ Nicoll, Alexander (1999年1月26日). “US companies bid for $2.5bn ships deal”. Financial Times 
  4. ^ “Shipyard in running for Navy contract”. Belfast Telegraph (Belfast Telegraph Newspapers). (1999年11月24日) 
  5. ^ Joint Combat Aircraft - Navy Matters
  6. ^ F-35 Program brief (PDF)
  7. ^ F/A-18 US Navy fact file
  8. ^ F/A-18 Hornet page on Aerospaceweb.org
  9. ^ a b 岡部いさく「英新空母「クイーン・エリザベス」級のブロック建造方式」、『世界の艦船』第783号、海人社、2013年9月、 100-103頁。
  10. ^ Harding, Thomas (2007年7月26日). “£4bn carriers 'will be jewel in Navy's crown'”. The Daily Telegraph. Telegraph Media Group Ltd. 2007年7月27日閲覧。
  11. ^ 『世界の艦船』2011年12月号 海外艦艇ニュース
  12. ^ 「海外艦艇ニュース 英海軍がクイーン・エリザベス級空母を1隻断念」『世界の艦船』第719集(2010年2月号)海人社
  13. ^ 英国:F-35戦闘機の機種変更 開発3年遅れで 毎日新聞 2012年05月12日
  14. ^ 建造進む英新空母「クイーン・エリザベス」『世界の艦船』第785集(2013年10月号)海人社
  15. ^ a b c d 「起工近付く英「クイーン・エリザベス」級 (特集・ベールを脱いだ英仏新空母)」、『世界の艦船』第688号、海人社、2008年4月、 80-89頁、 NAID 40015874841
  16. ^ a b 岡部いさく「どうなる!? 英仏新空母建造計画 (特集 世界の空母2010)」、『世界の艦船』第724号、海人社、2010年5月、 110-115頁、 NAID 40017036578

外部リンク[編集]

関連項目[編集]