砕氷船

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ドイツの極地調査用砕氷船「Polarstern」号
1.5mまでの氷で覆われた海域を5ノットで航行できる

砕氷船(さいひょうせん)は水面のを割りながら進む船のこと。砕氷船は北極海南極海、凍結河川など氷で覆われた水域を航行するために、構造の強化や砕氷設備など特別に設計・建造されている。砕氷船の多くは軍用、あるいは探査用であるが、一般の商船や観光用のものもある。

目次

[編集] 概要

砕氷船の特徴としては頑丈な船体と氷に乗り上げて割るのに適した船首や幅広な中央船体、氷の圧力を下方へ逃がすための船底の特殊な形状、そして強力なエンジンを持つのが一般的である。

大型船では船内で発電した電力を使って推進用の電動機を駆動する電気推進システムを採用する船も多く、これは内燃機関蒸気タービンの回転力をそのまま推進器に与えるよりも、電動機の方が低回転数時の発生トルクが大きいため、氷をゆっくりと割って低速で進む砕氷船に適しているためである。また割った氷と船体表面の摩擦を軽減するため、船底に特殊な塗料を使ったり、海水を放水したりすることがある。

極地探査用の船では特に砕氷能力が強化されており、船体を前後左右(ピッチングローリング)に傾け氷に乗り上げ重量で割る機能も持つ。船体を傾ける方法としては、燃料タンクを前後左右に分散しその間の燃料の移動で行うというものが多い。

優秀な砕氷船を多数保有しているのは、氷海に面した多くの港を持つロシア連邦である。原子力砕氷船も数隻保有している。

[編集] 分類

北極圏に海を持つ国の貨物船の多くが多少の砕氷能力を備えているが、これらは砕氷専用の船と共に行動し船団を構成して氷海航行の効率化を図る。

[編集] 工学

砕氷船は北極海や南極海、凍結河川などの高緯度地域での氷水面で活動するために、船体や推進器に特別な設計が取り入れられている。

砕氷船は「ラミング」(Ramming、衝角で突いて押し込む)と呼ばれる前進方法を採ることがある。スクリュー・プロペラが生み出す前進推力が砕氷によって阻まれ船体が停止した場合に、一度後進をかけて後ろへ下がり、改めて全力前進によって氷を砕き、これを何度も繰り返して航路を開く方法である。「チャージング」(Charging)とも呼ばれる。

初期には外輪によって氷を砕きながら進む砕氷船や、米国や欧州の砕氷船のように船尾だけでなく船首にもスクリュー・プロペラを備えて氷を砕くことに利用する船もあったが、21世紀の現在では船尾にのみスクリュー・プロペラを備える砕氷船だけである。

スクリュー・プロペラに氷塊が接触してプロペラ先端が氷をらせん状に刻んでゆく「ミリング」(Milling)と呼ばれる状態になると、氷を削る「アイストルク」分だけエンジンや電動機による回転力が減殺されて回転数が低下し、アイストルクがプロペラ駆動力を上回れば回転が停止して推進力が奪われる。このため、ミリングに抗して回転を持続するためのアイストルクを上回る強力な動力機関が必要となる。

また、ラミング時には前進後進の繰り返しによる氷の乱れから、通常の前進時にはプロペラまで到達しない氷塊がプロペラに衝突することがあり、この時の衝撃に対応するためにプロペラを特に強固に造ったり、万一損傷を受けても推進力を全て失わないように複数の推進器を備えたり、乱流を減らすためにプロペラの回転を止めずに済む可変ピッチプロペラとする、プロペラをダクトで覆うなどの工夫がなされている。プロペラも修理が少しでも簡単に済むようにプロペラ翼単位で交換出来るように工夫されているものもある。また、この時生じるトルク(Ice impact torgue)がプロペラ翼、ボス、推進軸、推進機関へ与える繰返し疲労についても考慮される必要がある。

船首部は過去にはV字型のものが多かったが、V字型船首は進路前方の氷板の一部を割り開くことには優れていても、割られた氷の大きな塊はそのまま船体への抵抗を生み出すためにそれらを排除しながら進むための余分の推進力を必要とする。21世紀の近年ではV字型を改良した「スプーン型船首」や「バース・バウ」(Waas bow)を備える船が登場している。両船首共に船体が氷に乗り上げた力で、氷塊を小さく砕くことで船体との摩擦抵抗を減少させる。スプーン型船首では「リーマー」(Reamer)と呼ばれる船体幅以上に船首幅を広げた部分を備え、船首部を大きな矢じり形にしたものが多く、また、ドイツのWaas博士の考案したバース・バウでは船首船底部をキールに沿って左右に強い斜面とすることで氷塊そのものを左右に排除する機能を備えたものである。

ハル・ウォッシュ・システム(Hull wash system)は、海水を取り込んでポンプで船首部の氷板上に噴射して船首と氷板との摩擦を減らす装置である。これはスウェーデンの砕氷支援船「Oden」に採用されており、日本の2代目砕氷船「しらせ」にも搭載が予定されている。

考案中のアイデアとしては、セミサブ型として、船首をバルバス・バウのように下方に大きく突き出させて、氷塊を下から上に割ってゆくものや、氷海での貨物船向けの船首設計として、船首上部と下部に共に突出部を作る事で貨物満載時と空荷の時の両方で砕氷能力を持たせるものがある。大量の気泡を船底部から放出して船体前面に渡って氷との接触を減らすというアイデアも考案されている。

360度推力を自由に変更出来るポッド型推進器の採用によって氷海啓開作業を迅速に行なう船団護衛用砕氷船がある。通常の内燃機関からの回転推進軸を傘歯車によってスクリュー・プロペラまで伝達するものと、ポッド内部に電動機が内蔵されたものがある。ポッドを採用しない場合でも、電動機によって正転逆転を含めて回転力が自由になるため、主機関での回転力を一度、発電機によって電力に変換して、電動機を駆動する船が砕氷船に限らず多数登場している[1]

2代目「しらせ」の船尾船底部
1.アイスホーン 2.舵 3.アノード 4.ダクテッド・プロペラ

日本の砕氷船2代目「しらせ」では船尾の舵取付部に「アイスホーン」(Ice hoon)と呼ばれる角状の装備が付いている。

[編集] 歴史

[編集] 最初の砕氷船

1864年にロシアのフィンランド湾内のクロンシュタット(Kronstadt)港で建造された水先案内兼曳航船が砕氷型の船首を備えていたために蒸気機関で航行する世界初の砕氷船といわれている。その後、実際に使用できる砕氷船として建造された船は、1871年、ドイツのハンブルクで造られた「アイスブレイカー1/アイスブレッヒャー1」(Eisbrecher I、船長40.5m、592PS)である。

[編集] 北極圏

氷海を航行する船舶は、初期の極地探検の頃から考えられるようになった。初期の極地探検においては、耐氷船が用いられた。これは木造船舶において、水線部などを金属で覆い、強化するものであった。このような船殻の強化により、氷との衝突や結氷による船の圧壊を防ぐことが試みられた。

また、北極圏の氷海を船で渡ることが出来れば欧州と北米や欧州と極東アジアの間での交易による経済的な利益が見込めるため、古くから検討されていた。実際に欧州からシベリア北部経由でベーリング海までの北東航路(Northeast passage)を船で通過できたのは、「ヴェガ号」(Vega)で1878年~1879年の2年間かけてスェーデンのアドルフ・エリク・ノルデンショルド(Nordenskiold)が達成した。 欧州からカナダ北部を経由して極東アジアに抜ける北西航路(Northwest passage)を最初に船で通過したのは、1903年~1906年にノルウェーのロアール・アムンセン(Amndsen)がヨーア(Gjoa)号で達成した。

1977年には当時ソビエト連邦の原子力砕氷船「アークティカ」(Arktika)号が水上船として始めて北極海横断と北極点通過を成し遂げた。

[編集] ロシアの砕氷船

ロシアは「イェルマーク」(Ermak、船長98m、12,000PS)をはじめ、1900年頃から外航用の大型砕氷船を多数建造し就航させた。Ermak は船首にプロペラ1つ、船尾に3つを備えていた。 1932年にはアルハンゲリスク(Arkhangel'sk)からウラジオストック(Vladivostok)までの商業水路を開発した。

1937年~1940年は軍事活動として砕氷船の建造が行なわれ、キーロフ級(Kirov class、船長100m、10,400PS)が造られた。1957年には44,000PSの原子力砕氷船「レーニン」(Lenin)が建造された。

75,000PSの「アークティカ級」(Arktika class,約23,000t)の6隻の原子力砕氷船「アークティカ(Arktika)」「シビル(Sibir)」「ロシア(Rossiya)」「ソビエツキー・ソユーズ(Sovjetskij Sojuz)」「ヤマル(Yamal)」「戦勝50周年記念号(50 Let Pobedy)」を就航させている。

[編集] 日本の砕氷船

日本においては、海上保安庁に2隻、海上自衛隊に1隻、民間会社の流氷観光船に計3隻配備されている。海上保安庁に配備されている砕氷船は、春先のオホーツク海流氷により閉ざされた氷海域の航路啓開と、平時の警備救難活動を任務としており、航路啓開のエースとして活躍する「PLH そうや」と、「そうや」が入れない浅い海域と港湾内の航路啓開を任務とする「PM てしお」の計2隻である。海上自衛隊に配備されている砕氷船は、南極観測隊の輸送に使われる砕氷艦「しらせ」である。同艦はましゅう型補給艦が竣工するまでは海自最大の自衛艦だった。

大日本帝国海軍の砕氷船
鉄道省(稚泊連絡船)の砕氷船
亜庭丸:1945年、米軍の攻撃を受けて沈没
宗谷丸:1965年解体
海上保安庁の砕氷船
  • 砕氷船 宗谷(旧南極観測船、退役。船の科学館にて保存展示)
  • PLH01「そうや」(第一管区釧路海上保安部)
    • 砕氷能力:連続砕氷1.0m/3ノット
    • 建造:1978年
    • 総トン数:3,139t
    • 全長:98.6m
    • 全幅:15.6m
    • 出力:15,600馬力
    • 速力:21ノット
    • 航続距離:5,700海里
    • 武器:40mm単装機関砲×1、20mm単装機関砲×1
    • 搭載ヘリ:ベル212×1
    • 最大乗員:69名
  • PM15「てしお」(第一管区羅臼海上保安署)
    • 砕氷能力:連続砕氷0.5m/3ノット、最大0.75m
    • 建造:1995年
    • 総トン数:563t
    • 全長:54.8m
    • 全幅:10.2m
    • 出力:3,600馬力
    • 速力:14.5ノット
    • 武器:20mm機関砲×1
    • 最大乗員:35名
海上自衛隊の砕氷船
観光砕氷船「おーろら」(2007年2月)
観光砕氷船
北海道には、流氷観光用の砕氷船がある。

[編集] アメリカ合衆国の砕氷船

歴史的に、主な砕氷船はアメリカ沿岸警備隊で運用されている。現在、極地観測用、航路啓開用の砕氷船をアメリカ沿岸警備隊が、極地観測用の砕氷船をアメリカ国立科学財団が運用している。

[編集] アメリカ沿岸警備隊

  • ポーラー級砕氷船(2隻) 遠洋での砕氷、両極地での学術観測支援用。3ノットで約1.8mの連続砕氷能力を持つ。排水量13,200トン、全長122m
  • ヒーリー(単艦) 遠洋での砕氷、北極圏での学術観測支援用。ポーラー級の準同型艦。3ノットで約1.4mの連続砕氷能力を持つ。排水量16,000トン、全長130m
  • マッキノー(単艦) 五大湖の砕氷、航路啓開用。3ノットで約0.81mの連続砕氷能力を持つ。排水量3,500トン、全長73m
  • ベイ級砕氷船(9隻) アメリカ北西岸、五大湖の近海・港内啓開用。0.51mの連続砕氷能力を持つ。排水量662トン、全長42.7m

[編集] アメリカ国立科学財団

[編集] 氷山

日本語での「氷山」や英語での「Iceberg」も、世界気象機関(WMO)での海氷用語ではその大きさによって3つに分類される。いくぶん感覚的な指標であるが「Ship」サイズが「Iceberg」、「Small cottage」(小さな山荘)サイズが「Bergy bit」、「Piano」サイズが「Growler」とされている。砕氷船が Growler に当れば氷が砕けるかもしれないが、Iceberg や Bergy bit は避ける事が望まれる。

[編集] 出典

    1. ^ 野沢和夫著 「氷海工学」 成山堂書店 2006年3月28日初版発行 ISBN 4-425-71351-6

[編集] 関連項目

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