横田飛行場
横田基地 Yokota Air Base | |||||||||
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![]() 横田基地第2ゲート | |||||||||
IATA: OKO - ICAO: RJTY | |||||||||
概要 | |||||||||
国・地域 |
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所在地 | 東京都福生市、瑞穂町、武蔵村山市、羽村市、立川市、昭島市[1] | ||||||||
種類 | 軍用飛行場 | ||||||||
所有者 | 在日米軍 | ||||||||
運営者 | アメリカ空軍、航空自衛隊 | ||||||||
運用時間 | 24時間 | ||||||||
開設 | 1940年 | ||||||||
所在部隊 |
在日アメリカ軍司令部 在日アメリカ空軍司令部 アメリカ第5空軍司令部 アメリカ第5空軍第374空輸航空団 航空自衛隊航空総隊司令部 航空自衛隊航空戦術教導団司令部 アメリカ沿岸警備隊極東支部 | ||||||||
座標 | 北緯35度44分55秒 東経139度20分55秒 / 北緯35.74861度 東経139.34861度 | ||||||||
公式サイト | https://www.yokota.af.mil/ | ||||||||
地図 | |||||||||
飛行場の位置図 | |||||||||
滑走路 | |||||||||
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空港の一覧 |
横田飛行場(よこたひこうじょう)は、日本の東京都多摩地域中部にある軍用飛行場。航空自衛隊とアメリカ空軍の横田基地(よこたきち、英語: Yokota Air Base)が設置されている。
概要[編集]
大日本帝国陸軍の航空部隊の基地として開設され、第二次世界大戦中は、イタリア軍の大型輸送機の「サヴォイア・マルケッティ SM.75 GA RT」により、イタリアと日本の長距離飛行を行ったり[2]、大戦末期には首都圏防衛の戦闘機基地となった。
戦後連合国軍に接収され、以来在日アメリカ軍司令部および在日アメリカ空軍司令部と、アメリカ第5空軍司令部が置かれている、東アジアにおけるアメリカ軍の主要基地であり、極東地域全体の輸送中継ハブ空港(兵站基地)としての機能を有している。また朝鮮戦争休戦協定における国連軍の後方司令部も置かれている。
2012年3月からは、移転再編された航空自衛隊の航空総隊司令部なども常駐するようになり、日米両国の空軍基地となった。
拝島駅の北側で、東福生駅や牛浜駅の東側に位置し、福生市、西多摩郡瑞穂町、武蔵村山市、羽村市、立川市、昭島市の5市1町(構成面積順)に跨がっている。沖縄県以外では日本国内最大のアメリカ空軍基地であるが、沖縄県の在日米軍基地のように民有地の借り入れがなく、そのほとんどが国有地で占められている。
日米の軍用機の運用のほか、近年ではアメリカと同じく北大西洋条約機構(NATO)加盟国である、フランス空軍輸送機(エアバスA340-200型機)の、フランス本土からニューカレドニアなどのフランス海外県への移動の際に、テクニカルランディング地として使用されることもある。
東京都調べによる、2005年(平成17年)5月時点の基地関係者数は、軍人3,600人、軍属700人、家族4,500人、日本人従業員2,200人の、合計約11,000人である[3]。
アメリカ軍人および、その家族のアメリカ本土帰省用に、アメリカ軍と契約している航空会社の定期チャーター便(パトリオット・エクスプレス)の民間旅客機が飛来する。さらに、ユナイテッド航空やデルタ航空など、アメリカ国籍の航空会社の定期便ダイバートや、米本国間米軍チャーター (AMC) などで使用されることがある(通常は発着しないものの、何らかの理由によるチャーター便運行時や、ダイバート発生時に着陸できる許可を得ているため)。貨物便はカリッタエアなど、複数の航空会社が乗り入れている。
なお、日米地位協定により、アメリカ軍人・軍属・それらの家族は、出入国管理の搭乗手続きを必要としない。そのため、日本国内で犯罪を犯したアメリカ軍将兵や、軍を掌握するアメリカ高位高官が軍用機で出入国しても、それが日本側に告知されない限り、日本国政府はその事実を知ることができない。2017年には大統領専用機でドナルド・トランプアメリカ合衆国大統領(当時)が、2022年にはジョー・バイデン大統領が出入りしているが、これも法的には、アメリカからの出国や日本への入国を行っていない。
施設建設やメンテナンスのためなど、一時的に横田飛行場に入場する際には、入場者の日本国籍確認のため、運転免許証(ICカード化され本籍欄が削除されたため、本籍確認のため「2つの4桁暗証番号入力」が必要)、日本国旅券、住民基本台帳カード、マイナンバーカードによる身分証明書の提出が必要である。それ以外の国籍については、入場者のパスポートや在留カードの提出が必須で求められるが、中華人民共和国や北朝鮮、イランなどの保有国籍によっては、横田飛行場への入場が拒否される。
沿革[編集]
1940年、帝国陸軍航空部隊の立川陸軍飛行場(立川飛行場)の付属施設として建設された多摩陸軍飛行場(たまりくぐんひこうじょう、多摩飛行場)が前身。同年4月1日、新鋭戦闘機を筆頭とする各種航空兵器の審査を行う官衙である飛行実験部が立川より多摩に移転。太平洋戦争(大東亜戦争)中の1942年10月15日には、飛行実験部は拡充改編され陸軍航空審査部となり審査業務を行いつつ、末期の本土空襲時には部員と器材を使用し臨時防空飛行部隊(通称・福生飛行隊)を編成し戦果をあげた。戦中、アメリカ軍は偵察機から従来把握していなかった日本軍飛行場の報告を受け、その基地を横田飛行場と名づけたため、また横田基地と呼ばれるようになった。終戦時点でおよそ180機以上の航空機があったとされる。
敗戦後の1945年9月3日、連合国軍の1国として日本の占領業務にあたったアメリカ軍が陸路から来訪し、9月6日に正式に引き渡された。接収後に基地の拡張工事が行われ、1960年頃にはおおむね現在の規模となった。拡張に際しては、北側で国鉄八高線や国道16号の経路が変更され、南側で五日市街道が分断された(このため、この周辺では常時渋滞している)。朝鮮戦争当時はB-29爆撃機の出撃基地として機能し、ベトナム戦争時も補給拠点として積極活用されていた基地である。
1969年10月21日、何者かが基地外周の金属フェンスを破り侵入。軍用機にガソリン10リットルをかけて放火する事件が発生した。後日、京浜安保共闘のメンバー、柴野春彦らが指名手配された(柴野は翌年に自ら起こした上赤塚交番襲撃事件で死亡)[4]。
2012年3月26日、航空自衛隊の航空総隊司令部などが府中基地より移転し、航空自衛隊横田基地の運用が開始された。
(基地の沿革についての詳細は、瑞穂町の資料[5]等を参照)
名称[編集]
多摩飛行場の敷地大部分が当時の西多摩郡福生町(現在の福生市)にあったことから、地元や陸軍航空審査部では福生飛行場(ふっさひこうじょう)と呼ばれていた。
この多摩飛行場・福生飛行場を、アメリカ軍が戦中より「YOKOTA」と呼称したのは、アメリカ陸軍地図サービスが1944年に作成した地図資料『JAPANESE AIRFIELDS』では、北多摩郡村山町(現在の武蔵村山市)の大字名であった「Yokota」が、「Fussa」や「Hakonegasaki」より飛行場近くに記載されていたためと考えられており[6]、地名としての「横田」は現在では消滅したものの、「武蔵村山市役所」の西隣のバス停名称として残っている[7]。
その後は、横田基地が存在していることにより、「横田」を冠したトンネルや店舗、教会が点在するようになっている[8]。
部隊[編集]
アメリカ軍[編集]
- 米軍司令部:在日米軍司令部、在日米空軍司令部、第5空軍司令部、日米共同統合作戦調整センター
- 駐留部隊:第374空輸航空団、第730航空機動中隊、第374空輸航空団憲兵中隊、第353特殊作戦群第21特殊作戦中隊、第353特殊作戦群第753特殊作戦航空機整備中隊、アメリカ沿岸警備隊極東支部(連絡官のみ)、DFAS-J(会計業務隊)、第10報道分遣隊、空軍軍楽隊、郵便中隊等
国連軍後方司令部[編集]
横田飛行場には、現在も戦争継続中[注釈 1]の朝鮮戦争における国連軍の後方司令部が存在しており、常勤の要員として軍人3名・軍属1名が配置されている。また国連軍参加国のうち、8か国の駐日大使館付駐在武官が参加する合同会議が、3か月に1回程度の割合で開かれており、事実上の駐日武官の連絡詰所となっている。飛行場には日章旗、星条旗の他に、国連旗が常時掲揚されている。
国連軍後方司令部は、朝鮮戦争休戦協定成立後、1954年(昭和29年)に、日本とイギリス、アメリカ、フランスなど10か国(のちにタイ王国も加わる)が「国連軍地位協定」を結んだことが始まりで、現在でも朝鮮戦争が戦時国際法上「休戦」中(戦争継続中)であることが、日本に設置する根拠となっている。かつてはキャンプ座間に設置されていたが、2007年(平成19年)11月2日に横田飛行場へ移転した。
航空自衛隊[編集]
2010年12月17日に閣議決定・公開された22大綱および23中期防に基づき、以下の部隊等が府中基地より移駐および新編されることが発表された。2012年3月21日付で移転を完了し、26日から「航空自衛隊横田基地」として運用を開始した[9][10]。基地司令は作戦システム運用隊(旧・防空指揮群)司令が兼任(施設所在地:東京都福生市大字福生2552)[注釈 2]。
なお、海上自衛隊は航空自衛隊中央救難調整所(RCC)から海難救助や航空救難の情報を得るために、基地内に航空救難情報中枢(RIC)と呼ばれる機能を府中基地から移転・設置し、海上自衛官の救難連絡員が配置されていた[11]。
中期防衛力整備計画 (2014)により実施された、海上自衛隊および航空自衛隊が担う陸上配備の航空救難機能の航空自衛隊への一元化が図られた2017年3月31日以降は、統合幕僚監部が航空救難機能の一部を航空救難情報中枢(RIC)として基地内に置き、救難情報連絡員が配置されている[12]。
基地データ[編集]
- 基地総面積:7.136km2
- (南北約4.5km 東西約2.9km 周囲約14km)
- 滑走路:3,350m×幅員60m 1本
- 方位:18/36
- オーバーラン:南側305m/北側300m
- 着陸方式:ILS(18、36双方向)
- 付帯設備:管制塔、誘導路、格納庫、駐機場、整備工場、通信施設、旅客ターミナル、東京税関立川出張所横田旅具検査場
- その他施設:消防署、兵員宿舎、将校宿舎、家族住宅、スーパーマーケット、病院、診療所、教会、幼稚園・小学校・中等教育の学校(横田ハイスクール)・大学、小銃射撃訓練場、清掃工場、図書館、郵便局、放送局(「AFN Tokyo」) 、フードコート(チャーリーズ・ステーカリー、ポパイズ、タコベル、サーティワン[13]、ピザハット、サブウェイ)、チリーズ、バーガーキング、スターバックス、、映画館、体育施設(野球場、ボウリング場、ゴルフコース等)
- 基地内人口:約8,800人(内訳 軍人・軍属:約4,300人、家族:約4,500人)
- 日本人従業員:約2,200人
- 基地内の車両移動通行方法は、日本の公道と同じ左側通行。交差点通行方法は、基本的にラウンドアバウトを利用している。
- 常駐航空機:第5空軍第374空輸航空団第36輸送飛行隊所属「C-130J-30」14機、第5空軍第374空輸航空団第459輸送飛行隊所属「C-12J」3機、同隊所属「UH-1N」4機、空軍特殊作戦コマンド第353特殊作戦群第21特殊作戦中隊所属「CV-22B」5機
警察は軍法(統一軍事裁判法)が適用され空軍警備隊の管轄になる。
提供面積(km2) | 基地面積割合(%) | |
---|---|---|
国有地 | 7.073 | 99.1 |
都有地 | 0.034 | 0.5 |
公有地 | 0.029 | 0.4 |
自治体名 | 自治体面積(km2) | 提供面積(km2) | 基地面積割合(%) | 自治体面積割合(%) |
---|---|---|---|---|
福生市 | 10.16 | 3.317 | 46.5 | 32.6 |
瑞穂町 | 16.83 | 2.101 | 29.4 | 12.5 |
武蔵村山市 | 15.37 | 0.990 | 13.9 | 6.4 |
羽村市 | 9.91 | 0.417 | 5.8 | 4.2 |
立川市 | 24.38 | 0.290 | 4.1 | 1.2 |
昭島市 | 17.33 | 0.021 | 0.3 | 0.1 |
航空管制[編集]
種類 | 周波数 (VHF) | 周波数 (UHF) | 運用時間(Z) |
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CLR | 131.400MHz | 249.950MHz | 2100-1300 |
GND | 133.200MHz | 308.600MHz | 2100-1300 |
TWR | 134.300MHz | 315.800MHz | 2100-1300 |
DEP | 122.100MHz | 363.800MHz | 24H |
APP/ARRIVAL(AREA A) | 123.800MHz | 317.850MHz | 24H |
APP/ARRIVAL(AREA B) | 120.700MHz | 261.400MHz | 24H |
APP/ARRIVAL(AREA C) | 118.300MHz | 270.600MHz | 24H |
ATIS | 128.400MHz | 281.000MHz | 2100-1300 |
METRO | 344.600MHz | 24H |
航空保安無線施設[編集]
局名 | 種類 | 周波数 | 識別信号 |
---|---|---|---|
横田 | TACAN | 1172 MHz(CH-85x) | YOK |
横田 | ILS(R/W 36) | 109.7MHz | I-YOK |
横田 | ILS(R/W 18) | 108.7MHz | I-YAS |
いずれの無線局も、24時間運用を行っている。
基地公開[編集]
毎年8月、9月頃の連続した土曜日と日曜日に「横田基地日米友好祭」が開催され、普段は立ち入ることの出来ない一般人(原則は日本国籍者とアメリカ合衆国国籍者の身分証明書所持者)も、第5ゲート(最寄駅は青梅線牛浜駅)から横田基地に入場できる。友好祭では米軍機や自衛隊機の軍用機展示を行う航空ショー、バンド演奏、レーションのMREやスパムの販売、米兵による模擬店出店、子供向けの遊戯施設の設置などがおこなわれ、最終日の終了直前には、花火の打ち上げもおこなわれる。2013年は米軍の経費縮減のために「無期限の延期」となったが[14][15]、2014年から再開された。また毎年1月に「フロストバイトロードレース」(マラソン大会)が開催される。
2020年・2021年は新型コロナウイルス感染拡大の為、中止となったが、2022年は例年より3ヶ月早い5月21日と22日に開催された[16]。尚、22日には第46代合衆国大統領ジョー・バイデンの訪日に伴う専用機エアフォースワンを含む関係機材の飛来があったが[17]、区画を分ける事で友好祭は予定通り実施された。その結果、友好祭開催中に一般客の目の前でエアフォースワンが着陸と言う異例の出来事が起きた[18]。
軍民共用化・中期防衛力整備計画[編集]
軍民共用化構想[編集]
2012年まで東京都知事を務めた石原慎太郎は、横田基地を民間航空機にも開放する「軍民共用化」を2003年都知事選で公約しており[19]、石原の任期中には実現しなかったが、後任の猪瀬直樹知事も実現に意欲を示していた[20]。一方、一部の地元自治体の間では反対意見もある[21]。
在日米軍再編に絡む横田基地の軍民共用化は「検討開始から12か月以内に終了する」という日米の合意に沿って、2006年10月より検討会において協議されてきている。しかし、2007年10月半ば、日本政府関係者の報道人への発言によれば、アメリカ側は横田基地への民間旅客機乗り入れに難色を示しており、2007年11月8日、来日中の国防長官ロバート・ゲーツと外務大臣高村正彦との会談において、協議の継続を求めた高村外相の要請にも同長官は首肯せず、厚木基地や入間基地の軍民共用化を逆提案した[22]。
2020年東京五輪・パラリンピック期間中の軍民共用化についての協議[編集]
猪瀬直樹知事の辞任後、後任の都知事が取り組まないことから実現することなく、没交渉となっていたが、2019年4月19日、日本国政府が2020年東京オリンピック・パラリンピックの期間中に、横田基地の臨時的な軍民共用化を打診したと報道された[23]。
これに対して東京都知事小池百合子は、都としても国に要望を行ってきた経緯に触れながら「ぜひ活用させていただきたい。都としても望むところ」と所見を述べたほか、在日米軍のクリストファー・マホーニー副司令官も「現時点では何も決まっていない。日米間の事務レベルで軍民共用化に必要な条件を協議している。日本側からどのような要求があるのか、駐日アメリカ合衆国大使館を通じて待っている段階だ。共用化はできるのではないかとの意見がある。承認された場合は100パーセント支援したい」とマスメディアに語り、日米間で調整を進めていることを示唆した[24][25]。
中期防衛力整備計画[編集]
日米両政府はアメリカ空軍と航空自衛隊による「軍軍共用化」で合意しており、航空管制権が日本側に返還され、航空自衛隊が受け持つことになる。
この合意は実現し、同基地には空軍第5・第13航空軍司令部と、東京都府中市から移転してくる航空自衛隊航空総隊司令部が同居することになった。共用化や総隊司令部の移転など、当初の予定では2010年(平成22年)となっていたが、2012年(平成24年)3月26日、移転が完了し、同日から総隊司令部ほかが運用を開始した[26]。同庁舎地下には空自と米軍が一堂に会する「共同統合運用調整所」が設けられ、地下通路でアメリカ空軍の指揮所とも行き来できる[27]。
全世界的な米軍再編の動きに従って、キャンプ座間(神奈川県)へのアメリカ陸軍第一軍団司令部移転計画(現在は米ワシントン州フォートルイスに所在)が存在し、これが実現した場合、四軍の司令部が日本に揃うことになる。「日米軍事一体化・アメリカの世界戦略への協力だ」とする一部の反発もあるが、日本国政府は米軍再編へ協力する姿勢を示している。
だが、2010年(平成22年)12月17日に閣議決定し公表された『中期防衛力整備計画』の内容に、「米軍とのインターオペラビリティを向上するため、横田基地を新設し、航空総隊司令部等を移転する」との表現があることが判明。沖縄県以外の日本では唯一、狭小な行政面積の3分の1を基地に提供している福生市が、航空自衛隊横田基地の新設は、単なる呼称上の問題に留まらず、基地機能の強化、基地態様の変化に直結するものだとして、内閣総理大臣・防衛大臣などに強く抗議、申し入れを行っていた[28][29]が、航空自衛隊横田基地は実現して現在に至る。
横田空域[編集]
横田進入管制区、通称「横田空域」の1都8県(北は新潟県、南は伊豆半島中部まで、東は東京都の中野区―上板橋と等々力を南北に結ぶ線―まで、西は静岡県中部まで)に及ぶ、広大な空域の航空管制は本飛行場で行われている[30]。
横田ラプコン(RAPCON: Radar Approach Control、レーダー進入管制の略)とも呼ばれる、この空域(2016年現在、最高高度は23,000フィート=約7,010メートル以下)はアメリカ空軍の管制下にあり、当該空域を飛行する場合は民間航空機であっても、アメリカ空軍所属航空管制官の指示を受けなければならず、アメリカ軍機の航行が優先される。
しかし在日米軍との事前協議によって、飛行計画経路を設定・調整する必要があり、手続きが煩雑である事情から、東京国際空港や近傍の成田国際空港を発着する民間航空機の多くは、同空域を垂直軸または水平軸で避けるルートで飛行している。なお、民間航空機に計器飛行が義務化される以前は、有視界飛行で同空域を突っ切ることによる時短競争が航空会社・パイロット間で行われており、東京 - 大阪で30分と宣伝されていた。
2019年1月30日、野上浩太郎官房副長官(当時)が羽田空港への飛来便が「横田空域」を一時的に通過できるようになり、その通過する時間帯は日本側が管制を行う日米の交渉が基本合意に達したと発表した[31][32][33]。この合意により羽田空港の発着枠が6万回から9万9千回と50%以上の増加となり、また飛行時間の短縮にもなった[31]。2020年3月29日、「横田空域」を通過する羽田空港の「新飛行経路」の運用が開始された[34]。
一般的に短距離を除くジェット旅客機は離陸時に急上昇して高度を稼ぎ、空気抵抗の低い中高高度成層圏を巡航し、着陸時にゆっくりと降下するのが通例である。巡航高度が低いほど大気の空気抵抗が増し、燃料費が余計に掛かることになる。さらに加えて、東京国際空港はオープンパラレルで多数の飛行機が連続して着陸する中、離陸便(西行き国内線)は騒音問題等の絡みから狭い東京湾周辺で一気に2,700m程度まで高度を上げており、そこから西方の横田空域に向けて飛行しており、円滑な民間航空に支障をきたしている[35]。後述の2008年空域返還により階段状に空域が削減されているが、依然広大な空域を米軍が占有している状況に変わりはなく、東京都などは早期の全面返還を求めている[36]。
同空域は、1992年(平成4年)に約10%、2008年(平成20年)9月25日に約20%が返還され、現在は高度約7,000mから約2,400mの、概ね西高東低の6段階の階段状となっており、特に西日本方面との航路が集中する南半分(現在、東京国際空港発の航路が集中)については、東部2,450mから西部4,900mと、比較的緩やかな階段状となっている。
2008年(平成20年)の一部返還により、東京国際空港を利用する民航機が、横田空域を迂回したり同空域を越すための上昇率が減るため、年間約180億円(東京国際空港の再拡張前は130億円)の経済効果があると試算されている。約180億円の内訳は、ジェット燃料費削減による効果が約66億円分、飛行時間短縮による運航コスト低減効果が36億円分、旅客利便性向上効果が77億円分とされる。要求上昇率の緩和は、航路距離にもよるがジェット旅客機について、ほとんど横田空域の存在を無視できるようになった。実際に、横田空域の空域外上空を飛び越すルートの設定が大幅に増え、これにより東京国際空港の年間発着回数は約296,000回から407,000回へと増加する。
また時間短縮効果は、羽田出発便のうち中国地方・九州北部行きで3分、関西地方・九州南部・沖縄行きで約2分、東京国際空港到着便では2分以上[37]とされる。
なお、横田空域西部は、日本アルプスや富士山、箱根などの標高の高い山脈が連なり、偏西風が山を越えて生じる乱気流や山岳波があるため、横田空域がそもそも存在しない場合でも航路上迂回する必要があり、前述の通りゆっくりと降下する着陸時のルートは南側海上寄りに設定されている。なお、富士山上空では標高10,000m(約32,800フィート)程度まで山岳波の影響が及ぶこともあり、富士山付近では過去に複数の空中分解事故(英国海外航空機空中分解事故、セスナ機の墜落事故など)が発生している。
燃料輸送[編集]
鉄道貨物によってジェット燃料の輸送が行われている。JR鶴見線安善駅に隣接する米軍鶴見貯油施設より、平成26年3月15日ダイヤ改正よりJR武蔵野貨物線・南武線・青梅線経由で運行される専用貨物列車(通称「米タン(べいたん)」)が、平日1日1往復設定されている(平成26年4月時点で火・木曜の週2日が中心)。使用されるタンク車は、米軍輸送隊が日本石油輸送より借り受けているJP-8(航空用ジェット燃料の名称・JP-8は軍用)と車体に書かれた専用タンク車であり、45t積みのタキ1000形を使用した12両編成で運行される。拝島駅に到着した貨車は、駅構内でディーゼル機関車に付け替えられて基地内まで伸びる単線非電化の専用線(引込み線)を経由して運び込まれる。以前は定期列車であったが、現在は臨時列車となっている。ただし、定期列車時代から運行有無は荷主である米軍の都合で決定されており、臨時列車化された現在と運行頻度はほとんど変りない。
1967年(昭和42年)8月8日に新宿駅にて発生した米軍燃料輸送列車事故は、隣接する米軍立川基地へ運転されていた同種の貨物列車で発生したものであり、当時のベトナム戦争反対運動や反米学生運動等を刺激する原因となった。
訴訟[編集]
基地問題は進駐直後から発生し、滑走路建設のための砂利採取は多摩川の河床を低下させ、下流の府中用水などに影響を及ぼした。また、航空燃料や廃油の流出による地下水や井戸水の汚染、異臭や引火事故、騒音および、たび重なる墜落事故など、周辺住民の日常生活へも深刻な被害を及ぼした。詳細は関連項目にある日本におけるアメリカ軍機事故の一覧や、埼玉県金子村B29墜落事故、八王子市F80機墜落事故、砂川村B29爆撃機墜落事故などを参照のこと。
立川基地が返還された一方、横田基地は年間の離着陸数が約2万回と、東京国際空港の5%程度(東京国際空港の1年間の航空機発着回数は、約38万4000回)年に数回実施されていた空母艦載機着陸訓練は夜間にも行われていた[注釈 3]。このような訓練と、日常的に行われている飛行およびエンジンテストなどにより、周辺住民に多大な騒音被害を与えているため、日本国政府やアメリカ合衆国連邦政府に対し、飛行差し止めと騒音被害に対する損害賠償を求める訴訟が、1976年以降[38]に度々行われており、過去分の損害賠償の一部についてのみ認める判決の流れがほぼ定着している[39]。
東京地裁立川支部に提訴され係争中のものとしては、2012年12月12日に起こされた「第9次横田基地公害訴訟」[40]、2013年3月26日に起こされた「第2次新横田基地公害訴訟」[41]がある。
アクセス[編集]
鉄道[編集]
自動車[編集]
- E20 中央自動車道八王子IC(下りは第2出口)から国道16号(東京環状)昭島方面
- C4 首都圏中央連絡自動車道日の出ICから東京都道184号奥多摩あきる野線 - 東京都道165号伊奈福生線
- C4 首都圏中央連絡自動車道あきる野ICから国道411号(滝山街道)- 東京都道7号杉並あきる野線(睦橋通り)- 国道16号(東京環状)
登場作品[編集]
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- 村上龍のデビュー出世作。横田基地近くの「ハウス」が舞台。
- ベトナム戦争中の横田基地内のアメリカンスクールが舞台。
- 『RAID ON TOKYO』 / 『TOKYO WARS』
- 小林源文著。日本に親ソ政権が成立し在日米軍が撤収した世界で、自衛隊の反乱鎮圧のためとの名目で進駐して来たソ連軍が横田基地を確保、首都東京占領への前進拠点として使用する。終盤に自衛隊による反撃が始まり奪還作戦が行われる。
- 『ぼくらの』
- 設定ではアメリカから奪還し、そのまま国防軍の基地になったという設定。ゲームの契約をした中学生を保護する重要拠点になっているためたびたび登場する。
- 本基地でテロが発生するという設定。
- 基地に沿う16号線沿いが舞台設定。第2ゲートやフェンスや東福生駅も登場する。
- 『ガサラキ』
- 劇中では横田基地からF-22Aが発進し、基地内に侵入したTA(タクティカル・アーマー)と交戦した。
- 『西部警察』
- 第1期で「横田基地」という名称は登場しないが、基地北側のフェンス沿いで撮影。劇中に離陸するC-5が登場する。
- 『相棒』
- 『9番目のムサシ』
- 主人公の「篠塚高(No.9)」と彼女の所属する組織「Ultimate Blue / 通称UB」が頻繁に使用する。作中では「米軍基地」としか呼ばれないが、コミックス第8巻の「DUTY19:Ω -オメガ-II」での基地の入り口のプレートに「UNITED STATES AIR FORCE Yokota Air Base」とあることから横田基地である。篠塚らが組織の専用機の発着に利用したり、公私混同ながら任務で知り合った篠塚の恋人が失踪した時、彼の居場所である山中に急行するため、篠塚が当基地でC-5A輸送機を借用した。
- 『シャーマンキング』
- 「横茶基地」として登場。シャーマンファイト本戦に出場する登場人物たちの集合場所となっている。宿敵であるハオと主人公の麻倉葉が初めて対峙した場所ともなった。
- 漫画版で登場。街にZQNが溢れる中で主人公が立ち寄るが、すでに基地内とその周辺もZQNにより混乱状態と化していた。
- 『交戦規則ROE』
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ “横田基地に関する情報 概要”. 昭島市 企画部 基地・渉外担当. 2017年9月3日閲覧。
- ^ Rosselli, p. 20.
- ^ 横田飛行場の民間航空利用>横田飛行場ってどんなところ?>(1)横田飛行場の概要 東京都
- ^ 死んだのは横浜国大生『朝日新聞』1970年(昭和45年)12月18日夕刊 3版 1面
- ^ 3.基地の沿革 (PDF) 瑞穂町
- ^ 横田基地命名の由来 横田基地とことんウオッチング
- ^ 東京都交通局ホーム > 都営バス > 路線図(みんくるガイド) > 駅名で探す > 箱根ヶ崎 都営バス
- ^ 【東京探Q】「横田」基地 呼称の由来は?/戦時中 近くの集落名から/住居表示には残らず『読売新聞』朝刊2018年5月28日(都民面)。
- ^ 平成23年度防衛予算の概要 (PDF) 防衛省
- ^ 自衛隊法施行令及び防衛省の職員の給与等に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成24年政令第53号)(官報平成24年3月22日、号外第63号第5面)
- ^ 自衛隊の航空救難に関する協定(平成25年3月25日)(2018年11月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project 自衛隊の航空救難に関する協定について(通達)(陸幕運支第83号。平成25年3月26日)より
- ^ 自衛隊の航空救難に関する達 平成30年自衛隊統合達第14号
- ^ YoKoTA LoDGING MAP - Yokota FSS
- ^ 友好祭無期限延期、2013年は地域友好行事参加へ (PDF) 在日米空軍横田基地第374空輸航空団広報部
- ^ 日米友好祭:米軍横田基地、来年度は中止 /東京 毎日新聞 2013年3月23日 地方版
- ^ 3年ぶり日米友好祭開催 地元は感染対策要請 - 横田基地 - 時事通信社 2022年5月21日
- ^ 米バイデン大統領が日本到着 あす23日に日米首脳会談へ - 日本放送協会(NHK NEWS WEB) 2022年5月22日 21時10分
- ^ マジか! 横田基地祭のどまん中に、アメリカ大統領専用機「エアフォースワン」が着陸。世界で最も特別な機体に迫る - ベストカー 2022年5月29日
- ^ 「横田ターミナル「造るつもりだった」 石原知事」 MSN産経ニュース
- ^ インタビュー/東京都知事・猪瀬直樹氏「五輪で“心のデフレ”脱却」
- ^ 米軍横田基地の軍民共用化に反対する陳情書 (PDF) 瑞穂町長・瑞穂町議会議長・同議会基地対策特別委員会委員長
- ^ 「横田基地、軍民共用合意見送り 米が難色」 朝日新聞のアーカイブ
- ^ “米軍横田基地の軍民共用化を打診 政府「五輪・パラ臨時措置」” (日本語). 2019年5月19日閲覧。
- ^ 「横田基地軍民共用承認なら 米軍幹部「全力で支援」」『東京新聞 TOKYO Web』。2019年5月19日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL「五輪パラ期間の横田基地活用 知事「都も望むところ」」『産経ニュース』、2019年4月20日。2019年5月19日閲覧。
- ^ 航空総隊司令部、横田基地に移転=ミサイル防衛など連携強化-空自 時事ドットコム
- ^ 日米ミサイル防衛一体化 横田基地 運用開始 東京新聞2012年3月26日夕刊
- ^ 中期防衛力整備計画(平成23年度〜平成27年度)に対する抗議・申入れ書 (PDF) 福生市議会議長
- ^ 中期防衛力整備計画(平成23年度〜平成27年度)に対する抗議・申入れ書について(回答) (PDF) 北関東防衛局長
- ^ 横田空域の返還に関する意見書 東京都議会議長
- ^ a b “【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も、米軍の“占領状態”変わらず…”. zakzak. 夕刊フジ (2019年2月11日). 2019年5月14日閲覧。
- ^ “横田空域の通過合意 米軍、羽田新ルート巡り”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2019年1月31日). 2019年5月14日閲覧。
- ^ “羽田新ルートで米と基本合意=横田空域管制は日本-政府”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2019年1月30日). 2019年5月14日閲覧。
- ^ “まるで遊覧飛行! 東京都心の上空を通過する羽田空港の「都心ルート」知ってる? どうすれば乗れるの?”. ねとらぼ. ITmedia (2022年8月10日). 2022年8月22日閲覧。
- ^ なんだっけ「横田空域」って?しんぶん赤旗 2020年1月12日配信
- ^ 横田空域の返還東京都都市整備局 2023年1月22日閲覧
- ^ 横田空域の一部削減に伴う羽田空港の出発経路の設定について 国土交通省 2008年7月1日
- ^ 「静かな夜を求めて 横田騒音公害提訴」『朝日新聞』1976年(昭和51年)4月28日夕刊、3版、11面
- ^ 市政情報>基地の所在による諸問題 横田基地騒音公害訴訟 福生市
- ^ 横田・基地被害をなくす会 第9次横田基地公害訴訟原告団
- ^ 第2次新横田基地公害訴訟原告団
関連項目[編集]
- 航空自衛隊 - 航空総隊
- アメリカ軍 - 在日米軍
- 日本におけるアメリカ軍機事故の一覧
- 日本航空123便墜落事故
- AFN(旧称:FEN)
- エドワード・スノーデン
- 対米従属論
外部リンク[編集]
- アメリカ空軍
- Yokota Air Base - 横田基地公式Webサイト(英語)
- Yokota Air Base(@374AirliftWing) - Twitter(日英2か国語)
- 防衛省
- 航空総隊 - 航空自衛隊航空総隊のサイト
- 航空自衛隊横田基地 - 航空自衛隊横田基地(航空総隊司令部等)のサイト
- 航空総隊(@JASDF_adc_pao) - Twitter
- 航空自衛隊横田基地(@JasdfYokota) - Twitter
- 国土交通省国土地理院
- 基地北部の空中写真(1989年撮影) - 地図・空中写真閲覧サービス
- 基地南西部の空中写真(1989年撮影) - 地図・空中写真閲覧サービス
- 基地南東部の空中写真(1989年撮影) - 地図・空中写真閲覧サービス
- 東京都
- 地元自治体
- 福生市観光協会 - 福生市観光協会のサイト
- 素顔の横田基地 - ウェイバックマシン(2019年3月31日アーカイブ分) - 元横田基地日本人職員のサイト
- 横田基地とことんウオッチング - ジャーナリストの調査研究サイト
- 追跡!在日米軍 - 在日米軍基地問題サイト
- 新横田基地公害訴訟団 - ウェイバックマシン(2000年5月10日アーカイブ分) - 再度の、飛行差し止め要求と、爆音に対する損害賠償請求訴訟(終結)
- 横田基地の撤去を求める西多摩の会 - ウェイバックマシン(2012年1月21日アーカイブ分) - 横田基地撤去運動サイト
- 横田基地撤去と基地被害をなくす共同行動連絡センター - 横田基地撤去運動サイト
- 横田・基地被害をなくす会 - ウェイバックマシン(2019年3月30日アーカイブ分) - 横田基地撤去運動サイト
- InfoAtlas>東京都>市>福生市>横田基地>友好祭 - 「日米友好祭」を写真と動くパノラマ、動画で紹介