P-3 (航空機)
P-3 オライオン
ロッキード P-3は、アメリカ合衆国の航空機メーカー、ロッキード社(現・ロッキード・マーティン社)が開発したターボプロップ哨戒機。愛称は「Orion」。日本ではその英語読みから本機愛称を「オライオン」とするものが多い[1][2]。Orion とはギリシア神話に登場するオリオン座となった狩人の名にちなむ。
初飛行から50年以上が経過してるがアップデートを重ねつつ、アメリカ海軍や海上自衛隊など軍の航空隊、アメリカ沿岸警備隊など国境警備隊の他、気象観測や消防機など非軍事用などにも転用され20以上の国で運用されているベストセラー機である。
概要
開発経緯
1957年8月にアメリカ海軍は、ロッキード P2V ネプチューン(後に命名規則改正で「P-2」となる)対潜哨戒機の後継機の仕様を各航空機メーカーに提示した。この新対潜哨戒機は、SOSUSにより探知された敵潜水艦と思しき音響信号へ急行してソノブイ、磁気探知機による識別を行い、魚雷、爆弾を使用して、潜在海域から殲滅することを主眼としていた。そのため、
- 地上の潜水艦探知/分析システム設備と接続してその情報を利用できる高度な情報通信能力を持つこと
- 充分且つ余裕のある兵装及び捜索・探査装備の搭載能力を持つこと
- 探知した目標の存在する海域に対して即座に急行できる高速飛行能力を持つこと
- 長距離且つ広範囲を探査・捜索するための充分な航続距離と連続飛行時間を持つこと
- 長距離長時間の飛行を無理なく行える高い居住性を持つこと
が求められた。
特に、P2Vは運用の結果居住性能と搭載能力に難があり、長時間の任務飛行には困難が多いとされていたことから、余裕を持った機体が要求されていた。また、開発当時アメリカ海軍ではジェット燃料の使用による資材共通化は課題となっており、ターボプロップエンジン機が求められていた。
開発
海軍の要求に応じ、ロッキード社は1957年4月に初飛行したばかりのターボプロップエンジン4発搭載の旅客機、L-188 エレクトラの改造型を提案し、1958年4月にP2Vに続く採用が決定した。L-188を改造した原型機のYP3V-1(命名規則変更によりYP-3Aと改名)は1958年8月19日に進空したものの、原型機L-188の構造的欠陥に起因する連続事故で計画は大幅に遅延し、1962年8月より P-3A としてアメリカ海軍への配備がようやく開始された。
P-3Aは対潜水艦戦用の機材は前作のP-2対潜哨戒機とほぼ同様であったものの、機内容積と速度距離が向上したために、実質的な対潜水艦能力は向上している。また、エンジンを強化したP-3Bの配備が1965年より開始された。
続く性能向上型のP-3Cは、1968年に原型機YP-3Cが初飛行し、1969年より部隊配備された。向上点は主に、潜水艦探知用のソノブイ・システム、センサー、レーダー、データ処理用のコンピュータの能力向上型への換装である。これによりP-3は開発の主目的であった地上設備とリンクされた高度な潜水艦の捜索・評定能力を持つことになった。この潜水艦探知用システムは順次近代化されており、改修世代によりアップデートI~IVに区別される。最新のアップデートでは、水上監視能力の向上が図られ、洋上監視機器の換装のほか、マーベリックミサイルの運用が可能となっている。また導入国により独自のアップデートを施すこともあり多数のバリエーションが発生した。
1980年代後半には、P-3の更なる改良型として、アメリカでP-7が計画されたが、これはキャンセルされた。アメリカ海軍の後継機にはボーイングP-8A ポセイドンが開発され、制式採用された。
特徴
性能
P-3は扱いやすい飛行特性に加え、STOL性、長時間滞空性能など任務に必要な性能確保しつつ、P2V-7より大型化したことで良好な居住性や各種機材を無理なく積載できる機内容積の余裕など、旅客機ベースの特性も確保されている。
機体の大きさの割に機動性は良好であり、鹿屋航空基地で開催される『エアーメモリアルinかのや』でのP-3Cによる機動展示飛行において低空での急旋回を披露している。
長時間滞空する際はエンジンの出力を絞り、残りの燃料が一定値まで減る度にエンジンを1番(左外側)→4番(右外側)の順に停止、プロペラ角をフルフェザー(ブレード面を主翼面と平行)にしてロイター飛行を行う。理論上はエンジン1基でも飛行が可能だが、海上自衛隊では安全のため停止は2発までとしている[3]。なおP2V-7はレシプロエンジンであるため燃料の混合比を手動で調整するなどのテクニックを駆使すれば20時間以上の滞空が可能とされるが[3]、P-3は混合比を変更できないターボプロップエンジンであるため種々のテクニックは使えず、実際の滞空時間はやや減少している。しかし予備燃料を残したままでも操縦士の技量に関係なく15時間以上の滞空が可能とされる[3]。
構造
基本的にはL-188から旅客機としての装備を撤去して対潜哨戒機としての各種装備を搭載したものだが、開発に当たっては胴体部は改めて設計されており、尾部には磁気探知装置 (MAD) を先端に収めたブーム(張り出し棒)が取り付けられ、機首が若干少し切り詰られて、主翼端が直線になるように少しカットされている。
ハードポイントは主翼の端側に3箇所、胴体側に2箇所が設けられた。基本的に翼端側にミサイル、胴体側にESMやデータ・リンク等の電子戦ポッド、カメラポッドを取り付ける。なお重量制限があるため翼端側は2箇所のみ使用する。前部胴体下にウェポンベイが設置されたことで魚雷、爆雷、機雷も運用可能。
機内後部には簡易ベッドやトイレを併設した控え室が用意され、長時間の任務飛行でも乗員の負荷が軽減されている。
P-3の主任務は対潜哨戒であるが、機材のアップデートにより海洋監視や救難活動の支援など海上での任務だけでなく、ズーニー・ロケット弾を装填したLAU-10D/aや対応する空対地ミサイルを装備すれば対地攻撃機としての運用も可能となるなど、P-2を超える汎用性を獲得したことから、海上自衛隊のように分類を対潜哨戒機から(汎用)哨戒機に変更する国もある。
機体が大型化したことに加え弾道ミサイル技術が発達したことから、P-2で想定されていたMk.1核爆弾を搭載しJATOにより空母から離艦する艦上核爆撃型は当初から考慮されていない。
-
P-3C 機体下部 主翼後方の機体下面にある多数の孔はソノブイの投下口
-
P-3C 正面
-
P-3C 機体尾部のMADブーム
-
ギャレー
-
対潜哨戒訓練で旋回するP-3C
機齢延長
初飛行から50年以上が経過し多くの機体が老朽化していることから、ロッキード・マーティンでは機齢延長を望むユーザー向けに『P-3 Mid-Life Upgrade Program (MLU)』を提供しており、MLUを導入したニュージーランド空軍はメンテナンスにかかる時間が58%減少し、実働時間が伸びたと謳っている[4][5]。
派生型
P-3はその機体構造の優秀さ、搭載量の多さから多数の派生型が存在し、他国軍から購入した中古機をさらに改造する例も多い。
P-3A
- 初期生産型
- 157機製造。退役後には法執行機関や民間へ払い下げられるか試験機に改造されている。
- TP-3A
- 対潜装備を除去した練習機型。12機改造。
- UP-3A
- 対潜装備を除去した汎用輸送機型。38機が改造された。
- VP-3A
- 対潜装備などを除去し座席を追加したVIP輸送機型。P-3Aより2機、気象観測用のWP-3Aより3機が改造された。
- P-3AM
- グラスコックピットの導入などの近代化を行った後、ブラジル空軍に引き渡されたP-3A。
- P-3ACH
- チリ海軍向けに近代化改修されたP-3A。
-
VP-3A
-
UP-3A
-
P-3ACH(チリ海軍機)
P-3B
- エンジンを強化した型。144機製造。多くはP-3C相当へ改修されている。
- P-3K
- ニュージーランド空軍のP-3B改修型。5機製造。
- P-3K2
- グラスコックピットの導入など近代化を行ったP-3K。
-
P-3B アルゼンチン海軍機
-
機動飛行を行うP-3K2
-
AP-3C。4番エンジンを停止したまま飛行している。
P-3C
対潜水艦戦機材を向上させた型。1975年開発。118機製造。
アメリカ海軍ではP-8の配備開始により売却やモスボールが始まっているが、多くの国では主力哨戒機である。
- P-3F
- P-3CにP-3A/B相当の電子機器を搭載し、空中給油受油機能を追加装備した帝政期のイラン空軍向け機体。1975年に6機製造。
- P-3T
- タイ海軍向け。2機。一部は対潜装備を除去し汎用輸送機UP-3Tへ改造された。
-
特別塗装を施したパキスタン海軍のP-3C
-
P-3F イラン空軍機
-
P-3T
電子戦機
- EP-3A
- 電子偵察機の試作機。7機が改造。
- EP-3B
- 電子戦訓練機。後にEP-3Eに改造。
- P-3N
- ノルウェー空軍のP-3B改修型。2機製造。
- P-3AEW&C センチネル
- 1980年代はじめに発表された早期警戒機型。アメリカ税関において麻薬密輸機取締り用に使用中。P-3Bの余剰機にグラマン E-2 ホークアイ用のAN/APS-125レーダーと電子機材を搭載したもの。空力試作機は1984年6月14日に飛行。
- EP-3C
- EP-3AをP-3C相当に改修。
- EP-3E アリエス (Aries)
- 電子戦訓練機。12機が改造。
- EP-3E アリエスII (Aries II)
- SIGINT(電子信号偵察)機(2001年に海南島近海で中国軍機と衝突(海南島事件)したのはこのタイプ)12機が改造。
- EP-3J
- アメリカ海軍向けの電子戦訓練支援機。2機が改造された。
-
P-3AEW&C センチネル
-
EP-3E アリエスII
試験機
- RP-3
- 海洋科学開発飛行隊 (Oceanographic Development Squadron) 向けにP-3Aから2機改造し順次P-3B、P-3C相当へ改修。
- RP-3D EI COYOTE
- データ収集計画「Project Seascan」用に改造された能力試験機。RP-3から1機改修。
- 1973年にはアメリカ海軍初の砲塔型装甲艦であるモニターの残骸を発見した。
- RP-3D Roadrunner
- MAD装置の最適化データ収集試験「Project Magnet」のためRP-3から1機改修。
- 機体名にちなみノーズアートにはルーニー・テューンズのキャラクターであるロードランナーが左側に描かれている。
- 試験終了後はデビスモンサン空軍基地でモスボールされている。
- NP-3
- 米海軍研究所 (US Naval Research Laboratory) 向け。P-3Aから改造し順次P-3B、P-3C相当へ改修。
- テレメトリーシステム (EATS) や気象観測 (BAMEX) の研究などに利用。研究終了後は海軍テストパイロット学校の訓練機に転用された後、モスボール。
-
RP-3D EI COYOTE
-
NP-3D EATS
-
NP-3D BAMEX
-
デビスモンサン空軍基地でモスボールされるNP-3D
CP-140
- CP-140 オーロラ (Aurora)
- カナダ空軍向け。S-3 ヴァイキングと同じ対潜機材を搭載した派生型。18機製造。
- CP-140A アークツゥルス (Arcturus)
- カナダ空軍向け。対潜装備を搭載せず、訓練および海洋監視任務に用いられている。3機製造。
-
CP-140 オーロラ
-
CP-140A
川崎重工業製
川崎重工業がライセンス生産したアップデートII.5相当のP-3C。
全て海上自衛隊向けで、合計101機を製造。
- P-3C
-
- アップデートII.5
- 最初の生産型。69機製造。
- アップデートIII
- 追加生産とアップデートII.5からされた機体を含め全32機
- EP-3
- 電子情報偵察機。5機生産。MADブームを降ろし、胴体前部下面にバルジが増設されている。センサーとして、電子情報収集装置を装備。乗員10名。第31航空群第81航空隊に配備。
- OP-3C
- 画像情報偵察機。4機改造。MADブームを降ろし、胴体前部下面にバルジが増設されている。センサーとして、SLAR(側方画像監視レーダー)またはLOROP(長距離監視センサー)を装備。乗員10名。第31航空群第81航空隊に配備。
- UP-3C
- 装備試験機。1機生産。乗員5名。厚木基地第51航空隊に配備。
- UP-3D
- 電子戦訓練支援機。MADブームを降ろし、胴体上面に2ヶ所、胴体下面に2ヶ所のバルジを増設。乗員8名。第31航空群第91航空隊に配備。艦艇に対する電子戦訓練と、必要に応じ標的の曳航やチャフの散布も行う。3機製造。
-
P-3C アップデートII.5(初期生産型)
-
P-3C アップデートIII(後期生産型)
-
UP-3D
政府機関・民間
- WP-3A
- 対潜装備を除去した気象観測機。P-3Aから4機が改造された。
- WP-3D
- WP-3Aから2機が改造。
- アメリカ海洋大気局 (NOAA) 所属の気象観測機。ハリケーン・ハンターとして運用中。
- P-3-LRT
- アメリカ合衆国税関・国境警備局向け。国境付近での麻薬密輸や不法入国の取締り用に一時使用。アメリカ海軍から購入したP-3Aを4機改造。
- LRTはLong Range Trackerの略。
- Aero Union P-3A Orion
- 民間航空会社エアロユニオンがアメリカ海軍からP-3Aを購入し、山火事の空中消火を行う消火活動用に改造した機体。通称エア・タンカー。
-
WP-3D
-
P-3-LRT
-
Aero Union P-3A Orion
計画
- P-3G オライオンII
- 全面近代化型。エンジン換装、新型プロペラブレードの導入、主翼の拡大、MADブームの取り付け位置変更、ペイロードの増大、アビオニクスの更新など。P-7に名称を変更し、1989年から全規模開発に入るも1990年開発中止。
- P-3H
- P-3G (P-7) 計画を簡略化した近代化改修型。P-3CアップデートIVを主翼及びエンジン/プロペラブレードのみP-3Gのものに変更したもの。提案のみ。
採用国
- アメリカ海軍のほか、アメリカ税関などでも哨戒用に少数機を導入。
- 各国軍と同様独自の改造を施された機材もあるが、経年化に伴いP-8A(通称:ポセイドン)に機材更新中。一部は他国に売却されている。
- アルゼンチン海軍。P-3Bを6機採用。
- イラン空軍。イラン革命前にP-3Fを6機購入。2009年現在、帳簿上では3機運用中となっているが、飛行する姿が確認されているのは2機だけである。対潜機材や対艦ミサイルランチャーを取り外して海洋監視機として使用されている。独特の青色迷彩塗装の機体で、ホルムズ海峡付近では、タンカー等からもよく目撃されている。
- オランダ海軍。ドイツとポルトガルに売却。
- 韓国海軍。
- タイ海軍。
中華民国(台湾)
- チリ海軍。
- ドイツ海軍。オランダよりP-3Cを8機購入。
- ポルトガル空軍。オランダからP-3Cを購入したため、P-3Pは退役済。
- 海上自衛隊。本記事・日本における採用と運用の節に詳述。
日本における採用と運用
採用までの経緯
1968年(昭和43年)から、海上自衛隊のP2V-7・P-2Jの後継の次期対潜哨戒機 (PX-L) の選定に着手した。当初、P-2J改造開発に続いて、完全国産化の方針で計画が進み、P-2のライセンス生産を担当した川崎重工業はいち早くモックアップ製作などを行って国産化への意気込みを見せた。一方、防衛庁内にも国産技術に不安を示す者は多く、新鋭機P-3を推す意見も根強かった。1972年(昭和47年)10月、田中角栄の新内閣は突如、国内開発の方針を白紙撤回し、外国機導入を決定、1975年(昭和50年)に外国からの選定を始めた。
選定中の1976年(昭和51年)2月4日、旅客機ロッキード L-1011「トライスター」の大量受注を目論んだロッキード社による「ロッキード事件」が発覚した[脚注 1]。2月9日には久保卓也防衛事務次官が、1972年10月のPX-L国産方針の白紙撤回は田中角栄前首相らが決定した事だと発言、これを受けて政府は候補に上がっていたP-3を白紙に戻し、一から選考し直す方針をとった。そのため海自はPX-Lまでのつなぎとして、P-2Jを増産することとなった。
調達開始
1977年(昭和52年)には再度 P-3C の採用を決定し、翌1978年(昭和53年)より調達を開始した。最初の3機は米国の有償援助により、1981年(昭和56年)に米国で引き渡された。
次いで1982年(昭和57年)に川崎重工業でノックダウン生産された機体が納入され、以後はライセンス生産[脚注 2]に移り、従来の主力機P-2Jを代替して行き、1997年(平成9年)9月までに通算101機が海上自衛隊へ配備された[脚注 3](途中で事故損耗あり)
EP-3Cを母体として、早期警戒能力やAIM-54 フェニックス12発およびAN/AWG-9を搭載した空中巡洋艦構想が検討されていたが、行動半径が短い上、作戦柔軟性や迅速性に乏しく、護衛艦隊の都合に合わせて一体運用出来ないといった理由から早々に検討対象から除外された[6]。なお後継機のP-1でも空対艦ミサイルは最大8発までである。
運用
本家のアメリカ海軍では約200機を世界の主要海域に展開していることに対して、海上自衛隊は日本周辺海域だけを対象にしているにもかかわらず約100機も運用していた。これは日本列島が、大陸から太平洋に出る出口に位置する要衝であるからであり、冷戦時代から対ソ・対中戦略の最前線として海自は機能していた。また、日本は第二次世界大戦時に、連合国の潜水艦や機雷に海上輸送路を破壊され、戦略的に追い詰められた経験を持つことも哨戒機を重視する姿勢につながっている。
導入時の演習では、ローファーブイ/ダイファーブイ(受信専用のソノブイ)による広域哨戒で、次々と潜水艦の探知に成功し、演習相手の海上自衛隊の潜水艦部隊に「P-3Cショック」と呼ばれるほどの脅威を与えた。しかしその後は海自潜水艦の静粛性が格段に向上し、ローファーブイでの対応が困難になってきたため、ダイキャスブイ(探信音付きソノブイ)を使用したアクティブ戦を交える戦術を採るようになった。現在では赤外線暗視装置と逆合成開口レーダーによってシュノーケル航走中の潜水艦探知で成果をあげている。
冷戦終結による哨戒作戦の減少に伴い、20機程度が実働任務から削減されることになり、そのうち5機が画像情報収集機OP-3Cに独自改造された。また、1991年(平成3年)から1998年(平成10年)にかけて、P-3Cをベースにした電子戦機EP-3に5機が、1994年(平成6年)に装備試験機UP-3Cに1機が、1998年から2000年(平成12年)にかけて電子戦訓練支援機UP-3Dに3機が改造製造された。
海上自衛隊では1998年(平成10年)頃からP-3Cの機種呼称を「対潜哨戒機」から「哨戒機」へと変更しており、対潜水艦一辺倒だった体制を改善し、不審船対策や東シナ海ガス田に対する監視強化も主要任務に挙げられている。また、2000年(平成12年)からはアメリカ海軍にあわせ白と灰色の二色塗り分けにノーズを黒とした洋上迷彩を改め、明灰色単色の低視認性塗装が適用された。訓練機は視認性向上のため主翼の端は蛍光オレンジに塗装している(空自のT-4と同じ)。塗装変更以前に派生型へ改造された機体は旧塗装のままである。
2015年3月末時点の海上自衛隊のP-3C保有数は69機である[7]。また、余剰機を改修して転用し、老朽化の進むYS-11の各種任務型を置き換える計画も進められている。初期導入機体から国産のターボファン4発機P-1に更新される他、現用機の一部は機齢延伸措置を行い、6年程度延伸する計画を予定している。
能力向上
海上自衛隊は導入したP-3Cを改造し、衛星通信装置、合成開口レーダー、画像伝送装置、ミサイル警報装置、GPS対応電子海図表示装置、AIS:自動船舶識別装置、次世代データリンクなどの追加装備によって、年々能力向上を図っている。
後継機
P-3も初飛行から40年以上が経過し、装備の近代化改修を繰り返しているものの、既存機の疲労は免れず、海上自衛隊のP-3Cも2009年(平成21年)度から退役が始まった。このため、後継機の導入計画が各国で進められ、アメリカはボーイング737を改造したP-8が2013年11月に初期作戦能力 (IOC) を取得[8]。日本はP-1を独自開発し、2015年度から正式運用を開始した[9]。
配備基地
- 八戸航空基地
-
- 第2航空群 - 第2航空隊
- 下総航空基地
-
- 下総教育航空群 - 第203教育航空隊(練習機)
- 厚木航空基地
-
- 第4航空群 - 第3航空隊
- 第51航空隊(UP-3C(評価試験機))
- 岩国航空基地
-
- 第31航空群 - 第81航空隊 (EP-3/OP-3C)、第91航空隊(UP-3D(電子戦訓練支援機))
- 第1航空群 - 第1航空隊
- 那覇航空基地
-
- 第5航空群 - 第5航空隊
性能・主要諸元 (P-3C UD-II)
諸元
- 乗員: 11名
- 全長: 35.6 m (116 ft 10 in)
- 全高: 10.3 m (33 ft 10 in)
- 翼幅: 30.4 m (99 ft 9 in)
- 翼面積: 1,300 sq ft (120 m2)
- 空虚重量: 66,900 lb (30,300 kg)
- 最大離陸重量:
(通常)139,760 lb (63,390 kg)
(過積載)142,000 lb (64,000 kg) - 動力: アリソンT56-A-14 ターボプロップ、4,600 hp (3,400 kW) × 4
性能
- 最大速度: 761.2km/h=M0.62 (411kts)
- 巡航速度: 607.5km/h=M0.49 (328kts)
- 航続距離: 3,645 nmi (6,751 km)
(※Mk.46×4発、AGM-84A×4発搭載時) - 実用上昇限度: 28,300フィート (8,600 m)
- 離陸滑走距離: 4,660 ft (1,420 m)
(※Mk.46×4発、AGM-84A×4発搭載時)
主な装備品
機内設備の更新を考慮した旅客機をベースとしていることから追加・更新が容易であるため、戦術データ・リンクやミサイル警報装置など開発当初は考慮されていなかった装備の追加が容易なことから、導入国は運用に合わせた装備を随時導入・更新しており多数のバリエーションが存在する。
- 無線通信
- 洋上監視レーダー・光学装置
- ソノブイ
- ソノブイ投射機(手動装填式)
- ソノブイ解析システム(AN/UYS-1等)
- 自機防御システム
- 電子ポッド
- データリンク・ポッド(AN/AWW-13等)
- ESMポッド(AN/ALQ-78等)
- カメラポッド(AN/AXR-13等)
- 照準ポッド
- 一部はアップデートで機内引き込み式のターレットに変更されている。
- 武装・威嚇用装備
-
AN/AWW-13の取り外し作業
-
ウエポンベイに搭載されたMk54魚雷
-
パイロンに吊されたAGM-84
-
Mk62の取り外し作業
-
機外からのソノブイ装填
-
機内のソノブイ保管用ラック
-
フレア投射装置 (AN/ALE-47) にマガジン式フレア (MJU-49-B) を取り付ける作業
搭乗員の編成
海上自衛隊のP-3Cでは11名を基本とし、任務により最小5名 (UP-3C)、最大15名 (EP-3) としている。他国でもほぼ同等である。
- FE(機上整備員)
- 2人体制
- TACCO(戦術航空士)
- 指揮操縦士より階級が上の場合には機長(任務機長)として扱われる。
- NAV/COM(航法・通信員)
- SS-1、SS-2(機上対潜音響員、ソナー員)
- 2人体制
-
P-3C 1機の搭乗員(捜索救難任務)
-
P-3C 副操縦士(左)と機長(右)
-
P-3C 副操縦士(左)と機上整備員(右)
-
P-3C 戦術航空士(左)と航法・通信員(右)
-
P-3C ソナー員
-
AP-3C 投下口にソノブイをセットする機上武器整備員
主な対潜哨戒機との比較
P-3C[10][11] | Il-38[12] | アトランティック | P-8[13] | P-1 | |
---|---|---|---|---|---|
画像 | |||||
全長 | 35.6 m | 39.60 m[12] | 31.75 m | 39.5 m | 38 m |
全幅 | 30.4 m | 37.42 m[12] | 36.30 m | 37.6 m | 35.4 m |
全高 | 10.3 m | 10.16 m[12] | 11.33 m | 12.83 m | 12.1 m |
発動機 | T56A-14×4 | イフチェンコ AI-20M×4[12] | タイン RTy.20 Mk 21×2 | CFM56-7B×2 | F7-10×4 |
ターボプロップ | ターボファン | ||||
最大離陸重量 | 63.4 t | 66 t[12] | 44.5 t | 85.8 t | 79.7 t |
実用上昇限度 | 8,600 m | 10,000 m[12] | 10,000 m | 12,500 m | 13,520 m |
巡航速度 | 607.5 km/h | 不明 | 556 km/h | 810 km/h | 833 km/h |
航続距離 | 6,751 km | 7,500 km[12] | 9,000 km | 8,300 km[14] | 8,000 km |
戦闘行動半径 | 4,410 km | 不明 | 不明 | 3,700 km[15] | 不明 |
最大滞空時間 | 15時間 | 13時間[12] | 不明 | 10時間[16] | 不明 |
乗員 | 5-15名 | 7-8名[12] | 12名 | 9名 | 11名 |
運用開始 | 1962年8月 | 1971年 | 1965年 | 2013年3月 | |
運用状況 | 現役 | ||||
採用国 | 20 | 2 | 5 | 6 | 1 |
事故
- 1972年7月: ロタ海軍ステーションからシチリア島シニョネッラ海軍航空ステーションへと向かっていたP-3、VP-44機は、ジブラルタル海峡を通過中、モロッコ国内の山に突入した。これにより搭乗員14名全員が死亡した。
- 1991年3月12日: 2機のアメリカ海軍所属機が、サンディエゴ近郊を哨戒中に空中衝突した。これにより両機の搭乗員27人全員が死亡した。
登場作品
映画
- 『ゴジラシリーズ』
-
- 『ゴジラ (1984年の映画)』
- ソ連原子力潜水艦の救難信号で出動した海上自衛隊所属機が超音波写真でゴジラの影を撮影した(実際のP-3Cにそのような装備はない)ほか、その後行われたゴジラの捜索に出動。ライブフィルムによる機内からのソノブイ投下シーンが登場する。
- 『ゴジラvsデストロイア』
- 米海軍のP-3Cが登場。ゴジラを上空から追跡する。
- 『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』
- コールサイン「オスプレイ」が太平洋上を潜行するゴジラを探知する。映像の大半は、『ゴジラvsデストロイア』の流用である。
アニメーション作品
- 『FUTURE WAR 198X年』
- 米海軍機として登場。ミッドウェー基地所属機が、ソ連の改アルファ型原子力潜水艦を核魚雷で撃沈する。
- 『WXIII 機動警察パトレイバー』
- 東京湾内での海上自衛隊出動シーンに登場。
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
- 国連軍所属機として作品独自のEP-3D多用機型が登場。
- ヤシマ作戦のシーンで登場。画像偵察機と呼ばれていることからOP-3C。
- 『沈黙の艦隊』
- 原作の漫画版とアニメ版に、海上自衛隊機と米海軍機が登場。行方不明となった原子力潜水艦「シーバット」を捜索する。
小説
- 『宣戦布告』
- ゆうしお型潜水艦「あきしお」との訓練中に、潜行して日本に近づく北朝鮮の潜水艇を探知する。
- 『中国完全包囲作戦』(文庫名:中国軍壊滅大作戦)
- ソノブイ、音響弾を投下して統一朝鮮海軍の潜水艦を探知し、その後魚雷を発射して撃沈する。
- 『日中尖閣戦争』
- 第5航空群所属の機体が出撃し、中国海軍の潜水艦を撃沈する。
- 『日本北朝鮮戦争 自衛隊武装蜂起』
- 日本海側の各基地からそれぞれ出撃し、内1機がソノブイを投下して北朝鮮の潜水艦を探知する。
- 『ピノキオ急襲』
- 海上自衛隊のP-3Cが対潜警戒のため、ソノブイを投下する。
ゲーム
- 『大戦略シリーズ』
脚注
- ^ この事件により後に田中らは逮捕され、前内閣総理大臣の逮捕は日本の社会に大きな衝撃を与えた
- ^ 哨戒機では機体性能よりも、搭載電子機器の性能が重要である。海上自衛隊採用の初期型は、捜索用機器はすべてブラックボックスの輸入に頼っていたが、国内技術の成長により、順次国産機器に換装されつつある。ブラックボックスの輸入のほうがコスト的には有利であるが、故障時の代替機器の手配に難があり、また、オペレーターと開発者との接点がないため、ユーザーの意図を反映した改善がなされにくいなど、問題が多い。国産電子機器は世界的にも最高水準を維持しており、また、民間技術の導入による低廉化が促進されることも期待できる
- ^ 内訳はアップデートII.5相当が69機、アップデートIII相当が32機である
出典
- ^ “P-3C オライオン ”海上自衛隊 第5航空群””. ハセガワ. 2015年10月3日閲覧。
- ^ “海上自衛隊 航空機シリーズ P-3C”オライオン” 第4弾”. トミーテック. 2015年10月3日閲覧。
- ^ a b c P-3Cの航続性能について
- ^ P-3 Mid-Life Upgrade Program · Lockheed Martin
- ^ P-3 Orion Desert to Delivery - モスボール中の機体を組み立て直しアップデートする工程の紹介
- ^ 防衛庁 洋上防空体制研究会資料 か-56
- ^ 平成27年度防衛白書 資料35 主要航空機の保有数・性能諸元
- ^ アメリカ海軍、P-8AポセイドンIOC獲得 沖縄へ出発
- ^ “海自、最新鋭の哨戒機P1を公開 厚木基地で正式運用”. 朝日新聞. (2015年6月25日) 2015年6月25日閲覧。
- ^ a b アメリカ海軍 (2009年2月18日). “The US Navy - Fact File: P-3C Orion long range ASW aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ a b Lockheed (1994年2月23日). “Standard aircraft characteristics - P-3C Update II” (PDF) (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j Borst, Marco P.J. (Summer 1996). “Ilyushin IL-38 May- the Russian Orion” (pdf). Airborne Log (Lockheed): 8–9 .
- ^ Boeing Defense, Space & Security (2013年3月). “P-8A overview” (PDF) (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Boeing: P-8
- ^ Military-Today.com (2013年). “Boeing P-8 Poseidon Maritime Patrol Aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。
- ^ Boeing: P-8 Quick Facts
関連項目
- 航空機 - 対潜哨戒機
- 海上自衛隊の装備品一覧
- P-2 (航空機)
- P-2J (航空機)
- P-8 (航空機)
- P-1 (哨戒機)
- Il-38 (航空機) - P-3と同じく旅客機をベースとした哨戒機。
- P-3Cジュニア - 下総航空基地のクラブ活動。