アラビア文字

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アラビア文字
類型: アブジャドイラククルド語などでは母音記号を必ず付加するためアルファベット
言語: アラビア語ペルシア語バローチ語ウルドゥー語クルド語パシュトー語シンド語など
時期: 400年頃から
親の文字体系: 原カナン文字
 → フェニキア文字
  → アラム文字
   → ナバテア文字シリア文字
    → アラビア文字
Unicode範囲: U+0600-U+06FF(アラビア文字)
U+0750-U+077F(アラビア文字拡張)
U+0B50-U+0DFF(アラビア文字表示形A)
U+FE70-U+FEFF(アラビア文字表示形B)
ISO 15924 コード: Arab

アラビア文字による広告

青銅器時代中期 前19–15世紀

メロエ 前3世紀
オガム 4世紀頃
カナダ先住民 1840年
注音 1913年
完全な系図

アラビア文字(あらびあもじ)は、アラビア語や世界中のイスラム教を受け入れた人々の様々な言語を記述するのに使われる文字である。文字体系の類型としてはアブギダに属する。

手書きでも活字でも必ず右から左に横書きし、原則として文字と文字を漢字草書ラテン文字の筆記体のように続け書きにする。また、基本的に子音を表す文字からなっており、短母音を文字によってあらわさない。ただし、初学者の学習のためや、外来語の表記などの用途のために、補助的にシャクルとよばれる母音を表す記号も用いる。

アラビア語に存在する3種の長母音(ā, ū, ī / アー、ウー、イー)はそれぞれ無音価(ア行)を表すアリフ (alif) 、[w](ワ行)を表すワーウ (wāw) 、[j](ヤ行)を表すヤー (yāʾ) を使って表す。なお、他言語の固有名詞をアラビア文字で表記するとき、母音は極力長母音を使って表記する傾向がある。こうした転写などの記述法についてはアラビア文字化を参照。

アラビア語に用いられるアラビア文字はハムザ (ﺀ) を除いて28文字であるが、ペルシア語などアラビア語以外の言語では、アラビア語にない子音(p, ch, zh, gなど)をあらわすため点や棒を付加したりした文字を28文字に付け加えて用いる。

目次

[編集] 歴史

アラビア文字の起源はアラム文字である。紀元前3世紀から紀元後3世紀頃までに勢力をもったペトラを中心とするアラブ系のナバタイ人が使用したアラム文字の一派、ナバテア文字を直接の起源としている。当時のナバテア文字は、他の地域のアラム文字と同様に文字同士を連結して、続け書きする特徴があった。ナバタイ人の活動範囲はシリア北部からイエメン方面まで広域におよび、4世紀頃からヒジャーズ(紅海東岸)地方を中心に、他のアラブ人にも用いられ始めた。当初ナバタイ人や他のアラブ人たちはこの文字をアラム語でのみ筆記して使用していたが、次第に自らの母語であるアラビア語も表記するようになった。

ただアラビア語はアラム語よりも子音が多く、さらに最初期のアラビア文字はいくつかの文字で本来異なる文字同士が同じ字形で表記されるという致命的な欠点を持っていた。この問題と続け書き表記のゆえに、文字を区別するために点が加えられたり、続け書きをしない文字が決められた。イスラム教の生まれた7世紀にはおおよその形ができあがっていた。

イスラム教布教後のアラビア文字はアッラーフ)の発した言葉の記録であるクルアーン(コーラン)や宗教文献の表記に使われたため、イスラム教に改宗した非アラブ民族にも神の教えに近い文字と認識され、ペルシア語をはじめとする多くの言語の表記にも用いられるようになった。

中には近代ヨーロッパ文化の影響を受けて文章語が生まれた時に、あえてアラビア文字による正書法が選ばれた言語もある。

[編集] アラビア文字と言語

現在、表記にアラビア文字を使う言語は、アラビア語、ペルシア語、ダリー語クルド語パシュトー語バローチ語シンド語ウルドゥー語カシミール語パンジャブ語(主にパキスタン領で)、ウイグル語カザフ語(主に中国領で)、キルギス語(主に中国領で)、ベルベル語マレー語(主にブルネイ、そしてマレーシアやインドネシアでは、ムスリム向けのメディアや宗教関係)、ジャウィ語バルティー語などである。

表記がアラビア文字からラテン文字に変更された言語は、トルコ語マレー語インドネシア語スワヒリ語などがある。これらの言語で文字改革が行われた理由は、日常生活からのアラビア文字の排除による脱イスラム化・西欧化を狙うといった動機によるほか、簡略な表記体系による識字率の向上をはかり、さらに母音を表記しやすくなるという論理を掲げたこともある。しかし、アラビア文字を改良して母音表記を徹底し、簡略な表記体系を作り上げることに成功した事例もあるため、実際は言語学的な事実よりも、『ヨーロッパ=進歩的』という観念に基づいた発想によってアラビア文字が敬遠された面が大きい。これらの言語でも、ラテン文字化へとすんなり舵を切ったわけではなく、アラビア文字を改良して、自言語に完全適用した文字体系にすることで効率のよい表記を達成しようとしたグループも存在した。

 マレー・インドネシア語、スワヒリ語など、多くの言語では、政府公用の表記法がラテン文字に変わっただけで、民間や宗教関係ではアラビア文字も継続して使用されたし、私的な教授や伝承、使用については特に弾圧も受けなかった。またマレーシアでは、マレー語のアラビア文字表記もラテン文字表記に一歩譲るものの、学校で第2正書法として教授されている。しかしトルコのみはアラビア文字による出版物を禁止することで、アラビア文字の使用そのものを断ち切る形でラテン文字化を遂行した。現在でもトルコでは、この時定められたトルコ語表記用のラテン文字29文字以外の文字を用いた出版物を禁止しており、アラビア文字によるトルコ語表記のみならず、クルド語への弾圧の道具にもなっている[1]

チェチェン語タタール語カザフ語キルギス語トルクメン語ウイグル語ウズベク語タジク語ドンガン語などの旧ソ連内のムスリム(イスラム教徒)の諸民族の言語の表記にはロシア革命直後に一時ラテン文字化が試みられたが、スターリンの粛清が始まるとロシア語にならったキリル文字に改められた。なお、当初はラテン文字ではなく、ロシア連邦内のムスリムの間では、アラビア文字を改良して用いるべきという案を唱える知識人も多かった。現在でも、公式の文字表記はラテン文字やキリル文字であっても、アラビア文字も民間や宗教関係で使用され続けている。

アゼルバイジャン語、トルクメン語、ウズベク語、タタール語などはソ連崩壊後、さらにラテン文字への再切り替えが進められている。

また中国ウイグル語等のムスリム少数民族の言語は、かつてはソ連の影響でキリル文字化が図られ、中ソ国境紛争後はさらにソ連との違いを明らかにするためにピンイン風のラテン文字正書法が行われたが、1980年代の民族政策の転換によりアラビア文字が復活された。なお、現在のウイグル語で用いるアラビア文字はアリフワーウなどに点を付加した文字を用い、8つある母音の全てを書き分ける独特なものである。

また、中国に住んでいる中国語漢語)を話すムスリム(回民、現在の回族)は、アラビア文字で口語体の漢語を書き記すことがあった。このアラビア文字表記の漢語を小児経(小児錦とも)といい、クルアーンなどの経典の注釈に使われて印刷もされたほか、手紙や日記などの個人的用途に使われた。現在でも回族が集中的に居住する寧夏甘粛では小児錦が部分的に使われているという。また、旧ソ連に移住した回民はドンガン人と呼ばれるようになるが、ドンガン語と呼ばれる彼らの話す漢語の一種もかつてはアラビア文字で書かれていた。また、中国国内のサラール族も、アラビア文字による自言語表記を行っている。

スペイン語も、主に国内のイスラム教徒の間においてアラビア文字で書かれたことがある。

アラビア文字はもともと子音のみで語根が決まるセム系言語のために作られた文字であった、同じセム系文字を起源とするヨーロッパアルファベットが文字の転用により母音を全て書き分ける方向に向かったのに対し、アラビア文字はそのような発展をしなかった。セム系言語に限れば、文脈で母音の読み方はほぼ決定するため、アラビア文字は合理的な文字といえる。しかしセム系言語とはまったく違った言語的特徴を有するペルシア語ヒンドゥスターニー語トルコ語オスマン語)、マレー語などに導入された際はこの特徴が逆に不便と考えられることが多い。実際にはこれらの言語でもアラビア文字の改良は主として子音の追加、転用にとどまり、母音の完全な表記へと進むことは少なかった。母音の完全表記に至ったのはウイグル語やクルド語等である。

[編集] 太陽文字・月文字

アラビア文字は太陽文字月文字の二種類に分かれる。

[編集] 太陽文字

アラビア語で、定冠詞の "ال" (al-) の /l/ の音が後の文字と逆行同化して長子音となる文字を言う。具体的には、/l/ と調音点が同じ、または近接である歯音歯茎音後部歯茎音を表す文字である。「太陽」を意味する شمس (shams, シャムス)の語頭の文字が含まれるため、太陽文字 َحروف شمسية(hurūf shamsiyya, フルーフ・シャムシーヤ)と呼ばれる。例えば、شمس定冠詞がついた場合、الشَّمْسُ (al-shams, アッ=シャムス)となる。

[編集] 月文字

定冠詞の /l/ の音が同化しない文字、つまり太陽文字以外を月文字という。「月」を意味する قمر (qamar, カマル)の語頭の文字が含まれるため、月文字 َحروف قمرية(hurūf qamariyya, フルーフ・カマリーヤ)と呼ばれる。قمر定冠詞がついた場合、القمر (al-qamar, アル=カマル)となる。

[編集] 基本文字表

単独形 頭字 中字 尾字 文字名 転写 音価 片仮名転写の例 太陽文字
ا ʾalif ā / â [aː] ア行
ب bāʾ b [b] バ行
ت tāʾ t [t] タ行
ث ṯāʾ ṯ / th [θ] サ行
ج ǧīm ǧ / j / dj [ʤ] ジャ行
ح ḥāʾ [ħ] ハ行
خ ḫāʾ ḫ / ẖ / kh [x] ハ行
د dāl d [d] ダ行
ذ ḏāl ḏ / dh [ð] ザ行
ر rāʾ r [r] ラ行
ز zāy z [z] ザ行
س sīn s [s] サ行
ش šīn š / sh [ʃ] シャ行
ص ṣād [sˁ] サ行
ض ﺿ ḍād [dˁ], [ðˤ] ダ行或はザ行
ط ṭāʾ [tˁ] タ行
ظ zāʾ [zˁ], [ðˁ] ザ行
ع ʿayn ʿ / ‘ [ʔˤ] ア行
غ ġayn ġ / gh [ɣ] ガ行
ف fāʾ f [f] ファ行
ق qāf q / ḳ [q] カ行
ك kāf k [k] カ行
ل lām l [l] ラ行
م mīm m [m] マ行
ن nūn n [n] ナ行
ه hāʾ h [h] ハ行
و wāw w [w] ワ行
ي yāʾ y [j] ヤ行
ء أ ؤ إ ئ ٵ ٶ ٸ ځ hamza ʾ / ’ / ‚ [ʔ] 声門破裂音

表中の頭字・中字が存在しない文字は、語頭では単独形で、語中では尾字で書かれる。ハムザ()は、他の文字の上下に付加された形となることも多い。

[編集] その他の文字

単独形 頭字 中字 尾字 文字名 転写 音価
ʾalif madda ʾā [ʔaː]
tāʾ marbūṭa h / t / Ø / ʰ / ẗ [a], [at]
ʾalif maqṣūra ā / ỳ [aː]
lām ʾalif [laː]

[編集] 関連項目

[編集] 参照

  1. ^ クルド語禁止が再燃 -嘆願書28行中、45文字が反政府的

[編集] 外部リンク