ピン音

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拼音
各種表記
繁体字 拼音
簡体字 拼音
拼音 Pīnyīn
注音符号 ㄆㄧㄣ ㄧㄣ
発音: ピンイン
日本語読み: ほうおん
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拼音(ピンイン)は、中国語音節音素文字に分け、ラテン文字化して表記する発音表記体系を指す。一般には1958年中華人民共和国が制定した漢語拼音方案(かんごピンインほうあん、汉语拼音方案Hànyǔ pīnyīn fāng'àn)という表記法、あるいはそれに基づく漢語拼音字母(かんごピンインじぼ、汉语拼音字母Hànyǔ pīnyīn zìmǔ)という文字を指す。

通用拼音のように中国大陸とは異なる「拼音」もあり、ウェード式などの他のラテン文字による表記法も中国語では拼音と称することがある。このため他の「拼音」と区別するために漢語拼音方案による表記法を特に漢語拼音(かんごピンイン)と呼ぶことがある。

漢語拼音は、当初は将来的に漢字に代わる文字として中国で位置づけられていたが、現在では中国語の発音記号として日本を含め世界各国で使用されている。

ラテン文字v を除く25文字を組み合わせて発音を表し、主な母音の上に声調符号と呼ばれる4種のアクセント記号を付して声調を表す。他に、ウムラウト記号と区切り符号(アポストロフィー)が用いられる。

概要[編集]

現在、現代標準中国語(普通話)の発音表記法として世界的に最も広く通用しており、国際標準化機構もこれを標準規格 ISO 7098 として採用している。これは国際連合をはじめとして、多くの国が中華人民共和国政府と公式な関係を持っていることによる。

一方、政治体制が異なる台湾中華民国)では、標準中国語(國語)の発音表記体系として、漢語拼音ではなく注音符号注音符號)が使用されている。固有名詞を中心としたローマ字表記としては長らくウェード式を用いてきているほか、国語ローマ字(1928年公布)、国語注音符号第二式(1984年公布)、通用拼音國語のほか閩南語客家語先住民言語への対応を謳う)が並立しており、一般の使用においては表記が統一されていない。近年は漢語拼音と通用拼音のどちらを採用するかを巡った論争が続き、関連当局間でも同意を得られない状態が続いた。行政院は、2000年に漢語拼音を採用するとしたが、2002年には通用拼音を推奨する『中文譯音使用原則』を打ち出している。2009年1月1日、台湾は公式に漢語拼音を採用した。

発音[編集]

拼音には v を除く25文字のラテン文字が使われるが、x と q には日本人にはあまり馴染みのない読み方が当てられている。d, b, g, j, z は有声音ではなく、無気音(ただし有声の場合が多い)を表記するのに使われている。

中国語の音節は声母(頭子音)と韻母声調の組み合わせによって表される。

声母[編集]

声母は語頭の子音である。現代の中国語では、一つの音で構成され、多重子音は存在しない。セル内の上側に国際音声字母を、下側に拼音を示した。無気音有気音の対立があるものはセルを左右に分けて示した。ただし、shr で表記される子音は無声音有声音の対立である。なお、y, w で表記される接近音[j][w]は声母ではなく、韻母の介音なので、下表には載せていない。

  両唇 唇歯 歯茎 反り舌 歯茎硬口蓋 軟口蓋
破裂音 p
b

p
  t
d

t
    k
g

k
鼻音 m
m
  n
n
     
摩擦音   f
f
s
s
ʂ
sh
ʐ
r
ɕ
x
x
h
破擦音     ts
z
tsʰ
c
ʈʂ
zh
ʈʂʰ
ch

j
tɕʰ
q
 
側面接近音     l
l
     
声母の順序は、  b p m f   d t n l   g k h   j q x   zh ch sh r   z c s  である。

漢字に添えてその発音を示すときは、綴りを短くするため、zh ch sh をž č šと省略することができる。

韻母[編集]

韻母は、介音+主母音+尾音で構成される。部分名としてはそれぞれ韻頭・韻腹・韻尾と呼ばれる。韻腹の主母音は音節の中心となる母音であり、韻尾の尾音は主母音に後続する鼻音や母音(二重母音を構成する)である。韻頭の介音は声母と主母音の間にはいる半母音で中国語には /i/,/u/,/y/ の3種がある。介音で表される半母音が子音として語頭に立つ場合、拼音では y, w と表記するが、分類上、声母とはせず、声母ゼロの韻母とされている。

セル内の1段目には国際音声字母を、2段目には声母がなく韻母だけで構成される形の拼音を、3段目には声母と組み合わされる形の拼音を示した。また尾音に反り舌音 [ɻ] をとるものがあるが、それについては次項で説明する。

主母音 尾音 介音
Ø /i/ /u/ /y/
/a/ Ø [ɑ]
a
-a
[iɑ]
ya
-ia
[uɑ]
wa
-ua
 
/i/ [aɪ]
ai
-ai
  [uaɪ]
wai
-uai
 
/u/ [aʊ]
ao
-ao
[iaʊ]
yao
-iao
   
/n/ [an]
an
-an
[iɛn]
yan
-ian
[uan]
wan
-uan
[yɛn]
yuan
-üan 1
/ŋ/ [ɑŋ]
ang
-ang
[iɑŋ]
yang
-iang
[uɑŋ]
wang
-uang
 
/ə/ Ø [ɤ]
e
-e
[iɛ]
ye
-ie
[uɔ]
wo
-uo/-o 2
[yɛ]
yue
-üe 1
/i/ [eɪ]
ei
-ei
  [ueɪ]
wei
-ui
 
/u/ [ɤʊ]
ou
-ou
[iɤʊ]
you
-iu
   
/n/ [ən]
en
-en
[in]
yin
-in
[uən]
wen
-un
[yn]
yun
-ün 1
/ŋ/ [ɤŋ]
eng
-eng
[iɤŋ]
ying
-ing
[uɤŋ]/[ʊŋ]
weng 3
-ong
[yʊŋ]
yong
-iong
Ø [z̩]

-i 4
[i]
yi
-i
[u]
wu
-u
[y]
yu
1
  1. ü は、j, q, x の後では u と表記する。
  2. uo は、b, p, m, f の後では o と表記する。
  3. [uɤŋ] は声母の後では [ʊŋ] に変化するが、拼音はこの違いを反映させて綴りを別にしている。
  4. -i は zh, ch, sh, r や z, c, s のそのままの舌の構えで出される音を表す。従ってこれらの声母に伴って使われ、単独で発音されない。なお、この母音は平唇母音である。

韻母に使われる拼音は以下の通りである。

  • 単韻母 - a, o, e, i, u, ü, er, (zh) -i, (z) -i
  • 複韻母 - ao, ai, ou, ei, iao, iou, uai, uei, ia, ie, ua, uo, üe
  • 鼻韻母 - an, en, ian, in, uan, uen, üan, ün, ang, ong, eng, iang, iong, ing, uang, ueng

漢字に添えてその発音を示すときは、綴りを短くするため、ng をŋと省略することができる。

erと児化音[編集]

「而」や「二」などは韻尾に反り舌音を含む音 [aɻ] で、拼音では er と表記される。この場合に用いる r は声母の r とは異なる音である。母音の音色は声調によって若干異なる。

また接尾辞 -r (繁体字簡体字新字体:児)は独立した音節をもたず、接続する語の音節末尾の音を反り舌音 [ɻ] に変化させる。これを児化という。拼音はr化した音節についてその発音変化を個別に表記するような正書法はなく、ただ音節の最後に -r をつけて表記する。そのためもともと反り舌音を持つ「二」(èr) と児化した「歌兒/歌儿」(gēr は表記上は同じであるが、韻母の発音はそれぞれ [aɻ][ɤɻ] で異なることに注意が必要である。

なお、国際音声記号で子音ではなくR音性母音として表記することもある。

児化による発音変化の法則は次のようなものである。

1. -a, -o, -e, -u で終わる音節は、その音にそのまま反り舌音を加える。
2. 尾音が -i, -n で終わる音節は、-i, -n を脱落させて主母音に反り舌音を加える。
3. 韻尾が -ng で終わる音節は、-ng を脱落させて主母音を鼻音化させた上で反り舌音を加える。
4. 韻母がi, ü だけで構成される時、i, ü を残して [əɻ] を加える。
5. zhi, chi, shi, ri や zi, ci, si には声母に [əɻ] を加える。

児化後の韻母の発音

主母音 尾音 介音
Ø /i/ /u/ /y/
/a/ Ø [ɑɻ]
ar
-ar
[iɑɻ]
yar
-iar
[uɑɻ]
war
-uar
 
/i/ [ɑɻ]
air
-air
  [uɑɻ]
wair
-uair
 
/u/ [aʊɻ]
aor
-aor
[iaʊɻ]
yaor
-iaor
   
/n/ [ɑɻ]
anr
-anr
[iɑɻ]
yanr
-ianr
[uɑɻ]
wanr
-uanr
[yɑɻ]
yuanr
-üanr
/ŋ/ [ɑ̃ɻ]
angr
-angr
[iɑ̃ɻ]
yangr
-iangr
[uɑ̃ɻ]
wangr
-uangr
 
/ə/ Ø [ɤɻ]
er
-er
[iɛɻ]
yer
-ier
[uɔɻ]
wor
-uor/-or
[yɛɻ]
yuer
-üer
/i/ [əɻ]
eir
-eir
  [uəɻ]
weir
-uir
 
/u/ [ɤʊɻ]
our
-our
[iɤʊɻ]
your
-iur
   
/n/ [əɻ]
enr
-enr
[iəɻ]
yinr
-inr
[uəɻ]
wenr
-unr
[yəɻ]
yunr
-ünr
/ŋ/ [ɤ̃ɻ]
engr
-engr
[iɤ̃ɻ]
yingr
-ingr
[ʊ̃ɻ]
wengr
-ongr
[yʊ̃ɻ]
yongr
-iongr
Ø [əɻ]

-ir
[iəɻ]
yir
-ir
[uɻ]
wur
-ur
[yəɻ]
yur
-ür

声調[編集]

四声の音高変化

中国語には音節内で、音の高さが異なる声調がある。声調が違えば異なる意味を持つ。四つの基本声調があり、拼音では主母音の上に、第一声を表す「¯」(マクロン)、第二声を表す「ˊ」(アキュート)、第三声を表す「ˇ」(ハーチェク)、第四声を表す「ˋ」(グレイヴ)の声調符号が付けられている。また声調を失い軽く弱い音となった軽声には声調符号が付けられない。

第二声を表す記号は正確には左下から右上に向かう記号であり、欧米言語で用いられるアキュートアクセント記号とは向きが違うが、Unicode および UCS の文字コードでは区別されていない。中国語字体ではアキュートを左下から右上に向かう形で表示するようになっている。

第一声「陰平(いんぴょう、いんぺい)、高平調(こうへいちょう)、平調(へいちょう)」
符号は「¯」 (ā, ō, ē, ī, ū, ǖ)
高→高の発音(5—5)。少し高い声で歌を歌っているつもりで、高く平らに発音する。
第二声「陽平(ようひょう、ようへい)、上昇調(じょうしょうちょう)、昇調(しょうちょう)」
符号は「ˊ」 (á, ó, é, í, ú, ǘ)
中→高の発音(3—5)。日本語では意外なことを言われた際の「はぁ?」の発音に近い。中くらいの音から一気に高い音に持っていく。
第三声「上声(じょうしょう、じょうせい)、低凹調(ていおうちょう)、上音(じょうおん)」
符号は「ˇ」 (ǎ, ǒ, ě, ǐ, ǔ, ǚ)
中→低→中の発音(2—1(-4))。日本語では「あーあ」とつぶやく時の発音に近い。ただ、日常会話で第3声が出た時は、最後の「中」の音が省略されることが多い。
第四声「去声(きょしょう、きょせい)、下降調(かこうちょう)、去音(きょおん)」
符号は「ˋ」 (à, ò, è, ì, ù, ǜ)
高→低の発音(5—1)。日本語では溜め息の「はぁ」や「ふぅ」の発音に近い。高い音から一気に低い音に持っていく。

陰平、陽平、上声、去声の呼称が一般的。

第一声のみ段位声調で、残りは曲線声調である。このように、両者を用いるものを複合声調という。普通話の場合は、さらに「軽声」といって、前の発音の勢いで軽く添えるだけの発音もある。拼音では軽声には声調符号はつけず(つける必要がある場合は音節の前に点(·)をつける)、注音符号では「・」と表記する。注音符号では、逆に、第一声には声調の符号を付けない(つける場合は位置の高い横棒(ˉ)をつける)。

声調の学習のために「媽媽罵馬。」(媽媽罵馬。 / 妈妈骂马。 / Māma màmǎ.)や「馬罵媽媽。」(馬罵媽媽。 / 马骂妈妈。 / Mǎmà māma.)という文を用いることがある。maの第二声以外はこれらの文に含まれているからである。

参考のためにmaの各声の表を下記に記す。

声調 拼音 注音 繁体字 簡体字 意味
第一声 ㄇㄚ / ㄇㄚˉ 母親
第二声 ㄇㄚˊ アサ
第三声 ㄇㄚˇ ウマ
第四声 ㄇㄚˋ 罵る、叱る
軽声 ma / ·ma ˙ㄇㄚ 疑問文の文末につく軽い疑問の助詞

声調符号の位置[編集]

声調符号は主母音の上につける。つまり、複数の母音字があった場合は a に、a がなければ e か o の上につける。主母音が省略されている -iu は後の u のほうに、-ui には i のほうにつける。

声調が変化する場合[編集]

第三声が連続する場合に、最後の一つ以外は第二声に変化する。このとき声調符号は変化しない。(但し、一部の辞典では実際の発音のを表示されている。)

例えば、「你好」(nǐhǎo) は両方とも第三声なので、前の「」が第二声に変化するが、拼音の声調表記ではこれを反映させず本来のものが書かれる。

この他にも、三つ以上の音節が続く場合など、声調が変化する場合があるが、いずれも本来の声調を表記する。

数詞の「」 ()、「」 () の後に音節が続く場合、及び否定副詞「」 () の後に音節が続く場合、それぞれ または , , 」と発音する場合があるが、その場合も本来の声調を示す。ただし、外国語学習用の辞書は、変化した発音を載せているもしくは併記している例がある。

区切り符号[編集]

a, o, e の文字で始まる音節が他の音節の後に続く時、もし音節の切れ目に混交が起きる場合は区切り記号「’」(隔音符号、アポストロフィ)を用いて区切る。またその間で改行する場合は、アポストロフィを次行の最初に書く。

例:皮襖/皮袄pí'áo/piáo

なお、二つ以上の音節からなる略語、範囲を示す語、対等関係の語を並べた語、二つずつに分解して理解すべき四字熟語などでは、語の間に「−」(ハイフン)を入れてつなげる場合がある。

例:「環保/环保huán-bǎo」(環境保護)、「五六天wǔ-liù tiān」(五六日)、「陸海空軍/陆海空军lù-hǎi-kōngjūn」(陸海空軍)、「愛憎分明/爱憎分明àizēng-fēnmíng」(愛憎分明)

分かち書き[編集]

拼音では単語を単位とし、分かち書きを行う規則になっているが、どこまでを一区切りとすべきか判断に困る場合も多いため、『漢語拼音正詞法基本規則』というガイドラインが1988年に示されている。大文字で書くべき固有名詞の例や、上記のハイフンによる結合の例なども示している。

例:「中華人民共和國/中华人民共和国」 (Zhōnghuá Rénmín Gònghéguó)、「各國/各国」(gè guó)、「非金屬/非金属」(fēijīnshǔ)、「泰山」(Tài Shān)、「梅蘭芳/梅兰芳」(Méi Lánfāng)、「中山服」(zhōngshānfú)、「進行了/进行了」(jìnxíngle)、「寫得不好/写得不好」(xiě de bù hǎo」)。

コンピュータ上での取り扱い[編集]

中国の基本文字セット GB 2312 や、2000年に制定された日本の拡張文字セット JIS X 0213 には、漢語拼音で用いられる声調符号付きラテン文字が含まれる。これにより簡体字中国語フォントやJIS X 0213に対応した日本語フォントがインストールされていると、漢語拼音で使われる文字の大多数を表示・印刷することができる。欧文フォントや繁体字中国語フォントの中にも Unicode 対応が進み漢語拼音で使われる文字をカバーするものも出てきた。中国語や日本語のフォントには、比較的古いものを中心に、声調符号付きラテン文字を全角幅で、一般のラテン文字を半角またはプロポーショナルにデザインしているため、漢語拼音を表示・印刷する用途では実用にならないものがある。中国国内で用いられる漢語拼音字母のデザインは、日本語フォントや欧文フォントのものとは異なる場合がある。

GB 2312やその後継規格のほか、UTF-8 (Unicode) などの符号化方式による HTML 文書では、直接声調符号付きラテン文字を記述することができる。それ以外の HTML では、数値文字参照を用いる。いずれの場合でも、閲覧者側で対応するブラウザを使用し、適切に表示できる書体が用意されていないと、意図通りの表示が得られない。

声調符号のついたラテン文字を含む書体の使えない環境で中国語の拼音を書く際には、音節の後に声調の番号を振って示すことがある。この場合Wǒ shì Rìběnrén我是日本人)と書く代わりに、例えば Wo3 shi4 Ri4ben3ren2 と書く。「ü」の字が使えない場合 v で代用することがある。

入力方法として[編集]

拼音輸入法(拼音による漢字入力方式)では v のキーに ü が割り当てられている場合が多い。

広東語話者が多くを占め、普通話教育を受けた人が少ない香港特別行政区においては、普通話を前提とする拼音輸入法ではなく、倉頡輸入法による漢字変換が主流となっている。台湾では注音符号を入力文字に用いた注音輸入法が一般的である。

関連項目[編集]