クメール文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
この項目には、一部のコンピュータや閲覧ソフトで表示できない文字が含まれています詳細
クメール文字
Akkharakromkhmaer.png
類型: アブギダ
言語: クメール語ほか
時期: 遅くとも600年頃-現在
親の文字体系:
子の文字体系: タイ文字
ラオ文字
姉妹の文字体系: モン文字
カウィ文字
Unicode範囲: U+1780-U+17F9(クメール文字)
U+19E0-U+19FF(クメール記号)
ISO 15924 コード: Khmr
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号(IPA)を含む場合があります。

青銅器時代中期 前19–15世紀

メロエ 前3世紀
カナダ先住民 1840年
注音 1913年
完全な系図

クメール文字(くめーるもじ 、អក្ខរក្រមខេមរភាសា、âkkhârâkrâm khémâraphéasa)はカンボジアの公用語であるクメール語を書くのに使われる文字。東南アジアの文字の中で最も歴史がある。文字が誕生して数百年間はサンスクリットを表記するための文字だった。タケオ州アンコールボレイ(អង្គរបុរី)で見つかった最も古い碑文のクメール文字は西暦611年のものだが、文字自体はもっと古くから使われていたと見られる。またこの文字はカンボジア内の文字を持たなかった少数民族の言語にも用いられた。

概要[編集]

クメール文字は表音文字であり、子音文字と母音記号の組み合わせによって表記される。子音が音節内で連続する場合は、2つ目の子音は脚文字とよばれる形で書かれる。クメール文字表記の特徴として、子音文字は二つの種類に分けられ、どちらの子音字が来るかによって母音記号の発音が変わる。母音記号は子音文字の上下左右あるいは子音字をはさむ形で書かれ、母音記号と子音字が組み合わせがまるで一つの文字のように見える。子音字のみのときは、それぞれの子音字固有の母音をつけた発音になる。母音記号が23、子音字が35(ただし内2つはほとんど使用されない)ある。

字体[編集]

現在日常的に2種類の字体が使用されている。

  • ムール体 全体に装飾付きの丸みがかがった書体で看板や宗教文章などに使用される。
  • チュリエン体 等幅の細線でかかれ、日常の筆記に用いられる(チュリエン体の中で特に各文字がまっすぐに書かれるものをチョー体として区別する場合もある)。

符号[編集]

クメール文字の符号は固有のユニークなものを使用する。単語と単語の間のわかち書きは無く、区切らず表記されるが、文末に打たれる日本語読点に当たるものは楽譜の8分休符に似ている。ラテン系のものを使用するときもある。

字母[編集]

子音字[編集]

子音字は、全35字(現在は2字が廃字となって全33字)。

それぞれの子音字は、他の子音との連続を表現すべく、子音字を縦に組み合わせるための「脚文字」という簡略形も併せ持つ。

また、子音字はa系とo系の2つに分かれ、後述するように、それぞれ母音字の発音が異なってくる。

一覧[編集]

文字 脚文字 転写 発音 分類
្ក [kɑ] a
្ខ khâ [kʰɑ] a
្គ [kɔ] o
្ឃ khô [kʰɔ] o
្ង ngô [ŋɔ] o
្ច châ [cɑ] a
្ឆ chhâ [cʰɑ] a
្ជ chô [cɔ] o
្ឈ chhô [cʰɔ] o
្ញ nhô [ɲɔ] o
្ដ [ɗɑ] a
្ឋ thâ [tʰɑ] a
្ឌ [ɗɔ] o
្ឍ thô [tʰɔ] o
្ណ [nɑ] a
្ត [tɑ] a
្ថ thâ [tʰɑ] a
្ទ [tɔ] o
្ធ thô [tʰɔ] o
្ន [nɔ] o
្ប [ɓɑ] a
្ផ phâ [pʰɑ] a
្ព [pɔ] o
្ភ phô [pʰɔ] o
្ម [mɔ] o
្យ [jɔ] o
្រ [rɔ] o
្ល [lɔ] o
្វ [ʋɔ] o
្ឝ shâ 【廃字】
្ឞ ssô 【廃字】
្ស [sɑ] a
្ហ [hɑ] a
(្ឡ) [lɑ] a
្អ [ʔɑ] a

[編集]

上記の子音字を、5音(4音)ごとに並べると、以下のような表になる。

(※デーヴァナーガリーの表とも見比べてもらうと、サンスクリットの音韻体系との対応関係もよく分かる。)

a系 o系 鼻音
無気音 有気音 無気音 有気音
軟口蓋音 /្ក kâ [kɑ] /្ខ khâ [kʰɑ] /្គ kô [kɔ] /្ឃ khô [kʰɔ] /្ង ngô [ŋɔ]
硬口蓋音 /្ច châ [cɑ] /្ឆ chhâ [cʰɑ] /្ជ chô [cɔ] /្ឈ chhô [cʰɔ] /្ញ nhô [ɲɔ]
歯茎音1 /្ដ dâ [ɗɑ] /្ឋ thâ [tʰɑ] /្ឌ dô [ɗɔ] /្ឍ thô [tʰɔ] /្ណ nâ [nɑ]
歯茎音2 /្ត tâ [tɑ] /្ថ thâ [tʰɑ] /្ទ tô [tɔ] /្ធ thô [tʰɔ] /្ន nô [nɔ]
唇音 /្ប bâ [ɓɑ] /្ផ phâ [pʰɑ] /្ព pô [pɔ] /្ភ phô [pʰɔ] /្ម mô [mɔ]
接近音 /្យ yô [jɔ] /្រ rô [rɔ] /្ល lô [lɔ] /្វ vô [ʋɔ]
摩擦音など /្ស sâ [sɑ] /្ហ hâ [hɑ] /(្ឡ) lâ [lɑ] /្អ qâ [ʔɑ]

その他[編集]

借用語用の子音字。

文字 転写 発音 分類
ហ្គ [ɡɑ] a
ហ្គ៊ [ɡɔ] o
ហ្ន [nɑ] a
ប៉ [pɑ] a
ហ្ម [mɑ] a
ហ្ល [lɑ] a
ហ្វ fâ/wâ [fɑ/wɑ] a
ហ្វ៊ fô/wô [fɔ/wɔ] o
ហ្ស žâ/zâ [ʒɑ/zɑ] a
ហ្ស៊ žô/zô [ʒɔ/zɔ] a

母音字[編集]

従属母音[編集]

上記した通り、子音と母音が組み合わせられる場合、子音がa系かo系かによって、母音の発音が異なってくる。(ごく一部には、表記・発音が共通するものもある。)

(※â[ɑ]及びô[ɔ]に関しては、子音字の項目で上記した通り、子音字に内蔵されているので、ここでは省く。)

文字 a系 o系 名称
転写 発音 転写 発音
a [aː] éa [iːə] aa
ĕ [e] ĭ [ɨ] i
ei [əj] i [iː] ii
œ̆ [ə] œ̆ [ɨ] y
œ [əːɨ] œ [ɨː] yy
ŏ [o] ŭ [u] u
o [oːu] u [uː] uu
[uːə] [uːə] ua
aeu [aːə] eu [əː] oe
eua [ɨːə] eua [ɨːə] ya
[iːə] [iːə] ie
é [eːi] é [eː] e
ê [aːe] ê [ɛː] ae
ai [aj] ey [ɨj] ai
[aːo] [oː] oo
au [aw] ŏu [ɨw] au
ុំ[1] om [ŭm] om [um] u + nikahit
âm [ɑm] um [um] nikahit
ាំ[1] ăm [am] ŏâm [oəm] aa + nikahit
ាំង[1] ăng [aŋ] eăng [eəŋ] aa + nikahit + ng
ăh [aʰ] eăh [eəʰ] reahmuk
ុះ[1] ŏh [oʰ] uh [uʰ] u + reahmuk
េះ[1] éh [eiʰ] éh [eʰ] e + reahmuk
ោះ[1] aŏh [ɑʰ] uŏh [ʊəʰ] oo + reahmuk

独立母音[編集]

子音を伴わない独立した母音字もある。

(子音を伴わない母音単独の発音は、子音字「」[ʔ]等と上記の従属母音記号の組み合わせでも、表現することはできる。)

文字 転写 発音 名称
ĕ [ʔe] qi
ei [ʔəj] qii
ŏ [ʔo] qu
ŭ [ʔu] quu
ŏu [ʔɨw] quuv
rœ̆ [ʔrɨ] ry
[ʔrɨː] ryy
lœ̆ [ʔlɨ] ly
[ʔlɨː] lyy
é [ʔeː] qe
ai [ʔaj] qai
/ [ʔoː] qoo
au [ʔaw] qau

数字[編集]

クメール文字の数字は算用数字のほかに、次のような固有のものがある。

クメール数字
算用数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9


コンピュータ[編集]

Unicode[編集]

クメール文字はUnicode 3.0以降に以下の通り収録されている。なお環境によっては正しく表示されない。

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
1780
1790
17A0
17B0  ិ  ី  ឹ  ឺ  ុ  ូ  ួ  ើ
17C0  ំ  ៉  ៊  ់  ៌  ៍  ៎  ៏
17D0  ័  ៑  ្  ៓  ៝
17E0
17F0
19E0
19F0 ᧿

表示・入力環境[編集]

2012年5月現在、いまだにクメール文字の表示・入力環境が十分に整備されているとは言い難い状況にある。マイクロソフトは、Windows Vista/7から「Daun Penh」というクメール文字フォントを同梱しているが[2]、このフォントではクメール文字が他の文字と比べて極端に小さく表示されるという不具合が生じている。

キーボード[編集]

Windowsのクメール語キーボードの配列は以下の通り。

赤字部分は「右Alt」を用いて入力。スペースキーは「脚文字」の付加に使用。


脚注・出典[編集]

  1. ^ a b c d e f コンピュータの表示上、各パーツが別々に表示されてしまっているかもしれないが、もちろん子音字と組み合わせられる際には、○部分が重ねられる形でひとまとまりとなる。
  2. ^ DaunPenh - Version 5.00 - Microsoft Fonts and Products

関連項目[編集]

外部リンク[編集]