JR貨物HD300形ハイブリッド機関車

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JR貨物HD300形ハイブリッド機関車
東京貨物ターミナルのHD300-901号機(2013年5月5日)
東京貨物ターミナルのHD300-901号機
(2013年5月5日)
最高速度 45 km/h(力行時)
110 km/h(回送時)
全長 14,300 mm
全幅 2,950 mm
全高 4,088 mm
車両質量 60.0t
軸配置 B-B
軌間 1067
総出力 320kW(1時間定格)
500kW(最大定格)
機関出力 270ps
主電動機 永久磁石同期電動機
主電動機出力 80kW(1時間定格)
125kW(最大定格)
歯車比 64/15(4.27)
駆動装置 吊り掛け駆動方式
制御装置 主変換装置
コンバータ+VVVFインバータ制御
台車 軸梁式ボルスタレス台車
FDT102(1エンド側)
FDT102A(2エンド側)
制動方式 回生ブレーキ併用電気指令式ブレーキ
留置ブレーキ
保安装置 ATS-SF
製造メーカー 東芝
備考 最大引張力 : 20,000kgf
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第52回(2012年
ローレル賞受賞車両

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HD300形ハイブリッド機関車(エイチディー300がたハイブリッドきかんしゃ)とは、日本貨物鉄道(JR貨物)が2010年平成22年)に製造したハイブリッド機関車である。試作機にあたる901号が、2012年鉄道友の会ローレル賞を受賞した。

概要[編集]

貨物駅構内の入換作業には、日本国有鉄道(国鉄)から継承されたDE10形ディーゼル機関車を主に使用していたが、経年は40年以上となり老朽化が進行していた[1]。老朽化した入換機関車これらの車両を置き換えるため開発され、近年の環境問題に対しての取り組みとして、排出ガスを削減する新しいシステムによる車両の導入が検討され、ハイブリッド方式を採用した[1]

「環境に優しいクリーンな機関車」をコンセプトに、DE10形と比較して以下の目標を立てて設計・開発がなされた[1]

  • 有害排出ガスを30 - 40%以上削減
  • 車外騒音レベルを10db(A特性)以上低減
  • エンジンの効率的運転と回生ブレーキの活用によって、CO2の大幅な削減

2010年3月に試作車(901号機)が落成し、各種走行試験が実施された[2]。その結果を踏まえて2012年1月以降、量産車が順次導入されている[1]

構造[編集]

この機関車は、ディーゼル発電機を動力源とする電気式ディーゼル機関車蓄電池リチウムイオンバッテリー)を動力源とする蓄電池機関車の2つの要素を兼ね備えた、日本初のハイブリッド機関車である。具体的にはディーゼル発電機からの電力と蓄電池からの電力を協調させてモーターを制御する「シリーズ・ハイブリッド」方式と呼ばれるシステムであり、本機に搭載されたディーゼルエンジンは直接駆動力には使用されず、発電機を回転させる発電用として使用されるだけである。また、CO2排出量は、動力協調システムによるエンジンの効率的な運転と回生ブレーキ作動時において、モーターから発生した電力を蓄電池に充電することにより、大幅な削減することを目指している。そのため、形式記号の頭文字にディーゼル機関車を指す「D」や蓄電池機関車を指す「A」[* 1]ではなく、ハイブリッド (Hybrid) 方式の機関車であることを表す「H」を初採用し、動軸数4であることを表す「D」と組み合わせた「HD」となっている。ハイブリッドシステムの開発にあたっては国土交通省の鉄道技術開発費の補助を受けている。

901号機を用いた走行試験では、DE10形と比較して以下の結果を示した[2]

  • 牽引走行試験では、燃料消費量36%、NOx排出量61%、騒音を22dbの低減効果が得られた
  • 留置時間を考慮した1日分の運用で評価すると燃料消費量41%、NOx排出量64%と大幅な削減効果があることを確認した。

車体[編集]

車体はセミセンターキャブタイプで[3]、前位側から主変換機モジュール、蓄電池モジュール、運転室モジュール、発電モジュールと、車体を4ブロックに分割したモジュール構造とし、保守の簡略化を図っている。運転台は進行方向に対して横向きとなっており、これはDE10形と同様である。前面の連結器周辺は警戒色の黄色と黒で塗られており、このほかは、EF510形と同じフレート・レッドで塗装されている。なお、ハイブリッド方式の機関車であることを強調するため、車体にはHybridのロゴが描かれている。整備重量は60tとDE10形の65tより軽量化されたが、動軸数が1軸少ないため軸重は15tとなりDE10形より2t重くなっている。

電源・制御機器[編集]

HD300形ハイブリッド機関車のエンジン発電機と各機器の配置とそれらを繋ぐ配線の見取り図

発電モジュールにあるディーゼル発電機のエンジンは、国土交通省の定める第3次排出ガス規制に適合したものであり、騒音や有害排出ガス低減のため、既存の50万台製造の実績のある産業用の水冷4ストローク、直列6気筒、出力325PS (242kW)、定格回転数1.600rpm、最高回転数1.800rpmの燃料電子制御方式のエンジンを転用しており、出力を270PS (197kW) で使用している。エンジンに駆動される発電機は、1時間定格出力173kW/1600rpmのFDMF9Z形三相かご形誘導発電機であり三相交流を出力する。ディーゼル発電機の起動・停止は自動的に行われており、力行時には、ディーゼル発電機を起動させて、電力を主変換装置に給電するが、制動時には、ディーゼル発電機を停止させて、電力の給電を停止させる。

蓄電モジュールにある蓄電池にはリチウムイオンバッテリーを使用しており、ジーエス・ユアサコーポレーション製のLIM30H型を搭載し、電池構成は26個のモジュールを直列に繋いで3並列とし、公称電圧750V、電力容量は40-70kWhである。寒冷地における経年劣化でも起動できるだけの出力容量を確保しており、制動時での回生ブレーキによりモーターから発生する電力を充電して電力を蓄えるほか、ディーゼル発電機からの電力を状況に応じて充電することも可能である。またバッテリーは複数のバンクで構成し、異常時はバンクを開放して走行継続可能となるような冗長性を持っている。また、500番台では蓄電池の容量が変更されている。

主変換モジュールにある主変換装置には、IGBT素子を使用した電圧形PWMコンバータ1基+電圧形PWMインバータ1基で構成されており、力行時には、ディーゼル発電機と蓄電池から給電される電力または蓄電池から給電される電力を主変換装置を介してVVVFインバータ制御により主電動機を制御する。また、ディーゼル発電機からの電力を状況に応じて主変換装置を介して蓄電池に充電することも可能である。制動時には、回生ブレーキによりモーターから発生した電力を主変換装置を介して蓄電池に充電する。

主電動機には、全密閉自冷式構造のFMT101形永久磁石同期電動機を機関車として初採用しており、電動機の冷却は自然冷却方式を採用しているため、冷却用送風機は省略されている。鉄道車両においてVVVFインバータ制御により駆動されるモーターは誘導電動機が主流だが、誘導電動機よりも効率が高く、小型軽量化を図ることができる特性があり、1時間定格出力80kW、最大定格出力125kWの永久磁石同期電動機を4基搭載して1時間定格で320kW、最大定格で500kWの出力としており、最大牽引力は20tfを出すことができる[* 2]。使用されている永久磁石には、最大エネルギー積41MGOeクラスのネオジム--ボロン系磁石を採用し、全閉構造による温度上昇にも耐えられる耐熱性となっている。また磁極位置は、逆ハの字磁極配置とフラックスバリアを構成することにより、突極性リラクタンストルクを有効に活用する。

圧縮空気を供給する空気圧縮機はオイルフリータイプ[2]であるC2000形を、補助回路または補機用の電源を供給する容量55kVAの電圧形PWMコンバータによる補助電源装置を各1基搭載している。

モジュール設計[編集]

前述の通り、搭載機器を機能別毎に集約してユニット化しているモジュラー設計を採用している為、各モジュールは機能ごとに独自に性能の変更を行えるようになっている。

  • 発電モジュールについては、鉄道車両用燃料電池が実用化された場合には、発電ユニットをエンジン発電から燃料電池のスタックと制御装置に置き換えることで、他の車体艤装を変えることなくゼロエミッションが達成できる。
  • 蓄電モジュールは現行リチウム蓄電池 (40 - 70kWh) より約70%増量搭載出来る空間が確保されており、また大型ニッケル水素蓄電池の搭載も艤装空間・電気的協調性能を満たしている。

発電モジュールのエンジン選択と蓄電モジュールの電池容量の増減を組み合わせることにより、中小貨物駅用入換機関車から本線用機関車、あるいは環境問題の厳しい都市部にある貨物駅で使用するさらなる低環境負荷型機関車などの技術開発に繋がるよう設計されている。

HD300型の技術展開[編集]

  • 基本型(巨大ターミナル用) - 蓄電池70kWh、エンジン270馬力
  • 開発基本型(小駅の入換用) - 蓄電池45kWh、エンジン270馬力
  • 発展応用型(全電池型入換用) - 蓄電池288kWh、エンジンなし
  • 発展応用型2 - 燃料電池165kW、蓄電池70kWh、エンジンなし
  • 開発基本型(小型の本線用) - 蓄電池110kWh、エンジン400馬力

台車[編集]

FDT102ボルスタレス台車

台車は枕ばねにコイルばねを使用した無心皿のFDT102形で、1位側がFDT102(500番台はFDT102D)、2位側がFDT102A(500番台はFDT102E)となっている。軸箱支持装置は軸はり式を採用しており、モーターから輪軸に動力を伝達する(モーターを台車に装架する)方式は1段歯車減速の吊り掛け駆動方式を採用している。引張力伝達方式は低心皿Zリンク式としている。基礎ブレーキは片押し式の踏面ブレーキによるユニットブレーキとしている。

その他の機構[編集]

ハイブリッド以外の新機構としては、新たに開発した運転士異常時列車停止装置を装備しており、その他にも、前後のステップを大きく取り、前後と側面の手すりは大型のものを採用するなど、運転士や構内作業員の作業性向上が図られている。また、入換作業時の運転台からの死角解消のため、手すりにカメラが取り付けられている。前部標識灯は両端の手すりに角形のものが2灯ずつ取り付けられ、連結器直上部には夜間作業時のための連結器灯(LED灯)が設けられている。

現況と動向[編集]

甲種輸送される量産車2号機(2012年10月26日、西国分寺駅
大宮総合車両センターで展示された量産車6号機(2014年5月24日)

2015年3月1日現在、17機(901、1 - 16号機)が東京貨物ターミナル駅新座貨物ターミナル駅越谷貨物ターミナル駅隅田川駅新鶴見機関区八王子駅南松本駅盛岡貨物ターミナル駅郡山駅沼津駅宇都宮貨物ターミナル駅吹田貨物ターミナル駅。3機(501、502、503号機)が札幌貨物ターミナル駅で構内入換用として使用されている[4][5]

推移[編集]

2010年3月、試作機HD300-901が東芝府中事業所で落成し、3月25日に公開された[6]2011年に入り1月下旬からは札幌貨物ターミナル駅構内で寒冷地試験が行われた[7]

その後も道内の別地域や東京貨物ターミナル駅、南松本駅等で試験走行を行い、様々な条件下における車両の性能の情報を収集している。

試作機である901号機は、2011年7月11日から入換機として東京貨物ターミナル駅で運用を開始した[8]

2012年1月には量産型1号機となるHD300-1が東芝府中事業所で落成、甲種輸送され[9]、2012年2月8日より、東京貨物ターミナル駅構内で使用開始した[10]。量産車は警戒色塗装が施されている前面の排障器の幅が試作車より広まり、後部標識灯が前照灯下部にまとめられ、連結器灯にカバーが設けられる等の形状の差異が見られる。また、運転士の作業性と視認性を向上させるため、運転室扉の窓を下方向に拡大するとともに側窓の高さも拡大している。

2012年度以降についても、量産車を順次投入して、老朽化したDE10形機関車を置き換えていく予定としているが、本線用電気機関車と変わらぬ新製費用がかかるため初期投資が大きく、本形式は入換作業の密度が高い貨物駅に重点的に配置され、密度が低い貨物駅に関しては電車線を増設して電気機関車による入換を行うこととしている[5]。2014年度は4両が新製され、そのうちの3両(501 - 503号機)が寒冷地仕様として札幌貨物ターミナル駅へ、1両(16号機)が吹田貨物ターミナル駅に配置されている[5]。4月6日には16号機が西岡山に[11]、11月には寒冷地向けの501号機が苗穂車両所に甲種輸送されている[12]

脚注[編集]

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脚注[編集]

  1. ^ 国鉄・JRで蓄電池機関車が実際に存在したのは1927年に製造された「AB10形」のみ(機械扱いのスイッチャーを除く)。1931年には架線集電化改造を施され、「EB10形」に形式名を改めている。
  2. ^ DE10形はエンジン出力が1350psでkWに換算して993kWとなるが、補機類や液体変速機などの損失などで、実際の踏面出力においては660kWとなり、最大牽引力は19.5tfとなっている

出典[編集]

  1. ^ a b c d 『レイルマガジン』通巻347号、p.72
  2. ^ a b c 『レイルマガジン』通巻347号、p.73
  3. ^ 鉄道ファン』2012年7月号、「JR車両ファイル2012 JR貨物」p.64
  4. ^ 鉄道ファン』2015年4月号、p.154
  5. ^ a b c 「導入進むHD300形」『交通新聞』2014年4月8日付
  6. ^ 国内初のHV機関車 JR貨物が試作車を報道陣に公開” (日本語). 産経新聞 (2010年3月25日). 2010年3月26日閲覧。
  7. ^ HD300-901、札幌貨物ターミナルで寒冷地走行試験”. 鉄道ファン railf.jp. 交友社 (2011年1月26日). 2011年1月26日閲覧。
  8. ^ HD300形式ハイブリッド機関車の営業開始について (PDF) 日本貨物鉄道プレスリリース 2011年7月13日付
  9. ^ HD300-1が甲種輸送される”. 鉄道ファン railf.jp. 交友社 (2012年1月18日). 2012年1月18日閲覧。
  10. ^ HD300形式ハイブリッド機関車「量産車」の運転開始について (PDF) 日本貨物鉄道プレスリリース 2012年2月16日付
  11. ^ HD300形が西岡山まで甲種輸送される 鉄道ニュース - 2014年4月6日 鉄道ファン・railf.jp
  12. ^ 【JR貨】HD300-501が苗穂車両所にネコ・パブリッシングRMニュース2014年11月12日配信

参考文献[編集]

  • 「JR貨物HD300形900番台」、『レイルマガジン』第321号、ネコ・パブリッシング、2010年6月、 54 - 57頁。
  • 杉山義一(JR貨物ロジスティックス本部技術開発部)「JR貨物HD300形式ハイブリッド機関車(量産車)」、『レイルマガジン』第347号、ネコ・パブリッシング、2012年8月、 72 - 75頁。
  • 「ディーゼルハイブリッド入換専用機関車HD300形式の電気品について」山田・林・長谷部・氏家・添田著、電気学会、モータドライブ、家電・民生合同研究会、MD-12-008/HCA-12-008、41 - 48頁
  • 『鉄道のテクノロジー7機関車』 三栄書房、2010年、p89 ISBN 9784779609077
  • 「JR貨物HD300形500番台」『鉄道ファン』2015年6月号、2015年、76 - 77頁
  • 「JR貨物 ハイブリッド機関車 HD300形の概要」『鉄道車両と技術』 NO.166、201-6、12-17頁

関連項目[編集]

外部リンク[編集]