誘導電動機

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右の電動機は覆いを除いた事で空冷ファンが見える三相式空冷式誘導電動機 この三相式誘導電動機は内部が密閉されているので冷却は外装の冷却ひれに強制的に空気を送って冷却する
三相交流誘導電動機の断面

誘導電動機(ゆうどうでんどうき、Induction Motor、IM)は、交流電動機の代表例である。 固定子の作る回転磁界により、電気伝導体回転子誘導電流が発生し滑りに対応した回転トルクが発生する。

入力される交流電源の種類によって、単相誘導電動機と三相誘導電動機に大別され、一般的には特別な工夫なしで回転磁界を得ることができる三相交流を用いる。

同じ交流電動機である同期電動機と比較して脱調することがないため、トルク変動の大きい負荷に向いているとされるが、滑りによりトルクを得る原理上、過去においては回転速度制御が困難になる点が欠点となったいた。ただし、この点については近年のパワーエレクトロニクスの発展により、インバータ回路で回転数を自在に制御可能となったことで、欠点は解消されている。

歴史[編集]

ベオグラードのテスラ博物館に展示されているテスラの最初の誘導電動機の模型

1824年、フランスの物理学者のフランソワ・アラゴ回転磁界の存在でアラゴーの円板を作り、1879年この効果を利用してWalter Bailyが手動で回転を切り替える原始的な誘導電動機を作った[1][2][3][4]。最初の交流無整流子電動機ガリレオ・フェラリス英語版ニコラ・テスラによってそれぞれ独立して発明され、実動する電動機の模型が1885年、1887年に実演された。テスラは1887年にアメリカの特許を出願して1888年5月にこれらの特許のいくつかを取得した。1888年4月Royal Academy of Science of Turin にフェラリスの交流多極電動機の運転の詳細に関する研究を出版した[4][5]。 1888年5月は技術論文A New System for Alternating Current Motors and Transformersアメリカ電気学会 (AIEE)に投稿した[6][7][8][9][10]。 3形式の4極固定界磁電動機が記述された:1番目は4極回転子で自己起動できないリラクタンスモータで、2番目は自己起動可能な誘導電動機と3番目は回転子の界磁を励磁するために直流を供給する真の同期電動機だった。当時、交流送電を開発していたジョージ・ウェスティングハウスは1888年にテスラの特許の権利を取得してフェラリスの誘導電動機の概念と合わせた[11]。テスラは同様に1年間相談役を引き受けた。ウェスティングハウスはテスラの補助を目的として後にウェスティングハウスの誘導電動機の開発を引き継ぐことになるC. F. Scott英語版を雇用した[6][12][13][14]Mikhail Dolivo-Dobrovolsky英語版は1889年に信念をもってかご形誘導電動機と三相変圧器の開発を売り込んだ[15][16]。しかしながら、彼はテスラの電動機は二相脈流なので実用的ではなく、彼の三相式の方が優れていると主張した[17]。1892年にウェスティングハウスが最初の実用的な誘導電動機を開発し、1893年に60ヘルツの多極誘導電動機を開発したものの、これらの初期のウェスティングハウスの電動機はB. G. Lamme英語版によって開発された回転軸に巻線を備えた二相式電動機だった[6]ゼネラル・エレクトリック (GE)は1891年に三相交流式電動機の開発を開始した[6]。1896年以降、ゼネラルエレクトリックとウェスティングハウスは後にかご型回転子と称される棒巻線設計のクロスライセンスに同意した[6]Arthur E. Kennelly英語版は初めて完全なサイン波 "i" (-1の平方根) の90°回転を交流問題の複素数解析に取り入れた[18]。GEのCharles Proteus Steinmetz英語版は、交流の、今では常識になっている誘導電動機の等価回路英語版 (Steinmetz equivalent) を導き出した[6][19][20][21]。誘導電動機はこれらの発明と革新により1897年当時に同じ寸法で7.5馬力だったものが今では100馬力を出せるようになった[6]

動作原理[編集]

三相電力の供給で回転磁界が誘導電動機内にできる
すべり現象では界磁の回転周波数と回転子の回転速度が一致しない

移動回転する磁極の中に電気的に閉じたコイルを置くと、電磁誘導による誘導電流により磁極の移動する方向に向かう力が生まれる。コイルを磁界の回転軸で固定するとコイルは結果として磁極の回転を追うかたちで回り出すことを利用する。

構造[編集]

筒状の筐体の中に、円筒状の鉄心に軸方向に溝を刻み、巻線を収めて固定子にする。それと対向して回転軸に固定された円筒状の鉄心に同じく軸方向少し斜めに溝を刻み中に導体棒または巻線を収め、両端を短絡するか(かご形三相誘導電動機)、三組の巻線を星型に交差させ(巻線形三相誘導電動機)回転子を構成する。巻線に交流電流を流し回転磁界を発生させることで電動機として機能させるので構造的に単純でありまた、堅牢な構造を取れる。なお巻線で回転子を構成したものは回転子特性を変化させる目的でそれぞれの巻線の始端を短絡し、終端をそれぞれ軸上に設けたスリップリングという絶縁された導体環に接続し人工黒鉛製のブラシを通じて外部に引き出してある。漏れ磁束による損失を防ぐため固定子と回転子とは許容されるぎりぎりまで近づけてあるため固定子と回転子とのすき間は同期電動機よりも狭い目である。

単相交流はそれ自身で回転磁界を作り出すことが出来ないが、軽負荷(おおむね 1 kW 程度)であれば回すことができる。三相誘導電動機では全周にわたって巻いてある固定子巻線を約 2 / 3 ほどに留めて単相巻線とし、別途、始動方法を必要とする。この巻線とずれたところ(通常は直交する場所)に補助巻線を巻き、コンデンサまたはコイルを用いて電流位相をずらして起動するか、短絡環の代わりに整流子を用いて起動トルクを得る(反発電動機)。

等価回路[編集]

Steinmetz の誘導電動機の等価回路(1相分)

#歴史の節で紹介された Steinmetz による三相誘導電動機の一相分の等価回路を示す。回路パラメーターは次の組にて説明することができる。

  • 固定子の直流抵抗 および、漏れリアクタンス
  • 回転子の直流抵抗 および、漏れリアクタンス
  • 回転子の一次側換算抵抗値および漏れインダクタンス(固定子から見た換算値) ,
  • すべり ( )
ただし  : 固定子の回転数(同期速度)、  : 回転子の回転数
  • 励磁インダクタンス

このことは、固定子から回転子に電磁誘導にて伝わった電力のうち、すべりに相当する部分が回転子にて電気抵抗もしくは摩擦により消費され、残った が軸出力として得られることを示す。

三相誘導電動機の始動[編集]

電動機の始動時は回転速度が 0 すなわち、すべりはほぼ 1 である。誘導電動機は最大トルクを極大化するように設計されているため、回転子の電気抵抗は極めて低く、また、漏れリアクタンスは小さく設計されて。このことはすなわち始動時には力率の低い、大きな突入電流が流れることを意味する。小型の電動機では始動時間も短く突入電流も電源に与える影響も限られていることから直接全電圧を投入するじか入れ始動法を用いるが、中容量以上の電動機は起動トルクを犠牲にしながらも何らかの方法で入力電圧を下げて始動しなければならない。当然に起動時は軸負荷の軽減も同時に必要であるが、電動機にも外側に抵抗の大きな導体棒を、内部に抵抗の大きな導体棒を仕込んだ二重かご形回転子や、くさび形導体棒を用いた深みぞかご形回転子を用いることで回転子内部の漏れリアクタンスを大きく取り、始動時の回転子電流を表面に寄せて突入電流を抑える特殊かご形誘導電動機としている。

巻線形三相誘導電動機においては、スリップリングの先に可変抵抗器(二次抵抗と呼ぶ)を星型に繋ぎ、速度上昇とともに可変抵抗器の値を下げて始動する。二次抵抗を挿入することにより電流は制限されるとともに、負荷と釣り合う点のすべりを移動できるため、速度制御にも利用される。

可変電圧可変周波数制御における始動もまた、供給電圧・周波数ともに下げて始動する。

誘導電動機の速度制御[編集]

一定電圧かつ一定周波数で運転される三相誘導電動機の特性は、すべりのみによって決定される。したがってトルクおよび回転数を変化させるためには電源周波数、極数、電源電圧、電動機インピーダンスのパラメーターを変更させることによって実現する。

極数切り替え[編集]

固定子巻線の結線をつなぎ替え、4極の電動機を8極にすると回転数はほぼ半分になる。スイッチだけで速度制御ができるため極めて安価な制御法であり工作機械や従来型のエレベーターなど、現在でも用途は広い。

巻線形三相誘導電動機の速度制御[編集]

巻線形三相誘導電動機の二次抵抗を変えることにより電動機・負荷トルク曲線と釣り合う点のすべりを移動させて速度を制御することができる。これを二次抵抗制御と呼ぶ。 二次抵抗を取り払い、二次抵抗に掛かる電圧と、大きさも位相も同じ電圧を二次端子に与えても発生トルク・速度ともに変わらない。このことを利用し、二次端子から出る電圧を変えることにより速度制御できる。これを二次励磁法と呼び、二次端子から出る電力を動力に変換するクレーマ方式と、電力として送り返すセルビウス方式がある。

可変電源周波数制御[編集]

パワーエレクトロニクスの進歩により最も進化を遂げた誘導電動機の速度制御である。固定子巻線・回転子巻線ともに鎖交する磁束を一定としたとき、供給周波数と供給電圧とは比例関係にあることから、磁気飽和を避けるため、一般にを一定に保つ制御がなされる。この制御ではほぼ定トルクモーターとして働き、負荷変動に対する速度変化も小さい。同期速度よりも低い周波数を与えると発電機として働くことから回生制動も使え、理想的な速度制御ができる。汎用的なモーターで使えるインバータ装置の普及により、構造が簡単で堅牢なかご形三相誘導電動機とインバータとの組み合わせは、エネルギー消費量削減の動きからも、また保守の面からも他の用途を凌駕しつつある。

誘導電動機の分類[編集]

仕様[編集]

  • 極数:固定子の磁極数。例えばN、Sが2組あれば4極である。
  • 周波数:固定子巻線の交流の周波数。
  • 同期速度:回転磁界の速度。
  • 回転速度:回転子の速度。
  • 相対速度:同期速度と回転速度の差。
  • すべり:相対速度と同期速度との比。
  • すべり周波数:回転子巻線の交流の周波数。
  • トルク:固定子の電圧の二乗に比例する。
    • 始動トルク:回転子の速度が0のときのトルク。
    • 停動トルク:電動機を停止させずに取り出せる最大トルク。

参考文献[編集]

中田高義 他 『電気機器 II』 朝倉書店〈電気・電子情報基礎シリーズ 7〉、1984年9月20日

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Babbage, C.; Herschel, J. F. W. (Jan 1825). “Account of the Repetition of M. Arago's Experiments on the Magnetism Manifested by Various Substances during the Act of Rotation”. Philosophical Transactions of the Royal Society 115 (0): 467–496. doi:10.1098/rstl.1825.0023. http://archive.org/stream/philtrans03806447/03806447#page/n0/mode/2up 2012年12月2日閲覧。. 
  2. ^ Thompson, Silvanus Phillips (1895). Polyphase Electric Currents and Alternate-Current Motors (1st ed.). London: E. & F.N. Spon. pp. 261. http://archive.org/stream/polyphaseelectri00thomuoft#page/n5/mode/2up 2012年12月2日閲覧。. 
  3. ^ Baily, Walter (June 28, 1879). “A Mode of producing Arago's Rotation”. Philosophical magazine: A journal of theoretical, experimental and applied physics (Taylor & Francis). http://books.google.com/books?id=85AOAAAAIAAJ&pg=PA286&lpg=PA286. 
  4. ^ a b Vučković, Vladan (November 2006). “Interpretation of a Discovery”. The Serbian Journal of Electrical Engineers 3 (2). http://www.doiserbia.nb.rs/img/doi/1451-4869/2006/1451-48690603202V.pdf 2013年2月10日閲覧。. 
  5. ^ Ferraris, G. (1888). “Atti della Reale Academia delle Science di Torino”. Atti della R. Academia delle Science di Torino XXIII: 360–375. 
  6. ^ a b c d e f g Alger, P.L.; Arnold, R.E. (1976). “The History of Induction Motors in America”. Proceedings of the IEEE 64 (9): 1380–1383. doi:10.1109/PROC.1976.10329. 
  7. ^ Froehlich, Fritz E. Editor-in-Chief; Allen Kent Co-Editor (1992). The Froehlich/Kent Encyclopedia of Telecommunications: Volume 17 - Television Technology to Wire Antennas (First ed.). New York: Marcel Dekker, Inc.. p. 36. ISBN 0-8247-2902-1. http://www.amazon.com/Froehlich-Kent-Encyclopedia-Telecommunications-Television/dp/0824729153#reader_0824729153 2012年12月2日閲覧。. 
  8. ^ The Electrical Engineer (21 Sep 1888). . . . a new application of the alternating current in the production of rotary motion was made known almost simultaneously by two experimenters, Nikola Tesla and Galileo Ferraris, and the subject has attracted general attention from the fact that no commutator or connection of any kind with the armature was required. . . .. Volume II. London: Charles & Co.. p. 239. http://books.google.ca/books?id=_KvmAAAAMAAJ&pg=PA239&lpg=PA239&dq=The+electrical+engineer+1888+by+two+experimenters,+Nikola+Tesla+and+Galileo+Ferraris&source=bl&ots=O9MmzKi-0t&sig=GQS21Uaduwa2VUfA55rO7bx7LgM&hl=en&sa=X&ei=fdG6UMrVNImBywHy44AI&ved=0CE0Q6AEwBg#v=onepage&q=The%20electrical%20engineer%201888%20by%20two%20experimenters%2C%20Nikola%20Tesla%20and%20Galileo%20Ferraris&f=false. 
  9. ^ Ferraris, Galileo (1885). “Electromagnetic Rotation with an Alternating Current”. Electrican 36: 360–375. 
  10. ^ Tesla, Nikola; AIEE Trans. (1888). “A New System for Alternating Current Motors and Transformers”. AIEE 5: 308–324. http://www.tfcbooks.com/tesla/1888-05-16.htm 2012年12月17日閲覧。. 
  11. ^ Jill Jonnes, Empires of Light: Edison, Tesla, Westinghouse, and the Race to Electrify the World, Edison Declares War
  12. ^ Electrical World, Volume 78, No 7. page 340
  13. ^ Klooster, John W. (30 July 2009). Icons of Invention the Makers of the Modern World from Gutenberg to Gates.. Santa Barbara: ABC-CLIO. p. 305. ISBN 978-0-313-34744-3. http://books.google.com/books?id=WKuG-VIwID8C&pg=PA305&lpg=PA305&dq=tesla+hired+by+westinghouse&source=bl&ots=KDI0aTz0EK&sig=oct2jnPyWkQ3qvUR-JmstK9F0FI&hl=en&sa=X&ei=jRwxUKK3LtS80QHjxoGYAg&sqi=2&ved=0CEEQ6AEwAw#v=onepage&q=tesla%20hired%20by%20westinghouse&f=false 2012年9月10日閲覧。. 
  14. ^ Day, Lance; McNeil, Ian; (Editors) (1996). Biographical Dictionary of the History of Technology. London: Routledge. p. 1204. ISBN 0-203-02829-5. http://books.google.ca/books?id=n--ivouMng8C&pg=PA1204&lpg=PA1204&dq=tesla+induction+motor+patent&source=bl&ots=CwZdCXFBMs&sig=yHtXcB6ukl3dO26c73h884URzsI&hl=en&sa=X&ei=1VpOUKCPAaLv0gGb14HwAw&redir_esc=y#v=onepage&q=tesla%20induction%20motor%20patent&f=false 2012年12月2日閲覧。. 
  15. ^ Hubbell, M.W. (2011). The Fundamentals of Nuclear Power Generation Questions & Answers.. Authorhouse. p. 27. ISBN 978-1463424411. http://www.amazon.com/Fundamentals-Nuclear-Power-Generation-Questions/dp/1463424418. 
  16. ^ VDE Committee History of Electrical Engineering IEEE German Chapter (January 2012). 150th Birthday of Michael von Dolivo-Dobrowolsky Colloquium. 13. http://www.vde.com/de/fg/ETG/Arbeitsgebiete/Geschichte/Aktuelles/Seiten/150JMDD.aspx 2013年2月10日閲覧。. 
  17. ^ Dolivo-Dobrowolsky, M. (1891). ETZ 12: 149, 161. 
  18. ^ Kennelly, A. E. (Jan 1893). “Impedance”. Transactions of the American Institute of Electrical Engineers X: 172–232. doi:10.1109/T-AIEE.1893.4768008. http://ieeexplore.ieee.org/xpl/login.jsp?tp=&arnumber=4768008&url=http%3A%2F%2Fieeexplore.ieee.org%2Fxpls%2Fabs_all.jsp%3Farnumber%3D4768008. 
  19. ^ Steinmetz, Charles Porteus (1897). “The Alternating Current Induction Motor”. AIEE Trans XIV (1): 183–217. http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=5570186 2012年12月18日閲覧。. 
  20. ^ Banihaschemi, Abdolmajid (1973). Determination of the Losses in Induction Machines Due to Harmonics. Fredericton, N.B.: University of New Brunswick. pp. 1, 5–8. http://dspace.hil.unb.ca:8080/bitstream/handle/1882/44564/Thesis%20E%2054.pdf?sequence=4. 
  21. ^ Steinmetz, Charles Proteus; Berg, Ernst J. (1897). Theory and Calculation of Alternating Current Phenomena. McGraw Publishing Company. http://openlibrary.org/books/OL7218906M/Theory_and_calculation_of_alternating_current_phenomena. 

外部リンク[編集]