VVVFインバータ制御
VVVFインバータ制御(ブイブイブイエフインバータせいぎょ)とは、交流電動機を、その特性に合わせて任意の回転数、トルクで動作させるために、インバータを用いて任意の周波数と電圧を発生させる制御方式。これを一般に「インバータ方式」というが、鉄道関係ではそれを特に「VVVFインバータ方式」、あるいは「VVVF方式=可変電圧可変周波数方式」と呼んでいる。VVVFは可変電圧可変周波数を直訳した和製英語(Variable Voltage Variable Frequency)であり、 英語圏ではVFD(variable-frequency drive)と言われる。
概要
[編集]VVVF制御は交流モーターである誘導電動機や同期電動機の基本特性に合わせ、その回転数・周波数にほぼ比例した電圧を加える制御方式である。インバータ装置などの交流電力を出力する電力変換装置において、その出力の実効電圧と周波数を任意に制御する。このような出力や電動機制御を実現するインバータ装置をVVVFインバータと呼び、一般に「電動機の可変速駆動制御」などと呼ばれるものに含まれる。
誘導電動機・同期電動機の回転数は基本的に周波数と極数で決まるため、広範囲に回転速度(回転数)を変化させるには周波数を可変にするしかなく、パワーエレクトロニクスの進歩により一般化した。
電力変換装置の出力電力手法には可変電圧可変周波数制御のほかに、定電圧定周波数制御(CVCF制御)、可変電圧定周波数制御(VVCF制御)、定電圧可変周波数制御(CVVF制御)がある。この制御で得られる可変電圧可変周波数の電力は、交流電動機を可変速駆動する目的で消費される。そのため、電力変換装置に接続された交流電動機を可変速駆動する制御方式全般を指すことがある。
1960年代後半頃から、ファン・ポンプや抄紙機など産業用途での利用が始まり、1970年代後半から1980年代前半には鉄道やエレベータ、1990年代には冷蔵庫、エアコンなど家電機器でも利用されるようになった。後に、汎用インバータの製品価格が安くなり、送風機などでは風量や静圧調整のためプーリー交換やモータ交換をするよりインバータ制御で調整した方が安価になっている。
従前は供給電源の周波数を自由に変えられる装置が簡単には構成できなかったが、大電力用半導体素子の発達でインバーターとして自由な周波数と電圧を生成できる様になったことで、モーター特性に合わせた電力供給が実現されて定常運転出力にあった小型のモータ-を採用できるようになった。
この技術は鉄道車両(電車、電気機関車、トロリーバス)、自動車(電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッドカー、ホウルトラック)、エレベーターといった輸送用機器やファン、ポンプ、空調設備、圧延機などさまざまな産業用機器、さらには家庭用電気機械器具(家庭用エアコン、冷蔵庫、洗濯機他)などで広く搭載され活用している。20世紀末以降の電気自動車やハイブリッドカーはインバータ制御が一般的であるため、単に「コントローラー」と呼ばれる。
機器構成
[編集]交流電動機
[編集]主としてかご形三相誘導電動機や巻線形三相誘導電動機の制御に使用される。特にかご形誘導電動機は構造が簡単なため、保守費用が非常に安く、電動機自体の価格も安い、という利点があることが古くから知られていた。しかし、回転速度(回転数)が電源の周波数に依存するという特性があったため、長らく可変速度を必要とするものでの使用は困難であった。
かご形誘導電動機の速度制御には、インバータ開発以前にも極数変換によるものがあったが、これは連続的な速度制御はできなかった。インバータの出力電圧と周波数を連続的に変化させる可変電圧可変周波数制御が、交流電動機の連続的な速度制御を実現した。これは、近年の半導体技術、特にパワーエレクトロニクスの進歩に伴い、高速・高耐圧・大容量の制御素子が開発されて実現可能となったものである。
単相誘導電動機は可変速運転、特に低周波数での運転に適さないことなどの理由からVVVF制御では一般的ではない。
2000年代後半に入り、駆動周波数と回転周波数がほぼ正確に一致しオープンループ制御が可能となる高効率な永久磁石同期電動機(PMSM)や大容量な電磁石同期電動機が徐々に使用されつつある。ただしこれらは電動機1つにつき主制御器(インバータ)1台が必要な個別制御でなければ正常に駆動できず、重量、設置面積(この2点は、同期電動機に積極的な東芝が1つのパワーユニットに複数のインバータを収める 2-in-1 あるいは 4-in-1 と呼ばれる手法で軽減している)、価格や主制御器の保守などの面で課題が残る。対して誘導電動機は1つのインバーターで2つ以上の電動機を一括制御することも可能である。
動作原理
[編集]交流の周波数(同期速度)を追って回る交流モータを使う場合、従前は任意周波数の電源がなかなか得られず、商用電源周波数(日本では交流50 Hzまたは60 Hz)固定の電源で起動させるため、設計された回転数以外の任意速度での運転ができなかった。商用周波数での同期速度付近でのみ運転可能で、起動トルクが小さかったり、効率を落としたり、定常運転時は大出力交流モータを軽負荷で使っていた。そうした経過で、その動作特性も、取り扱い法も商用周波数固定でのものが広く知られているだけで、回転数、周波数特性についてはほとんど記述がなく、知られていなかった。
同期速度とは回転磁界の速度で、電機子構造が2・P極の場合、周波数f/Pとなる。小型機に一般的な4極構造ではf/(4/2)が同期速度。60 Hzであれば2極で60 rps(毎秒回転数)、4極で30 rps、6極で20 rpsが同期速度である。60を掛ける記述は秒速 - 分速単位換算のrpm(毎分回転数)表示である。
トルクの電圧・周波数特性
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トルクの周波数特性としては、(電圧 V/周波数 f)2 に比例し、さらに誘導電動機では、停動トルク[1]より微少な場合はすべり周波数 fs に比例する(一般的な「すべり率 S」ではなく「すべり周波数 fs 」であることに注意)。同期電動機では電機子磁界と回転子磁界の角度 δに関して sin(δ/2)に比例する。
式表現すれば
τ=K1・Φ・I ・・・・・・・・・・・・K1,K2:比例定数、Φ:鎖交総磁束、I:電機子電流
≒K2・(V/f)^2・fs ・・・・・・V:電圧、f:電源周波数、fs:すべり周波数(ただし停動トルクよりかなり小さい領域)
同期電動機では τ≒K・(V/f)^2・sin(δ/2) ・・・・・・
すなわち V/f を一定にして(=電圧と周波数を比例させて)ゼロから徐々に増やして起動すればよく、周波数に応じた任意の速度での運転ができる。
モーター特性に合わせた制御
[編集]今、鉄心の磁気飽和による最大磁束以下の Φm に励磁された回転子が回転数 n で回転していた場合、固定子に巻かれたコイルには最大Φm のほぼ正弦波の磁束が鎖交する。コイル誘起電圧 は磁束の変化率( = 微分値)×巻数 N である。すなわち、 鎖交磁束を
- ・・・・
とする時、(Φに付くe,mは添数 )
の時間微分(変化率)は、 であるから、 誘起電圧eは
となって、一定磁束なら誘起起電力eは回転数 n ,周波数 f に比例することが分かる。「e/f が一定」とも言える。
モーターの端子電圧 = 供給電圧はこれ:誘起起電力eに巻線抵抗などのインピーダンス電圧降下分を加えたもので平衡するから、それをインバータで生成する方式がVVVFインバータ制御と言われるものである。常に最大トルク付近や最大効率を追えるので、使用する交流モーターを従前よりかなり小型化でき細かな制御ができるようになった。
任意周波数電源をパワー半導体で構成
[編集]近年の電力用半導体素子の進歩により、任意周波数、任意電圧の交流電力を生成するインバータ(直流 - 交流変換器)が得られるようになり、交流モータの特性に合わせて、電機子誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を供給して駆動することで任意の速度で運転できるようになった。電機子誘起起電力は磁界が一定であれば回転数:すなわち周波数に比例するから、供給電圧/周波数をほぼ一定にして速度制御することがVVVFインバータ制御の基本である。
初期のインバータ駆動では、半導体の容量が小さく、方形波駆動~数パルスで正弦波を近似していたが、さらに速度ゼロから徐々に起動させる低速大電力ではPWM方式などで正弦波に近付けて高調波の損失・悪影響を小さくして起動した。ところがGTOサイリスタなど大電力半導体のスイッチング速度が遅いため、速度を上げると1サイクル1パルスにも達して回転数と搬送波周波数が干渉するので、それを避けるため高速域では搬送波周波数を回転数の整数倍にした。これを「パルスモード」「同期モード」と呼び、低速部の整数倍関係のない動作を「非同期モード」と呼んでいる。
加速・トルクの制御
[編集]電圧・周波数比例領域を特に「V/f一定領域(定引張力領域)」と呼んでおり、V/fを一定に保ちながら、一定トルクによる加速を行う。インバータの最大出力と最大電圧以降の高速領域は電圧一定で周波数を上げるので「CVVF領域(一定電圧可変周波数領域)」と呼ぶが、CVVF領域のうち、電流一定で加速を続ける領域は、誘導電動機であればすべり周波数を増やして加速するが、供給電力としては一定(=電圧一定×電流一定)なので「定出力領域」と呼び、トルクは回転速度に反比例する。停動トルク(脱出トルク)に近づくと、すべり周波数は増やせなくなり、周波数のみを増やす「特性領域」となり、トルクは回転速度の2乗に反比例するとともに出力も下がっていく。
誘導電動機のトルク急変時でのトルク制御には、「V/f一定・すべり周波数制御」と「ベクトル制御」があり、後者は電動機に流れる1次電流を、固定子側の界磁で磁束を発生させる励磁電流成分と回転子側に誘導電流として流れてトルクに寄与する90度位相の2次電流成分とに分けて、励磁電流を一定に保ちながらトルク指令に対応した2次電流を制御する方式であり、すべり周波数制御に比べて、トルク変化に対しての応答性が良く制御精度が向上している。
電圧/周波数 ( V/f ) 一定制御
[編集]設定されているシークエンス(シーケンス)で電圧/周波数を連動させて制御する。制御回路が単純で安価であるとともに外乱による変化に対応しにくい。ファン・ブロワ・圧縮機・ポンプなど、2乗低減トルク負荷の部分負荷時の省エネルギー用に使用される。
ベクトル制御
[編集]永久磁石同期電動機の制御の場合、回転子の絶対位置を把握するためモーターと同軸で回転角センサを備えるのがほとんどだが、三相モーターに供給される電圧と電流とを監視し、回転子の絶対位置を把握するベクトル制御(センサレス制御)のインバータも実用化されている。
回転部に回転数センサ(パルス発信器など)・回転子位置センサ(ホール素子など)を取り付け、その計測結果に基づいて電圧・周波数・位相などを適切に制御し、目的とする回転数・トルクを得る(回転部センサ付き)トルクベクトル制御も使われるようになった。センサの保守が煩雑であるものの精密なトルク・回転数・位置制御が出来るため、マシニングセンタ・押出機・巻取機・鉄道車両・エレベータなど、大きな始動トルクと正確な制御が必要な負荷用に使用される。
回転部のセンサを省略し、代わりに各巻線の電流の大きさと位相で、トルクと回転数を推定し、それに基づいて電圧・周波数を変化させ、目的のトルク・回転数を得るのがセンサレス・トルクベクトル制御である。センサの保守が必要なく、センサがなくなった分だけ大型の電動機を用いることができ、大出力化が可能になる。しかしトルク・回転数推定のための高速な演算回路が必要で、制御回路に電動機・負荷の特性が正しく設定されていないと、制御が乱れる。鉄道車両の主電動機にもセンサレス制御が用いられるようになってきている。
回路・変調方式
[編集]パルス幅変調(PWM)
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サイリスタやトランジスタといったスイッチング素子6個からなるブリッジ回路を用いて電流のON/OFFを繰り返し、キャリア三角波と基準電圧波形を比較してスイッチング素子のON/OFFを繰り返し、パルス波によるPWM(Pulse Width Modulation)方式により、位相差が120度の三相交流を作り出すことで、誘導電動機の固定子巻線に、6パターンの電力が供給される。電圧を可変するにはパルス波の幅を変化させ、周波数を変化させるにはスイッチング周期を変えることで行う。 「パルス幅変調」(PWM) は直流から任意の交流疑似正弦波波形を生成する方式の1つであり、パルス幅を変えて疑似正弦波を生成する。パルス振幅を変えて疑似正弦波を生成するパルス振幅変調(PAM)と比較して電動機の騒音・振動が大きくなるが、電圧変化時の応答の遅れが少なくなる特徴がある[2]。PWMは多くのインバータ制御で使われており、従来の多段合成変圧器を用いた正弦波インバータより小型高効率にすることが可能である。
交流での回生制動を可能にする交直変換回路として整流部にPWMコンバータが用いられるようになったが、その理由は力行・回生双方向性を持ち、力行時にはコンバータとして使用しつつ、回生時にはインバータとして使用する必要があるためである。
2レベル・3レベルインバータ
[編集]パルス波によって作られる制御波形には、1つのパルス波によって交流の正弦波に近い波形を作り出す2レベル制御波形、1つのパルス波の上にもう1つのパルス波を上積して2段階のパルス波にすることにより、波形をより正弦波に近い形を作り出す3レベル制御波形がある。 大電力のVVVF制御に多用される方式である、「3レベルインバータ」は耐電圧の低い素子を使用するために電源の中間電圧レベルを供給する回路方式(通常、同容量のコンデンサを直列接続し、その中点の電位を用いる)であるが、動作としてはPWMである。
これに対して直流電源電圧をオン-オフする元々の単純な方式を「2レベルインバータ」と言う。スイッチング素子の耐電圧を低く抑えられる他、発生周波数は高くなる高回転領域においてパルス数が減るため高調波の重畳が無視できないため、高調波損失を抑えるという意味では正弦波波形により近いマルチレベルインバータの方が良いものの、高耐圧・高速スイッチングが可能な半導体素子の開発に伴い2レベルインバータに回帰し始めた。
2レベルインバータ主回路の場合+側UVW、-側UVWの出力素子が2個直列、これを3組並列にした回路であり各素子は電源電圧の1/2以上の耐圧素子が必要である。また出力電圧は 全電圧 - 0 V の二段階となり正弦波に近い波形とするにはPWM周波数をかなり高めにしなければならない(PWM周波数を高くすると流せる電流量が減少する)。
3レベルインバータ主回路は各素子が2個直列になり これがさらに2組直列、これを3組並列にしたもので、上から1つ目、3つ目の中点を6本まとめて電源電圧の中間点へ接続する構成である。中間電圧を利用するため、全電圧 - 1/2 - 0 Vの三段階の電圧が得られ、より正弦波に近い波形を得られる。(実際はもっとたくさんの素子を直列並列接続している)欠点は構造上多数の素子が必要なため、素子の特性がそろっていないと動作不良を起こしやすくなる点があり、特に経年が経った装置では日常保守で注意が必要である。
用途
[編集]鉄道車両
[編集]鉄道車両では1980年代に車両駆動用としてVVVFインバータ制御の研究が進められ、1990年代に急速に普及した。直流電動機を使用する抵抗制御と比較してブラシなどの消耗品が不要なため保守が容易になり、細かな加速制御や回生ブレーキの採用による乗り心地や省エネルギー性の向上などが図られている。
スイッチング素子は1990年前後はゲートターンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)が主流であったが、1990年代以降は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が普及している。2010年代以降は従来のシリコン(Si)に代わる素子材料として炭化ケイ素(SiC)も使用されるようになった[3][4]。
インバータ制御の対象となる交流モータは誘導電動機や同期電動機が使用される。誘導電動機の場合はかご形三相誘導電動機が圧倒的である。同期電動機はTGVの初期世代などで電磁石同期電動機が用いられたほか、日本では2010年代以降に永久磁石同期電動機が用いられている車両が登場している。
直流電動機制御との比較でいえば、「電機子誘起起電力(=逆起電力)+内部抵抗降下」を直流電動機に加えて起動させるのが抵抗制御や電機子チョッパ制御の基本であるから、VVVFインバータ制御はそれに周波数と位相が加わるだけで基本は同様である。「定出力領域」と「特性領域」についても直流電動機の「弱界磁領域=定出力領域」「特性領域」と変わらない。またV/f一定領域も定トルクに制御すれば抵抗制御直流電動機での「定引張力領域」と同様である。
空調機器
[編集]高効率を追求するエアコン用として日本では近年ブラシレス直流モータを使うようになった。また家電用など小型機には90度位相差の二相交流駆動があるが、多くは三相交流である。誘導電動機のすべり率Sは回転子での電力損割合なので、低速回転ほど損失率が増え効率が下がるので、低速回転になる直接駆動モータ(DDM)ではすべり回転のない同期電動機が選ばれることが多い。
エレベーター
[編集]エレベーターでは従来より直流モーターが使用されていたが、1983年に三菱電機がエレベーター用インバータ制御装置を開発した[5]。インバータと誘導電動機の導入で加減速時の乗り心地向上や消費電力の削減が図られるとともに、ビル内の電源設備の容量縮小も可能となった[5]。
脚注
[編集]- ↑ 停動トルク - オリエンタルモーター > セミナー技術情報 > 用語解説(2015年版 / 2015年9月20日閲覧)
- ↑ “インバータの回路および制御について”. 明電舎. 2024年5月15日閲覧。
- ↑ 石川勝美ほか4名「SiCを用いた鉄道車両用インバータの開発」『日立評論』2016年10月・11月合併号、pp.32-35
- ↑ 近年の鉄道車両に採用される「SiC」とは? 「IGBT」との違いは 鉄道コム、2023年5月4日(2026年3月28日閲覧)
- 1 2 石川純一郎ほか2名「エレベーターの省エネルギー技術」『三菱電機技報』2012年8月号、pp.19-22