イベントデータレコーダー

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イベントデータレコーダー(Event Data Recorder、EDR)は、エアバッグ等が作動するような交通事故において事故前後の車両の情報を記録するために自動車内に設置される装置である[1]

なお映像記録なども行う装置(日本ではドライブレコーダー[2]と呼ばれる)はこれに近い性格を持っているので本稿で合わせて述べる。

概要

衝突事故の前後に自動車の挙動がどうであったかを公的な機関が判断することを助けるために、このイベントデータレコーダー(以下EDR)を回収して分析することができる[3]。EDRは、警察車両や商用トラックに搭載されている音声テープレコーダービデオカメラより、むしろ航空機に使われるような「ブラックボックス」のような単純で衝撃耐性が高いRAMデバイスなどに用いられる用語である。

さまざまな形態のEDRがあり、それぞれ多くの特許が存在する。衝突までの数分間を記録しオーバーライトしながらデータを記録し続けるもの、速度か角運動量における急変などの衝突と似たような事象によって動作開始されるもの、交通事故が終わるまで記録し続けるものなどがある。EDRは、ブレーキが使用されたかどうか、衝撃、ハンドル操作時点の速度とシートベルトがクラッシュの間に締められたかどうか記録することができる。事故現場で回復されるまで情報を保持するタイプもあれば、データを無線で当局(警察や保険会社など)に送ることができるタイプもある。

車両事故の分析において、複数の車両が関係するケースでは互いの運転手の言い分が食い違うことが少なくなく(両者とも「進行方向の信号は青であった」と主張する例)、また当事者の一方が死亡するなどのケースもあるため、互いの責任割合がどのくらいの比率になるかを判断するためには、現場に残されたブレーキ痕や車両部品の破片の分布・周囲からの証言などを基にして、推測で判断せざるを得なかったが、この装置を活用することで客観的な分析が可能となったことで、導入車における事故処理の迅速化につながっている。

現在、アメリカ合衆国には、国家道路交通安全局 (National Highway Traffic Safety Administration) がEDRの統一規格を開発し、全ての新車にそのEDRの装着を義務づけるように働きかけている(ロビー活動)グループもあり、義務付けが予定されている。現在では、アメリカ国内法で装備する必要はないが、いくつかのメーカーが自発的にEDRの装着を始めた。

2003年の時点で、EDRを装備している車両が少なくとも4000万台あった。また、アメリカの損害保険会社が免許一年未満の運転者に無償貸し出しサービスを始め、近親者にメールで内容を報告するサービスも行っている。

日本国内では、自動車メーカー製造時にEDRを内蔵している車種が増えている。プライバシー保護のため映像と音声は記録しないが車速、アクセルとブレーキの踏み具合、シートベルトの着用の有無、ハンドルの角度を自動的に記録する。

映像記録型ドライブレコーダー

日本国内での事情

ドライブレコーダー (YAZAC-eye) を装着しているタクシー(日の丸交通

タクシー運輸業などでは、事故の瞬間に何が起きたのかを事後に客観的に把握できる形で記録する装置は、日本において21世紀初頭頃まではせいぜいタコグラフしかなかったが、2003年頃に映像記録型ドライブレコーダーが実用化されたことで状況が変化した[4][5]。当初から業務用車両を主体に搭載されており、事故頻度の高いタクシー、次にバストラックなどの順番で普及が進みつつある[4][5]

事故防止を目指した自社教育・啓発のために利用されており[6]、交通事故を装った詐欺などの保険金詐欺等の犯罪摘発や事故と詐欺の明確化[4]、不審者などの情報提供など犯罪抑止効果もある[7]

国土交通省が普及を目指しており導入を推進しているが、普及は業務用車両以外には遅滞しており、同省調べによる2008年3月時点の普及率はタクシー49%、乗用車0.1%となっている[5]。当初は導入価格が一式あたり5万円を超えていたが、2006年、複数企業が市場の拡大を予測して参入[8]、これにより実勢の価格は市場論理で値ごろ感のある価格に移行しつつある。

また、導入したタクシー会社や運送会社では、導入以前よりも事故率低下の傾向が挙げられている[6][9]。これは、事故を起こさずとも、規定の設定の加速度が車体にかかるケース(急発進・急ブレーキ・急ハンドル)においても、事故の際と同様に映像と音が記録されることによって、運転手が客観的に自分の運転の危険性を認識することができることに対する乗務員の心理作用が影響し、不適切な運転動作の抑止効果があるとの説がある。

事故捜査においても、2000年代後半以降は証拠としてドライブレコーダーの映像を扱うケースが増えており、警察庁によると「事故状況に争いがある場合、ドライブレコーダーの映像の提出を任意で求めたり、差し押さえたりすることがある」としている[5]

2000年代後半において、映像記録型ドライブレコーダーは技術的には過渡期の段階であるため、規格や機能が各社商品によってバラバラとなっている現状であり、このバラつきが普及率の妨げとなっている部分があるため、国交省は規格の統一化に向けて取り組みを行っている[5]

2009年、自動車保険におけるドライブレコーダー優遇措置が2011年~2012年頃の実施を目指して検討されているという一部報道があったが[7]、2014年現在実施はされていない。

市場規模についても2008年は前年比65%増と大幅増加、今後も優遇措置の実施が見込まれるなど拡大傾向であり、2014年には85万台(販売台数ベース)、296億円(小売金額ベース)となると予測されている[7]

2016年1月に発生した「軽井沢スキーバス転落事故」をきっかけとして、3月、貸し切りバスへのドライブレコーダーの設置が国土交通省により義務化された。ドライブレコーダーの設置義務化は初のことであった。[10]

問題点

  • 動画を記録する際のフレームレートによっては、交流電源を用いるLED信号機フリッカー(ちらつき)と同調して信号機の点灯色が記録されない場合がある[11][12]。一般的なビデオカメラのフレームレートは30fps(毎秒30コマ)であることが多いため[12]商用電源周波数が60Hzの西日本でこの現象が起こりやすい[11][12]。その国・地域の商用電源周波数と重ならないフレームレートで撮影できる機種を用いることで現象を回避できる[11][12]
  • デジタル機器を用いた録画は内容の改竄(かいざん)が可能で[13]、その痕跡も残りにくいため[14]、裁判において証拠能力が認められない可能性もある[13]。こうした問題に対し、中には改竄を防ぐための機能を取り入れている機種もある[13][14]。なお、JAF Mateの見解では、記録した映像は裁判の証拠として効力を保証するものではない、としている[15]

車検に関して

自動車検査審査事務規定の第37次改正(平成18年8月25日付け)により、ルームミラーの陰や フロントウインドウの上端から20%以内であればイベントデータレコーダーの取り付けは認められている。

日本の主なメーカーとブランド

五十音順
かつて製造していたメーカー

台湾

中国語では、車載用の映像記録型ドライブレコーダーは行車記録器(シンツジルチ)と呼ばれる[17]。台湾では、交通マナーの悪さや交通事情の激しさを背景とした事故リスクの高さに対する自衛意識と、機器の低価格・高性能化といった技術進歩を背景として、2011年頃からドライブレコーダーの普及が急激に進んだ[18][17]。2012年には年間で40万台のドライブレコーダーが売れたと言われ[17]、刑事・民事事件の証拠として活用される例も多くなった[18]。台北では全ての車に導入されているのではないかという見解もある[18]

韓国

韓国では、車載用の映像記録型ドライブレコーダーのことをブラックボックスと呼んでいる[19][20]。韓国ではドライブレコーダーはハイテク製品というイメージで受け取られており[19]、タクシーへの導入や自動車保険における優遇措置、低価格化などを背景に普及が進んだ[19][20]。2011年には前年比2倍の13万台[20]、2012年には台湾と同等の年間で40万台が売れたとされ[17]、2013年時点で200以上のメーカーが市場に参入し、予想される市場は年間で約50万台、1500億ウォン(143億円)まで成長するという見積もりもある[19]

ロシア

ロシアは人口当たりの事故死リスクが世界的に見て高く[17][21]、また交通違反を取り締まる警察官への不信感が根強いこと等から[21][22]、ドライブレコーダーは必需品として普及している[21]。ロシアは世界で最もドライブレコーダーが売れている国の一つともいわれ[22]、2012年におけるドライブレコーダーの売り上げは130万〜150万台という推定がある[22]

こうした状況を背景に、2013年のチェリャビンスク州の隕石落下では、市街地の上空を通過していく隕石の様子を多数の車載カメラが撮影しており、一般市民による多様なアングルからの動画がニュースや動画投稿サイトを通して世界中に公開された[21][22]

脚注

  1. ^ J-EDRの技術要件(国土交通省)
  2. ^ 「ドライブレコーダー」は和製英語と考えられる。
  3. ^ 交通事故例調査への EDR データ活用検討(交通事故総合分析センター)
  4. ^ a b c 事故車の"証人"、映像・音で残すドライブレコーダー - 1 / 2 NIKKEI NET BIZ+PLUS 2007年4月25日・日経産業新聞 2007年3月29日
  5. ^ a b c d e 『タクシー49%、乗用車0.1%…ドライブレコーダー普及率』読売新聞 2009年6月18日
  6. ^ a b 安全な車を再考する!(岡崎五朗)第17回 ドライブレコーダーの本格的普及は実現可能か - 1 / 2 SAFETY JAPAN(日経BP社) 2006年3月10日
  7. ^ a b c カメラ&メモリの価格低下で、注目を集めるドライブレコーダー市場 Business Media 誠 2009年1月16日
  8. ^ ドライブレコーダの最新動向に関する調査結果詳細版 (PDF) )矢野経済研究所 2007年3月5日
  9. ^ 平成18年度 映像記録型ドライブレコーダーの搭載効果に関する調査 報告書 (PDF) 国土交通省 自動車交通局 2007年3月
  10. ^ 読売新聞 第18354号』 : “ドライブレコーダー義務化 国交省 貸し切りバス対象(33面) 2016年3月8日 読売新聞社
  11. ^ a b c “【美優Navi対応ドラレコ DR01D インプレ】黒つぶれにも白飛びにも強い、ナビ連携のハイスペックドラレコ”. 価格.com新製品ニュース (カカクコム). (2015年6月11日). http://news.kakaku.com/prdnews/cd=kuruma/ctcd=7034/id=48495/ 2015年6月25日閲覧。 
  12. ^ a b c d ドライブレコーダーの主な機能・用語説明”. オートバックス. 2015年6月25日閲覧。
  13. ^ a b c デジタル記録データの証拠能力について”. みるみる.コラム. TOA. 2015年6月25日閲覧。
  14. ^ a b "クリューシステムズのクラウド型自動車日報・事故映像記録に GuardTimeの原本性証明を追加" (Press release). クリューシステムズ、日本ガードタイム. 14 November 2011. 2015年6月25日閲覧
  15. ^ JAF Mate FAQよくあるご質問『Q2.記録した映像は裁判の証拠として認められますか?』
  16. ^ 富士通テン :富士通テン「ドライブレコーダーが日産自動車のオプションに採用」
  17. ^ a b c d e 大槻智洋 (2012年7月11日). “事故大国で人気沸騰、ドライブレコーダー3機種を分解 「粗利3割、スマホでは代替できない」と台湾メーカーが期待”. 日本経済新聞. 日経エレクトロニクス (日本経済新聞社). http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0502R_V00C12A7000000/ 2014年3月19日閲覧。 
  18. ^ a b c 寺町幸枝 (2012年1月13日). “台湾で「映像記録型ドライブレコーダー市場」が急成長中”. PUNTA (DADA INC.). http://punta.jp/archives/2617 2014年3月19日閲覧。 
  19. ^ a b c d “韓国 車載カメラブーム到来”. フジサンケイ ビジネスアイ・ストリーム. ブルームバーグ (日本工業新聞社). (2013年11月24日). http://www.business-i.co.jp/featured_newsDetail.php?4438 2014年3月26日閲覧。 
  20. ^ a b c “自動車用ブラックボックス売上げ急増”. Chosun Online (朝鮮日報). (2011年2月27日). http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2011/02/27/2011022763011.html 2014年3月29日閲覧。 
  21. ^ a b c d DAMON LAVRINC (2013年2月18日). “隕石でわかった、ロシア「車載カメラの常識」”. WIRED.jp. コンデナスト・ジャパン. 2014年3月26日閲覧。
  22. ^ a b c d 遠藤良介 (2013年2月24日). “悪徳警官のおかげ? ロシア隕石撮影の裏事情”. SankeiBiz (産経デジタル). オリジナルの2013年3月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130306210952/http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130224/mcb1302241039000-n1.htm 2014年3月29日閲覧。 

関連項目

外部リンク