栄養学

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栄養学(えいようがく、英語: nutrition science)とは、食事食品の中の成分である栄養素がどのように生物の中で利用されたり影響しているかを研究する学問である。栄養とは、生物が自らの体を構成して生活活動を営み、健康を維持・増進して生命を維持してゆくため、必要な物質を外界から身体に取り入れ、これを利用する現象をいう。栄養学は、人間の栄養に関する学問である。

1910年代、日本での栄養学の創設期には、食品に含まれる栄養成分の分析や、「何を、いつ、どのくらい」食べたらいいのかを研究した。1980年頃から、食事と生活習慣病が大きく関係することが分かり、「食生活指針」が作られ、食事と病気との関連を研究する疫学研究が盛んになっていった。また1980年代以降、食品成分の健康に対する作用が解明されることが増え、健康食品として食品の機能に関して認識されていくこととなった。

目次

[編集] 日本における栄養学の歴史

1871年(明治4年)に、ドイツ医学で教えたドイツホフマンによって栄養についての知識が日本に伝えられた。しかし、そのときは医学のなかの一分野にすぎず、一つの学問として体系化されたものではなかった。

[編集] 栄養学の創設

佐伯矩は、栄養学を学問として独立させたため栄養学の創始者といわれる。矩は、京都帝国大学医化学を学んでいたころ、すでに「米と塩を以って生活できるか否かについての研究」と栄養に目が向いていた[1]内務省伝染病研究所に入り北里柴三郎の門下として細菌学を研究した。ここでの研究によって1904年(明治37年)には、大根に含まれる消化酵素を発見したことも成果の一つとなっている[2]1905年(明治38年)には、北里柴三郎らの推薦で特別研究員としてアメリカイェール大学に招聘される[3]1911年(明治44年)ごろ、またヨーロッパを遊学した[4]

栄養学が芽生えたのは、1914年(大正3年)。佐伯によって営養(栄養)研究所が創設され、医師10名、高等師範1名に栄養に関する講義が行われた。1918年(大正7年)当時、教科書や政府の刊行物では営養と表記していたものを栄養に統一するように文部省に建言した[5]。栄えるという字には健康を増進する意味があるからである[6]。また完全食偏食といった言葉も作り出している。1920年(大正9年)には、内務省の栄養研究所(現在の国立健康・栄養研究所)が設立され、佐伯は初代所長となる。1924年(大正13年)、佐伯は私費を投じて栄養学校を設立。翌年入学した第一期生は、1年間の学業を修め、佐伯によってつけられた「栄養士」と呼称で世に出た。1934年(昭和9年)日本医学会の分科会として、栄養学会が正式に独立を認められた。

佐伯矩は海外でも精力的に講義を行い、その業績によって1937年(昭和12年)には、国際連盟主催の国際衛生会議において、参加各国が国家事業として栄養研究所を設立し、栄養士の育成を行い、分搗きの米を用いることの決議がなされた[7]。ビタミンの国際単位も国連への矩の提案である[6]

[編集] 栄養士と養成施設

1924年(大正13年)、矩の栄養学校ができる。1933年(昭和8年)、香川綾の家庭食養研究会ができ、1939年(昭和14年)に女子栄養学園となる。1939年(昭和14年)、陸軍の糧友会が食糧学校を設立した[8]。1947年(昭和22年)に栄養士法ができ、上記の栄養学校、食糧学校、女子栄養学園で栄養学を学んだものに与えられていた栄養士という称号が公的なものとなった[8]。1962年、管理栄養士が制度となる。

[編集] 主食論争

明治時代から食養会の関係者は玄米をすすめていた。当時の栄養学は、玄米に多い食物繊維は未消化で排泄されるので栄養吸収の効率が悪いと考えたが、真っ白に精白した米は栄養素が少なすぎるという低栄養が問題であり、当時多発したビタミンB1不足による脚気の予防のためにもその中間を提唱していた。

1918年(大正7年)、矩は新聞社を16社呼び、胚芽米をすすめ米のとぎ洗いも問題だと伝えた[9]。しかし、精米技術が追いつかず、胚芽米の推奨はやめてどちらかというと胚芽米を嫌っているようでもあった[10]。1921年(大正10年)、玄米をすすめてきた医師の二木謙三が玄米をすすめる内容の著書を発行している[11]。1922年(大正11年)、矩は七分搗き米をすすめる[12]。1927年から陸軍の糧友会は胚芽米を普及させようとしていった[13]。理由は、白米はビタミンBが少ないという栄養上の問題があり体力を奪い大和民族の発展を阻止するが、胚芽米は栄養があり味もよく消化がいいということである[13]。1928年、香川綾も胚芽米をすすめた[14]。同1928年(昭和3年)ごろ、陸軍は脚気予防のために胚芽米に精米できる精米機が登場したため、胚芽米を採用した[15]。正確に七分搗き米に精米できる精米機はまだなかった[15]。矩は、七分搗き米を普及するべく「標準米」として提唱している[16]。東京市は胚芽米の普及をすすめ、栄養研究所や栄養士と対立する[10]

1938年(昭和13年)、農相によって胚芽米でなく七分搗き米を奨励すべきだという発言が報道されたのに対し、糧友会は『胚芽米普及の真意義に就て』を書き、栄養がある七分搗き米を食べている人にまですすめるわけではないと弁明している[13]。 1939年、農務省から米穀搗精等制限令[17]が出て、胚芽を含んだ七分搗き米が奨励された。1941年(昭和16年)、玄米の普及の請願も出ていたが、厚生省、文部省、農林省の大臣が答弁し米は七分搗きが適当であり玄米は最適ではないとした[18]。1942年(昭和17年)以降、大政翼賛会では国民を玄米に復帰させるとして議題となり、時の首相であった東條英機が玄米を常食していることも伝わり世論は玄米に傾いた[18]伝染病研究所の研究者らが玄米食について研究し12月の「医界週報」での報告では、玄米食によって小食になったうえ下痢も減り仕事の耐久力が上がり、医療費は1/17に減ったが炊飯に要する燃料は増加したと伝えたので、栄養学者も認めざるをえなくなった[19]。1943年(昭和18年)、当初反対していた厚相も首相に従い玄米をすすめていった[20]1945年(昭和20年)8月15日 玄米をすすめる「食生活指針[21]」ができた。

1975年(昭和50年)、謎の神経炎が発生する[22]。1976年、翌年、謎の神経炎がビタミンB1欠乏症である脚気だと分かる[23]。砂糖の多い清涼飲料水やインスタントラーメンといったビタミンの少ないジャンクフードばかりを食べるような食事によってビタミンが欠乏したことが分かった[24]。香川綾が再び胚芽米の普及にのりだす[25]

[編集] 戦後

終戦直後には食料の生産供給の状態が悪く、飢餓や栄養失調も頻繁に起こっていた。1946年には、アメリカから14万トンの小麦粉が送られた。またララ物資として、食料としては小麦粉や砂糖、粉ミルクや缶詰めといった救援物資が送られた。1954年(昭和29年)には、農業貿易開発援助法(PL480:Public Law 480)によってアメリカの農産物による食糧援助が始まる。学校給食法ができる。戦後は、厚生省が栄養改善運動をはじめる。おかずの多い食事や、食生活に小麦を使った食事や洋風の食事が普及していく。

日本食生活協会がアメリカから資金援助を受け、キッチンカー(栄養指導車)を走らせ、栄養士が欧米風の食事の実演をした。1956年(昭和31年)には8台のキッチンカーがあった[26]。学校給食はパンと牛乳となり、フライパン運動や、栄養三色運動[27]によって、米を大量に食べる食生活から、以降急激に小麦を使った食品や畜産食品やおかずの多い食生活が普及していった[28]。戦時に食糧難になる前の1930年代には1日1人あたり米を350グラム以上、小麦を50グラム未満消費していたが、1950年(昭和25年)には小麦は1日75グラム以上となり以降80グラム前後で推移し、米は2010年では150グラム強へと消費量が減っている[29]

[編集] 食育への流れ

しかし、このようなアメリカ化された食生活はアメリカ自身も困っていた食生活をそのまま取り入れてしまったものである[30]。1983年には、食生活の方向転換が提案され「私達の望ましい食生活-日本型食生活のあり方を求めて」では、米や野菜を中心として、動物性脂肪や砂糖、塩分のとりすぎを避けるという日本型食生活が提案された。1985年(昭和60年)には、食生活による生活習慣病の増加がわかってきたので、厚生省が「健康づくりのための食生活指針[31][32]」を策定する。

1993年、厚生省によって食事の教育が重要であるという提起として『食育時代の食を考える』が出版され、冒頭は、厚生大臣であった小泉純一郎が厚生省としては食が一番大事じゃないかと述べていたというところからはじまる[33]。2000年(平成12年)厚生省、農林水産省文部省が「食生活指針[34][35]」を策定する。厚生省による「健康日本21[36][37]」(21世紀における国民健康づくり運動)もはじまる。2005年(平成17年) 食育基本法[38]が施行される。

厚生労働省農林水産省が食品を単位としたイラストの食事指針である「食事バランスガイド[39][40]」を策定する。

[編集] 国際的な歴史

  • 1970年代後半から食事と生活習慣病が大きく関係しているとアメリカで報告され、食生活指針の策定が行われるようになり、食事と疾患に関する栄養疫学が活発に行われるようになる。
  • 1995年、WHOとFAOの会議で食物ベースの食生活指針の作成が求められた。

[編集] 生活習慣病と疫学研究

1977年、「米国の食事目標[41]」(Dietary Goals for the United States)が報告される。報告書にはハーバード大学公衆衛生大学院の栄養学の教授であるマーク・ヘグステッドも非常に関わった。この報告によって食事と肥満をはじめとして心臓疾患といった生活習慣病の関係が大きいことが分かり、食生活指針の策定につながっていった。まだ、この時点では科学的な証拠がはっきりしていない結論もあったため、疫学研究が盛んに行われるようになる。こうしたコホート研究といったものには、数年から十年以上の研究機関を要するので早急には結果が出ない。1980年より、米国農務省(USDA)と米国保健福祉省(HHS)によって「アメリカ人のための食生活指針」(Dietary guidelines for Americans)という、生活習慣病を予防するための食生活指針が発表される。以降、5年ごとに改訂される。

ハーバード大学公衆衛生大学院による、女性看護師の疫学研究 Nurses' Health Study (NHS)[42]、男性医療従事者の疫学研究 Health Professionals Follow-up Study (HPFS)[43]といった大規模なコホート研究が行われるようになる。この研究を指揮している人物はウォルター・ウィレットである。

1982年、アメリカ国立癌研究所全米科学アカデミーの下位組織のNRC(National Research Council)に食事とがんに関する科学的な分析を依頼し、その報告として「食生活、栄養とがん[44]」(Diet, nutrition, and cancer,1982)としてまとめられ、1977年の報告を支持した。1983から1990年にかけて「中国プロジェクト」[45]が行われ、アメリカ国立癌研究所とアメリカがん研究協会も資金提供し、アメリカのコーネル大学、イギリスのオックスフォード大学、中国のがん研究機関やほかのいくつかの国の研究機関が関与した。マーク・ヘグステッドは、中国プロジェクトに対してアメリカでは食事の内容が均質的なのでこのような重要な研究はできないと評した[46]。中国プロジェクトは中国では乳製品をまったく摂取しないが骨粗鬆症は非常に珍しく、また中国では植物から鉄分が摂取されており、鉄欠乏性貧血は肉の摂取と関係ないことを示した[46]。中国プロジェクトを指揮した、コリン・キャンベルは、研究結果を受けてもっとも安全な食事は完全菜食であると述べ完全菜食になり、5人の子供も完全菜食で育てた[47]

コリン・キャンベルは、コーネル大学で栄養学を教え、ベジタリアンの栄養学も教えているが、1980年代以降、菜食に関する科学的な研究が蓄積されているのに肉と乳製品の摂取が必要だという視点を変えようとしない、今では科学的な研究の結果があるのに教育を受けた時代の常識を信じ込んでしまっていると指摘している[48]。なお、菜食については、賛否について議論があるため詳細については、ベジタリアニズムの記事を参照されたい。

1989年、NRCは『食事と健康-成人病予防のための食事と健康の科学[49]』(Diet and Health,1989)という報告書をまとめあげる。1990年、日本でも、厚生労働省によって数万人以上を対象とした多目的コホート研究(JPHC Study:Japan Public Health Center-based prospective Study)がはじまる[50]

健康な食事ピラミッド(healthy eating pyramid) ハーバード大学

2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)は「食事、栄養と生活習慣病の予防[51] 」(Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases) を公開する。ハムなどの保存肉とがんのリスクとの強い関連、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸が2型糖尿病と心臓疾患の発症リスクを高めると報告されている[51]。2003年には、アメリカとカナダの栄養士会は合同で、専門家が質の高い256の論文から結論し、牛乳や卵も摂取しない完全な菜食においても栄養が摂取でき、また菜食者はがん、糖尿病、肥満、高血圧、心臓病といった主要な死因に関わるような生活習慣病のリスクが減る、認知症のリスクも減ると報告している[52]。6つの前向きコホート研究をメタアナリシスし、20年以上の菜食者は平均余命が3.6年長いと報告された[53]

2004年、NHSとHPFSで赤肉からの鉄分の摂取が2型糖尿病との相関関係を示したという大規模な統計結果が報告された[54][55]

ウォルター・ウィレットは、大規模な前向きコホート研究でも乳製品をたくさん摂取すれば骨折のリスクが減るという結果はなく、逆に男性では前立腺がん、女性では卵巣がんのリスクが高まると述べている[56]。NHS[57]など、アメリカ、イギリス、スウェーデンでの7つの前向きコホート研究で、カルシウム摂取量が増加しても骨折率が低下していない[58]。これらの理由のため、カルシウムは様々な摂取源から摂取し、骨折を予防するためには他の有効性が確認された手段である運動やホルモン療法、ビタミンDやビタミンKの摂取を紹介し、もしカルシウムを多く摂取したいならサプリメントがあるとしている[59]

ヘルシーフードピラミッド

ウォルター・ウィレットは、米国農務省の作成する「アメリカ人のための食生活指針」は産業の影響が強く、そのような影響のない食事ガイドラインを作成すべきだとし[60]、数百の疫学研究を反映した「健康な食事ピラミッド(healthy eating pyramid)」を作成している[61]。健康に悪影響のある、精白された穀物や赤肉、砂糖をなるべく控えることが分かりやすく図示された指針である。

2010年版の「アメリカ人のための食生活指針2010年版」[62](Dietary Guidelines for Americans, 2010)が発表される。これは数百の疫学研究をもとに科学的根拠の強弱の概念を採用している。

[編集] 肥満抑制のためのジャンクフードの対策

2011年の世界保健機関の報告では脂肪からのエネルギー摂取量や砂糖の摂取量を制限することや、野菜と果物だけでなく、全粒穀物や豆類、ナッツの摂取量を増やすことが推奨される[63]。2011年4月28日、食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)、アメリカ農務省(USDA)、連邦取引委員会(FTC)の4機関は、肥満増加の対策として子供に販売する飲食品の指針として、 加工食品1食品あたりの上限を、飽和脂肪酸1グラム、トランス脂肪酸を0グラム、砂糖を13グラム、ナトリウム を210mgとした[64]。 2011年5月18日、550超の団体がマクドナルドに対し、子供を対象とした飲食品に高カロリー、高脂肪、多い砂糖、高塩分のジャンクフードの販売中止、おまけをつけないことや、ロナルド・マクドナルドの引退を要請した[65]

フランス、デンマーク、ハンガリーでは、肥満の防止と税収を目的として肥満税が施行されている。

[編集] 栄養素

[編集] 三大栄養素

[編集] 炭水化物

1グラムにつき4キロカロリーのエネルギーがある。炭水化物は糖類とも言われ、単糖類、多糖類に分けられる。炭水化物はもっとも多く必要とされる栄養素で、日本の食生活指針で炭水化物が多く含まれる食品が主食とされる[66]。 2003年のWHO/FAOの報告では、2型糖尿病や肥満のリスクを減らすとして、食物繊維の摂取源として野菜や果物と共に全粒穀物も挙げられている[51]。このように全粒穀物の健康に対する有益性が科学的に判明してきた結果、アメリカをはじめとして全粒穀物が国家的に作られた食生活指針において推奨されることが増えている。全粒穀物は血糖負荷が低く血糖値を急激に上げにくいという特徴がある。佐伯矩が述べるように、栄養学を創設したような頃から「淘洗は精白にも優る米食人の禍根である」[67]と、米を精白することと淘洗(とぎ洗い)するという処理は共に栄養を損失させるとして問題視されていた。矩によって、1937年の国連の会議で、精白度の低い分搗米を用いる要望が採択されている[68]。食物繊維の重要性を報告していたバーキットは、1975年にトロウェルと一緒に『精製炭水化物と病気-食物繊維の影響』[69]を出版し、精白していない全粒穀物の重要性を訴え、以降このことは科学的研究によって追認・支持されていく[70]。 砂糖は炭水化物以外の栄養素がほとんど含まれていないため、あまり多く摂取しないように言われている。また砂糖の主成分である蔗糖は糖類の中でもう蝕(虫歯)のリスクを最も高める。WHO/FAOでもう蝕との関連が指摘され、砂糖の多い食品は肥満との関連も指摘され、また砂糖の摂取量は全エネルギーの10%未満にすべきだと報告している[51]薬物依存症との関連から砂糖依存症に関する研究報告がされており、砂糖依存症と肥満との関連が示唆される。

果物に含まれる果糖は中性脂肪を増やす効果が高いので、生活習慣病において摂取制限が指導される場合がある[71]。オリゴ糖などの腸内で分解されやすい糖類は、プレバイオティクスとして知られ、有用な腸内細菌を増やす作用がある。

[編集] 脂質(脂肪酸)

1グラムにつき9キロカロリーのエネルギーがある。脂質は、主に、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸に分けられる。さらに、不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸に分けられる。一価不飽和脂肪酸はω-9脂肪酸である。多価不飽和脂肪はさらにω-6脂肪酸、ω-3脂肪酸に分けられる。 つまり、下記のように大別される。

  1. 飽和脂肪酸
  2. 一価不飽和脂肪酸のω-9脂肪酸 オレイン酸など
  3. 多価不飽和脂肪酸のω-6脂肪酸 リノール酸など
  4. 多価不飽和脂肪酸のω-3脂肪酸 DHA、EPA、α-リノレン酸など

多価不飽和脂肪酸が必須脂肪酸である。 ISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)[72]が国際的に脂質の摂取基準と摂取のバランスを公表している。 飽和脂肪酸は畜産動物の脂肪に多く、1980年頃から重要な死因に通じる生活習慣病に関わるとの合意が増え、1990年頃にはそれが科学的にもはっきりしてきたため動物性脂肪を控えるようにという食生活指導が増え、食生活指針が作成されてきた。欧米ではω-3脂肪酸は不足がちであることから積極的にとったほうがいいと認識され、日本では「日本人の食事摂取基準2005年版」から推奨目標量が追加された。ω-3脂肪酸は亜麻仁や魚に豊富に含まれ、大豆や菜種油にも比較的ほかの食品より多く含まれる。脂質は、食品としては肉、魚、豆、ナッツ、種子に多く含まれ、これらは同時にタンパク質を多く含む食品である。

2004年、ISSFALの必須脂肪酸の1日あたりの摂取量の勧告では、リノール酸の適正な摂取量は全カロリーに対する2%、α-リノレン酸の健康的な摂取量は0.7%とされ、冠動脈を健康に保つためにEPAとDHAを合計で最低500mgすすめている[73]。同じような報告は日本にもあり、必須脂肪酸酸の必要量はリノール酸は2.4%、α-リノレン酸は0.5~1.0%であり、DHAとEPAは必要量は決められないが0.5%をすすめISSFALの報告より少し多い[74]。必要とされる必須脂肪はこのように全カロリーの3~4%程度と非常に少ない。

不飽和脂肪酸が変形したトランス脂肪酸が心臓疾患のリスクを上げることが分かり、2003年のWHO/FAOの報告で、トランス脂肪酸は心臓疾患のリスクを増加させるとされ、摂取量は全カロリーの1%未満を推奨している[51]

2003年の世界保健機関による生活習慣病予防に関する報告書では1日のコレステロールの摂取目標を300mg未満としている[51]。 米国農務省・保健社会福祉省の"Dietary Guidelines for Americans 2010"によると健康な人の場合300mgである。Mサイズの鶏卵(60g)には252mgのコレステロールが含まれている(殆ど黄身に存在する)[75]。コレステロールは肉や魚など他の食物にも含まれており、総摂取量の半分を鶏卵からとすると日本での一日当たりの成人の鶏卵の摂取目標量上限は2個以下、米国ガイドラインの場合は健康な人で1個以下となる。 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によるとコレステロールの摂取目標量の上限は成人男性で1日当たり750mg、成人女性で600mgであり、摂取目標量の下限は無い。 1日200mg未満にするという勧告には十分な根拠がある[76]

[編集] タンパク質(アミノ酸)

1グラムにつき4キロカロリーのエネルギーがある。 タンパク質は基本的に20種類のアミノ酸で構成される。成人ではうち8種類が必須アミノ酸である。タンパク質を多く含み、アミノ酸スコアが優れているのは、肉、魚、豆となる。また量として多く食べる穀物もタンパク質の主要な摂取源となる。

1957年に、FAOの会議でタンパク質の品質の評価基準であるプロテインスコアが決定されるが、動物性食品のスコアが高く、豆といったものは評価が低かった。しかし、後の1973年、科学的研究の進展に伴ってWHOとFAOの会議でタンパク質の品質の評価基準であるアミノ酸スコアが決定されると豆のスコアがよくなった。1985年にアミノ酸スコアのスコアを求める基準が変更されると豆は動物性食品と同じようにスコアが高いものとなった。1989年の会議では、1985年の必要量のパターンが最も妥当であると再確認され、国際基準として推奨された。また動物性食品を減らすという国際的な動きや、多くの国における穀物と豆という組み合わせは良質なタンパク質の品質になるという報告がなされた[77]。2002年にWHOは動物性たんぱく質による酸性の負荷は、骨粗鬆症の発症に関してカルシウム摂取量よりも重要な要因ではないかと報告している[78]。2007年にWHOは、タンパク質中の含硫アミノ酸メチオニンシステインの酸が骨をカルシウムを流出させるため骨の健康に影響を与えるため、カリウムを含む野菜や果物のアリカリ化の効果が少ないときカルシウムを損失させるため骨密度を低下させると報告した[79]

2007年の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会による、7000以上の研究を根拠にとしたがん予防法[80]では、公衆の目標として赤肉(牛・豚・羊)の摂取量は調理されていないときの重量で週に300g以下を勧告している。この予防法ではハム、ベーコン、サラミ、燻製肉といった加工肉を避けるように勧告し、赤肉より鳥や魚を推奨し、植物性食品としては豆をすすめている[80]

以上の三つの栄養素はバランスが重要視されている。これはPFCバランスと呼ばれ、タンパク質のProtein、脂質のFat、炭水化物のCarbohydrateの頭文字をとっている。PFCバランスはカロリーにおける比率をあらわしている。一般的に炭水化物の比率は60%前後とされ、脂質の比率が25~30%を超えると生活習慣病が増えるといわれ、食生活指針での指導の一項目となる。タンパク質が過剰な食事は、タンパク質由来の過剰な酸を中和するために骨を使用することになるので、長期的にこのような食事を続ければ骨が弱くなる可能性がある[81]。PFCバランスは比率上の推奨であって、上述の世界保健機関による勧告のように食品としては未精製の食品、栄養素としては飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の低減が推奨される。

世界がん研究基金のがん予防法では、毎日同じぐらいの重さで食事をしているので、砂糖や油の多い食品は摂取カロリーが高くなることにつながり、肥満になればがんになるリスクを上げるとしている[80]

[編集] 五大栄養素

[編集] ミネラル

人体に微量に必要な無機化合物の鉱物である。

[編集] ビタミン

微量ではあるが生理作用を円滑に行うために必須な有機化合物の総称で、炭水化物・タンパク質・脂質以外のもの。1910年、鈴木梅太郎によってはじめて抽出された。

脂溶性ビタミンは身体に蓄積されるものがあるので過剰摂取に注意が必要となる。

水溶性ビタミンにはすぐに身体から排出されるために過剰摂取になりにくいものが多い。従って、むしろ積極的に摂取する必要がある。

[編集] 他の摂取成分

  • 食物繊維

従来、食物繊維は役に立たないと考えられてきた。1970年前後、バーキット (Denis Burkitt) の報告[82] [83]によって、食物繊維が少ないと腸内の疾患のリスクが上がるだろうという説が広く知られるようになっていった。しかし1985年には、がんの予防効果に関しては穀物の繊維や豆に含まれるフィチン酸の作用ではないかともいわれている[84]。食物繊維もプレバイオティクスと呼ばれ、有用な腸内細菌を増やす物質とされている。

  • フィトケミカル

1990年ごろから必須栄養素ではないが、健康を保つのに重要であることが分かった。特にがんとの関連が研究されている。

佐伯矩が発見した消化酵素のジアスターゼを含む大根は、1905年出版の夏目漱石の『吾輩は猫である』にも登場し[85]、消化機能が広く知られ用いられるようになった[2]

発酵食品を発酵させている菌類で、腸内細菌の状態と健康に関係している。1907年にはイリヤ・メチニコフが、乳酸菌を摂取すると腸内に産生される有害物質の排泄物が減ることを根拠に、ヨーグルトやケフィア、酢漬け、塩漬けを食べれば乳酸菌が摂取できて長寿になると主張した[86]ビフィズス菌の含まれた製品には、腸内の有益な菌を増やし有害な菌を減らすという腸内環境を改善する効果が研究報告され、特定保健用食品として効能の表示が許可されているものも多い[87]。 こうした有用な菌類の利用はプロバイオティクスと呼ばれ研究されている。人体に有益な菌類は体内で酵素やビタミンを作り出すというはたらきもある。人体に害のある腸内細菌は腸内で有害物質を産生し、がんや心臓病、アレルギーや痴呆症といった病気と関連する可能性が高いことが分かってきている[88]

[編集] 栄養素と摂取基準

人がどういった栄養素をどのくらい必要とするかを示している。

どういった食品に、どのような栄養素が含まれているかを分析した結果をデータとしている。

[編集] 食べる回数

西洋では1800年ごろまで1日2食であった[89]。日本では20世紀前半に、国立栄養研究所での栄養学的な研究により1日3回と決定された[90]。それ以前の日本では1日2回の食事を朝餉夕餉と呼んだ。従って、多くの地域で1日に3回の食事の食事をするようになったのは近世のことである[90]

現代の日本では、朝食昼食夕食の3回の食事をとる習慣が一般的である。

[編集] 毎回食完全

矩は、ラットやヒトでの研究によって1日の栄養摂取量を1日3食で3等分で食べることがもっともいいと結論し、これを毎回食完全と呼び、食事の摂取として望ましいとされる[91]

[編集] 脚注

  1. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。28頁。
  2. ^ a b 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。29頁。
  3. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。30頁。
  4. ^ 佐伯芳子 『栄養学者佐伯矩伝』 玄同社、1986年。ISBN 978-4-905935-19-3。佐伯矩略歴
  5. ^ 佐伯芳子 『栄養学者佐伯矩伝』 玄同社、1986年。ISBN 978-4-905935-19-3。22頁。
  6. ^ a b 渡邊昌「対談 食と健康 温故知新 佐伯芳子」『食生活』100(10)、2006.10.1、pp6-8
  7. ^ 佐伯芳子 『栄養学者佐伯矩伝』 玄同社、1986年。ISBN 978-4-905935-19-3。124、128頁。
  8. ^ a b 『生活学』 第9冊、日本生活学会編、ドメス出版1983年12月。188-189頁。
  9. ^ 佐伯芳子 『栄養学者佐伯矩伝』 玄同社、1986年。ISBN 978-4-905935-19-3。22-23頁。
  10. ^ a b 高木和男 『食と栄養学の社会史2』 科学資料研究センター、1978年。486頁。
  11. ^ 二木謙三『食物と健康』 修養団出版部、1921年8月。
  12. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。38頁。
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[編集] 参考文献

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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