必須脂肪酸

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代表的なω-3脂肪酸であるα-リノレン酸の化学構造。
多くの植物油中で見られる代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸化学構造
必須脂肪酸の代謝経路とエイコサノイドの形成
食用油必須脂肪酸[1][2]
動物性脂肪等における必須脂肪酸の割合(飼料等に影響を受けている)[1][3]

必須脂肪酸(ひっすしぼうさん、essential fatty acid)は、体内で他の脂肪酸から合成できないために摂取する必要がある脂肪酸の総称である。

目次

[編集] 概要

物質が特定される以前はビタミンFとされていた。しかし、現在ではビタミンに含めないことが多い。その理由として、ビタミンと総称される多くの物質と比べて必要量が多く必須アミノ酸と同様に主要な体組織構成物質の一角をなしていることや、古典的な三大栄養素であるタンパク質炭水化物脂肪のうち、脂肪分子の構成要素であることなどが挙げられる。

ヒトを含めた後生動物には自身の生理代謝過程に必須であっても、自身では合成できない脂肪酸の分子種がいくつもあることが多い。そのため、自身では合成できない脂肪酸を合成する他の生物を食物として摂取することで必要を満たしている。

植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作るΔ12-脂肪酸デサチュラーゼ によりオレイン酸の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合を一個増やしてα-リノレン酸を生成することができる[4]。ヒトを含む動物は、ステアリン酸からオレイン酸を生成するΔ9-脂肪酸デサチュラーゼを有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない[5]

ヒト及びその他の動物にとっては、リノール酸に代表されるω-6脂肪酸とα-リノレン酸に代表されるω-3脂肪酸の2系統の多価不飽和脂肪酸が必須脂肪酸である。ω-9脂肪酸系統の不飽和脂肪酸は18:0のステアリン酸から18:1のオレイン酸に変換することができて体内で合成できるので必須脂肪酸ではない。

ただし、ω-6脂肪酸はリノール酸、ω-3脂肪酸はα-リノレン酸を原料として同じ系列の脂肪酸を体内でも合成できるため、狭義ではリノール酸とα-リノレン酸のみを必須脂肪酸に分類する。ただし、体内で合成できる量だけでは必要量を満たすことができないとも考えられるため、判断は分かれる。なお、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である[6]

国際的に脂質を評価しているISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)[7]は、2004年には、必須脂肪酸の1日あたりの摂取量は、リノール酸の適正な摂取量は全カロリーの2%(4-5g)、α-リノレン酸の健康的な摂取量は0.7%(2g)、冠動脈の健康のためにEPAとDHAを合計で最低500mgとしている[8]。日本の1999年の報告では、リノール酸を2.4%(5-8g)、α-リノレン酸を0.5-1.0%(1-3g)、EPAとDHAの合計で0.5%(1-1.5g)が必要だとされた[9]。つまり、必須脂肪酸の合計で全カロリーの3-4%(6-12g)である。

必須脂肪酸の必要量は「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で成人では、ω-6系脂肪酸は1日に7-12グラム以上、ω-3系脂肪酸は、1日に2.0-2.9グラム以上とされている。日本人の食事摂取基準(2010年版)では、ω-6脂肪酸について1日9g前後の摂取が適正で、摂取上限は総摂取エネルギーの10%(22-30g)としている。ω-3脂肪酸の必要量は成人では1日に2g程度とされている。摂取上限は示されていないが男性においては前立腺がんの罹患リスクのためα-リノレン酸の過剰摂取は注意が必要とされている。EPA及びDHAについては1日に合計で1g以上の摂取が望ましいとされている[10]

他方で、日本人のリノール酸摂取量は平均して13-15g/日で過剰にω-6脂肪酸を摂取しており、ω-6脂肪酸由来の過剰な生理活性物質の産生を防ぐために、代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸摂取量を7-8g/日に制限すべきとの意見もある[4]。炎症性のあるロイコトリエンプロスタグランジンのようなアラキドン酸カスケードの原料であるω-6脂肪酸(リノール酸)の摂り過ぎとそれと代謝酵素が重複しているために拮抗関係にあるω-3脂肪酸(α-リノレン酸)との摂取バランスがこわれて過敏性が増加しアレルギーが惹起されやすくなっているとの報告もある[11]

ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている[12][13]。典型的な西洋での食事ではω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は 1:10から1:30の間で、ω-6脂肪酸の摂取が極めて高い実態にある[14][15]。この原因は、代表的な食用油の多くが高い比率のω-6脂肪酸を含んでいてω-3脂肪酸をほとんど含んでいないからである。

必須脂肪酸は、多くの代謝過程ではたらいているため、不足したり、種類のバランスが悪かったりすると、体調を崩す原因になるともいわれている。

[編集] 脚注

  1. ^ a b http://ndb.nal.usda.gov/
  2. ^ キャノーラ油大豆油オリーブ・オイルゴマ油コーン油ひまわり油
  3. ^ マトンラム (子羊)ヘット母乳栄養ラード鶏油α-リノレン酸
  4. ^ a b http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic1.pdf
  5. ^ デサチュラーゼ
  6. ^ http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php?file_id=15917
  7. ^ ISSFAL (英語) (ISSFAL: International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids)
  8. ^ Cunnane S, Drevon CA, Harris W, et al. "Recommendations for intakes of polyunsaturated fatty acids in healthy adults" ISSFAL Newsletter 11(2), 2004, pp12-25
  9. ^ 『第六次改定 日本人の栄養所要量―食事摂取基準』健康・栄養情報研究会編、第一出版、1999年。ISBN 9784804108940。53-54頁。
  10. ^ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4g.pdf
  11. ^ 馬場實、中川武正:食物アレルギーの手引き、南江堂、1、54-55、1994
  12. ^ Tribole, Evelyn. "The Ultimate Omega-3 Diet" New York. McGraw-Hill. 2007 ISBN 13:978-0-07-146986-9
  13. ^ Lands, William E.M. "Fish, Omega-3 and Human Health" Champaign. AOCS Press. 2005 ISBN 1-893997-81-2
  14. ^ Freeman MP, Hibbeln JR, Wisner KL, et al. (2006) Omega-3 fatty acids: evidence basis for treatment and future research in psychiatry. J Clin Psychiatry. 2006;67(12):1954-67. Free Full Text
  15. ^ doi:10.4088/JCP.11m06879
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[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 『第2版 標準化学用語辞典』, 日本化学会編, 丸善, 2005年 (「必須脂肪酸」の項目).
  • 『化学大辞典』, 化学大辞典編集委員会編, 共立出版, 1961年 (「ビタミンF」の項目).

[編集] 外部リンク

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