ビオチン

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ビオチン[1]
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識別情報
CAS登録番号 58-85-5 チェック
PubChem 171548
ChemSpider 149962
特性
化学式 C10H16N2O3S
モル質量 244.31 g mol−1
外観 白色の針状結晶
融点

232-233 °C

への溶解度 22 mg/100 mL
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ビオチン(biotin)とは、D-[(+)-cis-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ-(3,4)-イミダゾール-4-吉草酸] のこと。ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7Vitamin B7)とも呼ばれるが、欠乏症を起こすことが稀なため、単にビオチンと呼ばれることも多い。

概要[編集]

1935年オランダのケーグル(F. Kögl)により卵黄中から発見された。酵母の増殖に必要な因子ビオス(bios)の1成分として研究されたため、この名がついた。また、古くには、マウスを用いた動物実験において、生卵白の大量投与によって皮膚に生じる炎症を防止する因子として発見されたことから、ビタミンH(H は皮膚を表すドイツ語 Haut から)と呼ばれたこともある。また、生体内において果たす役割から補酵素Rと呼ばれることもある。

生化学[編集]

に対し安定、アルカリに対して不安定。カルボキシル基転移酵素(carboxylase)の補酵素として働く。特にビオチンを補酵素として持つ酵素の一群をビオチン酵素(biotin enzyme)と呼ぶ。この中には糖代謝に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ脂肪酸代謝に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼプロピオニルCoAカルボキシラーゼアミノ酸の一種ロイシンの代謝に関与する3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼなどが含まれる。

応用[編集]

に含まれる糖タンパク質であるアビジンは、ビオチンを非常に強く結合する(ほとんど不可逆的)ため、標的分子にビオチンを結合して目印とし、これをアビジンで検出する方法が用いられている。生化学の研究用試薬、あるいはがんなどの検査用試薬、さらにはモノクローナル抗体制がん剤を結びつけてがん細胞のみを直撃するミサイル療法製剤への適用などへの応用がある。

摂取[編集]

一日の目安量は、成人で45μg。腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において欠乏症は発生しない。多く含む食材には酵母レバー、豆類、卵黄などがある。しかしながらビオチンは未だ日本食品成分表に掲載されておらず、摂取基準が曖昧である。第六次改定・日本人の栄養所要量によれば成人男女の基準は30μg。ビオチンの利用効率は食品によりかなり異なり、特に、小麦中のビオチンはほとんど利用されない。サプリメントとしては他のビタミンとは違い、ビオチンは日本の薬事法では栄養機能食品以外には認可されず、一錠中の許容量も上限が500μgと定められている。

抗生物質の服用により腸内細菌叢に変調をきたすと欠乏症を示すことがある。また、ビオチンは卵白中に含まれるアビジンと非常に強く結合し、その吸収が阻害されるため、生卵白の大量摂取によっても欠乏症を生じることがある。この場合のビオチン欠乏症を特に卵白障害と呼ぶ。1日あたり10個以上の生卵を食用し続けると卵白障害に陥る可能性があるとされる。欠乏症状は以下のとおり。

またこれまでの動物を用いた多くの研究において、妊娠中ビオチン欠乏状態に陥った母体の胎児に、高い確率(-100%)で奇形が誘発されることが報告されている。主なものとしては、口蓋裂、小顎症、短肢症、内臓形成障害などがある。逆に動物実験ではビオチンを多量に摂取した場合に胎児にたまる性質があり、催奇性が確認されている。

疾病とビオチン[編集]

免疫不全症とビオチン[編集]

日本国内でのビオチン治療法は、自己免疫疾患易感染性膠原病)や血糖値上昇(糖尿病)など、その他、ビオチン欠乏からくる多岐にわたる病状を、改善または治癒(緩解寛解状態ではない)することを目的としたもので、プロスタグランジンヒスタミンのような、オータコイド系の生理活性物質を過剰に作らせない(機能の正常化)という、いわば、4種のカルボキシラーゼ補酵素という考え方だけで治療を行っているアメリカよりも、日本の方がこの点では、一歩進んだ考え方となっている。 しかし、今のところ、ビオチンによる免疫治療は、一部の病院でしか治療方法が確定しておらず、ほとんどの日本の病院では皮膚疾患の治療薬としか認識していない。   

先天性ビオチン欠乏症の原因[編集]

先天的なビオチン欠乏には大きく分けて、ビオチニダーゼ欠損症ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症の2つがあり、いずれも常染色体劣性遺伝疾患である。前者は、本来ビオチンがビオチニターゼによってリサイクルされて使用されるのだが、ビオチニダーゼがないために、ビオチンが再利用できないことによるビオチン欠乏である。後者はビオチンをアポカルボキシラーゼに取り込む反応を触媒する酵素であり、ホロ化(活性化)できないことによる欠乏症状である[2]

栄養性ビオチン欠乏症の原因[編集]

乳幼児のビオチン欠乏は出産時に、ビオチン欠乏の母親から悪玉菌優勢の腸内細菌叢を引き継ぐこと[3]や、母乳中にビオチンが少ないことで発症するといわれている。生活環境では、喫煙アルコール乳製品、生卵白などの取りすぎはもとより、頻回の下痢、抗生物質やストレスなどで腸内細菌叢の構成に異状をきたしたとき、その他にも、完全静脈栄養施行時、腎臓透析施行時、または、長期にわたり、ペプチドミルク(乳幼児)、一部の抗てんかん薬、鎮痛薬などを服用したときに欠乏する。食物中のビオチンは卵黄中にも存在しているが、アビジンやリジンなどタンパク質と結合した結合型であり、穀物中のビオチンは吸収できないなど、生体内での利用がしにくい。これに対し、腸内バクテリアが産生しているビオチンは活性型といわれている遊離型である。

腸内細菌叢で産生しているビタミンは種々あるが、食物から摂取しにくいビタミンはビオチンに限らずビタミンK2(Menaquinone)なども腸内バクテリアが産生している、このビタミンK2は食物ではチーズにはMK-9、納豆にはMK-7が主に含まれている、MK-7はバクテリア以外には産生しないため、抗生物質などの内服により、腸内細菌叢の構成の変化により欠乏症をおこしたばあい、骨粗鬆症などの発症原因になるといわれている。

ビオチンは様々な薬物相互作用があり、処方されている内服薬との関係を調査しなければならない。飲食物との相互作用もあり、喫煙、副流煙による受動喫煙はビオチンの効力をなくしてしまうことや、飲酒はビオチンを多量に消費してしまうので避けるべきである。その他にも乳製品の偏った食べ過ぎや生卵白などは効力を減弱させてしまう。他にステロイドの内服はビオチン欠乏症を増悪させてしまい、使用していると、改善、治癒(緩解寛解状態ではない)できなくなってしまうので、外用薬として使用することが望ましい。

ビオチン欠乏により発症する病[編集]

ビオチン欠乏による発症機序は、脾臓細胞の免疫システム活性(免疫グロブリンAGなど)がそれぞれ異常値になり発症するもの[4]、免疫機能の低下により病気に対する抵抗が弱くなり、2次的に発症するもの(易感染性など)、グリセミックインデックス(GI値)の高い食品を食べ続けたことにより、インスリン抵抗性が増加し、グルコースを血管内から細胞内にとりこめなくなることで、発症するもの。  そのほかにも、免疫グロブリンEが持っている特異なレアギン活性によるものが知られている。ビオチン欠乏症の患者は、健常者に比べインスリンの生合成も少ない[5]。ビオチンはピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素であるため、欠乏すると乳酸アシドーシスなどの障害も起きる。

皮膚疾患とビオチン[編集]

ビオチンは、抗炎症物質を生成する事によってアレルギー症状を緩和する作用がある。また、ビオチンはタンパク質の生成にも関係し、皮膚を作る細胞を活性化させ、老廃物の排泄を促し、皮膚の機能を正常に保つ働きもある。皮膚疾患で代表的なアトピー性皮膚炎掌蹠膿疱症の治療にもビオチンが使われることがある。ビオチンにはコラーゲンセラミド(細胞間脂質)などの生合成を高める働きがあり、骨などに炎症や変形をともなう病気の治癒を促す。

糖尿病とビオチン[編集]

ビオチン欠乏症は、リュウマチ、シェーグレン症候群、クローン病など膠原病群の免疫不全症だけではなく、1型及び2型の糖尿病にも関与している。ビオチン欠乏が進むと、インスリン分泌能がきわめて低下する[5]。ビオチンの投与によりインスリン抵抗性が低下することや、粘膜部位の炎症、皮膚疾患、血糖値が改善することが知られている。

脚注[編集]

  1. ^ Merck Index, 11th Edition, 1244.
  2. ^ ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症 - 東北大学病院 東北大学大学院 医学系研究科遺伝病学分野
  3. ^ 乳酸菌 Lactbacillus plantarum ATCC8014 などはビオチンを食べて繁殖する、そのためビオチンの濃度検査にも使用されている。
  4. ^ Báez-Saldaña A, Díaz G, Espinoza B, Ortega E (1998). “Biotin deficiency induces changes in subpopulations of spleen lymphocytes in mice.”. Am J Clin Nutr. 67 (3): 431-7.  PMID 9497186
  5. ^ a b Sone H, Ito M, Sugiyama K, Ohneda M, Maebashi M, Furukawa Y (1999). “Biotin enhances glucose-stimulated insulin secretion in the isolated perfused pancreas of the rat.”. J Nutr Biochem. 10 (4): 237-43.  PMID 15539296

参考文献[編集]

  • Atamna H, Newberry J, Erlitzki R, Schultz CS, Ames BN (2007). “Biotin deficiency inhibits heme synthesis and impairs mitochondria in human lung fibroblasts”. J Nutr. 137 (1): 25-10.  PMID 17182796
  • 柴田克己 他 『日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する基礎的研究』 平成16-18年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業) PDF
  • 渡辺敏明 『In vitro におけるビオチンのマウス胎児の口蓋突起発育に及ぼす影響』 1993年 微量栄養素研究会 第11回微量栄養素研究会シンポジウム PDF
  • 渡辺敏明・福井徹 『糖尿病精密検査該当者における血清ビオチンと血糖との関連についての検討』 1995年 第12回 微量栄養素研究会シンポジウム PDF
  • 前橋賢 『免疫異常症としての掌蹠膿疱症性骨関節炎とビオチン欠乏』1998年 第95回日本内科学会
  • 田上奏子 他 『札幌市における先天性代謝異常症 ハイリスク・スクーリング結果(1996~1999年度)』 2000年 札幌市衛生年報 27:32-37 PDF
  • 渡邊敏明 『ビオチンの生理機能と健康影響』2003年1月 ビタミン広報センター (ニュースレター) No. 106 PDF
  • 渡邊敏明 『ビオチンの役割と健康への影響』2004年10月 ビタミン広報センター (ニュースレター) No. 109 PDF
  • 曽根英行、渡邊敏明、古川勇次「ビオチンによるインスリン分泌修飾に関する研究」、『Trace Nutrients Research』第24巻、2007年、 163-170頁。 PDF
  • 『ビオチン欠乏状態の新規バイオマーカー -プロピオニルCoA カルボキシラーゼ-』 2007年3月 日本ビタミン学会 トピックス3号ビタミン81巻 PDF
  • Biotin - Linus Pauling Institute at Oregon State University (オレゴン州立大学・ライナスポーリング微量栄養素情報センター)
  • 柴田克己 『日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究』 平成16年度厚生労働科学研究費(循環器疾患等総合研究事業)
  • 早川享志 『ビタミンB2およびB6と生活習慣病』 岐阜大学応用生物科学部食品科学系 PDF
  • 柴田克己 他 平成17年度厚生労働科学研究費(循環器疾患等総合研究事業)日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究
    • 『日本人の母乳中の水溶性ビタミン含量についての検討』 PDF
    • 『ビタミンと健康』 PDF
    • 『ビオチンの大量摂取がラットに与える影響』 PDF
    • 『ビオチン欠乏状態における 3-hydroxyisovaleric acid の新規な指標としての有用性についての検討』 PDF
    • 『日本人におけるビオチン摂取量の推定についての検討』 PDF
  • 柴田克己 他 『水溶性ビオチンの食事摂取基準の妥当性の検討-ビオチン-』 厚生労働科学研究費(効果的医療技術の確立推進臨床研究事業)日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 PDF
  • 柴田克己 他 『健常成人女性におけるビオチンの吸収と排泄についての検討』 平成18 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究 PDF
  • 永井良子、福井徹、榎原周平、渡邊敏明「ビオチンサプリメントの過剰摂取による胎児発育への影響」、『Trace Nutrients Research』第25巻、2008年、 85-90頁。 PDF

関連項目[編集]

外部リンク[編集]