キャパシター・ディスチャージド・イグニッション

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小型オートバイ用のCDIモジュール

キャパシター・ディスチャージド・イグニッション(: Capacitor discharge ignition) とは、コンデンサを利用した電子制御式点火装置である。一般的には「CDI」(Capacitor Discharge Ignition)というアクロニムで略されることが多いため、以降はCDIと表記する。

概要

CDIはイグニッションコイルへの一次電圧を供給する原理に、高容量コンデンサ(キャパシタ)による放電(ディスチャージ)を利用する。昇圧回路によってバッテリー電圧より高い電圧をコンデンサにかけて蓄電し、パルシングローターなどで検出された点火時期の間はサイリスタによって回路を制御してコンデンサへの充電を止めて放電する。一次電圧により高い電圧をかけることで、一次側のインダクタンスを低くしながら十分な二次電圧を得ることができ、効率が改善する。CDIには高度に電子制御された進角装置も後に内蔵され、こうした高性能CDIの開発により、インダクティブ・イグニション・システムは1万回転を超える高回転エンジン[1]にも対応できるようになった。CDIが点火のために格納できるエネルギー量は使用されるコンデンサの電圧と容量に依存しているが、通常は約50mJ程度とされる[要出典]

一般的にCDIは下記の2種類の形式に分類される。

  • AC-CDI - AC-CDIモジュールはマグネトーオルタネーターによって発電された交流電流から直接駆動電源を入手する最も基本的なCDIシステムである。AC-CDIは原理的にはコンタクトブレーカーを用いたマグネトー点火装置とほぼ同一であり、機械式の接点であるコンタクトブレーカー搭載車を容易に電子制御式に転換できるために、原動機付自転車クラスの小型エンジンで広く使用される。日本においてはそれ以前に普及していたコンタクトブレーカー搭載車種と共に「マグネトー[2]」と呼ばれることもある。この形式は点火電圧を全てオルタネーターに依存するため、バッテリー容量が無い状態でも始動が可能である。
  • DC-CDI - DC-CDIモジュールは直流電源(バッテリー)によって駆動されるCDIである。回路としてはAC-CDIにDC/ACインバータ及び12V DC電源を400-600V程度まで昇圧するための変圧器も含まれるために、筐体はAC-CDIよりもやや大型になる。AC-CDIと比較してより正確な点火時期制御が可能であり、冷間始動性も良好となる傾向がある。

CDIは主にオートバイで広く使用されるほか、草刈機やチェーンソー、小型の汎用エンジン、レシプロ機関の航空機、およびいくつかの自動車で使用される。自動車で使用されるほとんどの点火装置が、インダクティブ・イグニション・システム[3]である。

歴史

CDIは1950年代に他の様々な形式の電子制御式点火装置の研究開発の中で開発された。CDIによる点火装置を世界で最初に採用したオートバイは、1969年のカワサキ・マッハであった。

1960年代の終わりまでには、米国政府は自国で販売される内燃機関に厳しい排ガス規制を課した。その結果、ますます多くの電子制御式点火装置が開発され、1970年代からはCDIはホンダ・カブなども含めたほぼ全ての小型エンジンにおいて、従来のコンタクトブレーカーを置き換えるためにCDIが採用された。

CDIのその他の役割

オートバイの純正CDIには回転/スピードリミッターが設けられていることが多い。このため、原付車両の改造に耽る一部の間では、CDIを速度リミッター装置やECUだと誤解している向きも少なくない。[4]

自動車における社外CDI

永井電子和光テクニカルなどの点火装置メーカーは、自動車向けの後付けCDIを独自に販売していることがある。これは主にポイント式やセミトラ式ディストリビューターなどを用いた旧車の点火装置強化のために用いられるもので、配電機能は純正ディストリビューター[5]、コンデンサへの電流断続機能は純正イグナイターに分担させることにより、従来の点火システムを大きく変更することなく点火装置全体の性能強化と信頼性向上が行える。

機能を電圧増幅機能と放電機能に絞り込んでいる分、通常のCDIよりも遙かに大きなコンデンサや、複雑な点火アルゴリズムを持った点火回路を備えていることが多く、イグニッションコイルもそのCDI専用の強力な物が用いられることが多い。

社外CDIを販売するメーカーが設定している高級な同時点火式CDIになると、ディストリビューターをカム角検出機構のみを残して除去してしまい、CDI本体が配電を行うシステムを構築することが出来る。

脚注

  1. ^ 主にオートバイ・レーシングカー用多気筒エンジンやロータリーエンジンなどである。
  2. ^ 通常、オートバイの場合クランクシャフトに取り付けられたフライホイールにマグネトーを装備することが多いので、「フライホイールマグネトー式(フラマグ式)」と呼ばれることが多い。マグネトー式の中にはホンダ・CT110などのようにマグネトーをカムシャフト側に取り付けてあるものもある。
  3. ^ インダクティブ・イグニション・システムは、イグニッションコイルへの電流がディストリビューターなどに内蔵されたコンタクトポイント(断続器)で開閉される時に電圧を増幅し、スパークプラグへの高電圧の電気を発生させる。
  4. ^ 社外パーツメーカーも、主に速度リミッター解除を目的に謳い、社外CDIを販売していることが多い。
  5. ^ ポイント・セミトラ式の場合は電圧増幅に使用する内部接点を除去し、配電機能のみ受け持たせる。

関連項目

参考資料