ホワイトカラーエグゼンプション

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ホワイトカラーエグゼンプション(またはホワイトカラーイグゼンプション: white collar exemptionホワイトカラー労働時間規制適用免除制度)とは、いわゆるホワイトカラー労働者(主に事務に従事する人々を指す職種・労働層)に対する労働法上の規制を緩和・適用免除すること、またはその制度である。

各国の労働法制において、労働時間の規制がなされていることを前提としてその規制の適用を免除し、または例外を認めることで、労働時間の規制を緩和することをいう。狭義には労働時間そのものに関する規制についての緩和を指すものであるが、労働時間規制に付随する規制として、労働時間に応じた賃金の支払いの強制や、一定の時間を超えた超過時間についての割増賃金の適用義務化などが設定されていることから、広義にはこれらの適用の免除についても本制度の範疇として理解される。

exception例外)との混同か「エクセプション」と書かれる場合もあるが誤りである。

概要

「一律に時間で成果を評価することが適当でない労働者の勤務時間を自由にし、有能な人材の能力や時間を有効活用する」ことを趣旨とする、日本では未導入の制度。

本制度の適用を選んだ労働者はその使用者との間で合意した一定の成果を達成する前提で、勤務時間を自己の責任において自由に決められるようになる。通常の定時勤務にとらわれない反面、勤務時間に基づかないため休日出勤等の時間外労働を行った場合の補償はされない(ただし休日については週休2日相当の日数が確保される)。

類似制度に裁量労働制があるが、裁量労働制はあくまでも「みなし労働時間」制であり、労働時間規制を除外するものではない。

各国の制度

労働政策研究・研修機構の調査研究[1]によると、アメリカ合衆国ドイツイギリスフランスの「労働時間制度の適用除外制度」の概要は以下のとおり。

アメリカ合衆国

米国は公正労働基準法(FLSA)によって残業手当最低賃金児童労働などを規定しているが[2]、同法にはこれらの条項の適用除外規定がある[3]。ホワイトカラーだけでなく、小規模農場の労働者などもいくつかの労働規定から除外される。

労働時間に関する規制としては週40時間以上の時間外労働に対し50パーセント割増した賃金の支払義務のみを課している[4]。この割増賃金支払義務からの適用除外要件としては、「ホワイトカラー要件」「俸給要件」「職務要件」の3つの要件を満たすことが必要とされ、職務要件としては、部下が存在する管理職、自由裁量が大きい運営業務、または、高度な専門職であることなどが要件として挙げられている。教師や法律業務・診察業務開設のライセンスを有する者は俸給の額を問わず原則として適用除外対象者となる。俸給要件と職務要件には一部連動があり、週給455ドル相当以上の賃金を受けている場合には、以下の各要件を満たした場合に適用除外対象者となるが、年間賃金総額が10万ドル以上の場合には緩和された要件を満たせば適用除外対象者となる。

ホワイトカラー要件

腕力・身体的技能及び能力を用いて、主として反復的労働に従事する労働者でないこと。

俸給要件

原則、週給455ドル以上の固定額の支払いがなされること

職務要件
  • 管理職エグゼンプトの場合、以下全てを満たすこと
  1. 主たる職務が、勤務先企業ないしはその部門の管理(指揮命令・従業員管理など)にあること[5]
  2. 常勤従業員2人分に相当する以上の従業員の労働を人事権を含んで指揮管理[6]していること[5]
  3. 他の従業員を採用解雇する権限があるか、その提案勧告に特別な比重が置かれていること[5]
  4. 通常的に、自由裁量権限[7]を行使していること[5]
  5. 上の1~4の業務に直接関係しない活動に従事する時間が、週労働時間の20%以内であること[5]
  6. 週給155ドル以上(これには食事・宿舎などの福利厚生を含めない)[5]
  • 運営職の場合
  1. 主たる職務が勤務先企業または顧客の財務、経理、監査、品質管理、調達、宣伝、販売、人事管理、福利厚生、法務、コンピュータネットワーク、データベース運営その他の管理等のオフィス・非肉体的業務であること
  2. 主たる職務に、重要事項に関する自由裁量・独立した判断を含むこと

の2つをいずれも満たすか、あるいは年間賃金総額が10万ドル以上で上記いずれか1つを満たすことが必要

  • 専門職の場合
    • 法学・医学・経理学・保険統計学・工学・建築学・物理化学生物関連学などの長期専門的知識教育による高度な知識を必要とする労働であること
    • 音楽・文筆・演劇・グラフィックアートなどの芸術的創作的能力を要する分野で、発明力・想像力・独創性または才能が要求される労働であること
    • ハードウェア・ソフトウェア又はシステムの機能仕様決定、設計・開発・テスト・修正、マシン・オペレーティングシステム関連システムの設計・テストなどが主たる職務であること

のいずれかを満たす場合。

アメリカ合衆国労働省のガイドラインによれば、同制度を適用するには専門的な教育を受けたという事実などの客観的な根拠が求められ、その要件を満たさないと労働関連の裁判で極めて不利となる。専門的な教育の例としては、管理職だと経営学修士、経理専門職では公認会計士、法務部門の管理職では州弁護士資格などが挙げられる。その他、専門職の場合も、職歴か類する教育を受けたという証明が必要とされる。

イギリス

適用除外要件は細かくは規定されていないが、基本的に自由裁量権があり、幹部クラス・高度な専門職である事が要求されている。適用除外労働者であっても法定労働時間に関する規制は適用される[8]

ドイツ

ドイツでは労働時間法ドイツ語版にて規定されている[9]。同法には時間外労働への割増賃金制度はなく、代わりにある期間内で調整して結果的に一日8時間労働が成り立てばよいとしている[10]

同法の適用から除外される職員について、一部を以下に挙げる。

  • 医師長[11]
  • 公共部門において独立の人事権を有する部門長[11]
  • 法定の管理的職員[11]
    • 要件は「事業所又はその部門に雇用されている労働者を、自己の判断で採用及び解雇する権限を有する者」「包括代理権又は業務代理権を有する者」「企業若しくは事業所の存続と発展にとって重要であり、かつ、その職務の遂行に特別の経験と知識を必要とするような職務を通常行い、かつ指揮命令に拘束されない者」である[11]
    • 該当するか疑問が残る場合、社会保険料の算定基礎となる平均報酬額の3倍を超える額の年俸制を通常支給されている者(2002年度年収では西側で8万4420ユーロ、東側で7万560ユーロ以上が該当) [12]
    • 該当者は全労働者の2%(約40万人)であるという[12]

日本

背景

労働基準法が作られた終戦直後は日本の就業人口のほとんどが第1次産業第2次産業に従事していた。それが高度成長期を経て、経済が成熟するとともに徐々に第3次産業の比率が高まり、現在では全就業者の約半数が第3次産業に従事している。このように産業構造が大きく変化するなかで、ホワイトカラー労働者のなかに事務的労働ではなく成果のみを求められる新しい労働者が現れ始めた。IT環境の整備が整うにつれ、職場に縛られない働き方も可能になってきており、こうした現実に対応した新しい労働時間法制のニーズが生まれた。

日経連(当時、現日本経団連)は1995年に「新時代の『日本的経営』」という報告書において将来的な雇用関係のあり方について提案した。「ホワイトカラー」はその働き方に裁量性が高く、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない部分があるとしており、このため労働時間に対して賃金を支払うのではなく、成果に対して賃金を支払う仕組みが必要というのが提案の要旨である。

この提案には様々な団体や個人が反対を表明しており、「労働時間の長時間化、サービス残業の合法化を招き、特に中小零細企業での悪用が懸念される」といった趣旨の主張をしている。

過重労働やサービス残業に対する行政の監督強化に反対し、規制緩和をいっそう推し進めたいという財界側の意向もあると言われている[13]

2006年6月に発行された日米投資イニシアチブ報告書[14]には、アメリカ合衆国政府が世界的に進めるグローバル資本主義導入の一環として日本国政府に対し「労働者の能力育成の観点から、管理、経営業務に就く従業員に関し、労働基準法による現在の労働時間制度の代わりにホワイトカラーエグゼンプション制度を導入するよう要請した」と記載されており、アメリカ合衆国からの要請という側面も持つ。

経緯

日本においては2005年6月に経団連が提言を行い、以降厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会において「労働時間法制のあり方」の課題のひとつとして導入が検討された。

2006年第1次安倍内閣において、小泉政権で労働市場の規制緩和を主導した竹中平蔵が更なる規制緩和策を提言。竹中の提言を元に安倍内閣は労働ビッグバンを提唱、その一環として議論され、12月27日に本制度を盛り込んだ法案要綱が初めて審議会に諮問された。当時の厚生労働省発表では適用対象者の範囲が具体的に示されず、基準年収額も「相当程度高い」とするのみで明確でなかった。このような経団連の提言に沿った安倍政権の政策に対し、労働者層を支持基盤にする民主党日本共産党社会民主党も非難し、残業代不払いの合法化を恐れた全労連連合全労協などの労働団体も反対運動をおこした。こうした動きを受けて、与党内では2007年4月の統一地方選挙や同年7月の参議院議員通常選挙への影響を懸念し、2007年の国会への提出を先送りするべきとの意見が出るようになった[要出典]

2007年1月11日厚生労働省は対象者の範囲を「年収900万円以上」「企画立案研究調査分析の5業務に限る」として基準を明確にしたが、与党は結局、同国会での法案可決を断念した。2007年1月に審議会に提出された「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」の中に「自己管理型労働制」という名称で盛り込まれたが、国会には提出されておらず、制度として導入されていない。[要出典]同年9月11日の記者会見では、厚生労働大臣(当時)の舛添要一がホワイトカラーエグゼンプションの呼称を「家庭だんらん法」という呼称に言い換えるよう指示したホワイトカラー・エグゼンプション 家庭だんらん法に 厚労相、言い換え指示

第2次安倍内閣において、一部の企業に特例的に認める方向で検討している[15]2014年4月末に産業競争力会議民間議員長谷川閑史経済同友会代表幹事(武田薬品工業 社長)が一般社員も対象にした残業代ゼロ制度に、連合から「労働者を更なる長時間労働に追い込む」批判が続出し、長谷川閑史代表幹事は、高度な専門職と研究開発部門などで働く管理職手前の幹部候補に狭める修正案を5月末に示した。残業代ゼロの対象を年収1000万円超で甘利明経済再生担当大臣田村憲久厚生労働大臣,菅義偉官房長官らが2014年5月11日官邸で協議し、合意。政府、成長戦略明記し、2015年の通常国会に関連法改正案の提出を目指す。具体的な年収、職種は厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で詰める。年収1000万円超の給与所得者は約172万人で全体の約3,8%(管理職を含む)。経団連会長の榊原定征東レ会長は「少なくとも全労働者の10%は適用を受けるような対象職種を広げた制度にしてほしい。」と述べ、派遣労働者の範囲が当初13だったが次々と拡大され全労働者に占める割合は36,6%(2013年平均)になったように残業代ゼロ制度も一度導入すれば際限無く対象が拡大する懸念がある[16]。)

個々人の職務をジョブディスクリプション(職務内容記述書)で詳細に規定する場合は各人の成果を評価しやすいが、チームワークでの業務処理を基本とする環境では役割分担が必ずしも明確でない場合があり、個人の成果を定量的に評価するのは困難である[17]

榊原定征経団連会長の「少なくとも全労働者の10%は適用を受けるような対象職種を広げた制度にしてほしい。」で正社員ではなく全労働者の10%としているのは、非正規が全労働者の38%で非正規で年収1000万円以上は皆無だから、全労働者の上位10%とは正社員の上位16%であり、総務省の「平成24年就業構造基本調査」によると正社員で年収700万円超が上位14%だから、正社員の上位16%とは年収600万円台後半までの正社員を残業代0にするのが経団連の要望[18]

法案の全体像が比較的明らかでない段階からマスコミは本制度の導入が検討されていることを報道した。その結果、労働者の不安が増幅した。

2015年、厚生労働省の労働政策審議会の分科会は報告書として高度プロフェッショナル制度として労基法改正案「残業代ゼロ」復活。似た制度に裁量労働制があるが、時間をベースに一定の賃金を保障する点、深夜・休日の割増賃金が加算される点がホワイトカラーエグゼンプションと違う。割増賃金の支払い義務が経営者側に無くなると過剰な業務を労働者に課す不安があるので報告書は、在社時間などを踏まえた「健康管理時間」の上限設定、仕事を終えて次に働くまでに休息時間を取る「勤務時間インターバル」導入、年104日以上の休日取得の3つの対策を示しているが、経営側は1つだけ採用すればよく、休日を確保しないケースや長時間労働を放置する状況が生まれる懸念があり、日本労働弁護団常任幹事の棗一郎弁護士は、この制度が成立すれば、「労災過労死認定基準である毎月80時間以上の時間外労働をして亡くなっても、会社の責任が問えなくなる可能性もある。法定労働時間制は岩盤規制でなく世界標準のルール。それをなぜ壊さなければいけないのか。」関西大学森岡孝二名誉教授(企業社会論)は「日本では年次有給休暇取得率が低く、退職直前に未消化分をまとめて休んでいる。育児休暇や介護休暇を取ったら昇進と引き換えという空気がある。」経済ジャーナリストの荻原博子氏は「いま求められているのは、賃金を上げて消費を促す政策。ホワイトカラーエグゼンプションは賃金増を打ち止めにする。税収も減っていくだろう。」少子化対策にも逆行するとして東京都世田谷区の保坂展人区長は、「残業代ゼロは成果主義の名のもとに賃金カットと長時間労働を固定化することにつながり、出生数を押し下げる。目指すべきは残業代ゼロではなく、(育児をかかえる女性や介護をかかえる働き盛りが社会進出できる)残業(時間)ゼロの環境ではなかいか。」などの反対意見がある[19]

制度に対する一般の反応
概要 詳細
制度に反対

厚生労働省の旧労働省職員による労組「全労働省労働組合」は2006年12月13日、組合員(労働基準監督官の95%がこの労組の組合員である)に実施したアンケート調査の結果を発表した。それによると有効回答数は1319人で組合員の80%に当たり、そのうちこの制度に反対する意見は60%、賛成17.9%、どちらとも言えない21.8%であった(毎日新聞2006年12月14日 3面)。この記事では組合員の意見として「残業代ばかりか命まで奪う、過労死促進法だ。しかも、過労死でも労災認定を取ることすら難しくなる」というものが紹介されている。 他の一般人向けアンケートにおいても、制度への反対意見が賛成意見を上回り、TV局が行ったアンケートでは複数の民放局のアンケートで反対が70%前後、NHKが行ったアンケートにおいても反対が44%(賛成は14%)という結果が出ている。産経新聞が同社のウェブサイト上で行ったアンケートでは導入反対意見が94%に達した[20]

少子化対策に悪影響 厚生労働省の少子化問題を担当している部署内において、本制度導入による長時間労働促進のために(除外対象となった会社員が)家庭で過ごせる時間が減ってしまうという反対意見があった[21][リンク切れ]

日本経団連の提言内容

日本経団連は2005年6月21日、以下のホワイトカラーエグゼンプション制度を提案した[22]

項目 内容
適用対象者
(年収条件は例示)
  • 現行の専門業務型裁量労働制の対象業務従事者(賃金要件を問わない)*法令で定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者
  • 労使委員会の決議により定めた業務で、月給制か年俸制、年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者
  • 労使協定により定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が700万円か全労働者の給与所得上位20%以上の者
除外内容 労働時間・休憩・休日・深夜業の規制からの除外
届出義務 労使合意により対象業務とされた場合には、所轄の労働基準監督署に届出が必要
賃金控除 遅刻・早退・休憩時間に関する賃金控除は行わない。欠勤は賃金控除の対象
健康管理 企業の業種・業務・職種内容に応じ、産業医の活用方法・取り組みなどを自主的に労使で決定
規定方法 労働基準法第41条(労働時間規制の適用除外)に追加

厚生労働省での審議

2006年6月13日に開催された厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会の会議には「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」と題する資料[23]が提出された。その中では「自律的労働にふさわしい制度の創設」としてホワイトカラーエグゼンプション制度の創設について触れられた。同年11月10日には「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点(素案)」と題する資料[24]が提出され、「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」としてホワイトカラーエグゼンプション制度に関する論点がまとめられている。

同会議には、同年9月29日には「ホワイトカラー労働者の働き方について」と題する調査資料[25]が、10月5日には「労働時間について」と題する調査資料[26]がそれぞれ提出された。

2007年1月25日、厚生労働省は労働政策審議会労働条件分科会に「ホワイトカラー・エグゼンプション」を盛り込んだ労働法改正案と労働契約法の法案要綱を諮問した。労働者委員からは「削除すべき」との意見や使用者委員からは「議論が尽くされていない」などの意見が出された。2月2日、労働政策審議会は「ホワイトカラー・エグゼンプション」などを盛り込んだ労働基準法改定案と労働契約法の法案要綱を了承する答申を出した。

2007年1月の厚生労働省案調整内容
項目 内容
制度導入に際して事業所に課される条件 各事業所において労使委員会を設置し、以下の各事項について5分の4以上の賛成多数による決議を要する
  • 対象者の範囲
  • 賃金の決定、計算および支払方法
  • 週休2日以上の休日の確保およびあらかじめ休日を特定すること
  • 労働時間の把握およびそれに応じた健康・福祉確保措置の実施(注:「週当たり四十時間を超える在社時間等がおおむね月八十時間程度を超えた対象労働者から申し出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することを指針において定めることとする。)
  • 苦情処理措置の実施
  • 対象労働者の同意を得ること、および不同意に対する不利益取扱いをしないこと
  • その他、厚生労働省で定める事項
適用対象者
  • 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者(「企画、立案、研究、調査、分析」の5業務に限定)
  • 業務上の重要な権限および責任を相当程度伴う地位にある者
  • 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしない者
  • 年収が相当程度高い者(年収900万円以上)
罰則 制度の適正な運営が確保されない場合、行政は使用者に改善命令を出すことができる。命令に従わなかった場合には罰則を付すことができる。

以上、厚生労働省労働政策審議会「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」より。

導入を肯定する意見

多国籍企業の競争が激化するグローバル資本主義化が進む未来において、国際競争力を維持する一助となる。具体的には、達成すべき成果をもとに時間という概念を考えないで人員配置などの経営計画をたてやすくなる。 労働政策審議会に提出された資料[27]では使用者側からのものとして、

  • 広い裁量が認められるホワイトカラーは、労働時間が長いことではなく成果による評価・処遇を行うべき
  • 労働者間の公平・意欲創出・生産性向上・企業の国際競争力の確保という効果がある

といった意見が紹介されている。

労働者のメリットとしては「時間・場所に囚われず自分のペースで仕事ができる」「趣味や勉強や家族と過ごす時間などを柔軟にやりくりできる」「成果を早期に達成すれば自由時間が増える」などが考えられる。

2007年の第1回経済財政諮問会議にて、伊藤忠商事取締役会長である丹羽宇一郎がスキル向上のために残業代なしで土日も出社したいという若い人が沢山居るが、ホワイトカラーエグゼンプション制度がないために出社許可が出せないという旨の発言をしている(議事録(PDF))。なお、上記発言と同時に、この法制度導入による過労死を防ぐため、内部告発制度や禁固刑を含む罰則をつくる必要性を提唱している。 ただし、仕事を覚えたい若い人がホワイトカラーエグゼプション対象の年収900万円以上である可能性はほとんどなく、このような使い方はできない[要出典]

導入を不要とする意見

労働政策審議会の資料[27]において、

という点が導入を不要とする意見として取り上げられた。

ただし前者に関する反論としては日本経団連の提言の概要[28]において、

  • フレックスタイムは柔軟な運用が1か月の範囲内に限られる。
  • 変形労働時間制は労働者側の裁量で労働時間を弾力的に運用できる制度ではない。
  • 裁量労働制は対象業務の範囲が限られており、導入の要件が厳格に過ぎる。あくまでみなし労働時間制であり、労働時間そのものの制限適用除外ではない。

という点が指摘されている。

後者については、2007年2月労働政策審議会において了承された法案要綱によれば労働者が制度の適用・不適用を選べる内容になっている。

懸念事項

日本経団連の提案では労働時間という基準をなくした中で、給与はどう支払われるべきかといった点について法案化を含めた具体的な対策が示されていない。超過労働への対処策については基本的に個々の企業の問題としている。そのため、短時間で成果を上げた労働者に賃金はそのままで次々に仕事を与えるだけ(労働強化)ではないか、無賃金残業を合法化しようとするだけ(労働時間強化)ではないか、労働者の健康管理コストを削減したいだけではないかといった非難が当制度に反対する人々からなされている。以下にそれらの代表的見解を挙げる。

論点 詳細
サービス残業の合法化、
長時間労働の常態化
これまでは時間外労働に対して「割増賃金を支払う義務」が存在しており、形骸化されているとはいえ「時間外・休日労働に関する協定(三六協定)」の存在もあったことから、労働時間が過剰に増えることに対する一定の歯止めがあったが、ホワイトカラーエグゼンプションの導入が実現すると、それらの歯止めが無くなる。

過労死弁護団全国連絡会議によれば、ホワイトカラーエグゼンプションを導入しているアメリカ合衆国では同制度の適用を受ける労働者のほうが労働時間が長くなる傾向にあるという[29]。 経団連の提言では、仕事と賃金の関係についても具体的な規定を想定していないので、企業によっては仕事を増やすだけ増やして賃金は増やさない、処理しきれなかった仕事の分は減給という事にもなりかねない。「欠勤は減給とする」という提案とあわせると、休日労働の常態化の危険も指摘される(欠勤と休日労働)[要出典]

労働者の健康管理 ホワイトカラーエグゼンプションにより労働時間は経営者の管理対象から外れるので、万が一従業員が過労死した場合も、従業員の自己責任で片付けられる可能性が出てくる(奥谷禮子などすでにそう公言している経営者も多い。奥谷の発言は「06/10/24 労働政策審議会労働条件分科会 第66回(議事録)」。労災にも問われなくなるので労災保険料が抑制でき(逆に労災を出すと保険料が上がる、100%会社負担の保険料)、過労死裁判などで従業員の遺族に多額の賠償金を支払うという可能性も減少する。

日本経団連では労働者の最大拘束時間を定めたり、一定時間勤務したものに休暇を付与したり、一定期間毎の健康診断を行ったりといった対策を提言しているが、いずれも労使で「自主的に取り決めるべき」としており、経営体力の弱い零細・中小企業等でこれらの規定を隠れ蓑として悪用される可能性もある。もっとも、大企業でもこれが悪用される可能性も捨てきれず、これらの含みを持たせるため「あくまで個別の会社(と組合)の問題」とし制度自体に盛り込まないようにしているともみられる。 これらの懸念に対して、厚労省は2006年11月に示した修正案で「週休二日以上の確保の義務付け」と「適正に運営しない企業に罰則を科す」旨を盛り込んでいる[リンク切れ]。しかし、草案に反対する論者からは現在でも「出勤簿には有給休暇や代休と記載したが、実際は残務処理のため出勤している」という状況が散見されており、まだまだ対策が不十分であるとの指摘がなされている。現状でもサービス残業・激務による鬱などの精神疾患・過労死などが横行しているのに、更に経営者によって恣意的に用いられかねない制度は導入すべきでない、そもそも経営者の管理能力と信頼性・法令順守意識が足りていないから現状ですら問題があるのに、制度導入でそれらが更に増幅されかねないという指摘もされている。一方で、週休2日を強いるなら、現在の週1日の休日で良い労働基準法より厳しい規制になり、規制緩和の意味が薄れるとの非難もある。 上節の「誰が残業をするのか」と同様に従業員いじめのツールとして悪用される可能性がある。経営側がその意にそぐわない従業員に対して、過重労働を強いて退職・休職に追い込むケースや、最悪の場合死亡したとしても「過労で倒れた」事にして片付けてしまうケースなどが具体例と考えられる。この場合は、経営側の責任を問えなくなってしまう可能性が高く、「過労死しました。自己責任です」の一言で全て片付けることが可能になってしまうとの主張もある。しかし、会社側に健康配慮義務を課すことも考えられ、必ずしもそうなるとはいえない。

適用除外対象者
の将来的な拡大
経団連の提言では「労使委員会の決議で定めた業務で、かつ年収400万円以上」となっていたが、厚生労働省が2006年末にまとめた最終報告書では、新たに対象労働者は管理監督者の一歩手前に位置する者」とし、年収要件を、「管理監督者一般の平均的な年収水準を勘案しつつ、労働者の保護に欠けないよう、適切な水準を定める」としている。

しかしながら、反対論者を中心に「一度導入したら、少しずつなし崩し的に適用除外水準が緩和されていき、最終的にはほとんどの労働者が対象になるのではないか」との危惧が多い。asahi.comのbeモニターを対象としたアンケートでは、「いずれ対象が広がるからホワイトカラーエグゼンプション制度に反対」という回答が30%に達している[30][リンク切れ]。実際、労働者派遣法では当初は厳格な基準が定められていたが、なし崩し的な基準の緩和により、現在では一部の例外を除いて事実上派遣が自由化されてしまったという歴史がある。 先述の丹羽宇一郎の発言のように、年収・職位面で本来は適用除外要件を満たさない「若手」の労働者にまで適用除外範囲を広げたい、という意図が推進側に存在している。ただし、米国の制度でも、対象者はホワイトカラーの2割程度と言われており、拡大はありえても、全員が対象になるというのは大げさであろう。

その他の問題点

論点 詳細
雇用者側の意見不統一 ホワイトカラーエグゼンプション制度に関しては雇用者側でも意見が分かれていて統一的な見解が出されていないのが現状である。各種経済団体においては、日本経団連は導入に全面賛成しているものの、経済同友会は「仕事の質・量やスケジュール(納期)にまで裁量のある労働者は多くなく、仕事の質や種類によって労働時間は決定されるべきであるため、まずは現行の裁量労働制の制度の活用を更に推進して仕事の進め方の改革を進める方が先」と今回の制度導入には反対の立場をとっている(参考)。

日本商工会議所は労働時間規制の強化そのものに反対であり、当制度に関しては「中小企業の実態に即した制度を望む」という立場である。中小企業の実態に即すると言うのは、同報告書によると「管理監督者の範囲は実態に即して決めるべきで、範囲を狭めてはならない」とのことのようである(付属資料17ページ)。個人的な見解を発表している経営者でもワコール社長の塚本能交のように「そもそも時間内に仕事を行うことが評価されず評価も出来ない日本の労働環境下では、導入しても過重労働を招いて生産性の低下を招くだけ」と反対している経営者もいる。

日本にはなじまない ホワイトカラーエグゼンプション制度は「日本にはなじまない」という主張がある。主張の要点は以下の通りである。
  • 日本人労働者は個人ではなくチームで仕事を行う傾向にあるため[31][リンク切れ]
  • ホワイトカラーエグゼンプションによって成果主義色がより強くなる事になるが、日本では成果主義の運用が上手く行っていないため、単なる賃下げで終わってしまう可能性が高い
  • 「自律的労働制度」の先駆けとも言えるフレックスタイム制が業務遂行上の問題多発などで失敗に終わっている事例が多く、そのような状況でホワイトカラーエグゼンプションを導入しても長時間労働につながるだけである(日本経団連会長の御手洗冨士夫が経営しているキヤノンでは一時期フレックスタイム制を導入していたが、御手洗の社長在任期間中に廃止している)。
議論が不十分 上項「導入を不要とする意見」において記載したが、労働政策審議会は内外の反対意見を押し切る形で報告書をまとめてしまっている。報告書をまとめるにあたり、労働者側だけでなく使用者側の反対意見まで押し切ってしまっている[32]。この事は象徴的な出来事であるが、「まず導入ありき」になっており、全体的に議論が不十分であるとの指摘が多い(一例)
メディア報道が不十分 ホワイトカラーエグゼンプションに関するニュースなどの報道や情報提供は、十分に行われているとは言いがたい状況である。各新聞や雑誌等の紙媒体メディアはそれでも、時折特集記事を掲載するなど、ある程度の報道量があったが、TVメディアにおいては2006年12月まではこの事についてほとんど報道がなされなかった。その結果、労働政策審議会が報告書をまとめる直前の時期であった2006年12月時点においても、連合が行ったアンケートによると、ホワイトカラーエグゼンプション法案について「全く知らない」という回答が73%にも達するという結果が出ている[33][リンク切れ]

フランス

適用除外要件は経営幹部職員[34]とみなされること[35]

関連文献・記事

脚注

  1. ^ 労働政策研究・研修機構 2005.
  2. ^ 労働政策研究・研修機構 2005, p. 25.
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参考文献

関連項目

外部リンク