労働基準監督官

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労働基準監督官(ろうどうきじゅんかんとくかん)とは、日本の労働関係法令に基づいて、あらゆる種類の事業場に立ち入り、労働基準法労働安全衛生法等を遵守させるとともに、労働条件の向上を図っていくことを任務とする厚生労働省の職員(国家公務員)である。 しかし、昨今の事務官採用制限から、全ての労働局の事務を監督官が事実上するものとされ、採用要項にも労災業務や、安全業務に配置されることとが前提となっており、監督官の中には、事務官と監督官の職域の区別が曖昧で、労働基準監督官採用試験の意味が薄れている指摘があり、実際それによる不満も退職者も多い。 ILO81号条約に規定される労働監督官にあたる。過去に「労働Gメン」という呼称も使用されたこともあるが、現在では使用されることはほとんどない。

労働基準監督官採用試験に合格した者のほか、一般職の職員の給与に関する法律別表第1の行政職俸給表(一)における「3級」以上の厚生労働事務官及び厚生労働技官が、労働基準監督官に任用される資格を有する。

労働基準監督官採用試験によらず労働基準監督官に任用された者は、いわば「例外的規定」によって任用された者である。 単に「労働基準監督官」とは、通常は厚生労働省が行う労働基準監督官採用試験に合格したのちに労働基準監督官として任用された者を指す。

  • 都道府県労働局長、労働基準監督署長等のポストは労働基準法により、労働基準監督官であることが要件となっている。労働基準監督官以外の者がこれらのポストに任用される場合は、「労働基準監督官」としての発令がなされる。
  • 都道府県労働局長は、本省の(多くはキャリア組)厚生労働事務官・厚生労働技官が就任する。


大規模局には「特別司法監督官(特司監)」と呼ばれる捜査専門の役職が設置されている労働局が存在する。 (労働基準監督官は司法警察権は持っているが、一般的な業務の大部分は行政事務であり、多くの業務は司法警察権を行使することなく、行政指導で完了する)[1]

概要[編集]

主に厚生労働省の各部局等・都道府県労働局・労働基準監督署に配置され労働基準関係法令に係る行政事務を行っているが、労働基準関係法令違反事件に対して特別司法警察職員司法警察員)として犯罪捜査被疑者逮捕を行う権限がある。

手錠捕縄・腰縄は携帯することができるが小型武器(拳銃などの小火器類)の携帯や使用は認められておらず[2]逮捕術の訓練も行われていない。また、使用する車両も緊急自動車の指定も受けていない。これは職務の性質上、これらの権限を行使する必要性がほとんど無いからであると考えられる[3]

労働基準監督官が取り扱う主な労働基準関係法令は、労働基準法労働安全衛生法最低賃金法などがある。

労働基準法第101条・労働安全衛生法第91条などにより、事前の予告なく事業場に立ち入ったり、関係者への質問、帳簿や書類その他の物件の検査などを行ったりすることができる(予告を行う立ち入りは、内規に違反しているので場合によっては処分されることがある)。事業場に立ち入るときは、特に通知する必要は無く、また、犯罪捜査が主体ではないことから、捜査令状の必要も無い [4](なお、特別司法警察職員として、家宅捜索逮捕の際は警察と同じく裁判所が発行する令状が必要である)。
また、立ち入りの際は労働基準法第101条第2項の規定により身分を示す証票を携行しなければならず、事業場等から身分を明らかにすることを求められたときはこれを提示するのが通例である。

サービス残業・賃金不払・労災隠しなどの悪質な事案に対しては積極的に家宅捜索を実施しているが、専用の拘置施設を持たず、警察等の他の捜査機関との捜査共助協定も締結していないため、被疑者を逮捕・勾留することは年間数件程度である[5]

全国の年間送検事件数は、特別司法警察職員の中では海上保安官の次に多い。平成24年の送検事件数は1,133件[6]

労働基準監督官の採用及び採用後の処遇について[編集]

労働基準監督官の採用試験は区分別になっており、労働基準監督官A(法文系)と労働基準監督官B(理工系)の2つに分かれる。ただし採用されてからの配置においては区分別はほとんど考慮されず、法文系の者は労働安全衛生に必須である理工系分野について、理工系の者は行政に必須である法文系分野について、それぞれの知識を実務及び研修の場において習得することが求められている。

採用後は独立行政法人労働政策研究・研修機構に属する労働大学校(埼玉県朝霞市)における研修が採用時、採用5年目、監督署課長就任時、監督署長就任時などに行われるほか、必要に応じて管区警察学校日本原子力研究開発機構自衛隊海上保安庁在日米軍施設などへ派遣されて必要な知識の習得を行う。

警察官のような厳密な服制に基づく制服類は無く、都道府県労働局(職業安定、雇用均等部門を除く)・労働基準監督署に配置された労働基準監督官・厚生労働事務官・厚生労働技官には作業服(春夏用は水色、秋冬用は紺色)が支給されているが着用の義務があるわけでもなく、制服という扱いではなく単に作業服の扱いである。

労働基準監督官が特別司法警察職員の権限を有する法律[編集]

労働基準監督署に配置された労働基準監督官の業務[編集]

労働基準監督署に配置された労働基準監督官は、主として定期監督、申告監督、災害時監督・災害調査、再監督、捜査、調査、集団指導などの業務を行っている。

定期監督とは、経済動向・労働災害発生状況・遵法状況などの分析結果から、1年間あるいは複数年間にわたる監督対象事業場のリストを作成して、計画的に事務所・工場・建設工事現場などを原則として予告なしに突然訪問し(場合によっては労働基準監督署への呼出もあるが、1947年の労働監督条約(第81号)上、問題がある)、労働基準関係法令の遵守状況を確認し、法令違反があった場合は是正勧告を行う。平成16年の定期監督の実施件数は122,793件(資料出所:労働基準法に基づく監督業務実施状況)。

申告監督とは、労働者からサービス残業解雇手続(解雇手続のみを扱い、解雇の理由については扱わない。労基法上の解雇制限(労災休業中の解雇、産前産後の休暇中の解雇)だけは取り扱うが理由は扱わない。)・賃金不払・労災隠しセクシャルハラスメントパワーハラスメントは対象ではない)などの労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの所管する法律の法違反のみに対する被害の救済を求める申告があった場合に行う。しかし、労働者などからの申告に必ず対応しないといけないという義務はないという判例があり、申告により対応するかどうかは担当官の判断となる。本来、労働者個別の権利救済は裁判所の役目であり、労働基準監督署は治安機関であるからである。また、労働者の家族など労働者以外からの申告は、法律上認められていない。平成16年の申告処理件数は43,423件(資料出所:労働基準法に基づく監督業務実施状況)。

災害時監督・災害調査とは、労働災害が発生した場合に行われ、災害原因の究明と再発防止指導を主として行うが、労働基準関係法令の遵守状況は災害の発生と強い関連があると思われる場合には確認し、法令違反があった場合は是正勧告を行う。

再監督とは、是正勧告した法令違反の是正状況を確認し、是正されていない場合でも刑事事件に切り替えられることは少ない。

なお、災害調査で災害と密接に関係がある重大・悪質な法令違反が認められた場合、告訴告発がなされた場合は、是正勧告を行わず(情況により行うこともある)、即時に刑事事件に切り替えられる。定期監督、申告監督、災害時監督で重大・悪質な法令違反が認められた場合は、是正勧告を行わず(情況により行うこともある)即時に刑事事件に切り替えられることもあるが、極めて稀である。そして、賃金未払の場合は、刑事事件へ切り替えられた後も支払うよう指導をすることも多い。

捜査では、刑事事件に切り替えられた事案を対象に、警察等の他の捜査機関と同様に、刑事訴訟法による捜査を行い、労働基準関係法令違反の被疑事件を検察庁送致送付する。

調査とは、未払賃金の立替払手続における確認・認定、関係法令に基づく許可・認可等の実地調査を行う。

集団指導とは、多数の事業場を一度に呼び出して、労働基準関係法令の遵守、労働災害発生の防止などについて説明する。

労働基準監督官が行う捜査[編集]

捜査に関する規定は特に存在せず、実務上は犯罪捜査規範国家公安委員会規則)を準用している。

賃金不払の捜査の流れ[編集]

  • 被害者(賃金を支払ってもらえない者)が労働基準法による労働者であることを確定する。
  • 支払う義務がある者、支払うべき金額、支払い方法、支払い場所、支払日などを確定する。
  • 実際に支払われていないことを確定する。
  • 有責性、特に支払いの期待可能性を確定する(行政機関等への捜査関係事項照会も活用する)。
  • 「使用者の社会通念上なすべき最善の努力を傾注し何人がその地位にあっても賃金の遅払いはやむを得なかったであろうと認められる場合には本条(労働基準法第24条)違反の違法性は阻却される。」[7]という判決の考え方は今なお支配的である。

労働災害の捜査の流れ[編集]

  • 労働災害の発生現場の検証実況見分を行い、労働災害の発生状況を明らかにする。
  • 労働安全衛生法に定められている措置をすべき者を確定する。
  • 労働安全衛生法に定められている措置を怠っていたことを確定する。

以上の流れであり、賃金不払ほどの労力は要しない捜査である。しかし、新聞の一面をかざるような大事故、あるいは爆発中毒放射線障害など特異な労働災害の場合は捜査に長期間を要することも多い。なお、警察も労働災害のうち大事故などについては業務上過失致死傷罪の容疑で捜査を進めているので、検察庁へは、労基署と警察が同じ日に送検するよう事前調整されることもある。

他の捜査機関との合同捜査[編集]

他の捜査機関との合同捜査は少ないが、その中でも比較的よく行われているのは、労基署労働基準法違反、警察職業安定法違反や労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)違反として合同捜査を行うものである。

また、人身取引対策行動計画に基づき、人身売買に関連して、外国人労働者への強制労働などの労働基準法違反がある場合には、警察入国管理局と合同捜査を行うよう、厚生労働省から特に指示が出されているものでもない。

労働基準監督官の役職[編集]

労働基準監督官には警察官のような階級は無い。地方の出先機関である都道府県労働局労働基準監督署の場合、役職によって上下関係が位置づけられ、都道府県労働局と労働基準監督署で労働基準監督官が就任する役職を比較すると概ね次のようになる。

  • 労働局長
  • 労働局部長(監督署長級)
  • 労働局課・室長、主任専門官等(監督署長級)
  • 労働局課・室長補佐、専門官等(監督署長、次長、第一方面主任監督官級)
  • 労働局係長等(監督署主任監督官、課長、副主任監督官、係長級)

地方勤務者の役職の序列(例)[編集]

  • 筆頭署長、大規模署長
  • 中規模署長、局課・室長、局人事計画官、局主任監察監督官、局統括特別司法監督官、局主任賃金指導官、局主任産業安全専門官、局主任労働衛生専門官など
  • 中~大規模署次長、小規模署長、局総務課長補佐、局企画室長補佐、局監察監督官、局副統括特別司法監督官など
  • 中~大規模署第一方面主任監督官、局課・室長補佐、局労働紛争調整官、局特別司法監督官、局専門監督官、局賃金指導官、局産業安全専門官、局労働衛生専門官など
  • 中規模署第一課長、中~大規模署の次席の主任監督官、中~大規模署の安全衛生課長
  • 小規模署第一課長、局総務・人事・企画・監督係長
  • 中~大規模署の三席以下の主任監督官、小~中規模署の課長、局係長
  • 署の副主任監督官・監督係長、局係長

労働基準監督官の昇進[編集]

採用からの3年間は、出身都道府県の属する地方以外の労働基準監督署に配置され、第一線の業務経験を習得する。

この後、労働基準監督官の昇進経路は、本人の希望と能力に応じて、2通りに分かれる。

【全国異動を選択した者】採用から3年後の広域異動時に厚生労働省へ異動した者は、本省係長、都道府県労働局課長、本省課長補佐・専門官等、都道府県労働局部長、都道府県労働局長あるいは本省課・室長と昇進する。 ただし、都道府県労働局長あるいは本省課・室長は基本的に「キャリア」のポストであり、監督官として採用された者がこれらのポストにまで昇進する者は一部である。人事ブロックの基幹労働局長(北海道、宮城、埼玉、東京、新潟、愛知、大阪、広島、香川、福岡)まで昇進する者はごく限られた者である。

【地方勤務を選択した者】採用から3年後の広域異動時に他の都道府県労働局へ異動した者は、大部分がその後、採用から7年後に希望する都道府県労働局へ異動し、その後は同一の都道府県労働局管内で勤務し、監督署の副主任監督官・係長、労働局係長、監督署主任監督官・課長あるいは労働局(総務・人事・企画・監督など)主要係長等、監督署第一方面主任監督官、労働局課・室長補佐あるいは専門官等、監督署次長、小規模監督署長、中規模監督署長あるいは労働局課・室長、主任専門官等、大規模監督署長と昇進する。各都道府県労働局管内で最も序列の高い監督署は筆頭署と呼ばれるが、筆頭署の署長に就任できず退官する者も少なくない。

【昇進の仕組みなど】昇進は試験制度によらず、採用年次、年齢、能力による選考が行われているが、現在のところ、能力はあまり重視されておらず、採用年次と年齢が重要視されており、労働基準監督官として採用された時点で、事実上、署長就任が約束されている。地方勤務を選択した者でも、採用7年経過時点で行政職俸給表(一)3級(いわゆる「係長」級)に昇任し、またこの時点で監督署主任監督官・課長の昇進資格を得る。その後、おおむね、40歳代前半には行政職俸給表(一)5級(監督署課長、次長級)に昇任する。しかし、行政職俸給表(一)6級(監督署長級)以降は都道府県労働局や労働基準監督署へ配分された定数が限られていることから、昇任が頭打ちとなる傾向にある。かようなところから、監督官はいわゆる「ノンキャリア」であり、現場の第一線から地方機関の幹部として活躍することが期待されているのである。

脚注[編集]

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  1. ^ http://trickybarracks.web.fc2.com/special/laber_e1.html
  2. ^ 警棒警戒仗などは用法によっては武器類似の効果が得られるものの、法令上所持・使用を規制される「武器」ではないため、所持・使用は可能である。なお、警棒・警戒仗は施設警備を行なう警備員も所持を認められる場合がある類のものである。軽犯罪法第1条第2号参照
  3. ^ http://trickybarracks.web.fc2.com/special/laber.html
  4. ^ これらは捜査活動ではなく行政指導の範疇である
  5. ^ http://trickybarracks.web.fc2.com/special/laber.html
  6. ^ 資料出所:労働基準法に基づく監督業務実施状況。http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/0000029138.pdf
  7. ^ 名古屋地裁判決。昭和25年10月16日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]