喫茶店
喫茶店(きっさてん)とは、コーヒーや紅茶などの飲み物、菓子・果物・軽食を客に供する飲食店のこと[1]。
日本では、フランスのカフェを意識した店舗などを中心に「カフェ」と呼ばれることも多い。もともと日本で茶を出す店は「茶店(ちゃみせ)」や「茶屋(ちゃや)」などと呼んでいた。和風の茶房(さぼう)や茶寮(さりょう)という呼び方もある。
また、コーヒーなどを提供する風俗店や娯楽を提供する店にも「喫茶店」の名が使われる事もある。この分野の詳細は関連業種を参考のこと。
概要
[編集]喫茶店とは、コーヒーや紅茶などの飲み物、菓子・果物・軽食を客に供する飲食店のことである[1]。
コーヒーや紅茶などの飲み物を提供したり、ケーキ、茶菓子等の菓子や、フルーツを用いた甘味や、サンドイッチ等の軽食を提供する飲食店である。
呼称
[編集]「喫茶(きっさ)」とは、元々は鎌倉時代(源実朝の時代)に中国から伝わった茶を飲用し効用を嗜む習慣や作法を指す言葉である。なお、喫茶の「喫」は「茶を喫む(のむ)」という意味である。
現在では「喫茶」は緑茶に限らない。紅茶、コーヒー、さらには果汁や清涼飲料水など、これらを飲み、菓子を食べることを「喫茶」の概念に含める。喫茶店は、俗に略して「茶店(さてん)」とも呼ばれる。近年の口語では「お茶する」などともいう。
日本では、フランスのカフェを意識した店舗などを中心に「カフェ」と呼ばれることも多くなってきた。また、見晴らしの良いテラスにて「カフェテラス」を行っているところもある。ヨーロッパ風の店を「ヨーロピアン・カフェ」、イタリア風の店を「イタリアン・カフェ」と呼ぶ事もある。英語流に呼ぶ場合、特にコーヒーを主力商品とする場合「コーヒーショップ」、紅茶を主力商品とする場合は「ティーハウス」「ティールーム」などとも呼ばれる。中国茶を出す店は「茶館(ちゃかん)」などと、呼ばれる事が多い。
こうした豊富な語彙が使われるようになったので、「喫茶店」という言葉をあえて使う場合、フランスの「カフェ」や米国のコーヒーショップや中国風「茶館」とは少し違った、日本での大正・昭和などの歴史を踏まえたスタイルのもの、という意味を込めて使われていることがある。
提供されるもの
[編集]コーヒーや紅茶が基本であるが、他に提供されるものは、店舗ごとに様々である。比較的一般的なものを挙げてみる。
一部店舗ではモーニングセットなどを提供している場合がある。またサラリーマンなどの昼食(ランチ)の需要が見込める立地では「ランチセット」(昼限定の)カレーライスや定食類などを提供している場合もある。
時間帯ごとの傾向や利用目的
[編集]都市部では、朝の比較的早い時間帯にはサラリーマン・学生等が朝食をとるために利用している。また、昼食の時間帯になると、喫茶というよりも食事をとることを目的に軽食やランチセットや昼限定メニューを利用する人が多くなる。その昼食の時間帯を過ぎると、飲み物や菓子の売上の割合が増え、軽食は減る。
営業職のビジネスマンは、顧客先を訪問する直前の時間を調整のために利用することがある。また、パソコンやタブレットで電子メールを送受信するため、同僚との簡易な打ち合わせをするため、さほど構える必要がない商売相手とちょっとした打ち合わせをするため、等々の目的で利用されている。
また、店内に設置されていることが多い、新聞や雑誌を目当てに入る人もいる。
喫茶以外のサービスと関連業種
[編集]「喫茶」を冠するものの、「喫茶」以外のサービスが主目的とされるものは、それぞれの独立項目で扱う。
- 1970年代末では、テーブル型ゲーム筐体が人気となり、1980年代には会社員向けの余暇を提供した[4]。その後もオーストラリアでゲーム会社がコラボレーションで出店したMana Barなどのように家庭用ゲーム機を置いた喫茶店などもあるが、日本では平成23年以降にコンピュータソフトウェア著作権協会が「上映権」の侵害に当たるとして家庭用ゲーム機などを置いた喫茶店・ゲームバーに対して警告を発し、著作権法違反で逮捕も行われた[5]。
喫茶店の歴史
[編集]- 喫茶店として提供し始めた時期は定かではないが、16世紀にはイスラム教国の主だった都市にコーヒー店が開かれ、政談、商談の場となっている。オスマン帝国の都イスタンブルにおいては、1550年代に最初のカフェが開かれた[6]。その後、ムラト3世(在位:1574年 - 1595年)治下のオスマン帝国ではカフェでの政府批判が問題となり、1583年[7]にカフェ閉鎖令が出されている[8]。
- 17世紀中頃 - ヴェネツィアにヨーロッパで初めてコーヒーを提供する店が開業。
- 1650年 - イギリスにコーヒー・ハウスができる。
- コーヒーハウスは新聞を読んだり、政治を論じたりといった男社会の交流の場でもあった(ロンドン、ギャラウェイが特に有名)。
- 単にコーヒーを飲ませる店、というだけでなく、文化人が交流する場であった。
- 日本
- 享保20年(1735年)、京都東山に高遊外 売茶翁が開いた茶亭・通仙亭が日本初の喫茶店といわれる[9]。
- 1878年 - 神戸元町の「放香堂」が店頭でコーヒーを提供(元町3丁目に茶商として現存)。
- 1888年4月13日 - 東京の黒門町(当時は下谷黒門町)に本格的なコーヒー店「可否茶館」が開店。
- 1920年代 - 日本で喫茶店ブーム。当時コーヒー一杯10銭。
- 1950年代後半 - 日本でジャズ喫茶(JAZZ喫茶)、歌声喫茶、名曲喫茶などが流行。
- 1952年 - ムジカが大阪市北区にオープン。日本初の本格的英国式紅茶の店となる。
- 1959年 - 談話室滝沢が東京都内にオープン。日本の高級喫茶店のはしりとなる。
- 1960年代後半から1970年代 - 日本で純喫茶が流行。味に一家言持つようなオーナー店主が自らコーヒーを淹れて供するこだわりの店が増える。このような店主はバリスタの認定試験を受けたりする事も多い。
- 1970年代 - スペースインベーダーの登場にはじまるアーケードゲームブームが興り、多くの喫茶店にテーブル筐体が設置された(ゲーム喫茶)。ゲームが子供の教育上よくないと思われたことにより、学校の校則に喫茶店の入店を制限するものが全国各地でみられた。
- 1980年代 - セルフ式コーヒーチェーン店のドトールコーヒーが誕生(2006年現在、日本国内で一番店舗数の多い喫茶店でもある)。
- 1990年代 - スターバックスなどシアトル系チェーン店が日本に進出。コーヒー1杯を300円から500円で提供する。一方、古民家を改築した和風喫茶などもブームになった。
世界の喫茶店
[編集]世界を見回せば、それぞれの国でそれぞれのスタイルの喫茶店が発展してきた。
- フランスなどのカフェ(café)
- 店舗の前の路上にもテーブル席を並べ、その解放感を楽しんだり、パリなどでは通行人のファッションを見たり見られたりして楽しむ場にもなっている。
- イタリアのバール
- イタリアの軽食喫茶。
- 香港の茶餐廳(ちゃさんちょう)
- 香港の軽食喫茶店。飲茶(やむちゃ)も参照。
- 中近東のチャイハーネ、カーヴェハーネ、マクハなど
- 国によって呼称が異なる。基本的にチャイハーネは紅茶や緑茶を商う、カフヴェハーネはコーヒーを商う喫茶店であるが、どちらも出す店も多い。伝統的な店は男性客がほとんどであり、水タバコを吸いながら他の客とコミュニケーションやテーブルゲームなどをして楽しむ。近年は男女ともに入りやすい店も多くなっている[10]。
日本の喫茶店
[編集]統計
[編集]- 地域ごとの店舗数・密度
- 平成18年事業所・企業統計調査結果に基づく県別の喫茶店事業所数は、大阪府が約12,000店で全国1位となっており、以下、約11,000店の愛知県、約8,000店の東京都、約6,000店の兵庫県と続く。
- 人口1万人当たりには全国平均で6.34店の喫茶店が存在し、1番多い高知県は17.7店、2番目の岐阜県は 16.0店、3番目の愛知県は14.7店、4番目は大阪府で13.5店である。なお、最も少ないのは秋田県で2.3店である。
- 面積1平方キロメートル当たり事業所数に着目すると、全国平均では0.2店で、1番多い大阪府は6.3店、2番目の東京都は3.6店、3番目の愛知県は2.1店、4番目は神奈川県で1.0店となっている。また、これについても最も少ないのは秋田県で0.02店である[11]。
- また、市町村レベルの人口1万人あたりの店舗数では、大阪市が24.1軒で全国1位であり、以下、高知市、名古屋市、岐阜市の順となっている。
- 各都市の住民の利用量
- 消費者(2人以上世帯)の側に着目すると、都市別の年間支出喫茶代は、岐阜市(13,360円)、名古屋市(13,240円)、東京区部(8,385円)、神戸市(7,514円)などの都市の住民が、全国平均(5,128円)と比べて特に大きくなっている[12][13]。
地域ごとの特徴
[編集]愛知県、岐阜県では、飲食店の内でも喫茶店の占める割合が高い。1999年の総務省統計局発表データによれば、全飲食店のうち喫茶店の占める割合が、全国平均は24.3%、東京都は17.7%、喫茶店の店舗数が全国1位の大阪府でも36.1%に対し、愛知県は41.5%、岐阜県は40.4%となっている。喫茶に対する支出も愛知県は全国平均の約2倍、岐阜県は約2.5倍となっている。数が多い分だけ競争も激しく、当地域ではコーヒーを頼めば菓子やピーナッツがついてくるのが半ば常識化している。常連客が多い店ではレジの近くにコーヒーチケットと呼ばれる金券(前払いでコーヒー代を支払うもので、例えば10杯分の価格で11杯飲むことが出来るプレミアムが通常はついている。)を保管しておくポケットが壁に設置されている。また1960年頃から豊橋市、豊田市、一宮市などで「モーニングサービス」と称するサービスが始まった。これはコーヒー1杯分の値段で、朝の開店時刻から10時ごろまで、トーストやゆで卵をつけるもので、中京圏域に広まっている。誤った用法であるが、文脈上通じればモーニングサービスをモーニングと略すことが多い。
また、昨今ではスターバックスやドトールコーヒーといった全国規模展開の店も当地域に進出している。コメダ珈琲店のように、名古屋から全国展開を始めるチェーン店もある。
日本の法制度
[編集]日本において喫茶店を営業するためには、都道府県知事より「飲食店業営業の許可を得る必要(食品衛生法第55条及び施行令第35条)がある。許可を得た施設は、食品衛生法と食品衛生法施行令により、保健所の監視または指導を受けることが定められている。
なお、菓子製造業(パンもここに含まれる)は別の業種としているため、注意が必要である。また、風俗営業法に規定される風俗営業など(第1号)喫茶店(第2号)に該当する場合は警察署の許可が別に必要である。例えば、ゲーム喫茶では風俗営業の五号営業の許可を必要とする。
チェーン店の例
[編集]- 銀座ルノアール
- ドトールコーヒー
- シャノアール、カフェ・ベローチェ、珈琲館 - C-United株式会社
- BECK'S COFFEE SHOP - JR東日本グループ
- PRONTO
- コメダ珈琲店
- サンマルクカフェ
- スターバックス
- タリーズコーヒー
- エクセルシオール カフェ
- シアトルズベストコーヒー
- ブルーボトルコーヒー
- ラッキンコーヒー(中華人民共和国)
脚注
[編集]- ^ a b 広辞苑「喫茶店」
- ^ “札幌にボードゲームで遊べる体験型カフェ ショップスペースも併設”. 札幌経済新聞. 2023年8月2日閲覧。
- ^ “子どもに世界はこう映っている!親子で楽しめる巨大クッキーやデカ頭展示の体験型カフェオープン”. ハフポスト (2023年4月27日). 2023年8月2日閲覧。
- ^ Kawasaki, Yasuo (2015). “The role of a Japanese café where video game machine was introduced: -A new form of urban entertainment in the form of Arcade video games-” (英語). Journal of Digital Games Research 7 (2): 1–12. doi:10.9762/digraj.7.2_1. ISSN 1882-0913 .
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2018年6月13日). “ゲームバー経営者ら逮捕、「著作権違反」閉店相次ぐ(1/2ページ)”. 産経ニュース. 2023年8月2日閲覧。
- ^ “KAHVEHANE - TDV İslâm Ansiklopedisi” (トルコ語). TDV İslam Ansiklopedisi. 2022年1月13日閲覧。
- ^ “KAHVEHANE - TDV İslâm Ansiklopedisi” (トルコ語). TDV İslam Ansiklopedisi. 2022年1月13日閲覧。
- ^ マグロンヌ・トゥーサン=サマ 著、玉村豊男 訳『世界食物百科』原書房、1998年。ISBN 4562030534。pp.604-605
- ^ 佐賀市、煎茶道を通じた宇治市との文化交流第一弾「茶会」を 佐賀出身 煎茶中興の祖「売茶翁」の修業の地・宇治 萬福寺にて6月8日開催 朝日新聞デジタル 2014年6月6日
- ^ 安尾 亜紀「イスタンブールのチャイハネ・カーヴェハネ」All About、2015年8月24日閲覧。
- ^ 総務省統計局 平成18年事業所・企業統計調査のほか、それに基づくなるほど!経済センサスクイズ、及びWebm旅 47都道府県ランキング 人口1000人当りの喫茶店数 2010年8月23日閲覧
- ^ 平成19~21年平均の家計調査品目別データ
- ^ “地元喫茶店ならモーニング目当て 岐阜、愛知の利用実態”. 岐阜新聞. (2012年5月27日) 2012年5月31日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- ウィクショナリーには、喫茶店の項目があります。
- ウィキメディア・コモンズには、日本のカフェ・喫茶店に関するカテゴリがあります。