静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院附属茶学総合研究センター

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静岡県立大学大学院
食品栄養環境科学研究院
附属茶学総合研究センター
附属茶学総合研究センターが
設置されている
食品栄養科学棟(左)
正式名称 静岡県立大学大学院
食品栄養環境科学研究院
附属茶学総合研究センター
英語名称 Tea Science Center, Graduate Division of Nutritional and Environmental Sciences, University of Shizuoka
略称 茶学総合研究センター
組織形態 研究院の附置機関[1]
所在地 日本の旗 日本
422-8526[2]
静岡県静岡市駿河区
谷田52番1号[2]
センター長 中村順行[3]
活動領域 茶に関する情報の一元化と
茶の栽培加工から
機能性、販売、経営手法まで
総合的な研究[4]
設立年月日 2014年4月1日[5]
上位組織 静岡県立大学大学院
食品栄養環境科学研究院[1]
所管 静岡県公立大学法人
公式サイト 静岡県立大学 食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター
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静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院附属茶学総合研究センター(しずおかけんりつだいがく だいがくいん しょくひんえいようかんきょうかがくけんきゅういん ふぞくちゃがくそうごうけんきゅうセンター、英語: Tea Science Center, Graduate Division of Nutritional and Environmental Sciences, University of Shizuoka)は、静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院の附置機関である。

概要[編集]

静岡県茶園静岡県立大学が立地する静岡県はの生産量が全国1位である[6]
静岡県深蒸し茶(2018年3月中旬)。静岡県立大学が立地する静岡県にはの多様な製法が存在する

「静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院附属茶学総合研究センター」[7]は、静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院に附属して設置される研究施設の一つである[1][7][8]に関する情報を一元化するとともに[4]、総合的に茶を研究するための施設である[4]。静岡県立大学の草薙キャンパスに開設されている[2]。なお、食品栄養環境科学研究院に附置されている研究施設としては、附属茶学総合研究センター以外にも附属食品環境研究センターがある[1][7]

もともと静岡県立大学では、茶学に関する教育・研究が盛んであった。静岡県立大学の立地する静岡県は茶の生産量が全国1位であり[6]緑茶の産地として極めて著名である。こうした背景もあり、静岡県立大学には、日本の大学として史上初めて茶に関する総合講座が開設されていた[4]。また、ISI-トムソン・サイエンティフィックによる2001年(平成13年)~2005年(平成17年)の論文引用指数は「生態、環境学」分野で117.4であり、静岡県立大学が日本の大学・研究機関の中で3位にランクインしている[9]。また、2002年(平成14年)~2006年(平成18年)の論文引用指数は「生態、環境学」分野で126.2に達し、静岡県立大学が日本の大学・研究機関の中で1位に輝いた[10]。同様に2002年(平成14年)~2006年(平成18年)の「農学」分野の論文引用指数は107.3となり、静岡県立大学が日本の大学・研究機関の中で6位にランクインするなど[11]、茶学に密接に関連する分野の研究が高く評価されている。

こうした教育・研究の蓄積を背景に、茶学を総合的に取り扱う静岡県ならではの研究施設として、附属茶学総合研究センターが発足した。なお、茶を取り扱う大学の研究施設としては、同志社大学の研究開発推進機構に置かれた「京都と茶文化研究センター」といった事例もあるが[12]、京都と茶文化研究センターの場合は茶文化など特定の一分野に特化している[13]。それに対して、静岡県立大学の附属茶学総合研究センターの場合は、多種多様な観点から総合的に茶を研究しており[4]、この点が他の研究施設にはみられない特徴として挙げられる。

目的[編集]

谷田キャンパス(現草薙キャンパス)の航空写真(2009年)。静岡県立大学には多様な部局が存在し、に関する教育・研究がそれぞれ実施されている[4]。半円形の広場「コミュニティプラザ」と細長い広場「ユニバーシティプラザ」を中心に各校舎が配置されており、正門(写真下部)から見て左側に管理棟(現はばたき棟)、一般教育棟、国際関係学棟、経営情報学棟、右側に食品栄養科学棟、薬学棟、環境科学棟(現食品栄養科学二号棟)、看護学棟、奥に学生ホール、講堂、図書館などが建ち並ぶ

附属茶学総合研究センターは、茶に関する研究の情報について一元化を推進し[8]、他の機関との連携を図りつつ茶を総合的に研究することで[8]茶業の振興を図ることを目指している[8]

総合大学である静岡県立大学においては、従来より食品栄養科学部薬学部経営情報学部などさまざまな部局が茶に関する研究に取り組んでいた[4]。附属茶学総合研究センターにおいては、茶に関するこれらの研究について情報の一元化を図っている[4]

そのうえで、附属茶学総合研究センターでは、茶の栽培加工[4]、機能性[4]、販売[4]、経営手法に至るまで[4]、幅広く総合的に研究を実施している[4]。具体的には、発酵学研究[4]、ゲノム解析[4]、化学研究[4]、生産・加工研究[4]、マーケティング[4]、経営研究[4]、人材育成[4]、茶学教育[4]、機能性研究[4]、疫学研究[4]、といったさまざまな観点から研究がなされている[4]

沿革[編集]

やぶきた」の原個体(2014年5月24日)。静岡県立大学のあるムセイオン静岡に保存されている[14]静岡県指定天然記念物[15]
茶草場農法を用いた静岡県茶畑(2007年4月下旬)。静岡県立大学が立地する静岡県にはチャノキの多様な栽培法が存在する

静岡県により設置・運営される静岡薬科大学静岡女子大学静岡女子短期大学が統合され、1987年(昭和62年)に静岡県立大学が発足した。静岡県により設置・運営される公立大学として[† 1]、地元の重要産品である緑茶に関する研究も盛んに行われるようになった。全学的にも地元の重要産品を重視する姿勢を示しており、静岡県立大学の大学旗は蜜柑と緑茶にちなんで橙色と黄緑色のカラーリングが採用されている。また、静岡薬科大学のキャンパスには、さまざまな品種チャノキが植えられていた[16]。それを引き継いだ静岡県立大学においても、薬学部に附置される附属薬草園にてチャノキが育成されている[17]。また、静岡県立大学のあるムセイオン静岡には「やぶきた種母樹」が保存されているが[14]、これは日本全国に爆発的に普及したチャノキの品種である「やぶきた」の原木である[14]

その後、2013年(平成25年)になると静岡県立大学に「茶学総合講座」が開設された[8]。茶に関する総合講座が大学に開設されるのは、日本の歴史上初めてのことであった[4]。これにより、従来は部局ごとに実施されていた茶に関する研究の情報が一元化され[4]、茶の栽培加工[4]、機能性[4]、販売[4]、経営手法まで[4]、総合的に講じられるようになった[4]。静岡県に立地している他の大学や研究機関と積極的に連携するともに[4]、行政機関や茶業団体とも連携を図ることで[4]、茶業の振興を目指していた[4]

さらに、茶学総合講座は発展的に解消され[8]、新たな研究施設として2014年(平成26年)4月1日に附属茶学総合研究センターが大学院の食品栄養環境科学研究院の下に設置された[5]。初代センター長には、「山の息吹」[18]、「つゆひかり」[18]、「香駿」[18]、「ゆめするが」[18]、「おくひかり」[18]、「さわみずか」[18]、などのチャノキの新品種を次々開発した中村順行が就任した[19]

なお、静岡県立大学では、地域について学ぶ全学共通科目群として「しずおか学」を設けている[20]。これらは文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」への採択にともない新たに設けられた科目群である。2015年度(平成27年度)より選択必修科目として2単位以上の習得を求められることになったが[21]、そのうちの一科目として「茶学入門」が開講されている[22]

研究[編集]

手摘みで収穫される静岡県茶葉(2008年5月1日)。静岡県立大学が立地する静岡県には茶葉の多様な収穫法が存在する

前述のとおり、附属茶学総合研究センターでは多様な視点から幅広く総合的な研究がなされているが[4]、それらは大きく4つの類型に分類される[23]

まず、緑茶の機能性の強化やさまざまな疾病に対する効能を調査する「緑茶の機能性及び疫学に関する研究」が挙げられる[23]。次に、緑茶生産量で圧倒的上位に位置する静岡県を「茶の都」と位置づけ[23]、この静岡県を牽引していけるような茶に関する総合的な知見を持つ人材を育成する「茶学教育と人材育成」が挙げられる[23]。さらに、茶の品質に関する特性の評価や嗜好性の解析を通じて販売促進に関する戦略を立案する「茶葉及び茶飲料の嗜好特性の解析」が挙げられる[23]。最後に、消費者の観点に基づいて緑茶のマーケティングに関する戦略を手掛ける「茶の高付加価値化とマーケティング」が挙げられる[23]

附属茶学総合研究センターと他の部局との共同研究もなされており[24][25]、それらの成果に対しては学術賞なども授与されている[25]。これらの研究業績が評価され、日本国外からも視察に訪れる者も多い[26]

略歴[編集]

歴代センター長[編集]

静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院附属茶学総合研究センター センター長
氏名 就任日 退任日 主要な経歴 備考
1 中村順行 2014年4月1日 (現職) 静岡県農林技術研究所茶業研究センターセンター長  

在籍した人物[編集]

附属茶学総合研究センターに在籍した人物を五十音順に記載し、括弧内に在籍時の主要な役職を、ハイフン以降にはそれ以外の役職を、それぞれ併記した。役職については、現職・元職問わず著名と思しきものを記載しているため、現役でない可能性があることに注意されたい。

脚注[編集]

註釈[編集]

  1. ^ 静岡県立大学は、2007年に静岡県から静岡県公立大学法人に移管された。

出典[編集]

  1. ^ a b c d 静岡県立大学大学院学則第4条。
  2. ^ a b c 「所在地」『交通アクセス | 大学案内 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学
  3. ^ a b c d e 「メンバー」『センターの紹介 | 静岡県立大学 食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター静岡県立大学食品栄養環境科学研究院茶学総合研究センター
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai 「研究内容」『センターの紹介 | 静岡県立大学 食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター静岡県立大学食品栄養環境科学研究院茶学総合研究センター
  5. ^ a b c d e f g h 「『食品環境研究センター』と『茶学総合研究センター』が開設されました」『静岡県立大学食品栄養科学部・食品栄養科学専攻同窓会会報』17号、創星会、2015年1月1日。(頁番号未記載。)
  6. ^ a b 「茶の生産日本一」『静岡県/茶の生産日本一静岡県庁、2021年9月22日。
  7. ^ a b c 「学部・研究科附属機関」『附属機関 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学
  8. ^ a b c d e f g 「茶学総合研究センター」『茶学総合研究センター | 附属機関 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学
  9. ^ 静岡県立大学生態・環境分野の「週刊朝日進学MOOK2008年度版大学ランキング」ISI・論文引用度指数で静岡県立大学が3位にランキングされました』2007年9月7日。
  10. ^ 『大学ランキング』朝日新聞出版、224頁。
  11. ^ 『大学ランキング』朝日新聞出版、223頁。
  12. ^ 佐伯順子「京都と茶文化研究センター(学際的研究拠点)」『研究センター一覧|学術的研究拠点・中心的研究拠点|研究開発推進機構|同志社大学 研究・産官学連携同志社大学研究開発推進機構
  13. ^ 同志社大学京都と茶文化研究センター「センターからのメッセージ」『センター概要|同志社大学 京都と茶文化研究センター同志社大学京都と茶文化研究センター
  14. ^ a b c 高木桂蔵「谷田風土記」『はばたき』88巻、静岡県立大学広報委員会、2003年12月19日、21頁。(「volume 88」と記載あり。)
  15. ^ 「茶樹(やぶきた種母樹)」『静岡県/しずおか文化財ナビ 茶樹(やぶきた種母樹)静岡県庁、2022年8月31日。
  16. ^ 林栄一「静岡薬科大学図書館」『薬学図書館』20巻2号、日本薬学図書館協議会、1975年11月5日、118頁。
  17. ^ 尾池和夫「チャノキ(茶の木)と茶」『薬草園歳時記(16)チャノキ(茶の木)と茶 2022年4月 | 大学案内 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学、2022年4月。
  18. ^ a b c d e f 「本学特任教授が平成25年度杉山彦三郎賞を受賞」『本学特任教授が平成25年度杉山彦三郎賞を受賞:静岡県公立大学法人 静岡県立大学』静岡県立大学。
  19. ^ 「教員人事、新規客員教授、名誉教授の紹介」『はばたき』126号、静岡県立大学広報委員会、2014年6月1日、18頁。(「number 126」と記載あり。)
  20. ^ 「地域を学んで未来を創る――地域からグローバルへ――しずおか学」『静岡県立大学 Guide Book』2023年版、静岡県立大学、9頁。
  21. ^ 「PICK UP しずおか学」『静岡県立大学 Guide Book』2023年版、静岡県立大学、8頁。
  22. ^ 「茶学入門」『静岡県立大学 Guide Book』2023年版、静岡県立大学、9頁。
  23. ^ a b c d e f 「研究の柱」『センターの紹介 | 静岡県立大学 食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター静岡県立大学食品栄養環境科学研究院茶学総合研究センター
  24. ^ Keisuke Ito et al., "Bitterness-masking peptides for epigallocatechin gallate identified through peptide array analysis", Food Science and Technology Research, Vol.27, No.2, Japanese Society for Food Science and Technology, 2021, pp.221-228.
  25. ^ a b 「Food Sci. Technol. Res.誌の論文賞を受賞」『Food Sci. Technol. Res.誌の論文賞を受賞 | ニュース | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学、2022年8月29日。
  26. ^ a b 「緑茶は日本茶ではない?」『お茶のある生活(中) 緑茶は日本茶ではない?|あなたの静岡新聞静岡新聞社、2015年6月5日。
  27. ^ 「静岡県立大学の歩み」『沿革 | 大学案内 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学静岡県立大学
  28. ^ Hirokazu Kobayashi「小林裕和」『Laboratory of Plant Molecular Improvement』グリーン・インサイト、2021年10月10日。
  29. ^ 「メンバー」『研究内容 | 静岡県立大学 食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター』静岡県立大学食品栄養環境科学研究院茶学総合研究センター。(2021年7月27日時点でのアーカイブ。)
  30. ^ 高橋晴美「香りでリラックス、ダイエット効果も――烏龍茶の飲み方」『香りでリラックス、ダイエット効果も 烏龍茶の飲み方|NIKKEI STYLE日本経済新聞社日経BP、 2017年4月5日。
  31. ^ 「未来を模索するお茶業界…『世界でいちばん濃い』ジェラートや1本1万9800円の超高級ボトリングティー――新しい楽しみ方に活路――静岡」『【完全版】未来を模索するお茶業界…「世界でいちばん濃い」ジェラートや1本1万9800円の超高級ボトリングティー 新しい楽しみ方に活路 静岡 - LOOK 静岡朝日テレビ静岡朝日テレビ、2022年4月24日。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]