米粉
米粉(べいふん、べいこ、こめこ;米の粉(こめのこ)とも)は、米を製粉したもの。穀粉の一種。団子、餅、煎餅、麺類、米粉パンなどの原料となる。グルテンフリー食品や、セリアック病の認知度が高まり、米粉食品が見直されている。「こめこ」の呼称は、食品として定着させるために企業やメディアから発信された読み方であり[1]、其処から一般でも「こめこ」の名称が浸透しているが、本来は「べいふん」または「べいこ」と呼称されるものである。
米粉の種類[編集]
うるち米から作られるもの | もち米から作られるもの | もち米とうるち米とを混ぜて作られるもの | ||
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ベータ型:米粒を加熱せず生のまま粉にするもの | 乾燥状態で粉にするもの | 新粉:精白したうるち米を水洗いして水切りし、しばらく乾燥させてから製粉したもの。
それを十分に乾燥させてからふるいにかけると、少し粗い「並新粉」、細かい「上新粉」、更に細かい「上用粉(薯蕷粉)」とに分けることができる。 |
餅粉︰もち米を水洗いして水切りし、しばらく乾燥させてから製粉したもの。(製法は上新粉と同じ)
白玉粉より粒は粗い。 |
だんご粉(だんごこ)
解説 うるち米・もち米を精白し、水洗いして、しばらく水に漬けた後、粉砕(製粉)し、乾燥したもの。メーカーによってうるち米ともち米の配合比は異なる。 原料にうるち米が入っているため、(白玉粉や餅粉に比べ)コシのあるだんごを作りやすい。関西以西で多く愛好されている。 |
水挽製法のもの | 白玉粉(しらたまこ)
解説 もち米を水挽製法※により粉にしたもの。餅粉より粒は細かい。製造に手間ひまがかかるため、一般に上等品の扱い。 ※水挽製法:もち米を水洗い、水漬けし(半日~1日)、水切り後、水を加えながら磨砕する方法。 別名:「寒ざらし粉」(昔は寒中に手間ひまかけて作られたことから)。 | |||
アルファ型:米粒を加熱してから粉にする方法 | 乳児粉(にゅうじこ)
解説 うるち米を熱加工(アルファー化)して、製粉したもの。乳児食・離乳食・重湯等に用いられる。 |
寒梅粉(かんばいこ)
解説 精白したもち米を水洗い、水漬けし、烝して「もち」にして、それを(色が付かないように)白く焼き上げた後、粉砕(製粉)したもの。 名前の由来は、寒梅が咲く頃に新米をもちにして粉が作られたことによる。 ・別名:「みじん粉」(関東地方)、「焼みじん粉」。 | ||
みじん粉(みじんこ)
解説 もち米(又はうるち米)を烝煮後、これを乾燥し、焙煎して製粉したもの。 もち米を原料とするものを「上早粉(じょうはやこ)」、うるち米を原料とするものを「並早粉(なみはやこ)」という。 なお、関東地方では、「寒梅粉」のことを「みじん粉」という。 | ||||
道明寺(どうみょうじ)
解説 もち精米を水に浸し蒸してから乾燥して干飯(ほしいい)を作り、それを粗く砕いたもの。 名前の由来は、道明寺(大阪)で作られたことによる。 | ||||
落雁粉(らくがんこ)
解説 もち米を水洗いしてしばらく乾燥させた後、烝煮することなく、焙煎して製粉したもの。または道明寺をもっと細かくして煎り上げたもの。 名前の由来は、落雁(らくがん)と呼ばれる干菓子を作る際に主原料として使われることから。 | ||||
上南粉(じょうなんこ)
解説 もち米(まれにうるち米)をよく洗い、水に浸し蒸してから乾燥させ、粉砕し、少しずつ煎りあげたもの。道明寺やみじん粉より粒は細かい。 ・別名:「加賀みじん」(金沢で作られたことから)、「上みじん」、「極みじん粉」など。 |
もち米から作られるもの[編集]
- 白玉粉(寒ざらし粉)
- 餅粉または求肥粉 もち米を洗った後で乾燥してから臼で粉に挽いたもの。厳密に言えば餅粉と求肥粉には粒子などの差があると言う意見もあるが、製粉業者も多くの和菓子店も同じ扱いをしている。
- 道明寺粉
- 寒梅粉(焼いた餅を砕いた粉)
- 落雁粉 洗米し浸水して蒸したもち米を乾燥し粉砕した後、焦げないよう白煎りしたもの。
- 微塵粉(みじん粉)
- リ・ファリーヌ・レジェール
うるち米から作られるもの[編集]
米粉の用途[編集]
- 主にもち米粉を用いる物
- 主にうるち米粉を用いる物
- 主にうるち米粉の利用を図っている物
ほか
製粉技術[編集]
- 胴搗製粉方法(石臼杵搗き)
- ロール製粉方法
- 気流粉砕製法(ジェットミル)
- 水びき
- 高速粉砕機(ピンミール)
このほか、名称のついていない製法や特許製法、企業秘密など様々ある。用途によって使い分けがされている。
日本における米粉[編集]
原料[編集]
うるち米は、従来は2mm弱の網目をもったふるいで選別した「網下米」「くず米」などと呼ばれる粒食に適さないものを原料として使用してきたが、近年では、粒食として使用できる(そのまま炊いても食べられるほどの)米を米粉にするケースもでてきた[5]。
くず米以外の米粉原料米としては、加工用米、ミニマムアクセス米(MA米)、現物弁済米などがある。加工用米は主にJAが取り扱っており、粒食用の米を加工用とすることで減反に含めることができる。原料米としては価格がやや高いが、粒食用米と同等の品質がある。MA米は、WTOの取り決めにより海外から輸入された米で、年間約80万トン輸入されている。現物弁済米は、米穀機構が取り扱っている米で、用途は限られるが比較的安価である。これらの米は、粒食に転用されないように砕いて(変形加工)から売却されている。また酒米のうち、酒造りに当たって精米で削り落とされた部分も米粉原料米に転用されている。
米粉は原料の違いに加えて、加工法によって上新粉、白玉粉などの種類に分かれる[2]。
なお、上述のうるち米の「網下米」は、加工用米として「特定米穀」と呼ばれ、品質管理などの仕組みが存在しなかった。粒食用のうるち米は食糧法などで管理されていたことと比べると管理が甘い状況にあり、そのため2008年に露呈した事故米不正転売事件で、事故米の流通先の一つとして米粉に流れたとの指摘がある[5]。
歴史[編集]
米粉の歴史は古い。基本的に米は玄米、または精米した上で炊いて飯にしてから食べることが多かったが、一部地域では、米を挽いて粉にし、焼いて食べるなどしていた。やがて、こういった製法は強い粘り気のある餅米を主に使うようになったが、地域によっては従来の米を使い続けた[6]。他、奈良時代頃に、米の粉に水を加えて練り、油で揚げた煎餅などの菓子が大陸から伝わった。江戸時代に入ると、泰平の世の中で和菓子が発展し、この材料として米粉や白玉粉が広く使われるようになった[7]。
日本では米の消費がピーク時の1963年度の年間約1341万トンから2005年は約922万トンと減少しており[8]、一人あたりの消費量は1962年の年間約118.3kgから2005年は約61.4kgと減少している[9]。
このような状況のもと、行政や関係団体は消費拡大を目指した取り組みを行ってきた。従来からある、煎餅、団子、落雁、大福餅、さくら餅などの和菓子製品だけでは消費拡大を期待することは難しく、小麦粉グルテンを添加してパンや麺などを量産する技術が確立されたことによって米の消費拡大への期待が高まっていたが、10年以上普及しなかった理由は米と小麦の価格差によるものであった。一部には米粉製品を学校給食に取り入れる自治体もあるが、技術的問題により品質にばらつきがあるなど急激に普及するまでには至っていない。
しかし、麦の国際相場が「中国やインド等での食糧需要の増大」「世界的なバイオ燃料の原料としての穀物等の需要増大」「地球規模の気候変動の影響」、といった構造的な要因に加え、輸出国における輸出規制に伴い大幅に上昇しており、小麦粉代替品としての日本国産の米粉が脚光を浴びることとなった。小麦価格高騰を受け、農林水産省は代替原料として米粉の増産支援に乗り出すこととなり、2009年4月に米穀の新用途への利用の促進に関する法律が成立した。
製粉技術の発達によって粒子を平均数十マイクロメートル以下まで細かく、損傷澱粉を少なくするなどして、従来の米粉(上新粉)より小麦粉の代用として使いやすくした微細粉米粉が注目されている[10]。製粉技術の進歩に日本では、国産米(地元産米)の消費拡大につながる新たな需要が期待されている。
米粉用イネ品種[編集]
米粉の利用拡大に取り組む主な自治体[編集]
- 新潟県(県全域) - 小麦消費量の10%を米粉に置き換えることを目的として、「R10プロジェクト」という名称で食料自給率向上を進めている[11]。
- 北海道美唄市
- 北海道上川管内東川町
- 北海道空知管内栗山町4Hクラブ
- 青森県十和田市
- 秋田県大潟村
- 愛知県長久手市
- 岡山県 FOOD ACTION 美作[12]
- 山梨県 中央市
タイにおける米粉[編集]
タイには様々な米粉を利用した料理がある。
- カノムクロック - 米粉とココナッツミルクを混ぜて焼いた、たこ焼きのような菓子[13]
- カノムブアン - 米粉とココナッツクリームを混ぜて固く焼いた、八ツ橋のような菓子[13]
- カノムサイサイ - 餡を米粉の生地に包みバナナの葉にくるんで蒸した菓子[13]
- カノムチャン - 米粉とタピオカ粉でできた層状のゼリー[13]
- カノムターン - 米粉の生地にサトウヤシの果肉とジュースをかけて蒸したもの[13]
タイの糯米粉
ヨーロッパにおける米粉[編集]
ヨーロッパのパン業界ではグルテンなしのパン作りは不可能と考えられていたが、グルテンフリーの食品が注目を浴びるようになり、製パン・製菓材料として利用されるようになった[14]。
米粉粘土[編集]
幼児教育用の粘土に米粉を主原料にした米粉粘土がある[15]。幼児が誤って口にしたときのために安全性を考慮した製品に小麦粉粘土があるが、小麦粉粘土には小麦アレルギーによるリスクがあるため米粉で代用したもの[15]。
脚注[編集]
- ^ “『米粉』 を生んだ技術で日本の食文化を築き新分野の未来を支える (PDF)”. ものづくりビジネスセンター大阪. 2021年1月22日閲覧。
- ^ a b 全国穀類工業協同組合公式サイトより
- ^ “[米粉の種類]:北陸農政局”. www.maff.go.jp. 2021年4月13日閲覧。
- ^ a b c 米粉VS小麦粉 どっちがおいしい? 天ぷら、ホットケーキ… 日本経済新聞 プラスワン 2010年6月11日
- ^ a b 池田信太朗 『事故米騒ぎで露呈した「米粉」普及の障害』日経ビジネスオンライン(日経BP)、2008年9月30日付配信
- ^ “青森の郷土料理とは しとぎもち”. 青森県農林水産部総合販売戦略課. 2020年10月19日閲覧。
- ^ “食について学ぼう たべもの事典 米粉(お米の粉)について”. グリコ栄養食品. 2020年10月19日閲覧。
- ^ 農林水産省『食料需給表』「項目別累年統計:国内消費仕向量 米」
(Microsoft Excelの.xls)
- ^ 農林水産省『食料需給表』「項目別累年統計:国民1人・1年当たり供給純食料 米」
(Microsoft Excelの.xls)
- ^ 『米粉』とは、微細粉の大きさは? なぜ米粉が注目されているの? (PDF) 長野県公式ホームページ
- ^ 新潟県:「米粉のお部屋」は新潟県の米粉情報ページです
- ^ FOOD ACTION 美作
- ^ a b c d e 佐藤正透『暮らしのタイ語単語7000』語研、2005年、75頁
- ^ グルメ大国フランスに、グルテンフリーの波 朝日新聞、2014年9月10日。
- ^ a b 藤原 逸樹. “粘土遊びの指導法に関する一考察”. 安田女子大学. 2019年11月11日閲覧。
参考文献[編集]
- 福盛幸一、『福盛式シトギ 米粉パンの教科書』、2009年、農山漁村文化協会、ISBN 978-4540083112
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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