玄米

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玄米

玄米(げんまい)とは、果実である(もみ)から籾殻(もみがら)を除去した状態[1]で、また精白されていない状態のである[2][3]

玄米の「玄」は、「暗い」または「色が濃い」という意味で、精白されていないのでベージュ色または淡褐色をしている米である。精白とは、玄米から(ぬか)を取り除き白米にすることであり、精白されていない玄米は、白米よりビタミンミネラル食物繊維を豊富に含むため[4]、現在は健康食品として用いられている。

市販の現状[編集]

普通の炊飯器で炊くと、消化が悪く、食感も悪くてボソボソになる。玄米は精白によって白米と米糠に分けてそれぞれ販売され、米穀店の店頭に玄米が置かれることはまれだった。第二次世界大戦前から健康食として玄米食の支持者がいたが、近年は玄米がふっくらと炊ける圧力鍋が普及したことで、味も好まれるようになってきた。現在では、玄米が選べる外食店もあり、健康のためでなく味で玄米食をしている人も多い。玄米の炊飯に対応した炊飯器も市販されている。

栄養[編集]

玄米はビタミン・ミネラル・食物繊維などを豊富に含むが、とりわけビタミンB1が白米よりも多く含まれている。現代のようにおかずをふんだんに摂取する食生活では、栄養過多という問題はあるものの緑黄色野菜からビタミンを十分に摂取できるが、かつて米漬物味噌汁だけの食事が中心の頃、白米食はビタミンB不足が問題となった。

なお江戸時代以前は玄米を食べていたという通説に対して、それを肯定する史料はほとんどない[7]。そもそも現代における「玄米」を作り出すのは精製技術の未熟さゆえに困難であった[8]。そのような中で農民の多くは精白度が低い米(今日における半搗き米などぬか層を完全に除去していないもの)を利用し、さらには雑穀野菜を混ぜたかて飯麦飯を食べていたため、少なくとも脚気が蔓延する環境にはなかった[9]。しかしこれらを炊くには白米よりも時間がかかり多くの燃料を必要とするため、を買わなければならない都市生活者にとっては、ぬか層を完全に取り去った白米の方が都合が良く食味が喜ばれたことから、江戸時代には江戸大坂などの大都市では白米飯を常食する習慣が普及し、脚気が流行し「江戸患い」「大坂腫れ」と呼ばれた。明治時代になり、江戸(東京)や大阪ばかりでなく、地方の都市部の富裕層俸給生活者にも白米食の習慣が広がるに至って、脚気は全国的な問題となり昭和初期まで続いた。

明治時代には、石塚左玄によって提唱された玄米菜食による食養が実践され、食養会という食養実践団体ができた。これはマクロビオティックとして継承され欧米でも普及し、アメリカでは医療の歴史として国営のスミソニアン博物館に収録されることとなった。スミソニアン博物館には玄米も資料として収録されている[10]。日本綜合医学会[11]にも玄米菜食による食事療法が受け継がれている。

昭和初期以降、医師二木謙三が玄米を完全食と呼び、健康のために玄米食を普及することに努めた。1943年(昭和18年)頃には大日本玄米連盟があり、1万人以上が加盟していた[12]。1942年(昭和17年)以降、大政翼賛会で国民を玄米に復帰させるとして議題となり、時の首相であった東條英機が玄米を常食していることも伝わり世論は玄米に傾いた[13]が、川島四郎ら軍の栄養学者は、玄米の消化が白米に劣ること、炊飯に要する燃料や調理時間が増加することを指摘して、玄米食に強く反対した。これに対し伝染病研究所の研究者らが玄米食について研究し、当時の「医界週報」での報告には、炊飯に要する燃料は増加したが、玄米食によって小食になった上、下痢も減り、仕事の耐久力が上がり、医療費は1/17に減った、と伝えたので、栄養学者も認めざるを得なくなったとある[14]

宮沢賢治の『雨ニモマケズ』には、「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ…… ほめられもせず 苦にもされず そういうものに私はなりたい」とある。ただし富裕層に位置していた宮沢自身が少年期にそのような生活をしていたことは無く、むしろ独居自炊時代に行っていた粗食が寿命を縮めたという説さえある[15]。重労働をこなしていた時代には米を大量に食べてカロリー源とするのみならず、タンパク質も米から摂取していた。比率は多くはないものの人間にとっての必須アミノ酸がバランス良く含まれ、米はタンパク質の補給源としても秀れた食品であり、米のみで人体を維持するに十分なカロリーとタンパク質は得られるのである[16]。このため日本人の米に対する思い入れは強く、すぐれた主食とされ、さらには食料を超えた神聖な存在とされていたが、実際には多くの日本人はこれを常食することはできず、米食悲願民族とすら評された[17][18]

マクロビオティックでは玄米は完全食といわれ、玄米(と塩)だけで必要な栄養をまかなうことも不可能ではないと主張される。しかし現代栄養学の視点では、玄米に偏重した食は栄養失調の危険が伴うため推奨されない。

健康[編集]

1990年平成2年)前後から、全粒穀物が健康に貢献するという科学的な根拠が蓄積されてきたため[19]、各国の食生活指針で、健康の維持のために精白されていない玄米のような全粒穀物が推奨されるようになった。

日本では現在のところこのような推奨はない。「厚生省多目的コホート」研究では14万人規模の追跡調査がなされているが、白米と玄米は区別されていない。渡邊昌によれば、玄米が健康に良いということは証明されていることであり、白米と玄米の違いに着目した調査が実施される予定であるという[20]

利用[編集]

玄米を炊いたりにしたりすると、胚乳は膨らみ、糠層は膨らまないので破れる。圧力釜で炊けば、糠層も消化の良い分子になり、食感も良く、日本人好みの粘りがあるように炊ける。栄養成分も味の成分も多く味わいが豊かで、食感も糠層がプチプチとした歯ざわりを持ち、白米の飯には無いおいしさがある。砂糖における黒砂糖上白糖の違いと同様である。

圧力釜が出現する前と同じく一晩水に浸けて吸水させた後、普通の炊飯器で炊くことも可能であるが、普通の炊飯器で炊いた場合にはぼそぼそとした硬い食感になりやすい。トウモロコシの穀粒の皮と同様に糠層の消化が悪く、吸水時間が短ければ食感も悪くぼそぼそになるが、12時間以上浸けて、分量の1.5倍ぐらいの水で炊くと普通に炊けるようになる。発芽玄米であれば、玄米炊きに対応していない炊飯器でもおいしく炊ける。最近の炊飯器は様々な炊飯メニューを持っており、メニューを選べば玄米炊きも簡単に選べるので白米を炊くように玄米を炊くことができる。

白米に比べれば食物繊維が多いため消化が悪いが、難消化性デキストリンによって消化吸収を抑えることで、トクホに指定された食品がブームになっている昨今、デメリットではない。

レトルトの粥や、シリアル食品などにも加工される。発芽玄米では、白米と同様、無菌パックのご飯も市販されている。近年では、玄米を用いた健康飲料である「ライスドリーム」がアメリカで生み出されている。

残留農薬と排泄作用[編集]

農薬が糠の部分に残留する可能性が白米よりも高いとして、玄米食には無農薬、または減農薬栽培の米が勧められることがある。ただし、残留農薬検査は玄米を対象として行われており、農薬の残留は通常、定められた使用方法を遵守する限り問題とされない。また重金属が糠に残りやすいと言われることもある。玄米段階でカドミウム等の重金属の残留が確認された米は、工業用糊の原料に売却されるなどされるが、重金属は白米部分にも残留し、精米による減少効果は少ない[21]。また農産物の中ではコメにはヒ素の含有量が多く、わけても精米に比べて玄米の方が多いが、通常の食品からのヒ素摂取が健康に影響を及ぼしたと認められる事例は日本においてはないとされている[22]

その一方、米糠の繊維キレート作用が強いフィチン酸を多く含み、ダイオキシン類を含む農薬や重金属などの排泄作用が強く、カネミ油症事件でも有効な治療法の一つとして考えられている[23]。しかし、フィチン酸はミネラルと結合してフィチン酸塩になるため、最近の研究ではミネラルが著しく少ない食事においてフィチン酸が大量の場合にミネラルの吸収を阻害することが分かってきた。そのため玄米を多量に取ると体内にミネラルが吸収されず、ミネラル不足を起こすことがある。この作用は必須ミネラルの摂取量が著しく低い開発途上国子供などには好ましくないが[24]、通常は問題ない。また、大腸癌だけでなく、肺癌乳癌などの多くのを抑制する効果[25]のほか、食物繊維が多いことから糖尿病患者の糖・脂質代謝の正常化に効果があるとする報告がある[19]

販売形態と保存[編集]

農産物検査法による公示の農産物規格規程で、籾の混入が、玄米は一等で0.3%以下と定められており、米穀検査では茶碗一杯3000粒として9粒まで許容される。なお、白米は、0.0%と定められている(つまり最大で0.04%であり、茶碗一杯3000粒として1.2粒)。この規格は、白米の原料としてのものといえ、玄米食用としての公的規格や業界団体の規格は無いので、玄米食用として販売されているもの以外は、籾の混入が多い。標準の30kg袋入りは、玄米食用と断りのない限り、白米の原料である。少量で販売されているものは、玄米食用と家庭用精米機による自宅精米用がある。発芽玄米は玄米食用として販売される。

米は、保存性から玄米か籾で貯蔵される。日本では玄米で貯蔵する。精白後の白米は、皮をはがれた状態であり、日数の経過と共に酸化等により劣化していくので、少しずつ購入する方が新鮮である。これに対し、発芽玄米でない普通の玄米は時間経過に対する劣化が少ない。玄米も白米も、低温貯蔵がより望ましい。害虫を防ぐには密閉容器が良い。白米を好む虫と玄米を好む虫は異なる。

一般に玄米は、白米より大きな単位(30kgの紙袋が多い)で販売されているため、保存中に黒っぽい水玉模様のついた蛾やそのいもむしがわいて大騒ぎをすることがある。これはノシメマダラメイガという昆虫で、気持ちは良くないが、とくに有害でもないので、精米して食べればよい。ただ、東京以西の暖地では、梅雨時になれば必ず発生すると言ってもいいほどなので、時々天気の良い日に米びつと中身を陰干ししたり、米びつの中にたかのつめ(赤唐辛子の乾燥品)を入れておくと、発生を予防することができる。

脚注[編集]

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  1. ^ 厳密には、玄米が果実に相当する。イネ科の植物の多くと同様、イネの花は小穂という鱗片の重なった状態で開花し、その鱗片に包まれて成熟し、それをかぶった状態で落下する。この鱗片が籾殻に当たる。
  2. ^ 日本では「玄米及び精米品質表示基準」(平成12年3月31日農林水産省告示第515号)第2条によって「もみ(籾)から、もみ殻(籾殻)を取り除いて調製したもの」と定義されている。
  3. ^ 自然乾燥の場合、籾殻がなくとも、種子としての機能を失っておらず、播種(はしゅ)すればが出るが、市販のほとんどの玄米は加熱乾燥されているので、死んでいて発芽しない可能性がある。
  4. ^ 五訂増補 日本食品標準成分表 (文部科学省)
  5. ^ 五訂増補日本食品標準成分表
  6. ^ 生玄米1合(約180ml)の重量は約156gであり、100gの生玄米の容量は、約0.64合(約116ml)である。
  7. ^ お米・ご飯食データベース 公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構
  8. ^ 籾すり技術が未熟だった江戸時代以前の玄米は、籾すりの際に果皮も一部剥ぎ落とされてしまうので、後の時代の玄米と同じではない。…石毛直道 『日本の食文化史』 岩波書店、2015年、ISBN 978-4-00-061088-9、36-37頁。
  9. ^ 昔から一般人民は玄米を食べていたといわれるが、実際にはある程度搗精した米を、麦などと混炊して増量して食べていたものと思われる。(中略)むしろ貧乏な人民は、祭りや事あるごとに、米をていねいに精白して、白米飯を食べるのを楽しみにしていたらしい。…星川清親『米 イネからご飯まで』柴田書店、1979年、203頁。
  10. ^ Health Food: Macrobiotic Brown Rice National Museum of American History, Division Medicine and Science (英語) (Smithsonian Institution)
  11. ^ 特定非営利活動法人 日本綜合医学会
  12. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。160頁
  13. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。157頁。
  14. ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。160-161頁。
  15. ^ 堀尾青史 『年譜宮沢賢治伝』 中央公論社〈中公文庫〉、1991年2月、459頁。
  16. ^ 「神聖視される作物」石毛直道 『日本の食文化史』 岩波書店、2015年、ISBN 978-4-00-061088-9、20-21頁。
  17. ^ 渡部 忠世 『稲の大地』 小学館、1993年、ISBN 4-09-626178-5、17-18頁
  18. ^ 磯辺俊彦、「池上甲一・岩崎正弥・原山浩介・藤原辰史『食の共同体―動員から連帯へ』 ナカニシヤ出版 2008年5月」『村落社会研究ジャーナル』 Vol.17 (2010-2011) No.2 pp.43-44, doi:10.9747/jars.17.2_43
  19. ^ a b 早川富博、鈴木祥子、小林真哉 ほか、【原著】「糖尿病患者における発芽玄米摂取による糖・脂質代謝への影響」『日本農村医学会雑誌』 Vol.58 (2009) No.4 P.438-446, doi:10.2185/jjrm.58.438
  20. ^ 玄米食、長い食経験こそがエビデンス(日本食品機能研究会)
  21. ^ 後藤邦康、酒造用原料米,市販清酒および酒粕中のカドミウム 日本醸造協会誌 Vol.104 (2009) No.3 p.209-214, doi:10.6013/jbrewsocjapan.104.209
  22. ^ 農林水産省/「平成24年度 国産玄米及び精米中のヒ素の含有実態調査」の結果について
  23. ^ 小栗一太、赤峰昭文、古江増隆 『油症研究 30年の歩み九州大学出版会、2000年6月。ISBN 4-87378-642-8。序文、268-269頁。
  24. ^ Hurrell RF. "Influence of vegetable protein sources on trace element and mineral bioavailability." J Nutr. 133(9), 2003 Sep, pp2973-7. PMID 12949395
  25. ^ 早川利郎、伊賀上郁夫、「フィチン酸の構造と機能」 『日本食品工業学会誌』 Vol. 39 (1992) No. 7 P 647-655, doi:10.3136/nskkk1962.39.647

関連項目[編集]

外部リンク[編集]