籾殻

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籾殻
籾殻を飛ばす作業。大正時代

籾殻(もみがら)とは、(籾米)の最も外側にある皮の部分のこと。粗糠(あらぬか)、磨糠(すりぬか)、籾糠(もみぬか)、また単に(もみ)ともいわれる。

概要[編集]

正常に成長し十分成熟したイネは、その穂の部分に籾をこしらえる。籾殻は籾の内容物を外部から保護する役割を担っている。を食用とする人は稲刈り後、脱穀籾摺りの過程を経て玄米を得る。この調製作業で籾殻が発生する。

籾殻は籾の約2割の質量を占める[1]。組成の大半はセルロースヘミセルロースリグニンといった難分解性有機物であり、非晶質シリカ(ケイ酸)を約2割含む[2]

農業活動により、全世界では年間約1億4000万トン、日本では年間約160万トンの籾殻が発生すると推算される[1]。籾殻は余剰が問題とされる一方で、潜在的に価値を持った未利用資源であるとも考えられている。

利用[編集]

日本での主な利用[編集]

日本においては籾殻の大半が堆肥原料、家畜の敷料、土壌改良材マルチング材、暗渠資材、養液栽培用の培地として利用されている[1][3]。しかしながら家畜の減少などに伴い籾殻の使途も減少し[2]、2014年時点では籾殻の約2割が廃棄され、約3分の1が有効利用されていないと推計される[1]

燻炭の原料にもされるが、現代では廃棄物処理法改正により籾殻の野焼きが基本的に禁止されたことや、ライスセンターカントリーエレベーターといった共同利用施設での籾摺りの増加により、圃場での燻炭製造は減っている[3][2][4]。日本国内で野外焼却された籾殻の量は、1990年推計で58万トン、2018年推計で14万トンとなっている[5]

エネルギー利用[編集]

籾殻の燃料利用は、稲作の盛んな東南アジアでは比較的おこなわれている。タイ王国では籾殻を利用したバイオマス発電が普及しており、籾殻の買い占めによる価格高騰も課題とされる[6]ベトナムでは煉瓦炉や蒸留所など小規模事業所における主要なエネルギー源として利用されてきたが、新たにバイオマス発電への利用が進んでいる[7][8]フィリピンでは籾殻の野焼きが社会問題となったことから、国により低公害なバイオマス発電の開発が進められている[6]

日本においても、籾殻ボイラーや、籾殻を加熱圧縮した固形燃料の「モミガライト」、バイオコークス[9]といった形で燃料利用が図られている。しかしながら、後述の結晶質シリカの生成や煤の問題があることから開発は進んでおらず[4]、国内発生する籾殻のうち燃料利用は約1%に留まる[1]

籾殻燃料の特徴としては、非晶質シリカが豊富に含まれ、灰分が多い反面、肥料などへの燃焼灰の利用が期待できる点があるが、高温燃焼に伴い発癌性物質で不溶性である結晶質シリカが生成するため、これらの抑制が課題とされる[10][11]。結晶質シリカの発生を抑えたエネルギー化技術としては、ガス化バイオマス火力発電などが研究されている[12]。また、燃焼によって生成した結晶質シリカを溶融・急冷することで非晶質シリカを生成し、低毒化する技術も研究されている[13]

新材料[編集]

従来、籾殻の燃焼灰からは高純度シリカの抽出が困難であったが、燃焼前にアルカリ金属を除去することで高純度の非晶質シリカを抽出可能にする技術が開発された[13]。この技術により籾殻由来の高純度シリカを用いた、セメント強化材・半導体封止材・タイヤ補強材など高価値な工業材料の生産が期待されている。

炭化籾殻から高性能なリチウムイオン二次電池キャパシタ電極材料を製造する研究もある[14][1]秋田大学グループによるキャパシタ電極の研究例では、炭化籾殻に含まれるシリカの化学的性質を利用しつつ、またシリカの除去量を制御することで、正負電極に最適な性質を作り出せるという。

また電極材料研究の応用として、籾殻由来の多孔質炭素材料「トリポーラス」がソニーグループによって製品化され、繊維製品やボディウォッシュ製品に消臭・抗菌機能を与える材料として利用されている[15]。トリポーラスは活性炭の一種であるが、炭化籾殻に含まれるシリカの除去工程が加わることで、通常の活性炭より多様な大きさの孔が得られ、物質吸着・薬剤保持性能が数倍に向上しているという。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f 熊谷誠治 (2020年). “もみ殻の最先端リサイクル技術”. 秋田大学ウェブサイト: 情報公開. 2022年5月21日閲覧。
  2. ^ a b c 新潟市田園資源活用推進方針”. 新潟市 (2016年3月). 2019年12月19日閲覧。
  3. ^ a b 射水市バイオマス産業都市構想”. 射水市 (2014年7月). 2019年12月19日閲覧。
  4. ^ a b 結晶質シリカの生成を抑制する籾殻燃焼装置”. 農研機構. 2022年5月21日閲覧。
  5. ^ 5.7. 野外で農作物の残留物を焼くこと(3.F.)」 『日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2022年度4月版』国立環境研究所、2022年https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm10000017uzyw-att/NIR-JPN-2022-v3.0_J_GIOweb.pdf 
  6. ^ a b 法貴誠、真下英人「東南アジア諸国におけるバイオマス利用の動向」『日本エネルギー学会誌』第87巻第9号、日本エネルギー学会、2008年、749-752頁、doi:10.3775/jie.87.749 
  7. ^ 望月和博、迫田章義「ベトナムにおける地産地消型バイオマス利用システムの構築を目指して」『廃棄物資源循環学会誌』第24巻第1号、廃棄物資源循環学会、2013年、32-37頁、doi:10.3985/mcwmr.24.32 
  8. ^ ベトナム:稲作副産物「もみ殻」バイオマス燃料製造に企業参入の流れ”. AGRI IN ASIA. empag inc (2016年10月17日). 2022年5月21日閲覧。
  9. ^ ダクタイル鉄管生産工程におけるCO2削減に向けた代替燃料の実証試験を実施~キュポラ溶解炉でもみ殻を主原料とする多原料バイオコークスを代替使用した世界初の試み~クボタ・ニュースリリース(2018年5月11日)2018年5月15日閲覧
  10. ^ 「バイオマス利用技術の現状とロードマップについて」の見直しについて”. 農林水産省 (2019年5月27日). 2019年12月10日閲覧。
  11. ^ 竹内美樹「特集 農と食 起業入門 もみ殻を肥料化するプロジェクト」『産学官連携ジャーナル』第9巻第2号、科学技術振興機構、2013年2月、14-15頁。 
  12. ^ いままで捨てていたものから新たなエネルギーを創る もみ殻ガス化発電(実証試験中)ヤンマー(2021年10月31日閲覧)
  13. ^ a b 「工学との連携による農林水産物由来の物質を用いた高機能性素材等の開発」研究戦略”. 農林水産省 (2016年5月15日). 2022年5月22日閲覧。
  14. ^ もみ殻から次世代型電極 秋田大・熊谷教授らが製造成功 スマホやPC電源など応用多岐に”. 産経ニュース. 産経新聞社 (2019年8月30日). 2022年5月22日閲覧。
  15. ^ 加藤佑 (2020年2月13日). “ソニーが進めるサーキュラーイノベーション。もみ殻から生まれた新素材「トリポーラス」”. IDEAS FOR GOOD. ハーチ. 2022年5月22日閲覧。

関連項目[編集]