地下水汚染

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地下水汚染(ちかすいおせん)とは、地下水中に重金属有機溶剤農薬などの各種の物質や細菌などが、自然環境や人の健康・生活へ影響を与える程度に含まれている状態をいう。公害の一つ。地下水へ混入した原因は、人為・自然を問わない。また混入している物質は、有害/無害を問わない。

なお表流水や陸水(河川や湖沼)の同様の現象は、水質汚濁と言う。

地下水汚染の捉え方[編集]

  • 周辺の自然や人へ影響がない程度に地下水に各種物質が含有している状態については、地下水汚染とは言わない。また人が資源として利用する温泉などの有用物質を含む状態(たとえそれが有害物質であったとしても)、汚染とは言わない。
  • 地下水汚染は、地下水の環境基準値を超過する状態の事と考えられがちだが、環境基準は「人の健康の保護および生活環境の保全のための目標」であること、対象物質が限られていることから、環境基準値超過状態は、あくまでも一面を捉えているのみであることに注意が必要である。

地下水汚染発生の特殊性[編集]

原因が化学物質の場合[編集]

大気汚染や、表流水の水質汚濁と異なる地下水汚染独自の特徴がある。地盤中の汚染問題であることから、土壌汚染と重複する点が多い。

  1. 公害を体感しにくいこと
    • 地下水汚染は、体感しにくい公害である。有害物質であるにもかかわらず、それが地下に浸透することにより、目視・においを体感しにくくなり、有害性を感じにくくなってしまう。有害物質を地下に浸透させるという行為は、体感できないがゆえ、公害を発生させているという認識が甘くなり、結果として公害の防止対策として低く扱われてしまう。各種法令等の公害防止施策が制定される以前は、屋外ヤードに野積みによる漏出や、行政指導による工場敷地内への廃水の地下浸透など、地盤に有害物質が染みこみやすい状況にあった。
  2. 長期にわたり滞留・蓄積する(拡散が非常に遅い)こと
    • 地下水に浸透した有害物質は、帯水層の地層・土壌への吸着などの現象により、また地下水自体の流速が極端に遅いことにより、滞留・蓄積性の高い汚染現象といわれる。
  3. 地盤の環境機能は公共財的性格が強いが、土地は所有者の私的財産であること
    • 地盤の持っている環境機能は、大気や陸水と同様、ほぼ公共財として機能している。ところが地盤そのものは土地として私有財産となっており、この環境機能も土地の構成要素として含まれている。地下水汚染の対策では、この憲法で保障された私有財産に様々な制限を加えることが考えられる。この点については、地盤沈下(私有財産としての地下水の無制限な過剰揚水が原因)公害の対策を発端として、昭和40年頃から「地下水の私水論/公水論」が議論されている。しかし現在まで定まった考え方がなく、棚上げになっている。
  4. 汚染原因者負担の法則(汚染者負担原則)の厳格な適用が困難であること
    • 地盤中の汚染は蓄積性の高い汚染である(地下水の移動速度は非常に遅い)ため汚染発生時期を捉えにくいこと、物質の有害性の認識が後になって変わること、の2点により、汚染の発生時期や汚染原因者を厳密に特定することが困難である。

地下水汚染の発生は、その時代の社会的状況に強く依存する。まず第一に物質の化学的知見の不足から来る影響評価が未熟なこと、次に公害としての社会的認識不足、以上の2点である。

  1. 物質の化学的知見の不足
    • 取り扱っている物質が、後の化学的知見の発展により、有害ではない物質から、有害である物質と判明することがある。例えば、現在有害と考えられているテトラクロロエチレン(略称にPCEと表示されることが多い)はドライクリーニングの洗浄剤として広く使われていた。当時、洗浄力の高さ・非引火性などの特徴から「夢の溶剤」として、使用が奨励されていた。また有害ではないと考えられていたため、その廃液を地下浸透や大気拡散させていた。このような物質は、他にも「クロム鉱さい」があり、これは地盤強化剤として江東区(東京都)などの沖積低地の地域(軟弱地盤)に埋め立てられ、現在まで続く広域の六価クロム汚染を発生させている。
  2. 汚染を体感しにくいがゆえの公害としての社会的認識不足
    • 有害物質の使用者にとって、地盤への地下浸透は目の前から無くなってしまうため、公害としての認識が低くなってしまう。なお水質汚濁防止法では無過失責任主義が規定されており、地下浸透した場合、故意・過失に関係なく、法的な責任を有する。
    • 使用地域周辺においても、異常性を認識しにくいため、ごく近傍に有害物質があったとしても、公害としての認識が低くなってしまう。
    • 体感しにくい対象を未然に防止するためには、認識を高めることが最も重要である。このためには基礎教育が重要であるにもかかわらず、理科教育の中で扱われることは少なく、また理科離れの社会的現象も、問題を顕在化させにくくしている。

原因が細菌や微生物等の生物の場合[編集]

汚染源の地域性[編集]

  • 局所的汚染源(ポイントソース(point_source))
    • 汚染源(汚染を発生させる原因場所)が特定の局所的な地域や箇所である汚染源の事を、ポイントソースと言う。例えば工場を汚染源とするような現象であり、その汚染源対策は局所的に工場の地域に対して行う。
  • 広域的汚染源(ノンポイントソース)
    • 日本では2006年12月21日に環境省は2005年度地下水質測定結果を公表。調査対象4,122本の井戸のうち、174本で地下水中の硝酸窒素濃度(亜硝酸性窒素含む)が環境基準(10mg/L)を超過した。この超過率4.2%は、カドミウムなどの他の調査項目と比べて最も高い。硝酸性窒素による地下水汚染は、肥料の過剰投与や家畜ふん尿などの帯水層への浸透が原因と考えられている。窒素肥料を施肥した地域全域が地下水の汚染源となっているように、広い地域が地下水の汚染源となっている事を、ノンポイントソースと言う。ノンポイントソース汚染源対策は、汚染源が広域であるため、汚染源に対する直接の対策が困難であることや、汚染原因者負担の法則(汚染者負担原則)の厳格な適用が困難という性質がある。
    • 下水管の老朽化による線状の汚染下水の地下浸透や、水路や都市河川の汚染底質を透過した汚染水が地下水に浸透することも、このノンポイントソースによる汚染ともいえる。

日本における地下水汚染問題[編集]

地下水中に溶存している有用物質を使用することを目的とする温泉やかん水天然ガスを含む地下水)のような施設において、その使用後の排水(例えば温泉において浴用施設等の使用後)は、水質汚濁防止法鉱山保安法による排水規制を受ける。

国や自治体の施策上の地下水汚染は、対象が地下水のみの汚染状態を示している。地下水は帯水層という地層中(土壌層も含む)の中を流れている。すなわち、地下水が汚染されていればその入れ物である帯水層自体も汚染されていると考えられる。しかし国や自治体の施策では、地下水のみを取り扱い、土壌については、土壌汚染という別な分野として扱われている。このように地下水と土壌に分離する施策は、日本独自の特徴である。

原因が化学物質の場合[編集]

国土交通省の「今後の地下水利用のあり方に関する懇談会(佐藤邦明座長)」報告書には今後の地下水利用のあり方に関する提言として地下水資源マネジメントの推進が挙げられている。この中で、地下水汚染等の現状を把握し適切な管理を行うことが社会的問題の解決に繋がるとの指摘がある。

環境基準を超過した事例[編集]

ダイオキシン類[編集]

環境省が発表した平成19年度ダイオキシン類に係る環境調査結果によると地下水のダイオキシン類に関する環境基準(1pg-TEQ/L 以下)を下記の地点で超過していた。

  • 福島県(相馬市蒲庭):平均値2.4pg-TEQ/L (最大値3.1)
  • 大分県(大分市廻栖野):平均値1.7pg-TEQ/L(最大値2.1)
重金属や有機化合物等[編集]

2008年千葉県柏市で食品工場の地下水において問題が発生し、大量の商品回収などを行い、大量の廃棄物と多額の経済的損失が発生した。 環境省が発表した平成19年度地下水質測定結果によると地下水の環境基準を下記の地点で超過していた。

原因が細菌等の生物の場合[編集]

  • O157:1990年に埼玉県浦和市(現在のさいたま市)の幼稚園において、園内に給水されていた井戸水の飲用により、園児死者2名、有症者268名の集団感染が発生した。
  • 赤痢:1998年に長崎県長崎市内の私立大学および附属高校において、同大学構内に設置されていた井戸水の飲用により、感染者が821名の長崎県内では過去最大規模の集団感染が発生した。

アメリカ合衆国における地下水汚染問題[編集]

アメリカ合衆国では約50万か所で土壌汚染や地下水汚染が発見されており、ラブキャナルなどでは深刻な問題となっている[1]

土壌汚染・地下水汚染対策としてスーパーファンド法が制定され、関連企業が浄化のための基金を拠出したが訴訟費用のために多くが使われ浄化のためにはあまり利用されなかった[1]。そのため石油や指定された化学物質(42種類)に対して課税され、これを基金に土壌や地下水の浄化対策が行われている[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 浦野真弥、浦野紘平 『地球環境問題がよくわかる本』、2017年、97頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]