新河岸川産業廃棄物処理対策

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新河岸川産業廃棄物処理対策(しんがしがわさんぎょうはいきぶつしょりたいさく)とは、1988年埼玉県朝霞市上内間木新河岸川河川敷で発見された産業廃棄物に対して遮蔽処置や除去処分など埼玉県が実施している取り組みで、1970年前後に不法投棄されたPCBドラム缶など汚染土壌の問題[1] [2]解決(=適正処理)を推進するものである。

JR武蔵野線の車窓より見下ろした現地

概要[編集]

経緯[編集]

一級河川である新河岸川の左岸河川敷(朝霞市上内間木)で大量のドラム缶が不法投棄された。犯人の特定が出来ず公訴時効が成立した[3]。ドラム缶の廃液には毒性の強い高濃度のPCB廃棄物等が含まれていた。土地を管理する埼玉県[4]の公表によるとドラム缶が見つかったのは1988年(昭和63年)12月。1990年(平成2年)5月には周囲を鋼矢板で囲み土壌汚染の拡大を防止するため応急措置をとった。1996年(平成8年)から掘削時の安全確保や埋設物中の揮発性有機溶剤の除去を目的として土壌ガス吸引作業を実施している。2009年(平成21年)学識者らの技術検討委員会を立ち上げ無害化に向けて検討を行なっている。

費用[編集]

当該対策にかかった総費用や、浄化(廃棄物の撤去および処分)に要する費用は明らかにされていない。同県から地域住民に対して、産廃特措法(特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法)[5]の実施計画を定めるかどうか(同法に基づく特定支障除去等を講ずる必要がある事案かどうか)の説明はなされておらず [6] [7]、 同県は国に対して同法の期限延長を要望していなかった。同法の期限延長を望む意見は滋賀県などの他県でも出ており、民主党が“有効期限の10年延長を求める改正法案[8]衆院に提出した経緯はあるが同法案は廃案の公算[9]が大きいとされていた。その後、環境省は2012年度末で失効する同法の期限を延長する方針を決めている。

2004年(平成16年)以降に同法の適用を受けた事案では数億円から数十億円級の事業費が公表されているが、いまだ問題解決していない当該対策には部分的に公表されている金額だけでも既に数億円の費用が生じている。不法投棄の原因者や、県外から持ち込まれた廃棄物かどうかが特定できないまま、国の財政支援を受けずに同県民が当該対策費用を負担し続けている。

環境省は、同法の実施計画を都道府県等に策定させる際、行政責任の所在など行政対応を厳しく検証し、その内容を明らかにさせることとしている。風化されつつある当該有害廃棄物に関して国の財政支援を受けるには一連の同県の対応が改めて浮き彫りとなるため同県にとっては難所ではあるが、敢えてそのことについて触れなければならない厳しさがある(環境省『循環型社会の形成の状況に関する年次報告』行政の的確な執行[10])。

連携[編集]

河川法第59条では“河川の管理に要する費用の負担原則”として、同法および他の法律に特別の定めがある場合を除き一級河川に係るものにあっては国が河川の管理に要する費用を負担する事となっている [11]。上述した通り、新河岸川は一級河川である。更に同法第60条2項では「第9条2項の規定により都道府県知事が行うものとされた指定区間内の一級河川の管理に要する費用は、当該都道府県知事の統轄する都道府県の負担とする。(当該費用のうち)その他の改良工事に要する費用にあつては(国が)その2分の1を負担する」という事を謳っている。

当該現場の土地所有者である国(国土交通省)は、対策費用の捻出や有害物質の撤去・完全無害化を推進する役割(当該処理対策の主管)をしていない。本来であれば不法投棄された土地の場合、排出事業者が産業廃棄物の撤去計画を立案し、当該事業者がかかる費用を負担する事になる(排出事業者責任)。排出事業者や不法投棄した行為者が特定出来ない場合は、土地所有者が責任を持つのが通例とされている。

主たる有害物質[編集]

PCB、ダイオキシン類重金属等(カドミウム水銀砒素六価クロム)、揮発性有機化合物(トリクロロエチレンテトラクロロエチレンベンゼン)

同県が公表している廃棄物の量は、埋まっている状態のものが推定で10,100立方メートル。試験的に掘削しドラム缶で保管している状態のものが307立方メートル。合計:10,407立方メートル。

有毒特定有害物質は混合しているため比率が確認できていない。立方メートルをキログラムに換算すると莫大な数値となる。


年表[編集]

1970年代

  • 1970年前後(昭和40年代) 不法投棄推定時期
  • 1973年(昭和48年6月) 悪臭に悩む住民の訴えで朝霞市公害調査対策特別委員会が設けられた。議事録によると『有害物質が河川に流れ、魚が浮いた』『大量のプラスチック、廃材、コンクリート片で河川の形が変わった』『悪臭がひどい』等の現地調査が報告された(埼玉新聞1990年10月29日付“流れ出した大量の廃液”記事掲載)
  • 同年(7月) 告発不作為問題】当時の埼玉県知事と朝霞市長が連名で不法投棄をしていた六業者に対して『違法行為を許すことはできない。ただちにかかる行為を中止するよう警告する』との警告書を出した(読売新聞1990年10月21日付“緊急リポート”記事掲載)。この際、刑事訴訟法に基づく告発がなされず、警察捜査行政市民監視力強化には及ばなかった

1980年代

  • 1987年(昭和62年8月)~1988年(昭和63年10月) 新河岸川河川改修事業に伴う用地買収
  • 1988年(昭和63年12月) 【用地調査不足問題】掘削築堤工事中に廃棄物の埋設を確認。高水敷予定箇所を掘削したところ、ガラス、ゴムくず、廃プラスチック、有機溶剤入りのドラム缶等の廃棄物が埋設されていることが確認された。
  • 1989年(平成元年1月) 悪臭発散問題】地域住民よりガス臭いとの苦情・通報が相次いだ[12]。悪臭発散防止措置が講じられていなかった事に起因した。
  • 同年(1~3月) 飛び火問題】横浜市内の処分場に運び焼却していた新河岸川河川敷の産業廃棄物について、同処分場の近隣六市から悪臭に対する住民苦情が殺到。横浜市の処分場周辺でも騒ぎが起き、3月には搬入を拒否された(毎日新聞1990年11月22日付“六価クロムに汚染”記事掲載)
  • 同年(6月) 悪臭の飛散防止のための覆土作業を実施
  • 同年(9~10月) ボーリング調査等、産業廃棄物の平面及び深度方向の分布状況の把握

1990年代

  • 1990年(平成2年5月) 現場周囲に鋼矢板(シートパイル)を打設及び防水シートによる覆いを実施。鋼矢板打設等工事費:1億2700万円(1992年3月10日埼玉県議会にて同県土木部長答弁)
  • 同年(8月) 新河岸川産業廃棄物処理技術調査検討委員会の設置。大学及び国・県の研究機関の専門家らで構成(1991年(平成3年)11月まで全12回開催)。調査・実験分析費用及び検討委員会の運営経費(平成2~3年度合算):1億500万円支出(1992年3月10日埼玉県議会にて同県土木部長答弁)
  • 同年(10月) 爆発性物質検出】当該現場よりエチルメルカプタン(エタンチオール)が検出された(読売新聞1990年10月10日付“1989年1月の悪臭(ガス臭かった)原因の可能性がある”記事掲載)
  • 同年(10月) 厚生省(現厚生労働省)職員が現地を視察
  • 同年(10月~) 現場周辺3箇所の監視用井戸で水質モニタリング開始。現在は10箇所の監視用井戸で水質モニタリングを実施している。
  • 同年(11月) 朝霞市で臨時の市議会が開催された。議会では新河岸川での“奇形の魚”等に関して議論があり、その数日後にPCB等の有害物質による土壌汚染を埼玉県が隠していたことが発覚。住民運動が巻き起こり、マスコミ報道で社会問題化した。
  • 同年(11月) 【有害物質隠蔽問題】当時の県知事が記者会見の席で土壌汚染を隠していた事について陳謝した(11月9日)。
  • 1991年(平成3年3月) 埼玉県議会にて当時の副県知事より「1990年10月~1991年2月にかけて不法投棄に関わった者を究明するために地主・業者・付近住民および当時の県担当者の延べ71名に聞き取り調査を実施したものの、土地の売主はドラム缶の埋立について承知していなかった。(当該用地を買収する前の)借主を調査したが1976年(昭和51年)に県内数か所で有害物の入ったドラム缶を不法投棄した事件で逮捕されていて調査を進めたが、この者は1983年(昭和58年)に朝霞市から富士見市に転出した後、1985年(昭和60年)には職権により住民票が除票となっており、行方の追及が難しい状況で投棄者を特定することに至っていない」との答弁がなされた(3月1日定例会)
  • 同年(6月) 法的責任問題】埼玉県議会にて当時の県知事より、刑事責任については時効が完成しており民事責任についても損害賠償請求が困難との答弁がなされた(6月25日定例会)
  • 同年(9月) 新河岸川産業廃棄物処理推進委員会の設置。県の関係各課所で構成
  • 同年(9月) 朝霞市議会にて当時の市長が答弁『(有害物質による地下水汚染に関して)基準値を超えた井戸の所有者に対して、保健所とともに飲用に用いないよう指導した』
  • 1992年(平成4年10月) 埼玉県議会にて河川改修(治水)事業の遅れ・治水整備の緊急性に関して意見および質疑があり、安全で住みよい生活環境の実現を望む発言がなされた(10月1日定例会,神谷裕之議員:朝霞市)
  • 1994年(平成6年3月) 埋設区間の洪水防御対策護岸工事(鋼管矢板21m)実施
  • 同年3月~1995年(平成7年2月) 小規模掘削試行工事。埋設廃棄物の分布状況の把握及び有機溶剤等の有害物質の掘削方法を検討するため試掘を行った。掘削した廃棄物及び汚染土壌はドラム缶950本に収納し、仮置きテント内に保管している。
掘削した廃棄物・汚染土壌の仮置きテント
  • 1994年(平成6年4月~) 大気環境モニタリングの開始(測定物質:トルエンベンゼンテトラクロロエチレントリクロロエチレン)。サンプリング地点数:3箇所(平成10年度からは1箇所)
  • 1996年(平成8年5月~) 脱有機溶剤試験工事を開始。埋設箇所の安全性の向上、掘削時の防曝(防爆)[13]対策等の軽減を図るために、土壌ガス吸引法により土壌中の有機溶剤を吸引している。     
  • 1997年(平成9年12月) 朝霞市議会にて当時の市長が答弁『(毎年1回定期的に実施している地下水のモニタリングに関して)基準値を超えた井戸の使用者及び周辺の井戸の使用世帯に対し、飲用に使用しないよう指導した』

2000年代

  • 2000年(平成12年12月) 千葉県市原市議会にて当該対策の状況が引き合いに出された『朝霞市の例:処理費用(現在まで)10億円以上県の負担[14]』(12月14日定例会)
  • 2009年(平成21年6月) 新河岸川産業廃棄物処理技術検討委員会を設置。大学及び国の研究機関の専門家らで構成。新河岸川産業廃棄物の無害化処理に向けて、具体的かつ現実的な工法案の検討を行う。
  • 同年(8月) 第1回新河岸川産業廃棄物処理技術検討委員会を開催
    • 補足調査の結果について
    • 今後の調査計画(案)について
    • 処理技術公募(案)について
  • 2009年(平成21年12月) 第2回新河岸川産業廃棄物処理技術検討委員会を開催
    • ダイオキシン類の調査結果について
    • 県の処理方針(案)
    • 処理技術公募(案)について

2010年代

  • 2010年(平成22年6月) 第3回新河岸川産業廃棄物処理技術検討委員会を開催
    • 追加調査の結果について
    • 処理技術公募(案)について
  • 2011年(平成23年9月) 第4回新河岸川産業廃棄物処理技術検討委員会を開催
    • 技術検討委員会について
    • 平成22年度事業の結果について
    • 有機溶剤吸引工事について
    • 無害化処理技術提案について(非公開)

埼玉県新河岸川産業廃棄物処理推進委員会技術検討委員会】 当該会議は原則公開で傍聴が可能。会議の結果は公式ホームージで公開。

対策工事の入札状況[編集]

【直近の有機溶剤関連工事】

  • 2007年(平成19年)5月17日開札(指名競争入札) 名称: 新河岸川産業廃棄物処理対策工事(脱有機溶剤試験工事) 落札業者名: ㈱鴻池組金額: 2500万円
  • 2008年(平成20年)9月18日開札(指名競争入札) 名称: 新河岸川産業廃棄物処理対策工事(脱有機溶剤試験工事) 落札業者名: ㈱鴻池組 さいたま営業所、金額: 1490万円
  • 2009年(平成21年)6月19日開札(一般競争入札) 名称: 新河岸川産業廃棄物処理対策工事(脱有機溶剤試験工事) 落札業者名: ㈱鴻池組 さいたま営業所、金額: 2590万円
  • 2010年(平成22年)7月14日開札(一般競争入札) 名称: 新河岸川産業廃棄物処理対策工事(有機溶剤吸引工) 落札業者名: ㈱竹中土木関東支店、金額: 1816万円
  • 2011年(平成23年)11月9日開札(一般競争入札) 名称: 新河岸川産業廃棄物処理対策工事(有機溶剤吸引工) 落札業者名: ㈱竹中土木関東支店、金額: 2290万円

【当該現場における汚染土壌処理業[15]者】 該当無し


脚注[編集]

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  1. ^ “不法投棄推定時期”(新河岸川産業廃棄物対策の経緯)-埼玉県
  2. ^ “報道記事”(1990年11月9日)(1990年11月23日)-朝日新聞
  3. ^ “市議会議事録(時効)”-朝霞市議会臨時会(1990年11月5日)
  4. ^ “河川表”-埼玉県
  5. ^ “産業廃棄物指導課(主な業務内容:4)”-埼玉県
  6. ^ “環境省告示第百四号(pdf10頁目:住民への説明)”-環境大臣公表(2003年10月3日)
  7. ^ “産廃特措法に基づく特定支障除去等事業について”-環境省
  8. ^ “有効期限の10年延長を求める”-民主党(2009年4月14日)
  9. ^ “延長法案は廃案の公算(日刊資源新報)”-㈱資源新報社(2009年5月)
  10. ^ “平成15年度循環型社会の形成の状況に関する年次報告”-環境省
  11. ^ “河川法”-イーガブ(総務省が運営する総合的な行政ポータルサイト)
  12. ^ “ガス臭いと多くの苦情”-埼玉県議会定例会(1990年12月10日)
  13. ^ “溶剤・爆発物を含む不法投棄汚染対策工事”-㈱鴻池組・取り組み
  14. ^ “経費の負担”-市原市議会
  15. ^ “土壌汚染対策法に基づく汚染土壌処理業者一覧”-環境省

関連項目[編集]

外部リンク[編集]