コンテンツにスキップ

カドミウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カドミウム インジウム
Zn

Cd

Hg
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
48Cd
外見
銀白色
一般特性
名称, 記号, 番号 カドミウム, Cd, 48
分類 貧金属
, 周期, ブロック 12, 5, d
原子量 112.411
電子配置 [Kr] 5s2 4d10
電子殻 2, 8, 18, 18, 2(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 8.65 g/cm3
融点での液体密度 7.996 g/cm3
融点 594 K, 321 °C
沸点 1038 K, 765 °C
融解熱 6.21 kJ/mol
蒸発熱 99.87 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 26.020 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 530 583 654 745 867 1040
原子特性
酸化数 2, 1(塩基性酸化物
電気陰性度 1.69(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 867.8 kJ/mol
第2: 1631.4 kJ/mol
第3: 3616 kJ/mol
原子半径 151 pm
共有結合半径 144 ± 9 pm
ファンデルワールス半径 158 pm
その他
結晶構造 六方晶系
磁性 反磁性[1]
電気抵抗率 (22 °C) 72.7 nΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 96.6 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 30.8 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(20 °C) 2310 m/s
ヤング率 50 GPa
剛性率 19 GPa
体積弾性率 42 GPa
ポアソン比 0.30
モース硬度 2.0
ブリネル硬度 203 MPa
CAS登録番号 7440-43-9
主な同位体
詳細はカドミウムの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
106Cd 1.25% > 9.5 × 1017 y εε2ν - 106Pd
107Cd syn 6.5 h ε 1.417 107Ag
108Cd 0.89% > 6.7 × 1017 y εε2ν - 108Pd
109Cd syn 462.6 d ε 0.214 109Ag
110Cd 12.49% 中性子62個で安定
111Cd 12.8% 中性子63個で安定
112Cd 24.13% 中性子64個で安定
113Cd 12.22% 7.7 × 1015 y β- 0.316 113In
113mCd syn 14.1 y β- 0.580 113In
IT 0.264 113Cd
114Cd 28.73% > 9.3 × 1017 y ββ2ν - 114Sn
115Cd syn 53.46 h β- 1.446 115In
116Cd 7.49% 2.9 × 1019 y ββ2ν - 116Sn

カドミウム: cadmium [ˈkædmiəm])は、原子番号48の金属元素で、元素記号Cd である。亜鉛族元素の1つであり、化学的挙動は亜鉛と似ており、常に亜鉛鉱にカドミウムも含まれているため、亜鉛精錬の際に回収されている。

有害物質として知られる[2]。人体にとって有害であり、体内に吸収されると腎臓に機能障害を引き起こすことなどにより、取り扱いおよび鉱山などからの排水の管理には注意を要する。日本ではカドミウムによる環境汚染により、富山県の神通川流域で発生したイタイイタイ病が問題となった[3]。また、カドミウムとその化合物は、WHOの下部機関IARCより、人体に対して発癌性を有する (Group1) と勧告されている。

ホタテガイ中腸腺(ウロ)には、カドミウムが蓄積することが知られている。

歴史

[編集]

1817年ドイツの科学者フリードリヒ・シュトロマイヤーにより、菱亜鉛鉱(炭酸亜鉛)から不純物として発見された[4]。同年には、同じくドイツのカール・ザムエル・ヘルマン酸化亜鉛から発見している。

名称

[編集]

カドミウムの由来には、諸説が有る。例えば、フェニキアの伝説上の人物であるカドモスが由来という説も有る[5]。また、ギリシャ語菱亜鉛鉱を意味するカドメイア (Kadmeia) に由来するという説も有る。

性質

[編集]

カドミウムの単体は、安定な六方最密充填構造 (HCP) をとる。銀白色で展性に富む軟金属である。比較的酸化されにくく金属光沢を保ちやすいものの、湿気の多い空気中では徐々に酸化されて灰色になり、金属光沢も失う。

塩酸および希硫酸などとは徐々に反応し、無色の2価の水和カドミウムイオンを生成する。

2価の水和カドミウムイオン Cd2+(aq) は極めて弱い酸としての性質 (pKa = 10.2) を示すが、その程度はよりイオン半径の小さな亜鉛イオン Zn2+(aq) より低い。カドミウムイオンはHSAB則では中程度のルイス酸として分類され、ヨウ化物イオンなどハロゲン化物イオンおよび、アンモニアなどと錯体を作りやすい。

常圧での融点は、320.9 °Cと金属元素の中では比較的低い方である[5]。常圧での沸点は、765 °Cである[4]。この値も金属元素としては、水銀およびアルカリ金属に次いで低く、したがって蒸気圧が比較的高い金属と言える。なお、カドミウム蒸気も有毒である。

用途

[編集]

ウッド合金の成分材料、顔料カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッドなど)、二次電池ニッカド電池)の電極など、さまざまな工業製品に利用されてきた。融点の低さを利用し、ハンダの原料として用いられたこともある。また、比較的中性子を吸収しやすい性質から、原子炉の制御用材料にも使われている。

カドミウムはめっき材料として、自動車関連業界で古くから用いられてきた。めっきが均質で、亜鉛よりはやや小さいイオン化傾向を持ち、犠牲電極として良好な性質を持つからである。また、潤滑油との馴染みが良く、焼き付きを防ぐ性質がある。やや黄色味がかったカドミウムめっきは、1960年代までのアメリカ車のエンジンルームでよく見られた。

しかし、近年はカドミウムの毒性が懸念され、その利用が忌避される傾向が強い。

化合物

[編集]

カドミウムは一般に、最外殻の5s軌道の電子のみを失った状態である+2価の酸化数を取っている状態が安定である。 しかし、稀に不安定ながら+1価 (Cd22+) 状態を取る場合もある。なお、10個の電子で満たされている4d軌道の電子を失うような酸化数は取らない[5]

塩化物および硫酸塩などとの塩は、一般的に無色の物が多く水溶性である。しかし、カルコゲンとの化合物は、有色である場合が多く、極めて水に対して難溶性である。

同位体

[編集]

カドミウムは、質量数が110から112の合計3つの核種が、安定核種である。この他に、質量数106、108、113、114、116も極めて長い寿命を持った核種であり、天然に存在する。

代謝

[編集]

カドミウムは、ヒトで体重1 kg当たり約0.7 mg含まれると見積もられている。カドミウムは亜鉛と同族元素であることから、生体内での挙動も類似している。多くの生物種において蓄積性が見られ、ヒトの体内には約30年間残留するとされる。したがって、一旦カドミウムに暴露されると、長期間その毒性に蝕まれる危険性がある。

カドミウムの毒性については、骨が極めて脆弱化するイタイイタイ病で大きな社会問題となった。さらに、慢性毒性では、肺気腫腎障害蛋白尿が見られる。腎障害では糸球体ではなく、尿細管が障害を受けるとされる。また、カドミウムは発ガン性物質としても知られている。これらの毒性の一部は、カドミウムが亜鉛と類似の生体内挙動を示すことから、亜鉛含有酵素の作用を乱した結果と考えられる。

これらの毒性に対する生体側の防御として、金属結合性タンパク質のメタロチオネインが誘導され、カドミウムを分子内に取り込み、毒性を軽減している。

食物の汚染

[編集]

カドミウムは亜鉛に伴って産出するため、公害への関心が薄かった時代には亜鉛の精錬過程で環境に放出され、精錬所の下流域の土壌に蓄積された。また、カドミウムを使用する工場からも排水を通じて環境に放出された。1970年通商産業省がメッキ工場、電気機器工場の排水を抜き打ち調査した結果、8割の工場で排水処理がされておらず、半数の工場で工場排水基準法の基準(当時0.1ppm)を超過した状態にあった[6]

土壌中に蓄積されたカドミウムは、土壌のpHが中性からアルカリ性では難溶であるために吸収されにくいのに対し、土壌の酸化条件によってイオンとして溶出して農作物に吸収され、蓄積される。日本列島の土壌は、大半が中性から酸性であることからカドミウムが溶出しやすい環境であるため、食物がカドミウムによる汚染を受けやすい状況にある。日本人は、食事によってカドミウムを1日当たり平均で26 μgを摂取していると見積もられている[7]。秋田県のように鉱山が多い地域では、稲がカドミウムを吸収しないようにする取り組みを行っている[8][9]

日本ではコメをはじめとする食物にカドミウムの含有基準が設けられており、基準値以上を含む農作物は販売が禁止されている。食品衛生法上は玄米において上限1 ppmと規定されており、これを超過したものはすべて焼却処分すると定められている。また、食糧庁の通達により、玄米中0.4 ppm以上が検出された場合は食用にはされず、すべて工業用途に回すとしてきたものの、2008年に発覚した汚染米問題で明らかになったように、糊原料には小麦粉が用いられており、コメの工業用の用途は確認されていない。

なお、世界各国の含有基準は、台湾:0.5 ppm、韓国・中国・EU:0.2 ppm、タイ・オーストラリア:0.1 ppmである。2006年7月に開催されたコーデックス委員会総会において、国際基準が精米中に0.4 (mg/kg)とされた。日本の自治体では海外への米の輸出する際の対応や将来的な国内基準の厳格化を見越し、カドミウム低吸収性品種の開発や奨励品種の切り替えが行われている[10]

国立がん研究センターによると、食品に含まれるカドミウムの長期摂取と、がん発症のリスクには明確な関連が見られないことが分かった。研究では、9府県の男女約9万人を対象に、喫煙や飲酒など、他のリスクを除いて、カドミウムの摂取量とがんの発症を調べたところ、相関は認められなかった。その理由として、食品に含まれるカドミウムの量が少ないことと、吸入ではなく摂取であることが考えられている[7][11]

脱カドミウムの動き

[編集]

ヨーロッパでは、カドミウムの人体への蓄積を防ぐため、カドミウムを含む製品の製造・輸入に関してRoHSとして知られる厳しい制限を課している。

2001年、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、ゲーム機のPS oneの周辺機器から基準値を超えるカドミウムを検出したとして、オランダ政府から対応策を求められた。これは、配線の赤いビニール被覆の顔料としてカドミウムの化合物が用いられていたことが原因であり、SCEは欧州全域で100億円以上の費用を投入して製品の回収と対策品の置き換えを余儀なくされた。この出来事は世界の電機部品メーカーに強い衝撃を与え、工業製品の生産現場からカドミウム離れが起こった。

前後して市販の二次電池も、負極に水酸化カドミウム Cd(OH)2 を使用するニッケル・カドミウム蓄電池(いわゆるニッカド電池)から、より大容量でかつカドミウムを使わないニッケル・水素蓄電池リチウムイオン二次電池への転換が進められている。

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ “軽石の有害物質、基準以下 沖縄県、有効利用検討”. 産経ニュース (産経新聞社). (2021年11月5日). https://www.sankei.com/article/20211105-JYH4OYYLMNIMVEMLVZKYWASO3M/ 2021年11月5日閲覧。 
  3. ^ 鈴木勉、田中真知『学研雑学百科 毒学教室 毒のしくみから世界の毒事件ま簿まで 毒のすべてをわかりやすく解説』株式会社学研マーティング、2011年、11ページ、ISBN 978-4-05-404832-4
  4. ^ a b 桜井 弘(編集)『元素111の新知識』 p.225 講談社(ブルーバックスB-1192) 1997年10月20日発行 ISBN 4-06-257192-7
  5. ^ a b c 桜井 弘(編集)『元素111の新知識』 p.225、p.226 講談社(ブルーバックスB-1192) 1997年10月20日発行 ISBN 4-06-257192-7
  6. ^ カドミウム野放し状態 違反工場、半数越える 八割が排水処理もせず『朝日新聞』1970年(昭和45年)11月6日 12版 23面
  7. ^ a b 食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連について”. がん対策研究所 予防関連プロジェクト. 国立がん研究センター. 2024年3月17日閲覧。
  8. ^ 稲作農家の みなさんへ” (PDF). 潟上市. 2024年3月17日閲覧。
  9. ^ “「あきたこまちR」危険視する根拠ない情報拡散 県注意呼びかけ”. NHKニュース (日本放送協会). (2023年12月25日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231225/k10014292221000.html 2023年12月25日閲覧。 
  10. ^ 水稲新品種「あきたこまちR」を紹介します!”. 美の国あきたネット. 秋田県 (2024年2月29日). 2023年12月25日閲覧。
  11. ^ 『読売新聞』2012年4月30日付朝刊2面

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]