鶏ちゃん
鶏ちゃん(けいちゃん)とは、岐阜県の郷土料理の一つで、鶏肉を使用した料理である。「けいちゃん」とも表記され、「鶏ちゃん焼き」ともいう。
元々は飛騨地方南部の下呂市(旧益田郡)や高山市南部、中津川市北部、奥美濃地方の郡上市の家庭料理である。1950年頃から食されていて、1960年頃から、地元の精肉店や居酒屋が独自に改良したと言われる。
「ひょうたん」と同じく「けいちゃん」という発音である[1]。
起源
北海道のジンギスカン料理が起源になっていると言われる。日本では1918年(大正7年)に軍隊、警察、鉄道員用制服の素材となる羊毛自給をめざす「緬羊百万頭計画」が立案された。その早期実現のために羊毛のみならず羊肉をも消費させることで、農家の収入増加と、飼育頭数増加を企図した。しかし日本人は従来、羊肉を食べる習慣がほとんどなく、産業廃棄物として畑の肥料として使われるような状態だった。この状況下、北海道では羊肉の臭みを消す調理法としてジンギスカン料理が生まれた。その後ジンギスカン料理は他の地域にも広まるが、局所的なものに限られた。
岐阜県においても例外ではなく、かつて羊の飼育が盛んだった地域でジンギスカン料理が広まるが、一般に普及せずに、牧羊が途絶えると同時に消滅した。しかしその調理法を応用して、鶏肉を同様に調理するようになった。これが鶏ちゃんの始まりである。羊肉か鶏肉かという違いを除けば、味のついた肉を野菜と一緒に焼いて食するという点において、ジンギスカン料理と同一である。
また「鶏ちゃん」の名称は、同じく北海道の名物料理で、魚を焼く類似の料理「ちゃんちゃん焼き」に由来すると言われる。
レシピ
- 鶏肉を一口サイズに切り分け、みそやしょうゆ、塩などをさまざまに調合したタレにつけ込んでおく。
- 下味のついた鶏肉を、キャベツやタマネギ、ニンジンなどの野菜と一緒に、鉄板やフライパンで焼いて食べる。
- 染み出た肉汁と野菜からの甘さが混ざったタレに、鍋料理一般のように、最後のシメとしてうどんや焼そばなど麺類を投入することもある。
なお、タレは各家庭、飲食店、製造業者により異なるが、郡上地区は郡上味噌味、下呂地区はしょうゆが多い。鶏肉の部位も製造業者によって異なり、鶏の内臓を用いたもの、あるいは混ぜたものもあり、鶏の皮肉と内臓を混ぜたものを当地では皮きもと称する。タレには、ニンニクやタマネギの摩り下ろしたもの、ゴマなどを加える場合もある。
関連する料理
同様に鶏肉の代わりに豚の肉や内臓を用いたものは、豚ちゃん(とんちゃん)とも呼ばれる。しかしながらそれ以外の部位よりも内臓を用いる場合が圧倒的に多く、呼称としてもホルモン(いわゆるホルモン焼き)の方が広まっている。
ただし他地域(岐阜県可茂地域・特に御嵩町)では「とんちゃん」の名称が普及している場合もある。詳細は「ホルモン焼き」の項目を参照。
一方で、内臓以外の部位の豚肉を用いて、鶏ちゃん同様の味付けをした豚肉が、近年「Booちゃん」といった商品名で、岐阜県下で販売された。
よくある誤解
いわゆる「とんちゃん」=「ホルモン焼き」が、豚の内臓を用いている事から、鶏ちゃんも鶏の内臓を用いているという認識が一部にあるが、これは全くの誤解である。鶏ちゃんの製造・調理法が製造業者や飲食店によって差異がある事から、上述の通り一部に鶏の内臓部分を食材に含む場合があるが、全てにおいてそうだという訳ではなく、内臓を含まない場合のほうが多数派である。
最近では、白鳥士郎によるライトノベル『のうりん』によって、この誤解が広められてしまっている。
流通
- 現在は、十数社が下味をつけた鶏肉を、「鶏ちゃん」「ケイちゃん」といった名称で販売している。殆どは岐阜県内で流通しているが、岐阜県資本のスーパーがある愛知県北部、名古屋市、滋賀県などでも販売されている。
- 2007年10月、岐阜県の特産品として販路拡大や新製品開発を目指し、「飛騨美濃鶏ちゃん協同組合」が設立されている。
鶏ちゃんに関連する組織
めいほう鶏ちゃん研究会
- 2007年頃、郡上市明宝地区で発足した「めいほう鶏ちゃん研究会」が中心となり展開している鶏ちゃんであり、郡上市明宝地区の飲食店、旅館で食べられる他、食料品店で購入可能。
- 味は店舗による異なるが、味噌や醤油、ニンニクで味付けした鶏肉(もも・むねなど)を、キャベツやタマネギといっしょに焼いたものである。
- 2010年9月、B-1グランプリに初参加。
鶏ちゃん合衆国
- 2012年にアメリカ合衆国をモデルに鶏ちゃん合衆国を設立。鶏ちゃんを提供する飲食店や鶏ちゃん関連商品などのメーカーを『州』、鶏ちゃんの小売りを専門に行う事業者を『自治区』と定めた。また古田肇岐阜県知事を顧問にあたる名誉大統領に据えている。独自の旗・国歌などを制定し、遊び心あふれながら活動を行っている。
関連商品
- 東海3県下のコンビニエンスストア(ファミリーマート・ローソン・サークルKサンクス)とのタイアップ商品を積極的に行っている。
- 鶏ちゃんに合うように作られた芋焼酎「岐阜県民 鶏ちゃん」が開発され、商品化された。
- CoCo壱番屋では、岐阜県と愛知県の一部店舗で、鶏ちゃんをカレーの具に使った「鶏ちゃんカレー」が提供されている。
脚注
- ^ 太字の部分にアクセントを付ける。