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ネットいじめ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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ネットいじめサイバーいじめ: Cyber-bullying)は、インターネット上におけるいじめである。ウェブサイトオンライン、あるいは電子メール携帯電話などの場で行われる。過激かつ陰湿なものはサイバー・リンチネットリンチとも呼ばれる。

近年、世界中で発生して問題になっており、インターネットの法規制・フィルタリング規制に発展する国・自治体も出てきている。

概要

ネットいじめは匿名性があるため、通常のいじめのように相手との物理的な力関係が軽視され、その意味が薄れる。(旧来のいじめでは加害者側になると思われた「人気者」や「不良」もネットいじめの被害者になりえる)。そのため、低い罪悪感でおもしろ半分に加勢しエンターテイメント化する特徴を持つ[1]。また、ネットは監視に欠け、いじめが横行しやすい。直接的な対面がないため、相手の気持ちが通常のいじめ以上にわかりにくいという特性を持つ。悪質なケースでは、標的を誹謗中傷するだけでなく、標的を特定して個人情報をネット上のあちらこちらにばら撒き[2]、更にはネットの世界を飛び出して自宅や職場に直接嫌がらせする場合まである。

学校や職場における通常のいじめならば、登校拒否をしたり転職したりすることによって直接的な被害から逃れることができる。しかし、ネットいじめの場合はインターネットがこの世に存在し続ける限り、そのような退避手段がないどころか、エスカレートしやすい。また、検索エンジンで個人名での検索結果にネットいじめが現れる場合、転校先でもいじめにあったり、転職活動で不利になったりするというケースも存在する(採用側は応募者の氏名で検索して、どのような人物であるか確かめようとする)。[要出典]ネットいじめはインターネットというネットワークを通して広範囲にいじめが広がる可能性がある。

ネットいじめに対する対策としては、刑事上・民事上の責任追及が考えられる。インターネットに書き込まれた時点で、公然性があり、例えば、刑法230条の名誉毀損罪の要件をみたす。名誉棄損罪は名誉の保護と言論の自由の保障の調和の観点より、原則真実を公表しても名誉毀損罪が成立し、230条の2で公共の利益のために真実摘示の必要性を認めたものであるが、政治家等は別として一般人が書き込まれたのであれば230条の2はまず問題とならない。名誉毀損罪は危険犯であり成立しやすいが、親告罪であるため書き込まれた本人の告訴が必要となる。告訴する際の証拠として、書き込まれたファイルを保存し、プリントアウトし日付順に並べて、書き込まれた内容・回数・サイト名が具体的にわかるようにするのも一つの方法である。他に侮辱罪・信用毀損罪・業務妨害罪・脅迫罪・迷惑防止条例などに該当することが考えられるが、この中には親告罪でないものもあるので、書き込まれた本人の告訴がなくても摘発可能なものもある。民事上の責任追及としては、民法710条に基づく損害賠償請求等がある。インターネットに書き込んだ方も起訴されれば、(弁護士・税理士等は登録できないなど)職を失うリスクを負っている。最近では、摘発される事例も増えてきている。

日本

いじめの調査法の制度が変更となり実質上の初の調査となった2006年度は4883件のネットいじめが確認されている。しかし、この件数は氷山の一角に過ぎないという指摘がある[3]

ネットいじめは中傷等が目に見える形でネット上に記録されてしまうため、いじめ被害者が癒されずに苦しみ続けるという性質を持つ[4]。特にウィキペディアなどのウィキを使用しているサイトや2ちゃんねるのような掲示板サイトなどは記録を半永久に保存し続けるというシステムを採用しており、管理者が削除しない限り中傷などの記録(ログ)がいつまでも残り続けてしまうため、ネットいじめの温床になっている[5]。日本の場合、改名が簡単ではないため、一度、実名がインターネット上に流出すると、長年苦しむことになりかねない。

またネットいじめは一度広まると、リアルの交友範囲から離れた他学校の生徒などにも広がる傾向があり、問題を深刻化させている[6]

ネットいじめは通常のいじめよりも第三者に発覚し難い。このため、ネットいじめの被害者が突発的に自殺してしまった場合、何が原因で自殺したのか遺族等には皆目見当もつかなくなるという危険性が高い[7]

ネットいじめの手口

学校裏サイト匿名掲示板で被害者の所属する会社や学校のスレッドで誹謗中傷を行なうというのが従来のパターンであった。だが、ネットの発展と共に最近ではより巧妙な方法を取るケースが散見され、多様化が進んでいる。全国webカウンセリング協議会によれば2005年辺りから相談が増えだしたそうだが「なりすましメール」が2007年時点では一番増えているとの事である[8]

ネットいじめを行なう側はあらかじめ痕跡を消すために、インターネットカフェプロキシサーバー経由で書き込みを行なうことも多いため、警察ですら書き込んだ人間の特定が難しいケースが多い。そもそも管理者のいない掲示板で実名をあげた誹謗中傷がされた場合は、削除を求めることが難しい。また、日本国外のホスティングプロバイダを使った場合は日本の法令が適用されないケースもあることから違法性の高い掲示板を日本国外のサーバーに置くことにより管理人の責任を免れようとする者も多く[9]、管理人が誰なのかすら判明しないこともある。

なお、この問題の性質上、悪質なサイトにアクセスしないように利用者が各自でフィルタリングを行なうのはネットいじめに関しては効果が薄い。現時点でのインターネットに関する法規制はプロバイダ責任制限法以外に無いことから、被害者の対応は非常に限られたものとなっている。

他にも、自分が知らない場所で悪口が書き込まれているかもしれないという恐怖心から、自分に関するキーワードを検索サイトで検索し続ける(あるいは、自分の名前で検索できない)被害者もおり、そのような恐怖心を狙ったいじめの手口もある[10]。検索エンジンからの個人名での検索で容易に誹謗中傷が発見できるという状況に対する規制も存在しないことから、検索結果に表示される内容についても検索エンジン運営会社に対応を求めることは難しい。なお、ヤフーをはじめとする検索エンジン運営会社の多くは、検索結果に表示される内容についての削除依頼は、依頼内容の正当性や削除権限の有無を確かめることができないとして、削除依頼自体を受け付けていない会社も多い。

いじめ的書き込みの分類

評論家荻上チキは、インターネット上におけるいじめ的な書き込みを「反映(オフラインでの関係が書き込まれている度合い)」「影響(その書き込みがオフラインでの人間関係とどの程度因果関係を持つか)」という2つの軸から次の4つに分類している[11]

ガス抜き型
日常生活でのストレス解消の一環として行われる否定的な書き込み。反映度も影響度も低い。
陰口型
オフライン上でも行われるような陰口を、こっそりとネット上で行っているもの。反映度は高いが影響度は低い。
なだれ型
偶発的に始まった特定の対象をからかう書き込みが、場の空気・雰囲気に押されてオフラインでの人間関係に影響しうるまで加速するケース。反映度は低いが影響度は高い。
いじめ利用型
個人情報の暴露などによって被害を与えたり、いじめの計画を練るためにサイトを利用するといったケース。反映度も影響度も高い。社会学者内藤朝雄によるいじめの定義「実効的に遂行された嗜虐的関与」に基づけば、4つのうちこのケースだけが「いじめ」に該当することになる。

行政・マスコミなどの反応

警視庁の電話相談窓口「ヤングテレホンコーナー」には、近年ネットによるいじめ相談が多くなっている。石川県では2007年1月22日にWEB巡視隊が発足した。

子供の間で起きているネットいじめに関しては、ほとんどのケースで携帯電話が使用されているため、保護者が安易に携帯電話を子供に買い与える状況に対して警鐘を鳴らす識者たちもいる[12]パソコン家族の前に置くという対策もあるがこれは対症療法に過ぎず、根本的な解決にはならない。インターネットを実名にするという考えもあるが、オークション詐欺の問題と同じようにネットでは簡単に偽名を名乗ることができるため、これもまた抜本的な解決策にはならない。

いじめている人間がその延長上でインターネットを使っていじめている相手を書き込むという行為がほとんどであるが、近年では警察も捜査を行うことが多くなり、逮捕補導される人間も多くなってきている。2007年4月27日には、実名を挙げた中傷を放置し続け、被害者の削除要請も無視し続けていたサイト管理者が名誉毀損幇助容疑大阪府警南署によって書類送検されており、ネットいじめを野放しにする管理者については法的責任を追及する動きが生まれている。

英国

イギリス(英国)の政府が実施した調査によると、英国の12歳から15歳の34%は、何らかのネットいじめを経験したことがあると回答した。その実態に対処するため、「ネットいじめ」防止キャンペーンを英政府が立ち上げた[13][14]

イタリア

イタリアでは、障害のある子供が同級生にいじめられている様子を写したビデオがイタリア語版Googleサイトにアップロードされた。この問題に関連して、イタリア当局はGoogle幹部4人を訴追する準備を進めている。なお、いじめていた少年達は、すでに刑事訴追されている[15]

米国

アメリカ合衆国(米国)では、若年層(10 - 17歳)がネットいじめを受けるケースが急増しているという調査結果を疾病対策センター (CDC) が発表した[16]

バーモント州では2003年に13歳の少年が、校内とオンラインの両方で数か月に渡りゲイと嘲られ自殺した事件がきっかけとなり、州内で取り組みが盛んとなった。自殺した少年の父親は息子の自殺後、ネットいじめの撲滅を訴える運動を始めた[17]

また、ミズーリ州では2006年10月、人気SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でいじめられ、13歳の少女が自殺した。この事件が切っ掛けとなり、ミズーリ州ではネットいじめ禁止の州法が成立した[18]

2008年10月2日カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授達が、アメリカの12 - 17歳の4人に3人が、過去12か月間で少なくとも1度はネットでのいじめを体験しているが、親や教師などにその事実を相談しているのはわずか10人中1人だけという調査結果を発表した。アメリカの学校で、ネットいじめが蔓延している実態が明らかとなった[19]

韓国

世界でも早い時期に高速インターネット環境を整えた韓国では、既に国民の重要なインフラとしてインターネットが日常的に利用されている。そのデメリットとして、ネットいじめの問題の根も深く、政治問題に近い様相を呈し、「サイバー暴力」とも呼ばれている[20]

ネットいじめを象徴する最初の事件が起きたのは2005年で、ソウル地下鉄で飼い犬の糞を始末せずに下車した女性の行為が発端でその後お年寄りが始末するまでの顛末を撮影したとされる動画がネット上に公開され[21]、すぐに実名など個人情報が突き止められて女性のHPに非難の書き込みが殺到した。同じ頃ある大手企業勤務の男性が標的にされた事件も起き、2007年初めには人気歌手・女優が相次いで自殺したことの背景にしつこい中傷の書き込みが取りざたされた。

2008年5月の初め頃から行われているろうそく集会李明博政権の米国産牛肉輸入再開に対する抗議行動)にはインターネット・携帯メールを使う中高生が初期の主役となり、BSE(牛海綿状脳症)にまつわる根拠のない噂も広がっていた。噂の流布、政権に理解を示す三大紙に広告を載せる企業に対する圧力などを捜査当局が「サイバー暴力」と位置付け激しい論争を招いている。

一方、ネットは権力を監視する強い武器でもあり、各地で起こるデモ隊の鎮圧場面は瞬時に世界中に流され、また当局から反体制とされた人物が検閲の目をかいくぐって発信する場にも使われる。韓国は1997年のアジア通貨危機以来、政府の主導でネット普及に力を入れてきたが、盧武鉉大統領のようにネットによる草の根募金(ノサモによる運動)が功を奏し当選に至ったケースもある。

意識改善の試みもあり、悪質な書き込み「アクプル(悪と英語のリプライを合わせた造語)」の被害を訴え「ソン(善)プル」を増やそうという運動が国民的俳優アン・ソンギなどの連名で若者を中心にモラル向上を呼びかけている。

出典・脚注

  1. ^ 「ネットいじめ (現代のエスプリ no. 526)』ぎょうせい(2011) ISBN4324090262]
  2. ^ NHK「クローズアップ現代」第2872回 犯罪“加害者” 家族たちの告白
  3. ^ 衆院青少年問題に関する特別委員会議録 第4号 2007年12月11日 石井郁子衆議院議員[リンク切れ]
  4. ^ 岡山・中3女子自殺 ネットいじめ 娘の「叫び」追い続ける母 山陽新聞、2007年12月28日。ただし全文はWeb上からは参照不可。
  5. ^ あなたの個人情報、Wikiに書かれていませんか?OhmyNews2008年2月26日[リンク切れ]
  6. ^ 記者の目:神戸・いじめ自殺を取材して」『毎日新聞』2007年10月31日。
  7. ^ 2ちゃんねる の攻撃から身を守るためのブログ 匿名ネット社会残酷物語
  8. ^ 「誰でも加害者に」 ネットいじめで専門家に聞く[リンク切れ]産経新聞』2007年10月16日
  9. ^ 2ちゃんねる、画像ちゃんねるなど。
  10. ^ 「ネットいじめ 大人が防波堤になろう」『京都新聞』2007年11月16日
  11. ^ 荻上チキ 『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』 PHP研究所、2008年、143-145頁。ISBN 978-4569701141
  12. ^ 新教育の森 : 日常化する「ネットいじめ」 匿名の闇に泣く子ども『毎日新聞』2007年9月3日[リンク切れ]
  13. ^ 「ネットいじめ」防止キャンペーン、英政府が立ち上げITmedia2007年9月22日
  14. ^ キャッチボールニュース:止まらないネットいじめ」 キャッチボール・トゥエンティワン、2007年10月25日
  15. ^ ネットのいじめビデオめぐり、伊当局がGoogle幹部訴追へ - ITmedia News 2008年7月25日ITmedia
  16. ^ 「ネットいじめが急増=法整備に遅れ - 米」 時事通信、2007年12月5日付配信。
  17. ^ "Death by cyber-bully"(英語) 2005年8月17日。
  18. ^ ネットいじめ禁止の州法成立、少女の自殺きっかけに - 2007年12月5日 - CNN
  19. ^ ネットいじめが日常化する米国のティーンエージャー――UCLA調査”. ITmedia. 2008年10月7日閲覧。
  20. ^ 週刊アジア、電脳社会(4)『朝日新聞』2008年7月1日
  21. ^ "「インターネット実名制」導入の可否で揺れる韓国、サイバー暴力への対応案" マイコミジャーナル、2005年6月27日。

関連項目

外部リンク