佐世保小6女児同級生殺害事件
佐世保小6女児同級生殺害事件(させぼしょうろくじょじどうきゅうせいさつがいじけん)とは、2004年6月1日午後、長崎県佐世保市の市立大久保小学校で、6年生の女子児童が同級生の女児にカッターナイフで切り付けられ、死亡した事件である。小学生の女子児童による殺人事件でかつ学校が舞台であり、世間に大きな衝撃と波紋を広げた。
被害者の死因は首をカッターナイフで切られたことによる多量出血だった。文部科学省ではこの事件を長崎県佐世保市女子児童殺害事件としてこれについての談話を発表している。
目次 |
事件の経過 [編集]
犯行を行った加害女児と被害者は、お互いにコミュニティーサイトの提供するウェブサイトを運営し、パソコンでチャットや、掲示板に書き込みをする仲だった。犯行の動機について、加害女児はウェブサイト上の掲示板などに身体的特徴を中傷する内容を書かれたことを挙げている。しかし、加害女児を良く知る第三者は、客観的に言ってそのような身体的特徴があるなどとは全く感じられない、認められないと話している。
当日、加害女児は午前中の授業が終わった後、被害者を学習ルームに呼び出し、そこでカーテンを閉めて床に座らせ、手で目を隠し背後から首と左手を切りつけた。被害者の首の傷は深さ約十センチ(普通の大人の首の太さは直径で13 - 15cmぐらい)、長さ約十センチになり、左手の甲には、骨が見えるほど深い傷があったという[1]。切りつけたあと、約15分間女児は現場にとどまり、被害女児を蹴り飛ばしたり、踏みつけたりして、生死を確認していた[2]。この時、彼女はパニック状態にあったと考えられている[3]。
加害女児が前夜に見たテレビドラマ「ホステス探偵危機一髪6」でカッターナイフで人を殺害する場面があり、女児自身、「これを参考に殺人を計画した」と後に供述した[4]ことから、その後、各テレビ局が殺人ドラマの放送を自粛する事態にもなった。また、加害女児が熱中していた「バトル・ロワイアル」に似た場面があることもあり、事件への影響も指摘されている。この影響で、DVD『バトル・ロワイアルII【特別編】REVENGE』の発売延期を余儀なくされた。
また、被害者家族、学校関係者に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の、救急隊員に惨事ストレスやサバイバーズ・ギルトの兆候が見られる状態になった。
事件の背景 [編集]
加害女児の家庭は父親が病気でしばらく仕事ができなかった時期が長く、母親と祖母がパートに出ていた。父親は累積したストレスを発散するために加害女児に虐待を加えることが度々あった[5]。加害女児自身、親戚や同級生に対して父親が嫌いであるという発言をしていた[6]。父親は加害女児に対して過干渉であり、加害女児の友達を激しく叱責したりすることもあった。日常生活で上手くいかなかった娘とのコミュニケーションを、トラブルの際過剰なまでに娘の味方をすることで補おうとしたと分析されている[7]。
加害女児は、両親との関係、コミュニケーションが淡白であった。入院した際に、家族が面会に来たが、その時「情緒的な交流が一切なく、世間話をしているだけだった」[8]と関係者が語っている。
加害女児は事件よりかなり以前から、ホラー小説ボイスとバトルロワイヤル小説のファンだった。事件を起こす4ヶ月前にはバトル・ロワイヤルの小説を同級生に貸し出しており、また大石圭の「呪怨」にも興味を示し、父親に買ってもらいたいという発言をしていた。やがて、それらのホラー小説などの影響は、加害女児の現実における行動にも現れるようになっていった[9]。
被害女児とは仲が良く、ウェブサイトや他の子を交えた交換ノートでの付き合いもあった。
加害女児はおとなしい普通の女子児童であったが、5年生の終わり頃から精神的に不安定になっていったと周囲の人々は語っている[10]。人と話すときに人の目を見なくなり、目を泳がせて落ち着かない素振りを見せることがしばしばあり、また些細なことで逆上し、罵詈雑言を吐いたり、カッターナイフを振り上げるようなこともあった[11]。また同級生に対して他の児童とともに集団いじめを行ったりすることもあった[12]。6年に入ってから暴力的な言行が増えていったという加害女児だが、担当の教師からの評判は、「遅刻も少なく、授業中も率先して手をあげて質問する積極的な生徒」というものであった[13]。この時期の1月にウェブサイトを開き、バトルロワイヤルの同人小説を発表している。学校で将来志望を小説家か漫画家と書いたことがあるという彼女は続編を予定していて、それは6年生のクラスと同じ人数の38人が殺し合いをするストーリーで、各キャラクターモデルや名が同級生に似ているといい、被害女児と同姓の登場人物も描かれており、物語の中で殺害されているという[14]。
5月下旬頃、遊びで被害女児が加害女児をおんぶしたとき、加害女児に「重い」と言い、加害女児は腹を立て「失礼しちゃうわ」と言った。その後、被害女児は自分のウェブサイトに「言い方がぶりっ子だ」と書いた。それを見た加害女児は何らかの方法で入手した被害女児のパスワードを使ってその記述を削除した。しかしその後再び同様の書き込みをされ、加害女児は被害女児に殺意を抱いた。被害女児は自分の掲示板が不正に書き換えられたことについて「荒らしにアッタンダ。マァ大体ダレがやってるかワかるケド」と書いた。それを受けて加害女児は被害女児のネット上のアバターを消去した[14]。
ほかにも、被害女児を含めた同級生達と手書きの合作ノートをつくっていたが、ここでも同時期に他の子とトラブルがあり事件のわずか前に被害女児を通じて退会を求められていたという。
この頃、当時11歳だった加害女児は、姉のレンタルカードを使ってR15指定の映画「バトル・ロワイアル」をレンタルショップから借り、何度も視聴していた。事件の1週間前、同級生の男子が怒った加害女児にカッターナイフを振りかざしながら追いかけられた事がある。
彼女は犯行後、被害者が生き返ってきたら謝りたい、と生き返るかのような発言をしている。
加害女児は事件後、収容先の自立支援施設でアスペルガー症候群と診断されている[15]。
政治家による問題発言 [編集]
6月4日、井上喜一内閣府特命担当大臣が本事件について「元気な女性が多くなってきたということですかな」などと発言したため、問題の本質から外れているとして批判を浴びた。この発言を受けて、谷垣禎一財務大臣が6月5日、岡山市で行われた講演と、逢沢一郎外務副大臣の政治資金パーティーでの講演で、「カッターナイフで頸動脈を切るというような犯罪は昔は男の犯罪だった」「放火なんていうのはどちらかというと女性の犯罪」などと発言したため、性別によって犯罪の種類が決まっているというようなニュアンスと受け取られて同じく批判を浴びた。
家庭裁判所の審判 [編集]
2004年9月15日、長崎家庭裁判所は、3か月におよぶ、少年事件では異例の精神鑑定を踏まえて、加害女児に対して最長で2年間までの行動の自由を制限する措置を認めたうえで、国立の児童自立支援施設である国立きぬ川学院(栃木県)への送致を決定した[16]。精神鑑定によれば、加害女児は情緒面で同世代にくらべて著しい遅れがあるが、障害とみなすべきものではなかったとされる。
脚注 [編集]
参考文献 [編集]
- 草薙厚子「大人たちはなぜ、子どもの殺意に気づかなかったか?」ドキュメント・少年犯罪意図発達障害(イースト・プレス ISBN 978-4-7816-0504-3)