識字

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識字(しきじ)とは、文字書記言語)を読み書きし、理解できること。英語のliteracyの訳語と言われている。[要出典]

文字に限らずさまざまな情報の読み書き、理解能力に言及する際には、リテラシーliteracy)という表現が利用される。

目次

[編集] 概説

識字は日本では読み書きとも呼ばれた。読むとは文字に書かれた言語の一字一字を正しく発音して理解出来る(読解する)事を指し、書くとは文字を言語に合わせて正しく記す(筆記する)事を指す。この識字能力は、現代社会では最も基本的な教養のひとつで、初等教育で教えられる。生活のさまざまな場面で基本的に必要になる能力であり、また企業などで正式に働くためには必須である。

文字を読み書きできないことを非識字といい、そのことが、本人に多くの不利益を与え、国や地域の発展にとっても不利益になることがあるという考えから、識字率は基礎教育の浸透状況を測る指針として、広く使われている。世界の識字率は第二次世界大戦後、順調に向上しているがまだ世界の全ての人がこの能力を獲得する教育機会を持っているわけではない。主にユネスコなどが識字率の向上を推進している。

全ての文化で文字があるわけではなく、これまでは侵略者がそのような先住民未開社会と呼ぶことが多かったが、近年では無文字社会と言い換えることが多くなっている。

なお、古くは非識字者のことを「文盲(もんもう)」ないし「明き盲(あきめくら)」と呼んでいたが、これらは視覚障害者に対する差別的ニュアンスを含むことから現在は公の場で使用することは好ましくないとされている[1]

[編集] 機能的非識字

文字を読み書きできない非識字(illiteracy) と読み書きを流暢にできる段階 (full fluency) の間に、初歩的な読み書きはできても、読み書きを社会参加のために満足に使いこなせない段階が存在する。これが機能的非識字(functional illiteracy)である。1956年にウイリアム・グレイ(William S. Gray)は識字教育に関する調査研究報告書の中で、「機能的識字(functional literacy)」の概念を明確にして、識字教育の目標を機能的識字能力を獲得することに設定すべきと提言した。

[編集] 国別の識字率

識字率 (Literacy rate) は初等教育を終えた年齢、一般には15歳以上の人口に対して定義される。識字率を計算する場合、母語における日常生活の読み書きができることを識字の定義とする。全世界の識字率は、約75%である。母語と公用語が異なる場合や、移民が多い国ほど識字率は低下する傾向がある。例えば、アメリカの場合、英語に限ると識字率は50%しかないと言われている。この点で識字率の国際比較には大きな注意を払う必要がある。

以下では、UNESCOが公開した2002年時点の国別の識字率を中心に、地域ごとの傾向を示す。人口が1億人以上の国を取り上げた(囲み)が、識字率が特に高い国と低い国をそれぞれの地域について1カ国ずつ示した。アメリカ合衆国、多くのヨーロッパ諸国、オセアニア諸国については他国と比較できる統計が公表されていない。

[編集] アジア

識字率の一覧

[編集] アフリカ

[編集] 北アメリカ

[編集] 南アメリカ

[編集] ヨーロッパ

[編集] 歴史に見る識字教育

[編集] 日本

1443年に朝鮮通信使一行に参加して日本に来た申叔舟は「日本人は男女身分に関わらず全員が字を読み書きする」と記録し、また幕末期に来日したヴァーシリー・ゴローニンは「日本には読み書き出来ない人間や、祖国の法律を知らない人間は一人もゐない」[2]と述べている。これらの記述には誇張があると思われるが、近世の日本の識字率は実際にかなり高く、江戸時代に培われた高い識字率が明治期の発展につながったとされる。

近世の識字率の具体的な数字について明治以前の調査は存在が確認されていないが、江戸末期についてもある程度の推定が可能な明治初期の文部省年報によると、明治10年に滋賀県で実施された調査で「6歳以上で自己の姓名を記し得る者」の比率は「男子89% 女子39%」である。また内訳を見ると,自己の氏名・村名のみを記し得る者が63.7% ,日常出納の帳簿を記し得る者22.5% ,普通の書簡や証書を白書し得る者6.8% ,普通の公用文に差し支えなき者3.0% ,公布達を読みうる者1.4% ,公布達に加え新聞論説を解読できる者2.6% となる.したがってこの調査では,自署できる者のうち,多少なりとも実用的な読み書きが可能であったのは4割程度である。[3]ただし近世の正規文書は話し言葉と全く異なる特殊文体によって書かれ、かなりの習熟が必要であった。近世期「筆を使えない者」を意味する「無筆者」とは文書の作成に必要な漢字を知らない者を意味しており、簡単なかなを読めることはどの庶民の間でも常識に属し、大衆を読者に想定したおびただしい平仮名主体の仮名草子が発行されていた。

義務教育開始以前の文字教育を担ったのは寺子屋であり、かなと簡単な漢字の学習、および算数を加えた「読み書き算盤」は寺子屋の主要科目であった。寺子屋の入門率から識字率は推定が可能であるが、確実な記録の残る近江国神埼郡北庄村(現滋賀県東近江市)にあった寺子屋の例では、入門者の名簿と人口の比率から、幕末期に村民の91%が寺子屋に入門したと推定される。[4]

[編集] ヨーロッパ

かつてのヨーロッパで文字が読めるとはラテン語ができるという意味であることや、俗語の文章を読めること、はたまた自分の名前を書けることなどさまざまな定義が採用されていた。イスラーム世界では、クルアーンの暗誦とアラビア文字の学習が重視されていることから、イスラーム世界全域にわたって、クッターブによる教育により、初歩的な読み書きは広く行き渡った。しかし、それでもなお非識字者も多かった。

[編集] アジア

15世紀にハングルを創製して表音文字を導入した朝鮮では、ハングルのみを知っている人間は庶民にも少なからずいたが、初歩的な漢字以上の漢字の知識を持つものは非常に少なく、知識人や富裕な商人に限られていた。

ベトナムでは、ついに表音文字を自力で開発しなかったため、複雑なチュノムと漢字を知ることができる層と、それ以外とに分かれ、庶民は文字を知っていても、少数の漢字とチュノムを書けるだけという例が多かった。

中国語の簡体字は識字率を引き上げる目的で多くの漢字を9画以内に収めた(簡体字#歴史)。世界では簡体字が読めて繁体字が読めない、逆に繁体字が読めて簡体字が読めないという人々がいるという恐れがあった。対策として、現在では、教育で簡体字を、新聞、正式な文章で繁体字を採用している。(台湾は繁体字の教育)台湾以外、繁体字が書けない人が多いが、先ほどの対策で繁体字と簡体字の両方が読める人が急増した。また、日本語には中国語由来の”漢字”の他に中国語に由来しない”国字”があり、簡体字とも繁体字とも字形の異なるもの(例:傳=传=伝)、漢字のように使われるが日本独自の物(例:丼、峠、畑)などがある。

[編集] 識字に関する基本文献

  • あべ・やすし「均質な文字社会という神話−識字率から読書権へ−」『社会言語学』VI、2006年
  • あべ・やすし「漢字という障害」(ましこ・ひでのり編著『ことば/権力/差別』三元社)、2006年
  • かどや ひでのり、あべ やすし編著『識字の社会言語学』生活書院、2010年
  • 菊池久一『<識字>の構造−思考を抑圧する文字文化−』勁草書房、1995年
  • 角知行「「日本人の読み書き能力調査」(1948)の再検討」『天理大学学報』第208輯、2005年
  • 角知行「文字弱者のプロフィール−日米のリテラシー調査から」『天理大学人権問題研究室紀要』第9号、2006年
  • 鈴木理恵「江戸時代における識字の多様性」『史学研究』209、1995年
  • 鈴木理恵「近世後期における読み書き能力の効用−手習塾分析を通して−」『社会言語学』VI、2006年
  • 日本社会教育学会編『国際識字10年と日本の識字問題』東洋館出版社、1991年

[編集] 脚注

  1. ^ 現在でも公職選挙法48条では「文盲」が使われている
  2. ^ 『日本幽囚記』(井上満訳、岩波文庫 p.31
  3. ^ 近世社会と識字 八鍬友広
  4. ^ 同上

[編集] 関連項目

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