義務教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

義務教育(ぎむきょういく、Compulsory education)とは、国民保護者など)が子供受けさせなければならない教育のことであり、日本国民には「教育の義務」がある(詳しくは後述)。「学齢」と関係が深い概念なので、より深く理解するには「学齢」の項目も参照のこと。

国や地域によっては、子供に「教育を受ける義務」があると定めている場合もある(ドイツでの例)。

目次

[編集] 類型

[編集] 年齢主義か課程主義か

義務教育の対象者を決めるときの基準に、何を用いるかによって分類される。特定年齢の間、義務教育の対象にするという方式を年齢主義と呼び、特定の課程を修了するまでを義務教育の対象にするという方式を課程主義と呼ぶ。これは、学校で進級をするときの基準についての年齢主義と課程主義とは別個の概念である。

歴史上は課程主義の義務教育制度もあったが、現代では、ほとんどの国家で年齢主義の義務教育制度を採用している。日本においても6歳から15歳までの9年間を義務教育の対象年齢としており、留年・休学などによるこの期間の増減はない。

[編集] 教育の義務か就学の義務か

家庭教育社会教育なども義務教育の実際の教育活動として認可されるかどうかについては、国によってさまざまである。教育義務型の義務教育制度では、ホームスクーリングによる教育も社会的に受容されている。就学義務型の義務教育制度では、学校教育によってのみ義務教育が行なわれる。

日本では、全日制学校への就学を要件としており、家庭教育のみでは就学義務を履行したとはみなさない制度であり、就学率も高い。

[編集] その他

他にも、外国人に対する就学義務があるかどうか(日本はなし)、どこまでが公費負担か(日本は授業料まで)など、さまざまな類型がある。

[編集] 世界

[編集] 世界的な歴史

学校制度がまだ存在しない古代から、現代の義務教育制度に通ずる社会制度は存在した。古くはスパルタにおける7歳から30歳の男性に対しての義務的な教育制度が存在し、自由民に対する文武両道の教育が行われていた。またシャルルマーニュは802年に、貴族の子弟に限定されない義務教育令を公布した。中世になるとルター派の諸国では民衆に対する教育に力を入れ始めたが、中でもドイツゴータ公国エルンスト敬虔公が1642年に公布したゴータ教育令は、現代の教育法規と同様に授業時間学級編成教科書などの細密な規定がなされている点でかなり先進的なものであった。ゴータ教育令では義務教育の終了は「12歳を超えるか、文字が読めるようになるまで」と定められており、一定年齢までの在学を義務付けていないという点で終了基準は課程主義(前述)であったといえる。こういった教育制度はプロイセンフリードリヒ2世の時代まで主流であったが、基本的には下層階級の救済という目的は薄かった。

産業革命期になると、労働者階級の年少児童が工場などでの労働力として使われるようになり、劣悪な環境におかれることになった。イギリスでは19世紀前半には工場法などによって年少者の工場雇用を禁止し、19世紀後半には義務教育制度が施行されるようになった。アメリカ合衆国では、マサチューセッツ州が1852年に最初の義務教育法を制定した。ただしこれは親が貧困のために子を就学させないことを許容しているものであったため、義務教育制度の本来の対象であるはずの貧困層を救済できないものであるという批判もある。

第二次世界大戦後になると、先進国ではもはや年少者が工場での労働力に用いられるようなことは過去のものとなっており、積極的な「児童のための教育」の考え方が強くなった。もはや「教育を受ける義務」ではなく「教育を受ける権利」としての考え方に転換しているため、「義務教育制度」は「教育普遍化制度」と改称すべきだとの意見(桑原敏明)もある。

[編集] 各国の義務教育期間

[編集] ドイツでの状況

ドイツ連邦共和国では子供には「教育を受ける権利」と「就学する義務」の両方が定められている[2]。また児童・生徒及び保護者に既成の学校教育を拒否する権利は認められておらず、「怠学」が発覚した場合は本人は登校を強制され、保護者も処罰される。これはヒトラー政権当時の1938年に制定された、現在も有効な条文である[3]

[編集] 日本

[編集] 日本での歴史

明治時代から昭和時代前期における義務教育の範囲は、実質的に初等教育尋常小学校から後に学校種を国民学校に改組)のみであった。

1939年から男子は14歳から19歳まで青年学校への就学義務があるとされ、年間210時間の定時制教育を受けることとなった。また1944年からは国民学校令によって全日制の義務教育が8年間に延長される予定であったが、戦争のため実施されなかった。 とはいえ、これら義務教育が時代の背景や情勢に左右されることはあっても、当時の日本は世界的に見て識字率の高い国となっていた。

1947年学制改革により、現在まで60年以上続いている義務教育制度が施行された。これは、6歳から15歳までの9年間を義務教育期間とし、小学校6年間・中学校3年間をその期間に該当させるようにしたものである。この時点で特殊教育諸学校への就学義務も定められたが、実際に養護学校の義務教育化は1979年からとなる。

1998年中等教育学校が学校種として定められたため、これの前期課程も義務教育の課程となった。

[編集] 日本での状況

現在の日本の教育については、日本国憲法第26条第2項に「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と定められており、この規定に基づく教育を「義務教育」と呼称している。そのため、保護者は、学齢期の人を小中学校などに通学するように取り計らう義務がある。これを就学義務就学させる義務)という。

日本はあくまで「就学義務」であり「教育義務」という定義ではないので、諸外国によく見られるホームスクーリングは義務教育の履行とはみなされない。

また、学校教育法の第38条に「市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。」と定められており、これは第49条で中学校にも準用されている。そのため、市町村はこれらの学校を設置する義務がある。これを学校設置義務という。

また、国は義務教育の対象者の就学を奨励しなければならない。たとえば義務教育国庫負担金制度により義務教育の授業料を無償としたり、貧困家庭には就学援助制度を適用したりするなど、該当者の就学をなるべく保障することになっている。これを就学保障義務という。

また、義務教育の対象となる学齢期の子女が教育を受ける機会が十分なものとなるよう、事業所はこれらの児童を一般の労働者として使用してはならない(労働基準法による)。これを避止義務という。

以上の四つの義務によって日本の義務教育が成り立っているとされる。

[編集] 日本の義務教育の目的

教育基本法(平成18年法律第120号)の第5条2項で「義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。」と規定している。

[編集] 義務教育として行われる普通教育の目標

学校教育法に「義務教育として行われる普通教育」については、次のように定められる。

第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成18年法律第120号)第5条第2項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

  1. 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
  2. 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
  3. 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
  4. 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
  5. 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
  6. 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
  7. 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
  8. 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
  9. 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
  10. 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

[編集] 保護者が就学させなければならない子

日本において、「保護者が就学させなければならない子」は、次の3条件を満たしている子である。なお、ここでいう保護者とは、「子に対して親権を行う者」であり、親権を行う者のないときは「未成年後見人」である。

  1. 満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまでにある子。(学校教育法の新第2章「義務教育」より)
    学校教育法施行規則および年齢計算ニ関スル法律に基づけば、4月1日内までに満6歳となった子から4月1日内までに満14歳となった子が該当する。
    この9年間の義務教育に該当する年齢は、(法律上の)学齢とも呼ばれる。
  2. 日本国内に在住している子。
    学校教育法施行令において「学齢簿の編製は、当該市町村の住民基本台帳に基づいて行なうものとする」とされている。学齢簿に基づいて、就学先の学校が指定される。
  3. 保護者が日本国民である子。
    日本国憲法の第26条第2項、教育基本法の第5条第1項においては、義務を負うのは「国民」であるので、保護者に日本国民が含まれない子は、該当しない。

このうちどれかが欠けても、「保護者が就学させなければならない子」とはならない。「保護者が就学させなければならない子」の場合とそうでない場合では、入学の可否、退学の可否、授業料の徴収の可否、停学などの懲戒処分の可否、出席停止の運用などに違いが生じることもある。

なお、学齢を超過している者や、外国人の子などの任意就学者に対する教育であっても、俗称として小中学校教育のことを義務教育と呼ぶ場合もある。これは就学義務などよりも教育内容に着目した呼び方であると思われるが、法律上は正式な表現ではないので、できるだけ使用を避けるべきである。#誤用の節も参照のこと。

[編集] 義務教育の段階に該当する学校

これを具体化する法律教育基本法及び学校教育法)により、その内容は、以下の学校で実施するように定められている。

上記の学校を義務教育諸学校と呼ぶ。なお義務教育諸学校の在籍者の大部分は、「保護者が就学させなければならない子」である。

現状では、特別支援学校を除き、同じ学年には同じ年齢の在籍者がほとんどという状態が続いている。小学校に児童として在籍する者は6歳から12歳の者がほとんどであり、中学校に生徒として在籍する者は12歳から15歳の者がほとんどである。学齢期(義務教育期)の終了と同時に、中学校を卒業する例がほとんどを占めている。

「保護者が就学させなければならない子」を、学校に就学させる義務のことを就学義務という。

義務教育の期間は、学年基準や在学年数基準ではなく、あくまで年齢基準であるため、義務教育として9学年分または9年間の学校教育を受けられていなくても、一定の期日に達すると義務教育の対象ではなくなる。この考え方を「義務教育年限における年齢主義(前述)」という。4月1日内までに15歳以上に達した人(学齢を超過した者)は、以上の学校に在学していても義務教育には該当しないため、就学猶予原級留置過年度入学などの理由で、14歳の年度のうちに中学校などを卒業できない場合でも、それ以後に通学することは義務教育の範囲とはされない。義務教育期間中に小学校などを卒業した場合、直後に中学校などに進学することとなっているが、小学校卒業時点で学齢を超えている場合は、進学は任意である。

「保護者が就学させなければならない子」の場合は、住民登録をすればほぼ無条件で地元の公立の上記学校のいずれかの学年に入学できる。そうでない子の場合は学齢期かどうかが重要である。「保護者が就学させなければならない子」でなくても、学齢期の子の場合は、児童の権利に関する条約などに基づいて、多くの場合受け入れられる。しかし、学齢期を超過した者は、新たに入学・編入学することを許可されないこともある。(なお、学齢期を超過した者であっても、各教育委員会の判断において、新たに入学・編入学を許可することは、禁止されていない。)なお、在学中に学齢を超過した場合は、すぐに通学できなくなるわけではなく、通例、継続して在学することが可能である。詳しくは「年齢主義と課程主義」「学齢」を参照。

[編集] 就学猶予・就学免除

学齢に達しても、病気などによって小学校への就学が困難な児童は、就学猶予や就学免除などの手続きを受ける場合がある。この手続きを受けた場合、その年度には就学しないことになる。ただし、1979年の養護学校の義務教育化に伴い、養護学校などの障害児対象の学校が充実してきたため、近年では就学猶予・就学免除ともほとんど許可されなくなっている。

なお、少年院送致となった学齢期の人に対しても、就学猶予が行われる場合もある。

[編集] 授業料と就学援助

日本国憲法第26条2項の後段においては、義務教育は無償とすると定められている。無償とされるべき範囲に争いがあるが、判例(義務教育教科書費国庫負担請求訴訟事件 最大判昭和39年2月26日)によれば同条の無償とは授業料の無償を意味し、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものではないとする。また判例では、授業料以外の義務教育に必要な費用については、保護者負担の軽減策を国がとることが望ましいが、立法政策の問題として解決すべき事柄で憲法の規定ではないとしている。なお、私立学校などでは、授業料の徴収が学校教育法により認められており、この限りではない。

参考
  • 教育基本法第5条第4項
国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
  • 学校教育法第6条
学校においては、授業料を徴収することができる。ただし、国立又は公立の小学校及び中学校、これらに準ずる盲学校、聾学校及び養護学校又は中等教育学校の前期課程における義務教育については、これを徴収することができない。

現在は、義務教育においては義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律により、学校で使用する教科書(教科用図書)について無償で給与されている。

なお、義務教育諸学校に在学している学齢超過者については、正式な意味での義務教育を受けているとはいえないため、義務教育無償の原則に当てはまらないとの考え方もある。ただし、多くの夜間中学校においては授業料を徴収していないものと思われ、また一般の公立中学校でも授業料は徴収していないケースが多いといわれる。同様に、外国人に対しても、公立学校では授業料は徴収しない扱いが通常である。

経済的に困窮している家庭を対象に、就学援助制度がある。これは市町村が保護者に対し学用品費や給食費を助成するものである。

[編集] 不登校と義務教育

近年、学齢期の児童生徒の長期欠席が増加している。義務教育という言葉の響きから、在学者の不登校を違法なものだと考える人もまだ多いが、上記のように就学義務は保護者などの義務であり、当事者の義務ではないとされている。こういった制度であるため、本人が自由意志で欠席を選択するのであれば、本人・保護者ともなんら罰則は課されないことが問題視されている 。なお、学齢期で日本国籍のある本人が学校(小・中学校)に行きたいと希望しているにもかかわらず、保護者が通学しないようにした場合(家事を強制したり、外出させないようにするなど)は、就学義務違反となる。督促を受けても履行しないと、10万円以下の罰金が科される。

不登校生徒を対象にした学校外施設として、いわゆるフリースクールが増加している。こういった施設に対しても、学校と同様に出席した場合は出席日数に算入する取り扱いが増えている。

[編集] 課題

インターナショナル・スクール(国際学校)やナショナル・スクール外国人学校民族学校など)をはじめとする各種学校無認可校に子女を通わせる保護者(日本人)は、義務教育を履行していないと教育委員会から通告を受ける場合がある。しかし、これらの学校に通わせたいと思う保護者もいる。

日本は義務教育制度がほぼ完成している国家であるが、学齢超過の義務教育未修了者は170万人いるといわれる。こういった人は、主に第二次世界大戦直後の混乱により、学齢期に就学できなかった人である。これらの人の行ける小中学校としては、夜間中学校中学校通信教育が整備されているが、学校数が少ないこともあって非常に門戸が狭く、あまり効果を上げていない。また、小学校や、朝昼に授業を行う一般の中学校には、入学を拒否される場合がほとんどである。

日本の義務教育期間はあくまで年齢主義であり、学齢を過ぎたらもはや義務教育の対象とはされない。そうしたことも一因で、学齢超過者が小中学校に入学することが困難となっている。そのため、上記のような戦争による未就学者や、近年増加している不登校者が小中学校への入学を希望しても、一度学齢を超過すると入学できない場合が多いことが問題となっている。

高校進学率が非常に高く、また幼稚園・保育園入園率も高いため、義務教育年限を延長し、それらの教育機関を義務教育機関にすることを求める意見がある。

「義務教育」という用語が、強制的な印象を持たせるため、長期欠席生徒に対するプレッシャーになる場合があり、また法制度に疎い人の誤解を招く場合も多く、より適切な用語にすべきだとの意見がある。

[編集] 誤用

日本の義務教育制度は一定年齢の就学義務という形であり、一定課程の修得を義務付けているわけではないため、義務教育という言葉は特定の教育課程のことを意味しない。にもかかわらず、義務教育という単語を「初等教育と前期中等教育の総称」として使用する例が見られる。例えば一部の同人誌などの即売会の参加資格欄において、「代表者が義務教育を終了(修了)していること」という表現が見られるが、この真意は「学齢期を終了していること」ではなく、「中学校を卒業していること」である場合が往々にしてある。通常は「義務教育を終了」といえば、中学校などの前期中等教育課程の修了の事ではなく、学齢期の終了の事を意味するが、誤解を避けるためには使用を避けるべきである(日本国籍がない人の場合はそもそも義務教育の概念がないという問題もある)。

行政においても、「義務教育未修了者」などという表現が使用されることもあるが、これは戦前の学校制度などの義務教育年限が9年未満の時期も考慮した言い方であり、単純に「前期中等教育未修了者」などと言い換えると問題を生じる場合があり、やむをえない用法である。

[編集] 出典

  1. ^ "ノーマライゼーションを実現する障害者のための特別学校". Scandinavian Tourist Board. 2009-02-21 閲覧。
  2. ^ 中央教育審議会義務教育特別部会資料より「各国の義務教育制度の概要
  3. ^ 週刊金曜日第699号所収、金曜アンテナ国際短信『国外脱出を迫られる「ホームスクーリング」の家族』

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

ウィクショナリー
ウィクショナリー義務教育の項目があります。