不登校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本において不登校(ふとうこう)は、在籍者が、学校生活への適応が困難であるため(適応障害に該当する例もある)、相当の期間、学校を欠席していると認められる状態ことである。

マスメディアで「不登校」という語句が使われる場合、多くはこの意味であるが、研究者専門家教育関係者らの間に統一した定義がなく、「不登校」の語は、きわめて多義的である。(なお、文部科学省で、用いられている定義については、「不登校児童生徒」の項目を参照のこと。)

目次

[編集] 概要

登校」とは、文字通り学校に通うことで、通常通り授業に出る場合はもちろん、保健室登校のように校舎には行くものの教室には行かない場合も「登校」として認められる。「不登校」とは、登校していないという意味であるが、「欠席」という用語が1日単位で用いられるのに対し、不登校という語は、ある任意(不特定)の時期について使われることが多い。ただしこれらは、学校の通学課程(全日制の課程・定時制の課程など)の場合で、通信制の課程おいては、一箇月から一週間に一日程度の面接指導日(出席日)が設定されているような例が多いく、日常的に登校する課程ではないので、長期的なものであって、かつ、二者択一とした「登校・欠席」の類型には、当てはめにくい。

多くの場合、不登校は、心理的な要素が原因で通学することができないことが前提とされており、「不登校」の語が使われる前は、登校拒否(とうこうきょひ)、学校嫌い(がっこうぎらい)というような語も使われてきた。このような語は、必ずしも実態を反映したものと言えなかった。例えば、学校嫌いという語の場合は、必ずしも「学校が嫌いである」とはいえない(例えば、通学途中に嫌いなものがある場合などもありえる)、登校拒否という語の場合は、必ずしも「登校を拒否している」とはいえない(例えば、学校には行きたいと思っているが、結果として通学できないことなどもありえる)という事例が考えられたため、時代の変遷とともに折衷的に使う用語を変えてきたという歴史がある。(詳しくは「長期欠席」を参照のこと。)そのため、この語については、様々な意味が付加されてきており、考察する際には、最低限でも各種の語の定義を行っておく必要があり、理想的には、発達心理学現代社会学に基づく事象の考慮もしておくことが望ましい。

なお、学籍のある学齢児童学齢生徒(学校教育法の規定により保護者就学させなければならない子)の不登校が「社会一般的に妥当とされる理由がない」ものと捉えられることがある。しかし、その場合は、学校教育法に規定される就学義務[1]保護者が怠っているとして、義務の履行を催促[2]され、なお履行しない保護者は、10万円以下の罰金に処せられるべきもの[3]である。不登校が「社会一般的に妥当とされる理由がない」ものと捉えることは、不登校に対する妥当な法解釈とはいえない。なお、就学義務違反に対する罰則は、「男女共学に反対して、学校に就学させなかった」ことに有罪の判決が出ているなど、原則的に用いないことが完全に慣習化したいわゆる有名無実規定には相当しない。また、「正当な理由がなく、学校を休み、又は早退等をする行為」を行っている少年(女性を含む)は、「怠学」という不良行為を行っているとして少年法に基づく不良行為少年に該当し、少年補導の対象となるべきであるが、不登校の在籍者が、要件を満たすフリースクールなどへ登校することや、ITを活用した自宅学習をすることが、文部科学省の通知[4][5]で、事実上公認されていることに鑑みれば、学校に適応できないことによる不登校そのものは「正当な理由」とされて、「怠学」とみなされないものと考えられる。

[編集] 歴史

[編集] 学校制度と就学

学校制度がない時代は、一生就学しないままの例が大多数だった。学校はあっても、貴族富裕層など、一部の人しか通えなかった。日本では寺子屋など、欧米では日曜学校など、類似機関はあったが、現代の学校のようなタイプの施設ではなかった。

日本では明治初期に学制が施行され、学齢児童の就学が望ましいこととされた。この時期から徐々に、まったく学校に通わないのこどもの方が少数派となってくる。ただし、就学率は少しずつ上昇したものの、やはり貧困などにより就学できなかったり、途中で学校に通わなくなったりする例が多かった。終戦直後も、混乱により就学できない場合があったし、学籍があっても登校できない場合が多かった。しかし高度経済成長期以降は就学率が100%に近くなった。それ以降の日本社会では、6歳ごろに就学し、15歳から25歳ごろに学校生活を終える例が多くなっている。多くの人は、就職するまでは長い期間登校し、就職と共に非就学になる(ただし、大学進学経験者の場合、高校卒業から大学入学までに1年以上の非在学期間があることは珍しくなく、これは過年度生(浪人)と呼ばれる)。しかし1990年代に入ると、就学率は高いままであるものの欠席率が高くなった。これらの現象は、当初は「学校嫌い」や「登校拒否」と呼ばれ、その後、折衷的な語を選択して「不登校」と呼ばれるようになった。また非就学者学校教育を受けられない問題も並行して存在する。これらは次の段落で詳述している。

障害を持つ人の就学については、時代とともに改善されつつあり、現代では重度の障害があっても就学できるようになっている。1979年養護学校の就学義務化を境に、就学猶予・免除される障害児は激減し、就学率は大幅に向上した。また、一般学校での特別支援教育の力も高まっており、以前なら養護学校(現在の特別支援学校の一部に相当)に通っていたレベルの障害でも、小学校・中学校に通うケースが多くなっている。また、院内学級の制度により、入院中でも教育を受けられるようになったり、場合によっては病院内に学校を設置して、こどもが教育を受けられるようになったりしてきている。発達障害がある生徒の場合、通常より長い教育期間のニーズがあるが、「高等学校」や「特別支援学校の高等部」などの後期中等教育の課程への進学率も高い。

欧米においては、19世紀ごろになると義務教育制度が作られ、就学率が上昇していった。しかし日本と違って、家庭教育ホームスクーリング)のみで育つ例もそれなりにあった(代表的な例ではトーマス・エジソンなど)。そのため、就学義務ではなく、教育義務を履行するという選択肢がある程度市民権を得ていた。現在は欧米でも、学校制度の発達により、日本ほどではないが、大多数の人が学齢期に学校に通っている。

世界的に生涯学習の時代に入り、就職することと学校に在籍しないことが同一ではなくなり、また成年に達することとと学校に在籍しないことも同一ではなくなりつつある。このため、就職中、あるいは高年齢になっても、学校に在籍する選択肢が検討されやすくなっている。

[編集] 用語の移り変わり

ごく初期では、「学校嫌い」や「学校恐怖症」という言葉であらわされていた。しかし、それらはその言葉では片付けられない問題との認識が広がり、この「不登校」という言葉が用いられるようになった。また一時期、「登校拒否」という言葉がよく用いられていたが、現実的には学校に行くのを拒否するというよりも、様々な理由により「行けない」という心身的な不調状態であることも多く、登校を拒否しているわけではないとして「登校拒否」という言葉は不適切とされ、現在ではこの「不登校」という言葉がより適切な表現として主に用いられるようになった。

[編集] 不登校の問題化

詳しくは不登校児童生徒を併せて参照のこと

日本においては義務教育制度が発達しているため、住民票がある学齢期の子女の場合は、自動的に小中学校などの学籍を得られ、就学できる。しかし、その場合でも長期欠席が急増するなど、いわゆる「不登校問題」が拡大し、大きな課題となっている。理由としては、病気停学などの物理的要因以外にも、いじめ学業不振浮きこぼれなどの教育問題や、学校価値の絶対的・相対的な低下に伴う魅力減少などがある。これらのうち、直接的な原因のない長期欠席について文部科学省は「不登校」という用語を付与し、それ以外のものと区別している。これについては、長期欠席で詳述している。

一方、日本国籍を持たない子女の場合、自動的には学籍を得られないので、そのまま就学せず、学校に行かないケースが見られる。古くから定住している在日韓国・朝鮮人などの場合は、一条校や民族学校に通う場合も多いが、日本に出稼ぎに来る外国人の場合、子女を学校に入れようとしないケースも多く、また地方公共団体によっては就学に積極的でない場合もある。こちらは、学齢期の外国人の非就学問題といわれるが、あまりマスメディアで取り上げられることはない。

また、日本の初中等教育の課程では年齢主義の影響が強いため、学齢を超過すると小学校・中学校に通うことが難しくなり(特に小学校)、高等学校も「全日制の課程」の場合は、年齢によっては入学しにくくなる。そのため、長期欠席をした人が学校を卒業してからは、復学サポートの対象にならない上、統計にも表れず(就学率は学齢期のみであり、それ以降は計算されない)、問題の把握がしにくくなっている。これは学齢超過者の入学拒否問題といわれるが、学齢期の外国人の非就学問題と同様に、あまりマスメディアには注目されない。一部地域にある夜間中学が、不完全ながら受け皿となっている状況である。

また高等学校の場合、義務教育でないため不登校が問題にされにくい。たとえば、中途退学という形で、学校からドロップアウトする例があるが、その後の生活にプラスになっていない例もある。また、欠席が多くてもあまり復学支援はないし、小中学校ほどではないが同様に年齢が高くなると入学が難しく、そういった理由での不登校も問題にされにくい。それらの理由もあって、休学・退学後に復学再入学しない例が多い。これらの現象は、外国で「教育のウェステージ(損耗)」と呼ばれるものに当たる。

上記のように、就学者の不登校は大きな問題になっているのに対し、非就学者の不登校はほとんど問題視されない傾向がある。学籍がないと、学校側の目が届かないため、行政の対応が難しくなるのである。

派生的な意味であるが、「教師の不登校」も存在する。

[編集] 不登校のより広い捉え方

まず、『「不登校」を学校登校しない状態のこと』と広く定義し、以下のように分類する。

  1. 学籍がなく、登校しない状態のこと。非就学者も参照。過年度生(受験浪人)や就学猶予と就学免除なども含まれる。
  2. 学籍がある人が、登校しない状態のこと。欠席長期欠席も参照。休学停学出席停止なども含まれる。

「就学」とは学校に在籍していることを指し、不登校であっても就学と呼ぶ。なお「非就学」のうち、小学校就学の始期に達していないために就学していない場合は「未就学」と呼ぶ。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

[編集] 脚注

  1. ^ 学校教育法
    第17条 保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
    2 保護者は、子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
    3 前2項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。
  2. ^ 学校教育法施行令
    (教育委員会の行う出席の督促等)
    第21条 市町村の教育委員会は、前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が法第17条第1項又は第2項に規定する義務を怠つていると認められるときは、その保護者に対して、当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促しなければならない。
  3. ^ 学校教育法
    第144条 第17条第1項又は第2項の義務の履行の督促を受け、なお履行しない者は、10万円以下の罰金に処する。
  4. ^ 不登校への対応の在り方について (15文科初第255号 平成15年5月16日) [1] 後半の「不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて」
  5. ^ 不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(17文科初第437号 平成17年7月6日) [2]

[編集] 参考文献

  • ここに出てくる主要な用語については、こちらを参照のこと。不登校というもののとらえ方、理解の仕方についてはそれぞれのグループ団体のページに各々の関係者が持説を披露している。一律な理解が難しいものであることがわかる。
    • 『子どもの権利ネットワーキング'97 子どもの権利に関わるグループ・団体ガイド』クレヨンハウス 1996年
    • 『別冊宝島111 学校が合わない男と子のための学校に行かない進学ガイド 新版』JICC出版局 1990年