テロリズム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
テロから転送)
移動: 案内検索

テロリズム: terrorism)とは、何らかの政治目的のために、暴力や暴力による脅威に訴える傾向や、その行為のこと[1]。また恐怖政治のこと[1]

日本語ではテロリズムを略して「テロ」と呼ぶことがあり、またテロリズムによる事件を「テロ事件」と呼ぶ。テロ事件を実行した人または組織をテロリスト: terrorist)と呼ぶ。

概説[編集]

「terrorism テロリズム」という用語が使われるようになったのはフランス革命において行われた九月虐殺がきっかけであった。この虐殺事件では反革命派1万6千人を革命派により殺害する恐怖政治を行った[2]

ただし、こうした恐怖政治は遡れば古代から存在した。(ありはしたが「terrorism」と呼ばれていなかった、ということである。)

現代のテロリズムの手法はより複雑化しており、従来の革命勢力だけではなく、全体主義の政府、分離主義の政治勢力などのあらゆる社会集団がテロ活動を行い得るようになっており、冷戦後には強制外交の手段としてテロリズムは用いられている[3]

テロリズムは、右翼および左翼政党、ナショナリズム集団、宗教集団、革命家、そして政府側など、多岐に渡る政治的な組織が彼らの目的を達成するために実施している[4]

「テロリズム」の語の正確な定義には多数の困難が伴っており、100を超える多数の定義が存在している[5][6]

Oxford English Dictionaryはきわめて古典的な用法を真っ先に挙げている[7]。だがこのOEDの説明では現代的な用法を理解するにはもの足りないと感じられることになる[7]。 「テロリズム」という語の現代的な用法はpolitical 政治的なものである[7]。同一の集団が支持者からは「自由の戦士」、敵対者からは「テロリスト」と呼ばれる場合もある。テロリズムの概念は、しばしば国家の権威者やその支持者が、政治的あるいはその他の敵対者を非合法化し[8]、更に国家が敵対者への武力行使を合法化するためにも使用されている[8][9]。この語の用法には歴史的な議論があり、例えばネルソン・マンデラなどもかつては「テロリスト」と呼ばれていたのである[10]


語源
英語で「テロリズム (terrorism)」の語が初期に使用された一例。タイムズ1795年1月30日付け紙面より。「我々の自由を転覆しようとするしくみはひとつだけではない。過激主義は全ての情熱を引き起こし、王政はその希望をまだ諦めておらず、テロリズムはいまだかつてないほど大胆なようだ。」

「テロリズム」の語源はフランス語terrorisme[11]で、1793年から1794年のフランス革命での恐怖政治フランス語: La Terreur)に由来し、フランス語のterreurラテン語terreōから派生した語で「恐怖」を意味する[12]

フランス革命ではジャコバン派が恐怖政治を行い、ジャコバン派の権力喪失後に「テロリスト」の用語は乱用されるようになった[8]

種類[編集]

テロの実行主体による分類には、権力者による自国民に対する恐怖政治、国家による他の国家に対する国家テロなどがある。(テロを支援する国家を「テロ支援国家」と呼ぶ場合もある。)

人数では、集団による集団テロ、個人による個人テロなどの分類がある。特に単独犯を「ローンウルフ」、国内出身者によるテロを「ホームグロウン・テロリズム」と呼ぶ場合もある。

テロの実行手段による分類には、暗殺誘拐が古典的であるが、実行犯が自爆する自爆テロ核兵器または核物質を使用する核テロリズム、21世紀になってからはコンピュータネットワークやコンピュータに対する攻撃を行うサイバーテロなどがある。

宗教的目的を背景とするテロリズムを宗教テロと言い、貧困(貧困の苦境や貧富の極端な差)が原因となって起きるテロリズムを「貧困テロ」と呼ぶことがある。

歴史[編集]

古くはスパルタにおける κρυπτειαクリュプテイアなどに例が見られる。50年頃のユダヤではローマ帝国からの独立をめざす熱心党がテロ行為をおこなった。スッラによるプロスクリプティオユリウス・カエサルの暗殺事件などもテロと呼ばれることがある。

近代以降では、上述のフランス革命における革命側による恐怖政治や、王党派側による白色テロ第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件ロシア革命での赤色テロアナーキストによる黒色テロ

特にヨハン・モストの「爆弾の哲学」に影響された19世紀末のアナキスト達による一連のダイナマイトによる暴力行動では、テロの主体は国家権力に正面から対抗する手段を持たない政治勢力、思想集団、宗教勢力が奇襲的な殺戮行為を行うことにより、国際社会や外交関係といった利害を背景としてそれにつけこみ、目標国家に政治的打撃を与え、政治的主張を受け入れさせることが主流となった[13]

20世紀では、スターリン主義による大粛清ナチズムによる水晶の夜事件がある。また日本で東条英機が自分の指揮下にある憲兵を使って日本人を監視・恫喝・投獄し、恐怖で日本人を支配したことも挙げられる[14]

また第二次世界大戦後では、冷戦や民族自決運動の高まりによる各種の事件、1970年代にはパレスチナ問題を背景としたPFLP旅客機同時ハイジャック事件や、新左翼系のドイツ赤軍日本赤軍赤い旅団などにより、従来の紛争地域以外を含めた国際的なテロ事件が多発した。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件では、アメリカ合衆国は対テロ戦争を宣言し、アフガニスタン紛争 (2001年-)につながった。また核兵器、化学兵器細菌兵器などの大量破壊兵器を使用したテロも懸念されている。

議論[編集]

一般的に、テロリズムは「非難される行為」と位置づけられる。また同時に、テロリズムは「周知されることで恐怖心を呼び起こすもの」である。この点において狭義の意味での暗殺とは異なる。直接の攻撃対象以外である大衆を操作・支配する目的で無差別に、あるいは象徴的な人物を攻撃する手段は、強い道徳的・倫理的非難の対象となる。

そのため、「テロリズム」という言葉の持つ、強い反道徳性・反倫理性を活用するかたちで、「自らとは異なる立場に立つ者のアピールや実力行使」に対して、「それはテロリズムである」というレッテル(ラベル)を貼るという方法で、非難を行うという方法論・戦術がある(プロパガンダ)。この非難の対象とされるものには、しばしば政治的アピールや非暴力直接行動などが含まれる。歴史的にも労働運動マハトマ・ガンディーの非暴力不服従運動をイギリス政府はテロリズムと位置づけた。

しかしながら、ある行動が、利害が対立する者からの「テロリズム呼ばわり」に基づいてテロリズムになるわけではない。利害対立者の行動をテロリズム呼ばわりするというのは、単に言語上の修辞(レトリック)である可能性があり、その行動がテロリズムに分類されるべきものであるかどうかを決定するものではないということには注意する必要がある。しばしば「利害対立者からのテロリズム呼ばわり」は、テロリズム呼ばわりした者とテロリズム呼ばわりされた者との不仲の存在証明にすぎない。

テロリズムは暴力が関わる複雑な現象である。テロリズムの中核的な概念は「社会への何らかの訴えかけが意図された、物理的被害よりも心理的衝撃を重視する暴力行為」であると捉えることができる[15]

古典的なテロリズムは古代から観察されているが、定義されたのはフランス革命において行われた9月虐殺がきっかけであった。9月虐殺事件では反革命派1万6千人を革命派により殺害する恐怖政治を行った[16]。現代のテロリズムの手法はより複雑化しており、従来の革命勢力だけではなく、全体主義の政府、分離主義の政治勢力などのあらゆる社会集団がテロ活動を行い得るようになっており、冷戦後には強制外交の手段としてテロリズムは確立されている[17]

アメリカがテロを「新しい戦争」と呼んだ背景には、テロリストの国際法上の地位の問題がある。テロを新たな国際法上の戦争形態に加えないと「民間人を装う便衣兵による民間人を狙った戦闘スタイル」を容認することになる。テロを戦争と認定できればテロリストから交戦者資格(捕虜として軍事裁判を受ける権利を持つ)を剥奪できることになる[18]

米国内のテロリズム[編集]

2009年2010年に起こった未遂を含む米国を標的にしたテロ事件は、当局が訴追した内の約4割が米国民だったことが明らかになっている。家庭の崩壊貧困差別など米国社会がかかえている諸問題によって疎外感を覚えている若者らが、インターネットの交流サイトなどを通じて過激派思想に染りテロを起こす、「ホームグロウン・テロリズム」(地元育ちのテロリスト)が脅威となっている[19][20]

定義[編集]

テロリズムの定義に関しては、学術的な研究者による定義もある。普遍的に定義しようとする傾向がある。

各国政府の行政機関が独自に定義付けをしている例があるが、自国の暴力行為はテロリズムから除外しておいて他の組織のものばかりを「テロリズム」と呼んでいて、定義が自己中心的で、普遍性を持ちえず、妥当性に関しては疑問視されている。

例えばアメリカ合衆国国務省による「テロ組織」の指定要件の一つには「その組織の活動は、合衆国国民の安全あるいは合衆国の国家安全保障(国防、国際関係、経済的利害関係)を脅かすものでなければならない」という文言がある。

実際にはアメリカ合衆国は国外で他国の国民を大量に殺し恐怖に陥らせて政治的影響を与えているのに、米国政府の機関はそれをテロリズムではない、と(政府機関の公表する定義によって)主張するわけである。ノーム・チョムスキーによれば、アメリカの公式文書によるテロリズムの定義に従えば、「アメリカが1985年にベイルートで1人の聖職者を暗殺すべくモスクの外にトラックに仕掛けた爆弾を設置し、80名を殺し、250名に怪我を負わせた」行為や「アメリカが1980年代にニカラグアを攻撃し壊滅状態に陥れた」のは間違いなくテロである、と主張している。(2001年12月2日付毎日新聞)(直接の引用:波多野祐造「国際政治における「危機」(Crisis)の概念 : 国際テロに関する一考察」、『白鴎大学論集』第16巻第2号、白鴎大学、2002年3月、 1-16頁、 NAID 110001164481)</ref>。またアメリカは、自国の権益の擁護維持を名目に、中央情報局が、キューバのカストロ政権打倒を目論むキューバ計画を実行した。これなどもキューバから見ればテロリズムである。

政府や政府機関が公表する定義などというのは、普遍性を欠いていて国ごとに異なるうえに、その政府が引き起こした暴力行為はテロと呼ばれずに「軍事作戦」や「諜報活動」等の呼称で呼んでしまうため、その国から一歩出れば、全然妥当性は無い、と見なされている。特に暗殺行為など、直接人命を奪う行為は国家や情報機関員、またその手先[† 1]が実行したことであっても単なるテロとの指摘が強いが、外交上の摩擦を避けるためにテロと指摘しない。

また、苦しむ人々の人権のために人生をささげたきわめて平和的で良き人のことまで「テロリスト」呼ばわりすることを、強権的な政府側の者たちはしばしば行う。たとえば、アフリカ民族会議を率いて有色人種解放と民族融和を果たしたネルソン・マンデラは今でこそノーベル賞受賞の平和運動家だと広く認められたが、南アフリカで政権を執っていて恐怖で黒人たちを抑圧していたピーター・ボタは、ネルソン・マンデラのことを「政府と隔離政策に逆らうテロリスト・危険人物」とし、警察機関などもそういう不当な扱いをしたのである。強権的な政府や独裁的な政府が誰かを「テロリスト」と呼んでいる場合は、あまり妥当性が無い。良心に従う者の視点から見れば、呼ばれている側ではなく呼んでいるその政府自体が、恐怖政治というテロリズムの一種を行っているからである。

たとえば、独立戦争・闘争を闘う人々は地元から見れば解放戦士、しかし中央政府から見れば分離主義者のテロリストということになる。逆に言えばどこかの国の中央政府系の放送局が ある人物に関して「分離主義者でテロリストだ」と否定的なニュースを流していても、実際には現地では地元の人々のために自分の人生をささげている良い人や英雄かも知れないわけである。

国際連合[編集]

2004年11月、国際連合事務総長は報告書の中で、テロリズムを以下のように定義した。ただしこれは国際連合決議などの正式文書ではなく、国際法でもない。

住民を威嚇する、または政府や国際組織を強制する、あるいは行動を自制させる目的で、市民や非戦闘員に対して殺害または重大な身体的危害を引き起こす事を意図したあらゆる行動

[21]

アメリカ合衆国[編集]

1999年10月8日対テロ調整事務所発表のマデレーン・オルブライト国務長官による「海外テロ組織」指定の条件[22]

  1. その組織は外国になければならない。
  2. その組織は、移民国際法第212条(a)(3)(B)に定義されているテロ活動に携わっていなければならない。
  3. その組織の活動は、合衆国国民の安全あるいは合衆国の国家安全保障(国防、国際関係、経済的利害関係)を脅かすものでなければならない。

日本[編集]

日本の法令でテロリズムに関連するものには以下などがある。

この法律において「公衆等脅迫目的の犯罪行為」とは、公衆又は国若しくは地方公共団体若しくは外国政府等(外国の政府若しくは地方公共団体又は条約その他の国際約束により設立された国際機関をいう。)を脅迫する目的をもって行われる犯罪行為であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 人を殺害し、若しくは凶器の使用その他人の身体に重大な危害を及ぼす方法によりその身体を傷害し、又は人を略取し、若しくは誘拐し、若しくは人質にする行為

イ 航行中の航空機を墜落させ、転覆させ、若しくは覆没させ、又はその航行に危険を生じさせる行為
ロ 航行中の船舶を沈没させ、若しくは転覆させ、又はその航行に危険を生じさせる行為
ハ 暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の航空機若しくは船舶を強取し、又はほしいままにその運航を支配する行為
ニ 爆発物を爆発させ、放火し、又はその他の方法により、航空機若しくは船舶を破壊し、その他これに重大な損傷を与える行為

三 爆発物を爆発させ、放火し、又はその他次に掲げるものに重大な危害を及ぼす方法により、これを破壊し、その他これに重大な損傷を与える行為

イ 電車、自動車その他の人若しくは物の運送に用いる車両であって、公用若しくは公衆の利用に供するもの又はその運行の用に供する施設
ロ 道路、公園、駅その他の公衆の利用に供する施設
ハ 電気若しくはガスを供給するための施設、水道施設若しくは下水道施設又は電気通信を行うための施設であって、公用又は公衆の利用に供するもの
ニ 石油、可燃性天然ガス、石炭又は核燃料である物質若しくはその原料となる物質を生産し、精製その他の燃料とするための処理をし、輸送し、又は貯蔵するための施設
ホ 建造物(イからニまでに該当するものを除く。)

国際テロリズム対策課においては、次の事務をつかさどる。

1 外国人又はその活動の本拠が外国に在る日本人によるテロリズム(広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう。) に関する警備情報の収集、整理その他これらの活動に関する警備情報に関すること。

内閣総理大臣は、本邦内にある次に掲げる施設又は施設及び区域において、政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、当該施設又は施設及び区域の警護のため部隊等の出動を命ずることができる。

一 自衛隊の施設

二 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二条第一項の施設及び区域(同協定第二十五条の合同委員会において自衛隊の部隊等が警護を行うこととされたものに限る。)

一 特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)

対応[編集]

テロリズムへの対応[編集]

不特定多数の世論を人質としたテロ(無差別テロ)が有効に機能するためには3つの条件が必要である[34]

  1. 十分な破壊力を持つ武器が入手可能であること。
  2. 世論に働きかけるための十分なコミュニケーション手段が確保できること。
  3. 国家主体が世論(支持)の変化に敏感かつ脆弱であること。

テロとは、地位と力の両面で劣位な主体が優位な主体に要求を拒否され続けている場合の対抗の一つで、「人質」を交渉資源として交渉を進めようとする状況を示している。民主主義国家とテロリズムの対話はステイタスにおいて拒否されるが「人質」解放のためには不可欠であり矛盾している。そのため国家が積極的なテロ対策をとった場合にしばしば民主主義が制約を受ける[34]。特にタカ派は「テロリストとは交渉せず」の姿勢を貫くが、これは対症療法に過ぎない(誘拐・篭城・爆破といった目の前の問題を解決は出来ても活動の沈静化には繋がらない。構成員を皆殺しにし、或いは逮捕収監して組織を壊滅させたところで、組織の掲げる思想主張に共鳴する市民は残り、それが新たな集団の形成につながる)。

テロリズム対策の種類には以下が挙げられる。

多大な被害を出しうるテロリズムに対して、現在、世界はおおむね反対の論調を共有している。それゆえテロリズムの排除・撲滅はその実体はともかく主張としては反対されることが少なく、この主張を大義名分として行動する場合、他者(多くの場合他国政府)の介入を招きにくい。様々な国で自国内外のテロリストとの対決が見られる。

こうしたテロリズムとの対決は、アンチテロリズムやカウンターテロリズムの観点から批判を受けにくいが「テロリズム」の語が各国政府によって恣意的に運用され、反体制派の弾圧の理由としてテロリズム対策が用いられているという批判が起こることがある。反政府運動や分離独立運動などは暴力と結びつくことが少なくない。実力行使が伴わなくともテロリズム対策が示威行動として利用されることがある。

方策については専門家ごと、立場ごとに見解がそれなりに分かれているが、例を挙げれば以下のようなものがある。

  • テロリストに利益を与えない(ゲームの手段としての無効性を立証し続ける)
  • テロリストを特定し、監視・管理・排除する(テロリスト(個人・集団・組織)を特定し、行動を監視・管理し、あるいは排除する)
  • 被害の拡大を最小限度に管理する(物理力(武具)を管理・監視する、危機管理区域を設定し、テロリストの接近を排除する)
  • 政治プロセス(合意プロセス)を改善し対話を促す(論争を仕掛ける、論争を奨励する)
  • 絶望や復讐の感情の原因を解消する(テロの実行犯(被害者)を減らす)
  • テロの被害を早急に回復し、かつ被害者・遺族の報復感情を政治が吸収する(テロの連環を放棄させる)

全ての政府政権行政)が自国民市民に対して必要最低限度の生活レベルを保証できれば、経済を背景としたテロは発生しづらい。しかし、アメリカ同時多発テロ首謀者とされるオサマ・ビン・ラディンが中東有数の資産家であり、その実行者のほとんどが中産階級出身の比較的恵まれた階層であったことからも容易に理解できるように、いわゆる「貧困問題」とテロ問題の関連は実は大きくない。むしろ自らを犠牲にしても公憤を完結させるといった思想的背景(義憤・義勇兵)や傾向、あるいはそれにつけこんだ狂信的思想の問題が重要である。

個人的な絶望や思索によって得られたある種の確信、領土や民族、宗教を背景としたテロは減らしにくい。各政府が、宗教や憲法に規定される信者や国民への義務を誠実に履行すればテロが発生しないとする意見も一部ある。ただし信仰や憲法の内容については各宗派や国によって大きな隔りがある。たとえば共通のコードとして市民的及び政治的権利に関する国際規約などがこれに代わり得る可能性がある。

アメリカのテロへのアプローチは刑罰法のレトリックに接近している。対テロ戦争の目的はテロリストの組織網を途絶させ、裁判法廷へ犯罪人を連れ出すことである[36]

日本では警察当局により“極左暴力集団”及び右翼団体による「テロ、ゲリラ」事件の未然防圧と各種違法事案の取締りが為されている[37]。また財務省は国際テロ資金の凍結に関する国連安保理決議に基づき資産凍結措置を実施している[38]

テロ対策への懸念・批判[編集]

国家によるテロ対策への懸念・批判には、テロ対策が公務執行型テロリズムとなり、過剰暴力や非合法活動の正当化に使われている(テロ撲滅のためには多少の付随的な犠牲が出るのはやむを得ないという主張)との批判もある。具体的には公務執行型テロリズムに伴う一般市民への誤射・誤爆などである。

またパレスチナ問題におけるイスラエル軍の攻撃、北部イラク・クルド人自治区クルド人へのトルコの攻撃、バスク地方及びETAへのスペインの態度、チェチェン共和国独立派へのロシアの態度、北アイルランド問題もカウンターテロリズムを用いた過剰暴力の正当化、もしくはカウンターテロリズムを大義名分にした体制側テロリズム・公務執行型テロリズムの例とされることがある[† 2]

逆に、体制を攻撃するテロリスト側が、良心的・人道的な国際世論を利用し、自身の正当化を図るケースもある。「体制側の『テロリスト』というレッテル張りによって、我々は不当に弾圧されている。」という論理である。一般に複数の組織が政治的に敵対関係にある場合、自身の正当化や政治宣伝はどちらの側からもおこなわれる。

脚注[編集]

[ヘルプ]

注釈[編集]

  1. ^ 一般に国家情報機関は、累が自分に及ぶのを避けるために、一見全く無関係な人間を買収してその目的の為に使う。
  2. ^ イスラエルの人権団体「ベツェレム」の調査では、2006年中のパレスチナとイスラエルの犠牲者数の比率は660:23。パトリック・オコナーによると、2000年以来の累計では39:10であった。このような調査結果から、「イスラエルの武力行使は過剰で非人道的である」という批判がなされる

出典[編集]

  1. ^ a b 広辞苑 第五版 p.1844 「テロリズム」
  2. ^ 里渡龍己『テロリズムとは何か』(文藝春秋、平成13年)50項
  3. ^ ジャン・フランソワ・ゲイロー、デイヴィッド・セナ著、私市正年訳『テロリズム 歴史・類型・対策法』(平河工業社、2008年)10項
  4. ^ Terrorism”. Encyclopædia Britannica. p. 3. 2006年8月11日閲覧。
  5. ^ Record, Jeffrey (2003年12月). “Bounding the Global War on Terrorism”. Strategic Studies Institute (SSI). 2009年11月11日閲覧。 “The views expressed in this report are those of the author and do not necessarily reflect the official policy or position of the Department of the Army, the Department of Defense, or the U.S. Government. This report is cleared for public release; distribution is unlimited.”
  6. ^ Schmid, Alex, and Jongman, Albert. Political Terrorism: A New Guide to Actors, Authors, Concepts, Data bases, Theories and Literature, Amsterdam ; New York : North-Holland ; New Brunswick: Transaction Books, 1988.
  7. ^ a b c Inside Terrorism”. The New York Times. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。.Hoffman, Bruce (1998). Inside Terrorism. Columbia University Press. ISBN 0-231-11468-0. 
  8. ^ a b c Geoffrey Nunberg (2001年10月28日). “Head Games / It All Started with Robespierre / "Terrorism": The history of a very frightening word”. San Francisco Chronicle. http://articles.sfgate.com/2001-10-28/opinion/17622543_1_terrorism-robespierre-la-terreur 2010年1月11日閲覧. "For the next 150 years the word "terrorism" led a double life – a justifiable political strategy to some an abomination to others" 
  9. ^ Elysa Gardner (2008年12月25日). “Harold Pinter: Theater's singular voice falls silent”. USA Today. http://www.usatoday.com/life/theater/news/2008-12-25-pinter_N.htm 2010年1月11日閲覧. "In 2004, he earned the prestigious Wilfred Owen prize for a series of poems opposing the war in Iraq. In his acceptance speech, Pinter described the war as "a bandit act, an act of blatant state terrorism, demonstrating absolute contempt for the concept of international law"." 
  10. ^ http://www.huffingtonpost.com/2013/12/05/nelson-mandela-terrorist_n_4394392.html
  11. ^ Online Etymology Dictionary”. Etymonline.com (1979年10月20日). 2009年8月10日閲覧。
  12. ^ Kim Campbell (2001年9月27日). “When is 'terrorist' a subjective term?”. Christian Science Monitor. http://www.csmonitor.com/2001/0927/p16s2-wogi.html 2010年1月11日閲覧. "New York Times columnist William Safire wrote that the word "terrorist" has its roots in the Latin terrere, which means "to frighten"." 
  13. ^ 「アナーキストのテロに揺れた世紀末」リック・コールサート ル・モンド・ディプロマティーク
  14. ^ 出典:長尾龍一『政治的殺人: テロリズムの周辺』弘文堂, 1989 pp.75-80。東条英機がやったことはテロリズムだとはっきり指摘されている。
  15. ^ この中核概念については、テロ対策を考える会『[テロ対策]入門』(亜紀書房、2006年)19項で述べられたものである。
  16. ^ 里渡龍己『テロリズムとは何か』(文藝春秋、平成13年)50項
  17. ^ ジャン・フランソワ・ゲイロー、デイヴィッド・セナ著、私市正年訳『テロリズム 歴史・類型・対策法』(平河工業社、2008年)10項
  18. ^ 野口裕之の安全保障読本」 産経新聞2011年5月9日
  19. ^ 特集:9・11テロから10年 戦いの終わり見えず毎日jp
  20. ^ 米同時多発テロから10年「ホームグロウン・テロ」という新たな脅威が誕生しています。FNNニュースネットワーク
  21. ^ UN Reform”. United Nations (2005年3月21日). 2007年4月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月11日閲覧。 “The second part of the report, entitled "Freedom from Fear backs the definition of terrorism–an issue so divisive agreement on it has long eluded the world community–as any action "intended to cause death or serious bodily harm to civilians or non-combatants with the purpose of intimidating a population or compelling a government or an international organization to do or abstain from doing any act"”
  22. ^ [1]
  23. ^ 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律
  24. ^ 警察庁組織令
  25. ^ 自衛隊法
  26. ^ 特定秘密保護法
  27. ^ 西岡力 『北朝鮮の「核」「拉致」は解決できる』 PHP研究所、2006年12月、73頁。ISBN 978-4-569-65631-1 
  28. ^ 拉致はテロだ! 北朝鮮に拉致された日本人・家族を救出するぞ! 参加レポート集 匿名掲示板「拉致事件を考える掲示板」
  29. ^ 第156回 国会 本会議議事録
  30. ^ 第168回国会 衆議院 拉致問題委員会決議 - 米国の「北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除」の動きに反対する決議
  31. ^ 拉致のテロ認定、法的には難しい 外相、家族会と面会
  32. ^ 渡部昇一新田均『日本を貶める人々: 「愛国の徒」を装う「売国の輩」を撃つ』p39
  33. ^ 石原慎太郎『東京の窓から世界を』p59
  34. ^ a b 富田与「テロリズムに関する「人質モデル」について」、『四日市大学論集』第18巻第1号、四日市大学、2005年9月1日、 147-175頁、 NAID 110004622688
  35. ^ テロリズムとその対策―国際社会の取組み (PDF) (清水隆雄 『外国の立法』III テロリズム対策 1 アンチテロリズムとカウンターテロリズム 国立国会図書館調査及び立法考査局 2006.5)
  36. ^ アメリカにおけるテロリズム対応の論理 土井靖美(憲法論叢)P.43
  37. ^ 「警察白書のあらまし―官報資料版 平成16年1月14日―」
  38. ^ 財務省[リンク切れ]

参考文献[編集]

  • チャールズ・タウンゼンド著、宮坂直史訳『テロリズム』岩波書店、2003年
  • ジャン・フランソワ・ゲイロー、デイヴィッド・セナ著、私市正年訳『テロリズム 歴史・類型・対策法』平河工業社、2008年
  • 宮坂直史『国際テロリズム論』芦書房、2005年
  • 東海大学平和戦略研究所編「テロリズム」(2001年)
  • 布施哲、FuseSatoshi「テロルの構造 (恐怖を読み解く - 日々の生活から国際政治まで -)」、『言語文化研究叢書』第6巻、名古屋大学大学院国際言語文化研究科、2007年、 155-177頁、 NAID 120000974788
  • "What is ‘Terrorism’? Problems of Legal Definition(「テロ」とは何なのか? ―法的定義の問題―)" (2004) 27 University of New South Wales Law Journal 270.
  • Y. Alexander, and M. F. Seymour, eds. 1978. Terrorism: Interdisciplinary perspectives. Maidenhead: McGraw-Hill.
  • J. B. Bell, 1978. A time of terror. How democratic societies respond to revolutionary violence. New York: Basic Books.
  • D. Carlton, and C. Schaerf, eds. 1981. Contemporary terror: Studies in sub state violence. London: Macmillan.
  • R. S. Cline and Y. Alexander. 1986. Terrorism as state-sponsored covert warfare. Fairfax, Va.: HERO Books.
  • J. D. Douglass and N. C. Livingstone. 1987. America the vulnerable: The threat of chemical and biological warfare. Lexington, Mass.: Lexington Books.
  • R. B. Farrell, 1986. Responding to terrorims: conventions and commentary. Charlottesvill, Va.: Mitchite.
  • R. H. Kupperman, 1983. Tecnological advances and consequent dangers: Grouwing threats to civilization. Washington, D.C.: Center for Strategic and International Studies.
  • A. B. Krueger, 2007. What makes a terrorist. Princeton Univ. Press.
    • アラン・B・クルーガー著、藪下史郎訳『テロの経済学』東洋経済新報社、2008年
  • P. Leventhal and Y. Alexander, eds. 1987. Preventing nuclear terrorism. Lexington, Mass.: Lexington Books.
  • G. M. Levitt, 1988. Democracies against terror. New York: Praeger.
  • R. B. Lillich, ed. 1982. Transnational terrorism: conventions and community. Charlottesville, Va.: Mitchie.
  • N. C. Livingstone and T. E. Arnold, eds. 1986. Fighting back: Winning the war against terrorism. Lexington: Heath.
  • N. C. Livingtone and A. E. Terrell, eds. 1988. Beyond the Iran-Contra crisis. Lexington, Mass.: Lexington Books.
  • E. Marks and D. Van Opstal. 1986. Combating terrorism: A matter of leverage. Washington, D.C.: Center for Strategic and International Studies.
  • D. C. Martine and J. Walcott. 1988. Best laid plans: The inside story of America's war against terrorism. New York: Haper and Row.
  • O. Revell, 1988. Terrorism: A law enforcement perspective. Washington, D.C.: U.S. Department of Justice, Federal Bureau of Investigation.
  • J. P. Terry, 1980. State terrorism: A juridical analysis. Journal of Palestine Studies 10:94-117.
  • J. P. Terry, 1982. The Iranian hostate crisis: International law and U.S. policy. JAG Journal 32-31-79.
  • J. P. Terry, 1986. countering state sponsored terrosim: A law policy analysis. Naval Law Review 36:159-86.
  • J. P. Terry, 1986. An appraisal of lawful military response to state-sponsored terrorism. Naval War College Review 39:59-68.
  • R. H. Wilcox and P. J. Garrity, eds. 1983. America's hidden vulnerabilities: Crisis management in a society of networks. Washington, D.C.: Center for Strategic and International Studies.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]