エボラ出血熱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
エボラ出血熱
分類及び外部参照情報
ICD-10 A98.4
ICD-9 065.8
DiseasesDB 18043
MedlinePlus 001339
eMedicine med/626
MeSH D019142
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
テンプレートを表示

エボラ出血熱(エボラしゅっけつねつ、Ebola hemorrhagic fever)は、フィロウイルス科エボラウイルス属ウイルスを病原体とする急性ウイルス性感染症出血熱の一つ。「エボラ」の名は発病者の出た地域に流れる川の名から命名された。

概要[編集]

エボラウイルスは大きさが80 - 800nmの細長いRNAウイルスであり、ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず多種多様である。

初めてこのウイルスが発見されたのは1976年6月。スーダン(現:南スーダン)のヌザラ (Nzara) という町で、倉庫番を仕事にしている男性が急に39度の高熱と頭や腹部に痛みを感じて入院、その後消化器から激しく出血して死亡した。その後、その男性の近くにいた2人も同様に発症して、それを発端に血液や医療器具を通して感染が広がった。最終的にヌザラでの被害は、感染者数284人、死亡者数151人と言うものだった。

そして、この最初の男性の出身地付近である、当時のザイールのエボラ川からこのウイルスの名前はエボラウイルスと名づけられ、病気もエボラ出血熱と名づけられた。その後エボラ出血熱はアフリカ大陸で10回、突発的に発生・流行し、感染したときの致死率は50 - 90%と非常に高い[1]

体細胞の構成要素であるタンパク質を分解することでほぼ最悪と言える毒性を発揮し、体内に数個のエボラウィルスが侵入しただけでも容易に発症する。そのため、バイオセーフティーレベルは最高度の4に指定されている。

「エボラ出血熱」の恐怖が知られるようになってから30年以上が経つが、これまでの死者数は1,590人(2012年12月現在)で、これは今日でも年間数十万人を超える死者を出しているマラリアコレラと比較しても格段に少ない[2]。症状の激しさや致死率の高さの一方で、「他人に感染する前に感染者が死に至るため、蔓延しにくい」という側面もあり、その恐怖は映画や小説で描かれたイメージや、「致死率90%」という数字により誇張されているとの指摘もある[3]

原因[編集]

アフリカ中央部(スーダンコンゴ民主共和国ガボン)および西アフリカで発症している。自然宿主の特定には至ってはいないがコウモリが有力とされている[4]サルからの感染例はあるが、キャリアではなくヒトと同じ終末宿主である。また、現地ではサルの燻製を食する習慣があるため、これを原因とする噂がある事も報道に見える[5]

なお、2005年12月1日付の英科学誌『ネイチャー』にて、ガボンのフランスビル国際医学研究センターなどのチームの調査による「食用コウモリからの感染」を疑う説が発表されている。患者の血液、分泌物、排泄物唾液などの飛沫が感染源となる。死亡した患者からも感染する。

エボラウイルスの感染力は強いが基本的に空気感染をしないため、感染者の体液や血液に触れなければ感染しない。現在までの感染拡大も、死亡した患者の会葬の際や医療器具の不足(注射器や手袋など)により、患者の血液や体液に触れたことによりもたらされたものが多く、空気感染は基本的にない。そのため患者に近づかなければ感染することはない[6]

エンベロープを持つウイルスなので、アルコール消毒石けんによる消毒が容易であり、大きな変異がない限り[7]先進国での大きな流行の可能性は低い[8]と考えられている。

なお、レストンでのサルの商業輸入に際して顕在化し、その感染流行により特定されたサルを終末宿主とする「エボラ・レストン株」(現状ではヒトに対する病原性はない[9])は、空気感染の可能性を濃厚に具現する例として知られているものの、エボラ出血熱の人体間における空気感染の可能性について確定的に定義付けるものとは言えない[10]

症状と治療[編集]

2000年ウガンダで流行した際の隔離病棟に収容された患者

潜伏期間は通常7日程度。発病は突発的で、発熱悪寒頭痛筋肉痛食欲不振などから、嘔吐下痢腹痛などを呈する。進行すると口腔歯肉結膜鼻腔皮膚消化管など全身に出血吐血下血がみられ、死亡する。致死率は50 - 90%と非常に高く[11]、治癒しても失明などの重い後遺症を残すことが多い。

エボラ出血熱ウイルスに対するワクチン、ならびに、エボラ出血熱感染症に対して有効かつ直接的な治療法は確立されていない。

なお実験動物に対しては東京大学医科学研究所教授(ウイルス学)の河岡義裕は、エボラ出血熱ウイルスのワクチンマウスに接種したところ、一定の効果を確認したことを米専門誌ジャーナル・オブ・バイロロジー電子版で発表した。この実験では、ワクチンを接種せずに感染させたマウス10匹は6日後に全て死亡したが、接種した15匹は、健康な3匹のマウスと同じように2週間以上生き続けたという。河岡は今後、サルで実験し、早期実用化を目指したいとしている[12]

2010年5月29日ボストン大学のウイルス学者トーマス・ガイスバートをはじめとした研究チームが、エボラウイルスの中でヒトに対する病原性が最も強いザイール型のエボラウイルスに感染させた中国のアカゲザルの治療に成功したと「The Lancet」誌上で発表した。人工的に生成した低分子干渉RNA (siRNA) を基に作られた薬剤を副作用が出ないよう脂肪分子で包み、感染した細胞に直接届けることで、ウイルスの自己複製を促進するLタンパクを阻害する仕組み。実験に使用したサルは9匹のうち7匹は6日間にわたって同じ量の薬剤の投与を受け、7匹中3匹は1日おき、4匹は毎日薬剤を摂取した。それぞれのグループで1匹ずつは対照群として薬剤を投与されなかった。薬剤を投与されたサルを分析した結果、エボラウイルスに感染して10日後、1日おきに投与されたサルの血中のウイルス濃度は非常に低かった。また、毎日投与されたグループからはウイルスがまったく検知されなかった。このsiRNA剤は特定の型のエボラウイルスに合わせて短時間で人工的に生成することが可能なため、新しい型のエボラウイルスが現れたとしても、すぐに対応できるという[13]

生態への影響・流行[編集]

2002年4月世界保健機関 (WHO) は、ガボン北部に生息するニシローランドゴリラの死体からウイルスを発見した。エボラ出血熱の流行地帯に暮らす人々は、ゴリラやサルなどの野生生物を食用とする習慣があり、また実際に発症した人の中には、発症する直前に森林で野生動物の死体に触れたと証言した者もいることから、ゴリラも感染ルートの一つとなった可能性がある。

翌年、隣国のコンゴ共和国でエボラ出血熱が発生した際には、人間への感染と同時にゴリラにも多数の感染例が報告され、2002年から2005年の間に約5,500匹ものゴリラが死亡したと報告した。2007年9月12日に発表されたIUCNレッドリストでは、エボラ出血熱による激減および密猟のため、ニシローランドゴリラは最も絶滅危険度の高い Critically Endangered(絶滅寸前)に分類されている[14][15]

フィリピンでは2007年から2008年にかけて、マニラ北部の養豚場など数箇所でブタが相次いで死亡した。2008年10月にアメリカの研究機関が調べたところ、レストン株のエボラウイルスに感染していることが確認された。家畜へのエボラウイルス感染が確認されたのは世界で初めてである。

2008年のコンゴ民主共和国での流行では、32人が感染し14人が死亡した(死亡率44%)[2]。2011年から2012年にかけてウガンダで流行し32人が感染し22人の死亡が報告された[2]

2014年2月からギニアシエラレオネおよびリベリアにおいて、エボラ・ザイール[16]が流行し、4月9日現在の確認死亡者は101人で、4月9日現在の感染者は157人である。WHO国境なき医師団などが緊急援助を行っている。4月24日現在の確認死亡者は142人、死亡者を含む感染者は242人である[17]。7月、WHOは2月からの死亡者が518人に、死亡者を含む感染者は844人に拡大したと報告した(ともに疑い例を含む)。これは過去の最大年間死亡者数を上回る規模のものとなった[2][18]

法律上での扱い[編集]

日本
エボラ出血熱は、旧伝染病予防法(1999年に廃止)では、「法定伝染病」に指定されていた。現感染症法では「一類感染症」に指定されている。

エボラ出血熱を題材として扱った作品[編集]

ノンフィクション[編集]

フィクション[編集]

  • 小説『アウトブレイク-感染』(ロビン・クック、1987年)
    エボラ出血熱が連続殺人に用いられるサスペンス小説。1995年に Virus のタイトルでテレビドラマ化(日本では『LEVEL4』『ロビン・クックの死の処方箋』としてソフト化・放映)。
  • 映画『アウトブレイク』(ウォルフガング・ペーターゼン監督、1995年)
    アメリカに出現した、エボラ出血熱に類似した架空のウイルスを描くパニック・サスペンス映画。エボラ出血熱についても言及がある。リチャード・プレストン『ホット・ゾーン』の劇映画化として企画されたが、曲折を経てオリジナル脚本で映画化された。
  • 小説『合衆国崩壊』(トム・クランシー、1996年)
    イラクを併合したイランが作った「イスラム連合」の指導者が、サウジ侵攻時にアメリカを無力化するために、全米でエボラ・ウイルス(ザイール株。「メインガ株」として登場)をばらまく。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Diane Bennett; David Brown (1997年). “Ebola virus” (英語). British Medical Journal. 2009年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月19日閲覧。
  2. ^ a b c d Ebola virus disease” (英語). Media centre Fact sheets. WHO (2014年4月). 2014年6月19日閲覧。
  3. ^ 殺人ウイルス「エボラ」、映画や小説があおった恐怖の歴史 AFPBB News 2008年4月3日
  4. ^ 夏休み期間中における海外での感染症予防について”. 2.動物からうつる感染症 (3)エボラ出血熱. 厚生労働省 (2010年7月). 2012年9月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月19日閲覧。
  5. ^ National Geographic: October 2007
  6. ^ ニュートン別冊 からだと病気 p.64
  7. ^ いままでエンベロープのあるウイルスがエンベロープを持つようになった例は知られていない。
  8. ^ 単発の輸入例や、狭い範囲の濃厚接触者への小流行はあり得る。
  9. ^ エボラ出血熱 - 国立感染症研究所 感染症情報センター
  10. ^ ホット・ゾーン
  11. ^ エイズよりはるかに怖いエボラ出血熱、蔓延の兆し1/3 JB Press 2014年7月31日
  12. ^ 関東晋慈 (2009年2月13日). “エボラ出血熱:ワクチン開発…マウス実験で確認 東大”. 毎日新聞. オリジナル2014年1月5日時点によるアーカイブ。. http://archive.today/GgikR#selection-603.125-603.129 2014年6月19日閲覧。 
  13. ^ サルのエボラ治療成功、ヒトへの応用は - ナショナルジオグラフィック ニュース 2010年6月10日
  14. ^ IUCN Red List of Threatened Species Gorilla gorilla
  15. ^ Gretchen Vogel, "Scientists Say Ebola Has Pushed Western Gorillas to the Brink", Science 317, 1484 (2007). doi:10.1126/science.317.5844.1484
  16. ^ 感染症法6条2項1号エボラウイルス属ザイールウイルス
  17. ^ “エボラ出血熱、ギニアとリベリアで死者142人に”. CNN. (2014年4月23日). http://www.cnn.co.jp/world/35046985.html 2014年6月19日閲覧。 
  18. ^ Ebola virus disease, West Africa – update”. WHO (2014年7月8日). 2014年7月9日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]