破傷風

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
破傷風
分類及び外部参照情報
Clostridium tetani.jpg
破傷風菌の電子顕微鏡写真
ICD-10 A33-A35
ICD-9 037, 771.3
DiseasesDB 2829
MedlinePlus 000615
eMedicine emerg/574
MeSH D013742
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
テンプレートを表示

破傷風(はしょうふう、Tetanus)は、破傷風菌を病原体とする人獣共通感染症の一つ。

日本では感染症法施行規則で5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。年間約40件の届出がある[1]

世界的には、先進諸国での発症症例数の報告は少ない。これは、三種混合ワクチン等の普及による所が大きい。発展途上国では正確な統計ではないが、数十万〜100万程度の死亡数が推定されており、その大多数が乳幼児である。特に、新生児の臍の緒の不衛生な切断による新生児破傷風が大多数を占める。

また動物においては家畜伝染病予防法上の届出伝染病であり、対象動物は牛、水牛、シカ、馬である(家畜伝染病予防法施行規則2条)。哺乳類に対する感度が強いが、鳥類は強い抵抗性を持つ。年間、牛で約90件、馬で数件の届出がある[2]

原因[編集]

土壌中に棲息する嫌気性の破傷風菌 (Clostridium Tetani) が、傷口から体内に侵入することで感染を起こす。破傷風菌は、芽胞として自然界の土壌中に遍く常在している。多くは自分で気づかない程度の小さな切り傷から感染している(1999-2000年では23.6%)。芽胞は土中で数年間生きる。ワクチンによる抗体レベルが十分でない限り、誰もが感染し発症する可能性はある。芽胞は創傷部位で発芽し増殖する。新生児の破傷風は、衛生管理が不十分な施設での出産の際に、新生児の臍帯の切断面を汚染し発症する。ヒトからヒトへは感染しないが、呼吸や血圧の管理が可能な集中治療室などで実施することが望ましい[1]

症状[編集]

破傷風菌は毒素として、神経毒であるテタノスパスミンと溶血毒であるテタノリジンを産生する。テタノスパスミンは、脊髄の運動抑制ニューロンに作用し、重症の場合は全身の筋肉麻痺や強直性痙攣をひき起こす。この作用機序、毒素(および抗毒素)は1889〜1890年(明治22〜23年)、北里柴三郎により世界で初めて発見される。

一般的には、前駆症状として、肩が強く凝る、口が開きにくい等、舌がもつれ会話の支障をきたす、顔面の強い引き攣りなどから始まる。(「牙関緊急」と呼ばれる開口不全、lockjaw)

破傷風による筋肉の発作で苦しむ人の絵(1809年チャールズ・ベル作)

徐々に、喉が狭まり硬直する、歩行障害や全身の痙攣(特に強直性痙攣により、手足、背中の筋肉が硬直、全身が弓なりに反る=画像)、など重篤な症状が現れ、最悪の場合、激烈な全身性の痙攣発作や、脊椎骨折などを伴いながら、呼吸困難により死に至る。感染から発症までの潜伏期間は3日〜3週間で、短いほど重症で予後不良。

神経毒による症状が激烈である割に、作用範囲が筋肉に留まるため意識混濁は無く鮮明である場合が多い。このため患者は、絶命に至るまで症状に苦しめられ、古来より恐れられる要因となっている。

予後[編集]

破傷風の死亡率は50%である。成人でも15〜60%、新生児に至っては80〜90%と高率である。新生児破傷風は生存しても難聴を来すことがある。

治療体制が整っていない地域や戦場ではさらに高い致死率を示す。日本でも戦前戦中は「ガス壊疽」などと呼ばれ恐れられていた。

治療[編集]

治療として、破傷風菌に対する抗生物質メトロニダゾールペニシリンテトラサイクリンの投与が行われる。体内の毒素に対しては、抗生物質は効かない。毒素の中和には抗破傷風免疫グロブリンを用いる。破傷風は、治っても免疫が形成されないので、回復後に破傷風の予防接種を一通り受ける事が求められる[3]

土壌などで汚染された外傷では、創のデブリードマンが必須である。また患者の破傷風予防接種歴に応じて、破傷風トキソイドの接種を行う。

破傷風トキソイド摂種後10年以上経過している場合は、抗体価が低下している可能性があるためトキソイドを接種する。

本疾病はヒト以外にも感染する。馬で最も感受性が高く、鳥類は抵抗性が強い。有名なところでは、1951年競走馬トキノミノルが無傷の10連勝で東京優駿(日本ダービー)を制したわずか17日後に急死したケースがある。当時はヒト用の不活化ワクチンさえ国内には存在しない時代であり、現在使用されているウマ用のワクチンも当時は存在していなかった。

予防[編集]

破傷風菌の芽胞はそこら中に存在しているが、健康状態で芽胞に接しても、免疫は得られない。これは、芽胞が発芽して生成された毒素が破傷風の原因であり、芽胞そのものは免疫反応の対象とならない為である。つまり、抗毒素(破傷風菌の毒素に対する抗体)を作る能力を人体に備えさせるもので、解毒や殺菌とは異なる作用に基づく。

予防接種[編集]

不活化ワクチン(沈降破傷風トキソイド)によって行われ、沈降破傷風トキソイドのみの製剤の他、日本では小児定期接種の四種混合ワクチン(DPT-IPV)、三種混合ワクチン(DPT)、二種混合ワクチン(DT)に含まれている(D:ジフテリア、P:百日咳、T:破傷風、IPV:不活化ポリオワクチン)。日本国内には破傷風ワクチンのメーカーは5社あるが、用法・効果は基本的に同一である。

各ワクチンの破傷風抗原量
ワクチン量 (mL) 抗原量 (Lf) 国際単位 参考ジフテリア抗原量 (Lf)
トキソイド(化血研) 0.5 10以下    0
トキソイド(生研、北里第一三共、タケダ、ビケン) 0.5 5以下  20以上 0
DPT-IPV 0.5 2.5以下 13.5以上(力価) 15以下
DPT 0.5 2.5以下 or 約2.5 9以上 15以下 or 約15
DT(化血研) 0.1 2以下   約5
DT(生研、北里第一三共、タケダ、ビケン) 0.1 1以下 or 約1 4以上 5以下 or 約5


ただし、小児定期接種で1968年以前は破傷風を含まないDPワクチンが主に使用され、また1975年〜1981年には副作用によりDPTワクチン接種が中断された。このため、その両時期いずれかの接種対象者は破傷風の予防接種を全く受けていない可能性がある。

渡航ワクチン[編集]

破傷風ワクチンは、世界中どの地域でも1ヶ月以上の滞在には接種推奨のワクチンである[4]検疫所に届けられた予防接種実施機関[5]等で、海外渡航者海外渡航者向けの有償予防接種を行っている。

予防接種は標準で3回の接種(筋肉注射)を要する。すなわち、1回目の接種から1ヶ月後に2回目、1年後に3回目の接種を行う。これは、(有効)免疫と免疫記憶という抗毒素の作用機構に基づくものである。 破傷風の免疫とは、抗毒素が有効水準(発病を抑止できる濃度)以上の濃度で存在することを意味し、免疫記憶とは、これ未満だがゼロではない状態を指す。通常、1回の接種では抗毒素は作られず、免疫効果は得られない。2回目で抗毒素が作られ免疫が成立するが、1年ほどで有効水準を下回ってしまう(免疫記憶は2〜4年ほど続く)。

ここで3回目の接種を行うと、基礎免疫が備わり4〜10年ほど免疫が得られ、免疫記憶は25〜30年ほど残る。免疫記憶が残っていれば、1回の予防接種で免疫が成立する。免疫記憶が失われた場合は、最初からやり直す必要がある。

推奨される投与スケジュール

  • 40歳以上:トキソイド 0.5 mLを初回、3~8週後、6ヶ月以上後の計3回接種。2回目以降は強い局所反応がでることがある。あまりに副作用が強い場合は以前、接種したことがなかったかどうかもう一度確認する必要がある。2回目に強い局所反応があったら3回目は中止。
  • 30歳代:DT 0.2 mL
  • 20歳代:DT 0.1 mL または DPT 0.2 mL

外傷後ワクチン[編集]

動物咬傷、古い釘を踏んで足に刺さった、などの外傷後に対して接種が推奨される。必要な抗毒素価は0.01 IU/mL(血中濃度)で、その場合の発症阻止効果は90%以上とされている[要出典]。トキソイド 0.5 mLを受傷直後1回、1ヶ月後に1回の計2回接種が推奨され、小中学生の高度汚染創にはトキソイド 0.5 mL を受傷直後1回のみ接種するが、接種局所の強い腫脹・疼痛の出現が予想されるため注意喚起が必要。外傷後感染予防に保険が適応されるのはトキソイドのみで、トキソイド以外を接種することはない[6]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b 感染症の話(破傷風)2002年第15週号 - (国立感染症研究所 感染症情報センター)
  2. ^ 監視伝染病発生状況の累年比較(昭和12年~平成25年) - (農林水産省 消費・安全局動物衛生課)
  3. ^ 破傷風-メルクマニュアル家庭版
  4. ^ FORTH|海外渡航のためのワクチン - (厚生労働省検疫所)
  5. ^ FORTH|予防接種実施機関 - (厚生労働省検疫所)
  6. ^ 難しいワクチンの代表‐破傷風ワクチン‐ - (菊池中央病院)

外部リンク[編集]