日本脳炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

日本脳炎(にほんのうえん、Japanese encephalitis)は、ウイルスによる脳炎。日本だけでなく南方アジア方面にも広く分布する。日本脳炎ウイルス感染した主にコガタアカイエカ (Culex tritaeniorhynchus) に刺されることで感染するが、熱帯地域では他の蚊も媒介する。日本においては家畜伝染病予防法における監視伝染病であるとともに感染症法における第四類感染症である。

特徴[編集]

人から人に感染する事はなく[1]、感染源は日本では主にで、ウイルスを持つ豚から吸血した蚊に刺されて感染するが、そのほとんどが不顕性感染で、感染者の発症率は0.1% - 1%と推定されている。潜伏期は6~16日間とされ、高熱を発し、痙攣、意識障害に陥る。ウイルス性の疾患であるため、発症してからの治療方法は対症療法のみで、抗生物質は効果がない。致死率は20%程度であるが、半数以上は脳に障害を受け麻痺などの重篤な後遺症が残る。豚、サギ類では日本脳炎ウイルスに対する感受性が高く、特に豚は増幅動物として重要。鳥類爬虫類にも感受性がある。

病原体[編集]

フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスで、1935年(昭和10年)に人間の感染脳から初めて分離された。伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)とも分類される。類似ウイルスには、ウエストナイルウイルスセントルイス脳炎ウイルスマレーバレー脳炎ウイルスがある。

発生状況[編集]

1970-1998 アジアにおける日本脳炎の発症分布(CDC資料)

日本では、1960年代には年間1000人程度の患者が発生していたが、1967年(昭和42年)~1976年(昭和51年)にかけて小児及び高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種を行った結果、劇的に減少し2013年現在では9人であった。[2]。日本では南部から始まり、北部へと発生が移動する(北進現象)。

世界では、南アジア東南アジアを中心に西太平洋諸島、オーストラリアクイーンズ州北部での患者発生が報告されており、文献上2011年現在で年間68,000人の患者が発生し最大で20,400人が死亡したと推計されている。[3]

厚生労働省は毎年、日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べる為、豚のウイルス抗体獲得状況を調査している。調査結果によれば、「ウィルスを持った蚊は毎年発生しており、引き続き国内でも感染の可能性がある」としている。つまり、ワクチン接種が発症を有効に阻止していると言える。

日本における予防接種[編集]

  • 1954年(昭和29年) - 不活化ワクチンの勧奨接種が開始
  • 1965年(昭和40年) - 高度精製ワクチンが使用されている。
  • 1967年(昭和42年)~1976年(昭和51年) - 小児及び高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種
  • 1976年(昭和51年) - 臨時の予防接種に指定
  • 1994年(平成6年) - 定期予防接種に指定
  • 2005年(平成17年) - 日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えの通知
  • 2009年(平成21年) - 新製法による日本脳炎ワクチン承認
  • 2010年(平成22年) - 新型ワクチンによる定期接種対象者に対するワクチン接種の積極的勧奨再開

日本脳炎の患者は1967年~1976年にかけての積極的ワクチン接種の結果、劇的に減少した。

予防[編集]

ワクチン接種が基本であるが、媒介蚊の防虫対策としての防虫蚊帳蚊取線香、屋外での長袖・長ズボン・防虫薬の使用が有効とされている。

ワクチン接種[編集]

  • 第1期初回 - 生後6ヶ月から90ヶ月未満(推奨は3歳)に6~28日の間隔で計2回
  • 第1期追加 - 1期初回終了後おおむね1年後(推奨は4歳)に1回
  • 第2期   - 9歳から13歳未満(推奨は9歳)1回
  • 第3期   - 14歳から16歳未満(予防接種施行令の改正により2005年(平成17年)7月29日付廃止)

ワクチン接種の積極的勧奨の差し控え[編集]

ワクチン接種と急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) の因果関係が否定できない事例が認められた為、現行の(北京株)マウス脳由来ワクチンを2005年(平成17年)時点で開発途上であった、より安全性が高いと考えられたvero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)由来ワクチンへの切替を見越し、2005年5月30日付で厚生労働省健康局結核感染症課長が「現行のワクチンでの積極的推奨の差し控えの勧告」[4]を各都道府県に通知し、この通知により一部の市町村が自主的に接種を一時中止した。

2006年(平成18年)8月31日付で同課長が「定期の予防接種における日本脳炎ワクチン接種の取扱いについて」を各都道府県に通知し、これにより「定期の予防接種対象者のうち日本脳炎に感染するおそれが高いと認められる者等その保護者が日本脳炎に係る予防接種を受けさせることを特に希望する場合は市町村は、当該保護者に対して、定期の予防接種を行わないこととすることはできない」とされた。

厚生労働省は2007年7月に全国の児童保護者に対して、日本脳炎を媒介する蚊に児童が刺されないように注意喚起を行った。

新型ワクチンの開発[編集]

積極的勧奨の差し控えの勧告後、Vero細胞を用いて培養したウイルスを用いた新型ワクチンの開発が進められ、当初は2006年(平成18年)夏の接種再開を目指し承認申請されていた。接種部位の腫れ等の副反応が治験において認められた為に治験が追加され、承認が遅れたが、阪大微生物病研究会製の「ジェービックV」は2009年(平成21年)2月に承認され、6月より接種が開始され、さらに化学及血清療法研究所製の「エンセバック皮下注用」も2011年(平成23年)1月に承認、4月より接種が開始され、供給体制が整いつつある。

マウス脳由来ワクチンの在庫は限られ、予防接種の実施も日本脳炎流行地域渡航者などの接種を希望する者にとどまったため、日本脳炎の抗体を持たない児童の増加による流行が懸念された(実際、積極的勧奨の差し控え期間中に、それまで見られなかった乳幼児の日本脳炎発症者が報告された)。

マウス脳由来ワクチンは在庫及び使用期限切れにより2010年(平成22年)3月に払底したが、新型ワクチンが承認され、2010年(平成22年)4月からは第1期定期接種対象者に対するワクチン接種の積極的勧奨が再開された。さらに、2010年8月からは第2期以降の対象者や接種機会を逃した児童への接種の積極的勧奨も再開された。

2012年10月、岐阜県美濃市内の医院で10歳男児が日本脳炎の予防接種を受けた後死亡した。接種時児童は注射器を見て院内を逃げ回ったため、母親と看護師で抑制して接種していた。[5]児童には児童精神科からピモジド製剤とアリピプラゾール及びセルトラリンが処方され、長期内服していた。これらの薬剤にはいずれも突然死の報告または心電図異常(QT延長症候群)の副作用がある。特にピモジド製剤とセルトラリンは併用禁忌と添付文書に明記されている。[6]

関連法規[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 日本脳炎患者から吸血した蚊が未感染者を刺しても感染は成立しない。
  2. ^ 日本脳炎 Japanese encephalitis 国立感染症研究所 ウイルス第一部第2室
  3. ^ WHO Fact sheet No 386 March 2014
  4. ^ 日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて 厚生労働省
  5. ^ 2012年10月18日岐阜新聞
  6. ^ 第7回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会日本脳炎に関する小委員会資料

外部リンク[編集]

日本語のページ

英語のページ