殺処分

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殺処分(さつしょぶん)とは、法律上は家畜伝染病予防法のみに書かれている用語だが、近年は以下にある政令「動物の殺処分方法に関する指針」などの表題に用いられたため、「不要な、もしくは人間に害を及ぼす動物殺害すること」という広い意味で使用されるようになった。

日本国においては殺処分方法は政令[1]に定められており、対象となる動物は動物愛護法第44条4項に定められた家庭動物、展示動物、実験動物、産業動物が対象[2]であり、すなわち人が所有する動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものが対象となる[3]

例えば動物実験が終了した後の実験動物、伝染病まん延防止の目的で狂犬病予防法や家畜伝染病予防法に指定された伝染病に罹患している家畜家禽を殺す場合、もしくは非常事態において人間の管理下に置けなくなる(なった)猛獣等を殺す場合にもちいられる。

なお、食用を目的として家畜を殺す場合には「と殺」または「と畜」と表現され、殺処分という表現は使用されない[4]

方法 [編集]

政令「動物の殺処分方法に関する指針」[1]で、「化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること。」と定めている。また「苦痛」とは省令[5]で「痛覚刺激による痛み並びに中枢の興奮等による苦悩、恐怖、不安 及びうつの状態等の態様をいう。」(同省令 第2(4))と定められている(具体例については後述する)。

実態[編集]

日本国内での殺処分数は、犬は年間約5万頭、猫は約14万頭である(2011年度)[6]

あるいは、ペットにおいて怪我や病気などで治癒の見込みが絶望的である場合などに、苦痛からの解放などを願って安楽死という選択がなされることがある。

愛護動物に関する殺処分は、法令により「処分することができる(狂犬病予防法)」「譲渡し及び殺処分とする(犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置)」と自治体に処分する権利を与えているだけであり、必ず殺処分しなければならない義務があるわけではない。

2014年6月3日、日本の環境省は、年間約16万頭が殺処分されている犬・猫について、将来的にゼロにするための行動計画を発表した[7]

過程[編集]

捕獲(犬のみ)・引き取り・収容[編集]

各自治体の保健所、もしくは各都道府県政令指定都市が管理運営する動物愛護施設(自治体により名称は異なる)が行う。公共施設であるため従事者はその自治体の職員(=公務員)であり、現場での捕獲等に従事する現業職員のほか、動物の健康管理に従事する獣医師により構成される。

捕獲の根拠法は狂犬病予防法であり、持ち込みの根拠法は動物愛護法によって行われている。なお、猫の場合は狂犬病予防法は適用されない。平成22年度では犬の場合、持ち込みの割合は約43%であり、それ以外は捕獲とされている。[要出典]

2013年9月、動物愛護法の改正により、飼い続けるのが困難と判断される「相当の理由」がない限り自治体は引き取りを拒否できるようになった[8]。飼い主自身の病気・高齢、また高齢のため人間で言うところの認知症になった老犬や老猫を飼い主が世話をし切れなくなった、という理由で持ち込まれることもあるが、各自治体は飼い主に新たな飼い主を探すよう指導している[8]

収容日数[編集]

狂犬病予防法により定められた公示期間は2日間であるが、収容期間は法令によって定められておらず、実際の収容期間は各自治体の条例に基づいた日数であり[要出典]、各自治体により様々である。その間に捕獲・収容した地域、動物の種類・品種・性別・毛色・首輪の有無及びその他の特徴といった内容を、収容された地域の市役所の掲示板に公示することで飼い主が名乗り出るのを待つことになる。

処分[編集]

動物の愛護と管理に関する法律第35条5項によって定められた、犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置第4で定められている「処分」とは、殺処分の他に譲渡処分とされており、飼い主への返還や里親募集業務による希望者への譲渡も含めた「愛護施設から出て行く全ての事例」を指している。特に子犬は生後よりある程度(2〜3か月)の日数が経っていて健康上の問題さえ無ければすぐにでも新たな飼い主が見つかる場合が多く、都市部などでは需要に対して供給が追いつかない状態でもある。[要出典]

殺処分[編集]

高濃度の二酸化炭素は哺乳類の呼吸中枢を麻痺させるので、小・中型動物の場合には二酸化炭素による昏睡と自発呼吸の停止による窒息死で処分するという方法が一般的であり、最終的に死体は焼却される。定期的な慰霊祭などを実施しているところもあるが食肉生産等のために行う「と殺(屠殺)」とは異なり、人間社会に最も身近な動物である犬・猫を飼い主側の一方的な都合によって殺さなければならないという点において、獣医師も含めて処分に携わる職員の精神的苦痛は非常に大きい。

老犬や殆どの猫は貰い手が見つからないことが多く、里親募集をされることすらなく殺処分されるケースもある。このような不幸な事例を少しでも減らすべく、各自治体はさまざまな動物愛護に向けた啓蒙活動を行っている[9]

また、競走馬が競走や調教の際の事故などで重度の骨折などの故障を発症した場合、「予後不良 (競馬)」と発表されることがある。これは診察した獣医師が「治療を行っても回復の見込み無し[10]」と診断して安楽死の診断を下した、あるいは処置を取ったことを意味し、人間の医療で用いられる用語としての「予後不良」とは意味合いが異なる。ウマ類などの大型動物の場合は、麻酔薬と心停止薬あるいは筋弛緩薬が併用される。

方法[編集]

家畜伝染病予防法による殺処分[編集]

日本においては、家畜伝染病予防法により指定されている法定の家畜伝染病に罹患した動物については、感染拡大の防止、経済的な悪影響などの副次的被害の防止という観点から、行政手続による速やかな摘発淘汰、すなわち殺処分が実施されることになっている。

この場合の処分方法については疾病や動物にもよるが、基本的には安楽死の方法が選択される。たとえば馬伝染性貧血に感染したウマ類の場合には、感染が確認されると都道府県知事によって「殺処分命令書」が出され、これに基づいて速やかに安楽死の処置が取られ、死骸はその後焼却処分されることになる。馬伝染性貧血では、ウイルスの性質的にワクチンの製造が事実上不可能な上、ひとたび感染が拡大すれば馬畜産・競馬やこれに関連する各種産業に大打撃を与えてしまうという理由から、罹患した患畜に治療が選択されることは無く、いかなる歴史的名馬であろうとも、感染が間違いないと確認された馬[11]は全てが摘発淘汰の対象となる[12]

また、口蹄疫高病原性鳥インフルエンザなどでは、患畜の屠殺・殺処分の他、死骸の焼却や埋却なども義務付けており、さらには摘発淘汰の対象は感染動物と同じ施設や建物で飼養されていた全ての同種の動物に及ぶ。その為、これら疾病の感染発生が確認されることは、すなわち当該施設における同種の動物の全滅を事実上意味する。

ちなみに、この命令による動物の屠殺・殺処分については、上述した様な観点から行政命令は強力な強制力を持つ。また、当該の動物の所有者が様々な事情で対処不能であったり、あるいは命令に抵抗した場合には、行政代執行で国や地方自治体により獣医(家畜防疫員)が派遣され殺処分を実施するほか、状況次第では警察機動隊が投入されたり、さらには災害派遣として自衛隊が投入され、死骸の埋設などの作業を実施することもある。

脚注[編集]

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  1. ^ a b 動物の殺処分方法に関する指針 (PDF) 平成7年7月4日 総理府告示第 40 号(2011年6月7日時点のアーカイブ
  2. ^ 動物の適正な取扱いに関する基準等”. 動物愛護管理法. 環境省自然環境局. 2013年9月12日閲覧。
  3. ^ 動物の殺処分方法に関する指針では、対象動物以外の動物を殺処分する場合においても同政令の趣旨を配慮する努力義務を定めている(同政令、補則2)。」
  4. ^ 食用以外でも、家畜伝染病の口蹄疫に感染したブタ類などの場合は、「と殺指示書」というものが発行されて殺処分が行われる。
  5. ^ 環境省 (2007-11-12) (PDF). 動物の殺処分方法に関する指針 (Report). 環境省告示第105号. http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/shobun.pdf. 
  6. ^ 全国動物行政アンケート調査報告 平成23年度”. 家庭動物. 地球生物会議. 2013年9月12日閲覧。
  7. ^ 犬猫殺処分ゼロへ計画=モデル地区を選定-環境省時事ドットコム 2014年6月3日
  8. ^ a b “ペット:改正法で自治体の引き取り拒否可能に 命守れるか”. 毎日新聞. (2013年9月23日). http://mainichi.jp/select/news/20130923k0000e040104000c.html 2013年9月25日閲覧。 
  9. ^ 動物愛護読本 「犬を飼うってステキです-か?」
  10. ^ 細い4本の脚に500kg前後の体重がかかる馬が歩行不可能な程の重傷を負うと、ほとんどが治療・闘病の課程で蹄葉炎を発症して衰弱死したり、痛みに耐えかねて暴れてさらに状態を悪化させるなどで、安楽死を余儀なくされる状況に至る。実際の例としてテンポイントサクラスターオーバーバロが有名。
  11. ^ 現在用いられている寒天ゲル内沈降試験による判定法が確立される以前は、症状から感染が疑われる状態の馬は全て摘発淘汰の対象とされていた。
  12. ^ 例:日本ダービー馬のクモハタ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]