スポーツ・ユーティリティ・ビークル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
SUVから転送)
移動先: 案内検索

スポーツ・ユーティリティ・ビークル英語: Sport Utility Vehicle)とは、自動車の形態の一つで、「スポーツ用多目的車」と訳される。通常はSUVと略して呼ばれる(SUV表記は誤り)。本稿においてもSUVと記す。

定義[編集]

SUVには様々な種類と出自が存在するため、明確な定義は存在せず、メディア、辞書、専門家の間でも意見が分かれている。現在SUVと呼ばれるものは

  1. ピックアップトラックの荷台に「シェル」と呼ばれる居住・荷室空間を作ったもの(本来の意味でのSUV)
  2. 地上高を高くする或いはラダーフレーム構造を採用するなど、本格オフロード走行向けに設計された四輪駆動車(クロスカントリー車
  3. セダンコンパクトカーなどの乗用車のモノコックを流用し、全高を高くしたもの(クロスオーバーSUV

といくつか存在するため、これらの総称がSUVであると広く考えるのが無難である。

またSUVはサイズによって、小さい順に「ミニSUV(またはサブコンパクトSUV)」、「コンパクトSUV」、「ミッドサイズSUV(北米のみ)」、「フルサイズSUV」、「エクステンド・レングスSUV(北米のみ)」に分けられるが、これらにも明確な定義は存在しない。

北米の場合[編集]

SUVというジャンルが生まれたのは1960年代のアメリカで、ピックアップトラックの荷台にシェルと呼ばれるFRP製のハードトップを載せてステーションワゴンのようなスタイルにしたものがそう呼ばれた。元々「ユーティリティ・ビークル」とはピックアップトラックを含めた商用車のことを指す。なおSUVのSの「スポーツ」とは、オフロード走行能力の高さでは無く、本来はピックアップトラックの荷台に作られた遊び(スポーツ・アクティビティー、サーフィンスキーキャンプといったスポーツやアウトドアなど)のための空間のことを指した[1]。そのため、必ずしも四輪駆動では無かった。

ピックアップが好まれる北米市場では、かつてはこの手のクルマには元となったピックアップに近いスタイルを与えることが販売上有利であった。フォード・ブロンコは、オフロード走行に適したコイルリジッドフロントサスペンションと取り回しの良い小ぶりな専用ボディーを持ち、理想的なクロスカントリーカーとしてデビューした。しかし販売は芳しくなく、2代目へのモデルチェンジの際に同社のピックアップであるF-150と同様の車体とサスペンションとなった。このように先進性を失ったにもかかわらず、ピックアップトラックのイメージに近づけたために販売面では一転して大ヒットとなった、という例もある。

その後1980年代以降はベース車両をピックアップトラックからステーションワゴンへと移行する動きが生じて、現在に至っている。なおアメリカにおけるSUVは製造・排気・安全の観点から、古くからピックアップトラックミニバンと同じライトトラックの分類に入れられている[2](ただし近年の小型二輪駆動SUVを除く)。

その他の地域[編集]

SUVという呼称の存在しなかったヨーロッパオセアニアなどの地域では、オフロード向け四輪駆動車をクロスカントリー(Cross Country)、4WD4×4(Four by Four)などと呼んだ。またクロカンの代名詞であったメーカーのジープランドローバーがそのままカテゴリ名として用いられることもあった。

その後SUVという呼称も広まったものの、ほどなくして舗装路性能重視のクロスオーバーSUVが急増したため、現在はSUVというとそちらを主に指す傾向が強い。そのため従来のオフロード向け四輪駆動車は、従来通り「クロスカントリー」などと呼んで区別する。

日本でも同様に「4WD」や「ジープ」、クロスカントリーを縮めた「クロカン」などが名称に用いられた。また1980年代以降、商業や統計の都合からステーションワゴンミニバンSUVをまとめて「RV」と呼ぶことがある。

現在のSUVの意味合いもまた欧州と同様である。なお日本自動車販売協会連合会の統計上の区分においてSUVは「ジープ型の四輪駆動車でワゴンとバン・トラックを含む(一部2WDを含む)」と定義されている[3]

歴史[編集]

SUVとピックアップトラック[編集]

ダッジ WC(1942-1943)
ジープ・チェロキー (XJ)
1984 - 2001年

SUVという呼称が存在する以前のオフロード向け四輪駆動車(クロカン車)は第二次世界大戦で発達し、ジープダッジなどが名声を得た。戦後も軍事用四輪駆動車は開発され、民間にも販売されるようになった。またこの頃のクロカン車はオープントップのものも多かった[4]

カテゴリとしてのSUVは、ピックアップトラックの派生として米国で誕生した。1961年のインターナショナルハーベスタースカウト (International Harvester Scout)や、1963年ジープ・ワゴニア(Jeep Wagoneer SJ)はその始祖であるとされる。その後、それらにヒントを得たビッグスリーが、2代目フォード・ブロンコシボレー・K5 ブレイザーダッジ・ラムチャージャーなど、フルサイズピックアップの荷台にシェルを被せたワゴンをリリースし、一気に市民権を得るに至り、SUVの呼び名が定着した。

日本車では、1960年代から北米市場へピックアップトラックを輸出していた二大メーカーの、N60系ハイラックスサーフD21型系テラノが本来のSUVの解釈どおりで、2ドアであること、ピックアップ同様のフロントマスクで室内高が低いこと、取ってつけたような荷室の屋根(ハイラックスのFRP製シェル)や窓(テラノの三角形の窓)を持つこと、跳ねるような硬いスプリングを持つことが特徴である。この2車が日本国内で販売された際には、国内の事情に合わせ、スプリングは柔らかく変更され、ディーゼルエンジンがメインとなっている。さらにハイラックス・サーフにいたっては、維持費の低い小型貨物(4ナンバー登録の商用車)中心のラインナップとして大きな成功を収めた。

アメリカのビッグスリーは以前は小型ピックアップトラックを国内生産しておらず、日本車とバッティングすることもなかったため、このクラスの輸入関税は低く設定されており、日本製乗用車の輸入台数を制限する代わりの、一種の優遇措置でもあった。後にこれらのピックアップトラックをベースとした2ドアまでのハードトップ(ボンネットワゴン)にも優遇措置が認められたことにより、それまでSUVを手がけたことのない日本のメーカーが参入することとなり、低価格とスポーティーな雰囲気が受け、一大市場へと発展した。

その後ビッグスリーが小型ピックアップと小型SUVの生産に本腰を入れるようになり、2ドア優遇措置が廃止されると、トヨタと日産はこぞって4ドアモデルをメインとしたラインナップへ変更した。この機を逃さず日本のほとんどの自動車メーカーがこのジャンルに参入し、競争が激化することで商品力は急速に高まっていった。ホンダスバルフレーム式のシャシやFRのコンポーネントを持っていなかったことから、自力での開発を諦め、両社ともいすゞと提携することになった。

レクサス・LXランドローバー・レンジローバーメルセデス・ベンツ・Gクラス (ゲレンデバーゲン)などの高級マーケットでの成功により、それまで「無風地帯」だったビッグスリーのフルサイズSUVにもキャデラックリンカーンなどの高級ディビジョンが参入し、もとよりエントリークラスの位置づけであったサターンまでもがSUVを発表するに至り、1990年代以降全米でのブームは決定的となった。

本来軍用車を発端とするクロスカントリービークル(ジープなど)が乗用車化・高級化し、ピックアップ発祥のSUVが、荷台シェルのボディ一体化(メタルトップ化)や4ドア化したことによって、時代とともに互いに歩み寄り、1990年代からは同じSUVの範疇と考えられるようになった。しかしSUVを「スペース・ユーティリティー・ビークル」の略と曲解し[要出典]、ミニバンも含めて用いる例がある[5]が、これは上記出自からも誤りである。

クロスオーバーSUVの躍進[編集]

BMW・X1
二輪駆動でも電子制御技術による高い走破性を喧伝するプジョー・3008

1990年代から、乗用車ベースでSUV風のスタイリングと快適性を訴求したクロスオーバーSUVの登場により、SUVの定義も「ピックアップあがり」からのシフトが見られる。かつて4WD・クロカン車と呼ばれたものが非舗装路(オフロード・グラベル)の走破性に重きを置いていたのに対し、近年のクロスオーバーSUVは舗装路(オンロード、ターマック)での運動性能・燃費性能も重視して開発されている。しかし明らかにオフロード重視でありながら販売上の都合でクロスオーバーSUVとされている車種も少なからず存在し、実態は非常に複雑になっている。

1990年代後半のトヨタ・ハリアーレクサス・RX)の成功以来、BMWボルボアウディ、そしてポルシェなど、背の高いクルマとは無縁であった高級車メーカーや高級車ブランドが次々にクロスオーバーSUVを製造するようになった。

クロスオーバーSUVが元々SUV譲りのシーンを選ばない走行性能と、高いデザイン性を両立しようとする試みの中から生まれたのに対して、近年はトヨタ・アクアクロスオーバーのように悪路走破の能力もなく全高も最低地上高もさほど高くないが、SUV風のボディデザインを纏うだけでクロスオーバーを名乗るファッション性のみを追求するようなものも生まれている。またアメリカでは2000年代後半以降、形状はミニバンとさほど変わらないが、販売戦略上有利とみなされてクロスオーバーを名乗るような車や、ミニバンの後継車のデザインをクロスオーバーSUVスタイルにした車も増えており、これもマーケットの拡大に便乗したものと見られる。

SUVの長所・短所[編集]

セダンなど通常の乗用車に比べると車高が高いため、雪道・段差・悪路でボディ下面を擦る心配が少なくなる。全高も高い分アイポイントが高く視界良好、積載性も高いなど実用性に優れる。またそのボディの大きさゆえ豪華性・ステータス性を演出できるメリットもある。

ただし重量が大きいため低回転域での大トルクが必要なことや、ピックアップベースのSUVは北米市場の好みから排気量の大きなエンジンを搭載しているものが多く、さらに車体価格が高いことに加えて頑丈なフレームや足回りの重量と、追加された駆動系の抵抗など、燃費が悪化する要因が多い。尤も近年は内燃機関やハイブリッド技術の進歩により、それほど燃費の悪くならないケースも多く、これが近年のSUV躍進の一因となっている。

衝突安全性面では、車体が大きい分頑丈なフレームを搭載でき、またクラッシャブルゾーンなども大きくとれるため高くなる。その一方で質量が大きくなるため、衝突相手が軽自動車など質量が小さい車であると、運動量保存の法則により相手を吹き飛ばしてしまい、大きなダメージを与えてしまう。アメリカではエクスプローラーファイアストンタイヤの相性問題から事故が急増した結果、保険料は大幅に引き上げられることになった。これには車重の大きさによる相手のダメージの大きさも関係している。

国土交通省の調べではSUVは一般の自動車に比べて最低地上高や車高が高く、視界が広くなるため運転しやすいことから、運転に自信のない人や初心運転者に人気が高いとされる。さらにトヨタ店の資料によると年齢的には20歳代、30歳代の交通事故発生率の最も多い若年層に人気が高いとされており、これら諸々の事情からSUVに対する危険を呼びかける場合が多々ある(車重の大きさも原因)。また、同じ理由(車高が高い)から、かつては立体駐車場に駐車できないことが多く、SUVは路上駐車を助長する要因の一つにもなっていたが、近年はSUV以上に背の高い軽トールワゴンなども出てきており、駐車場側の改善も進んだ。

アイルランドダブリンにあるトリニティカレッジの研究者シムズ講師らによると、米国から取り寄せた重大事故に関するデータを分析した結果、SUVはボンネットなど車体前部が乗用車より高く、歩行者と衝突した場合、歩行者が頭部や腹部などにより深刻な衝撃を受ける恐れがある。1990年代前半から日本などでアクセサリーとしてグリルガード(カンガルーバー、アニマルバー、ブッシュバーともよばれる)を装備することが流行ったが、対人衝突時の危険性が指摘され、プラスティック製の形だけのものへと代わり、現在ではそれも見られなくなっている。

なお近年増加中のクロスオーバーSUVに関しては、これらの特徴が当てはまらない場合も増えている。

各社の商標・ネーミング[編集]

商業的な理由から、BMWはSUVではなくSAV(Sports Activity Vehicle)という名称を使用している。またスバル(富士重工業)は乗用車種「レガシィ」をベースにしたワゴンタイプのクロスオーバーSUVレガシィアウトバックSUW(Sports Utility Wagon)という独自の呼称を用いている。そしてヒュンダイ・ベラクルスLUV(Luxury Utility Vehicle)を名乗っている。さらに、キャッチコピーとしてではあるがトゥーソンixの韓国向けCMでは"Sexy Utility Vehicle"と言う語が登場した。

また、個別の車種についても、"CR-V"(Comfortable Runabout-Vehicle)、ボルボ"XC(X《=cross》 Country)"、レクサス"GX(Grand Cross-over)"など、似たコンセプトの名称を使う車種が多い。

従来のピックアップ系・クロカン系と区別して、クロスオーバーSUVを指す略称としてCUV(Cross-over Utility Vehicle)が用いられることがある。

一方で、米国に限られるが、スポーツ性や居住性を重視したスペシャリティーピックアップトラックSUTSport utility truck)、CUT(Crossover utility truck)などと呼んでいる。

車種[編集]

参考文献[編集]

  • キース・ブラッドシャー 『SUVが世界を轢きつぶす―世界一危険なクルマが売れるわけ』 片岡夏実訳、築地書館、2004年、ISBN 4-8067-1280-9

脚注[編集]

関連項目[編集]